見渡す限りの草原と小さな林が点在する極小特異点が見つかった。聖杯の所在はなかなか掴めないけど、敵が弱くて素材が豊富。ローリスクハイリターンで、珍しくとてもオイシい特異点に向かわないとは言わないよね。
満面の笑みで問いかけるダヴィンチちゃんに押し切られたマスターは、数名のサーヴァントと共に特異点へ向かうしかなかった。
「茶々、飽きてきた! それにマスターの指揮に精細さが無くなってきておる!」
ワーウルフの群れを倒しきった直後、茶々は後方に控えていたマスターに声を荒らげる。突然の事に目をぱちくりとさせるマスターと、その隣には控えのマシュと、四角いリュックを背負ったビーマ。
「奥方の言う通りだ、マスターよ。それに、わし様は疲れてかなわん」
溜息を吐くドゥリーヨダナは棍棒で地面を突くと、怠くなった首を回す。ドゥリーヨダナは隣で共に戦っていた小太郎に対し「お前もそう思うだろう?」と優しく声をかけるが、小太郎は言葉を詰まらせながら「……お二方にお任せします」と答えるだけだった。
「心配してくれてありがとう。確かにずっと戦い続きだったし、休憩しようか」
用件をはっきりと言う二人から出た同意見を一蹴する事は出来ない。それに圧をかけられているであろう小太郎にも助け船が必要だ。エネミーの反応に気を付けながら、手頃な木陰へと向い休憩を取る事にした。
怪訝そうにしているドゥリーヨダナは、荷物を背負うビーマに視線を向けた。
「……しかし、何でお前も来た?」
「マスターの昼飯を持ってきたからだ。新所長から、危険度の低い場所で長時間の任務をするなら食事をきちんと取るように。ってな。お前が参戦してた時は、まだ一回も食ってなかったか」
ビーマはドゥリーヨダナへ余り視線を向けずに、荷物を下ろす事に集中する。背負っていたリュックから、風呂敷に包まれた長方形の箱を取り出した。
「紅閻魔から、外で食事をするならジュウバコ? が良いって聞いてな。それに今日のメンバーを伝えたら、メニューも指導してくれたぜ」
嬉しそうに風呂敷を解くと、漆塗りの黒い重箱が姿を現した。
六段もある重箱に、マスターとマシュは目を輝かせる。
「凄い! あまり使った事が無かったけど、懐かしいなぁ」
「お花見でよく使われるとの事でしたが、中はどのような料理ですか?」
はしゃぐ二人にビーマは頬を緩ませると、重箱の蓋を取った。
その中には隙間無く料理が詰められているが、三分の一は何故かご飯が詰められている。
「メニューは、帆立ときぬさやのご飯、鯉の煮付け、揚げ春巻き、ほうれん草のごま和え、菜の花と大根の浅漬けだ。もう少し品数を増やしたかったが、食べ過ぎても戦闘に差し支えるしな」
「……?」
想像していた重箱の中身を不思議に思ったマスターは一段目を手にし、二段目には何が詰められているかと覗き見る。
一段目と全く同じメニューだ。帆立ときぬさやのご飯、鯉の煮付け、揚げ春巻き、ほうれん草のごま和え、大根の浅漬け――
きっと最後の六段まで同じメニューだろう。段ごとに違う料理を詰めるというよりは、個々のお弁当の容器として重箱を使っている。
皆を喜ばせようと他国の風習を形にしたビーマに、余計な口を挟むのは無粋かもしれない。マスターは茶々と小太郎と目配せをすると、ビーマが配る弁当を受け取った。
あ、と小さな声を零した茶々は、ビーマへと顔を向ける。
「鯉は洗いで食べたかったのに、何故煮付けにしたのじゃ?」
「あぁ、前にリクエストしてたそうだな。だが、生ものを弁当に入れるのは無理だ。それに、紅閻魔にも注意を受けたんだ。諦めてくれ」
ほんの少しだけ不満げな茶々に、ビーマは申し訳なさそうな表情を見せる。茶々も多少は無茶な願いと思っていたのだろう。残念そうな溜息を吐きながら弁当へと視線を落とすと、手にした弁当の大きさ気づく。マシュやマスターにしてみれば、少々大きめ程度だが、小柄な茶々にはズシリと重い。
「茶々には多すぎる! ……小太郎、今のうちに食べておけば、何かのはずみで金時のような大男になれるかもしれぬぞ? 妾の分を分けてやろう」
「えっ! いえ、そんな恐れ多く……! あ、ありがとうございます……」
天下人の奥方からの施しと突然出された憧れの名前。それに戸惑う小太郎だったが、失礼の無いようにと、直ぐに重箱の蓋を手にして取り皿の代わりにした。
「マシュは大丈夫? 食べきれそう?」
「大丈夫です、少し多めかも知れませんが頑張ってみます!」
賑やかな食事を取りながら、ドゥリーヨダナはふと思う。
最近になって、漸く他国の食事も慣れてきた。だが、マスターや茶々達、食器は重箱を使っているからとはいえ、全て和食にしなくとも、と思ってしまう。
少々、ビーマを皆に取られた様な気がして心がざわめく。
皆には聞こえない小さな溜息を吐くと、弁当に手を付ける。ふと、皆の弁当とは違う物が入っている事に気付く。
皆の弁当には揚げ春巻きが入っているのに、ドゥリーヨダナとビーマ弁当には馴染みの料理であるサモサが入っていた。頻繁に食べていた訳では無いが、母国の料理に頬を緩ませてしまう。ビーマに視線を向ければ、食事を前に嬉しそうに頬張ろうとしていた。ドゥリーヨダナの視線に気付いたのだろう、ビーマは手を止めてドゥリーヨダナに顔を向ける。
「何だ」
「いいや?」
特に理由を言わずに笑みを向けてくるドゥリーヨダナに、ビーマは不思議そうに首を傾げた。
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