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フレーメンちう
2024-04-11 15:40:54
4424文字
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コーヒーと甘い言葉
コーヒーを楽しむドゥリーヨダナと、菓子を作るビーマの話。お互いにデレ強めです!
ホーロー製の小さな保存容器とマグカップを持ったドゥリーヨダナは、ほんの少しだけ眉間に皺を寄せる。
ランチを楽しむ人の波が漸く落ち着いたキッチンには、ビーマだけだった。
食事の支度は皆で手分けしないと間に合わないのだろうが、片付けとなれば食洗機をフル稼働すれば一人でも間に合うのだろう。そのため、キッチン内にビーマしかいないのだろうが、ドゥリーヨダナにとっては少々都合が悪い。
人目を気にする必要が無い事もあり、森育ちのビーマはわし様に不躾な事を言ってくるだろう。
自身の事を棚に上げるドゥリーヨダナは、小さな溜息を吐きながらキッチンに入る。
ビーマもドゥリーヨダナが来た事に気付いたが、片付けに追われていて手が離せない。声をかける事も無く、時折視線だけをドゥリーヨダナへ向けていた。
ドゥリーヨダナは棚の奥からガラス製のすり鉢状の物と計量カップの様な物、それとコの字型の木製スタンドを取り出した。スタンドの上部には穴が開いており、すり鉢状の物を置くとその中に袋状の紙を敷く。更にコーヒーの粉を入れると、すり鉢状の物の真下に計量カップを置き、ゆっくりと熱湯を注ぎ始めた。
手慣れた様子でコーヒーを入れるドゥリーヨダナの姿を見つめていると、不意に視線が合ってしまった。
「何だ、まじまじと見おって。ドリッパーとサーバーを知らんのか?」
不思議そうに見ていたビーマの姿に、ドゥリーヨダナはほんの少し驚いた。ビーマの事だ、食べ物の事ならば些細な事でも貪欲に学んでいたと思っていたが、そうではないらしい。
ビーマは何かを思いだしたように、ぱっと顔を上げる。
「それ、実験器具みたいだな。パラケルススやアヴィケブロンの部屋で見たぞ」
「やめろ! コーヒーが不味くなる!」
思いがけないビーマの感想に、ドゥリーヨダナの眉間に皺が寄る。香り高いコーヒーやドリッパーを、よく分からない実験器具と同じように思われてしまっては、折角の気分が台無しだ。
ますます不機嫌な視線を向けるドゥリーヨダナだが、どうせこれで懲りるビーマだとは思っていない。だが、少しでも態度で示さないとビーマは気付かないだろう。
小さな溜息を吐いたのも束の間、淹れたてのコーヒーから立ち上る香りにドゥリーヨダナは表情を和らげて笑みを零す。ふと嬉しそうなドゥリーヨダナの表情に、ビーマは疑問を抱く。
「コーヒーは淹れたてが美味いんだろう? お前の部屋からキッチンまで遠いんだから、部屋に備え付けのコンロと水道を付ければ楽なんじゃねぇか?」
そう言った後、ビーマはハッと口を噤む。ドゥリーヨダナが「その方が便利だ」と言って自室にコンロなどを付けてしまったら、キッチンに足繁く通わなくなってしまうだろう。そして、顔を合わせる機会も。
突然黙り込み、眉間に皺を寄せるビーマの姿に、ドゥリーヨダナは目をぱちくりとさせる。何がビーマをそうさせたのか。
だが、気まずそうに視線を泳がせる様子に予想が付いた。もっと不安で揺さぶって楽しもうかと思ったが、弄り過ぎても裏目に出てしまう。ならばビーマの望む答えを出してやる他ない。
「そんなもん付けるか、わし様の部屋が狭くなるだろう。今は簡素な部屋だが、わし様好みの部屋にした際には絶対に馴染まないからな」
そんな事もわからんのか。そんな感情をたっぷり含ませながら答えれば、ビーマは心配して損したと言わんばかりの表情と、ほんの少しの安堵を浮かべる。
実際の所、調理台の掃除やコーヒーのゴミ捨てなどは王族がする事では無い。だが、このカルデアでは下働きがいる訳では無い。そういった雑務を避ける為、多少遠くともキッチンで淹れたていた。
それに、タイミングが合えばビーマをからかう事も出来る。
ビーマに会う頻度を減らしたくない。そう思えば済む事だが、ドゥリーヨダナのプライドが許さない。それに、公衆の面前でビーマに好意を寄せている姿を晒したくないのも理由だ。
「
……
」
無言で呆れた表情を浮かべていたドゥリーヨダナだが、持ち前のポーカーフェイスを維持できない。への字に曲げていた口角に力が入り、口先が尖ってしまう。
ほんの少し顔を伏せながら徐々に表情を変えていく様子を、ビーマは不思議そうに見つめた。
「何してんだ? ニヤついてるのか?」
「しとらんわ!」
すぐさま否定するドゥリーヨダナに少々驚くが、直ぐに照れ隠しだという事に気付く。
分かりにくくも、随分と素直に感情を出している姿が愛おしく思う。
ビーマの頬にも熱が帯び、まるでドゥリーヨダナの熱が移った様に思えた。だが、赤銅色をした肌ということもあり、ほんの少し紅潮した頬に気付かれなかった様だ。
「全く、わし様を侮辱しおって。この仕打ちは高く付く
……
と言いたい所だが、好みの料理を作るなら、それで手を打ってやろう」
ふす、と不満げに鼻を鳴らし無茶を言うドゥリーヨダナに、少々呆れてしまう。だが、この様な我が儘を言う時は決まってビーマが相手の時だけだと知っている。それに、ぞんざい言い方とは言え、頼られるのも悪くない。
「仰せのままに、スヨーダナ様」
恭しく答えれば、ドゥリーヨダナは「裏でもあるのか」と言わんばかりに面倒そうな表情を見せる。だが、ドゥリーヨダナもビーマの料理が食べられる事に対して胸を高鳴らせてしまう。
少しだけ考え込んだビーマは、コーヒーに目が留まる。
「ちょいと失礼」
淹れたてのコーヒーが揺らめくサーバーを手に取ると、小皿に少しだけ注ぐ。冷めないうちに口を付けた。
煎りが強いのだろうか。舌を滑る味わいは深い苦味だが、後に残る酸味が美味さを引き立たせる。同様に鼻を抜ける焙煎の香りが強く、後を追う様にフルーツ特有の酸味が微かに感じる。
ドゥリーヨダナが好んで飲む程のコーヒーだ。余りコーヒーに馴染みが無かったビーマでも確かに旨いと思う。だからと言って頻繁に飲みたいとはならないのは、コーヒー自体が好みではないからだろう。
「
……
これに合う菓子を作るか。夜もコーヒー飲むか?」
「まぁ、飲む事もあるが
……
」
「なら今夜持って行く。飲む予定が無くなったら言ってくれ」
余程美味い菓子を思い付いたのだろうか。自信に満ち声の調子が上がるビーマに、少しだけ気圧されたドゥリーヨダナは小さく頷いた。
* * *
「俺の分まで悪いな」
「お前が見せ食いに耐えられれば、出さずとも済むのだがな」
小さな溜息を零しながらコーヒーを淹れるドゥリーヨダナに対し、嬉しそうに声を弾ませるビーマは部屋に満ちる香りに頬を緩ませた。
詫びとして作らせた菓子ならば、ビーマに対してコーヒーを出す必要は無い。それなのにも関わらず、悪態を吐きながらもビーマの分まで淹れるドゥリーヨダナに愛おしさを覚える。
ぽってりとした厚みのあるコーヒーカップをビーマへ差し出すと、嬉しそうに受け取った。手渡されたカップからは昼間と同様の香りが鼻をくすぐる。
湯気が上るコーヒーを一口啜り、作った菓子が合う事を確信した。
自身のコーヒーカップを手にしたドゥリーヨダナはビーマの向かいへと座ると、待ちくたびれたようにゆっくりと息を吐く。
「何でお前が先に飲んでいるんだ。わし様への菓子を早く寄越せ」
不機嫌そうな声をしながらも、ドゥリーヨダナはどこか声を弾ませる。
妙に急かす姿を目の当たりにするビーマは、そんなにも菓子を楽しみにしていたのかと思うと、胸の奥が温かくなり一層嬉しさが込み上げてしまう。
「悪い悪い」
ビーマはコーヒーカップを傍らに置くと、持参した保冷バックから皿に載った菓子を取り出した。白いシンプルな皿には、正方形に切り揃えられた少し厚めチョコレートが並んでいる。フォークを添えてドゥリーヨダナの前へ置くと、ビーマも自身の分であるチョコレートを出した。
「クルミやナッツを混ぜ込んだ生チョコだ。流石にグラブジャムンよりは甘さを控えているから、そこまでコーヒーの味を邪魔しないはずだ」
ドゥリーヨダナは生チョコへ視線を落とすと、フォークでひとつ刺して口へ運ぶ。
舌に触れた途端にチョコレートがじわりと溶け、滑らかな舌触りと同時にカカオのほろ苦さと生クリームの風味が広がる。とろけたチョコレートから現れたナッツに歯を立てると、少々固めの香ばしいアーモンド、しっとりとした柔らかな歯触りのマカダミアナッツとクルミ、サクサクとした馴染みのあるココナッツ。
少々甘味が強いチョコレートの後味が残る間にコーヒーを一口含むと、香りが混じり合い、ほろ苦さを残しながらもフルーティな味わいと香りに様変わりした。その上、コーヒーのよりもナッツの香りと味が強いのだろう、コーヒーの味が過ぎても柔らかなナッツの風味が余韻として残っている。
普段のすっきりとしたコーヒーとは違う味わいに、ドゥリーヨダナは驚きに目を丸くさせる。だが、新しい発見が興味深く、頬を緩ませた。
「コーヒー初心者のビーマにしては、なかなか美味い菓子を作ったではないか」
「ダメ出しを喰らうかと思ったが
……
」
「わし様は気に食わん時ははっきりと言うが、褒めるときはきちんと褒めるわ」
少しだけ呆れた様な表情を見せるドゥリーヨダナだが、直ぐにチョコレートを頬張った。コーヒーと交互に口に運び、ゆっくりと味を楽しむ。
チョコレートが半分程味わった頃、ドゥリーヨダナは笑みを浮かべてコーヒーカップを置いた。
「今度、わし様が好いている料理を色々と食わせてやろう。それを参考に料理をすると良い」
「
……
? 要するに、お前の為に料理を作れって事か?」
「それ以外に何がある。マスターの国の言葉を借りるなら
……
毎日わし様にみそ汁を作れ、という事だな」
自身たっぷりに言うドゥリーヨダナの言葉に、ビーマはその意味が分からず模索した。だが、ほんの少し間の後、ビーマは目を泳がせながら頬から耳の先まで真っ赤に染まる。
「お前それ、マスターが産まれる前の古い表現だろ。それに
……
本気で言ってるのか?」
「マスターが産まれている時代かどうかの差など、わし様達にとっては微々たる差だ。それはさておき、わし様は本気だ。お前への答えを行動だけとするのは良くないからな。言葉にした方が良いだろう?」
ドゥリーヨダナは自信に満ちながらも愛おしそうに目を細め、ビーマを見つめる。
「
……
」
決してドゥリーヨダナから向けられる事が無かった、甘く柔らかな視線。ビーマは息を呑むと、ゆっくりと口を開いた。
「
……
作ってやる。ドゥリーヨダナ、お前が欲しいままに作ってやる」
「良い返事だ」
ビーマからの言葉に、ドゥリーヨダナは満足気な笑みを向ける。そして、ドゥリーヨダナの頬もまた蓮の花弁を散らしたように染まっていた。
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