フレーメンちう
2024-03-24 15:37:29
2008文字
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うそつき『ドゥリビマ版ワンドロワンライ企画』

ドゥリビマ版ワンドロワンライ企画「うそつき」のお題で書き上げた話です。食べさせたい気持ちを正直に言えない2人。黒髭が持ってきたモハマは、スペインの珍味です。

「今日のはスパイスを少し変えてみてな。取りあえず食ってくれ」
 目の前には嬉しそうなビーマ。手にはシークカバブを持ち、鉄の串を抜いてドゥリーヨダナ皿へと盛り付けている。
――わし様の部屋で、しかも夕食後に試食会を開くな――
 そう言いたいが、こんなにも嬉しそうなビーマを追い出すのも躊躇してしまう。
 甘い態度を取ってしまう自身に少々呆れながらも、ビーマが作る『初めて』の料理を口に出来る事に優越感を覚える。試作品である事は少々目を瞑りたいが。
「少し熱いから気を付けろよ」
 差し出されたシークカバブから、ふわりと立ち上る湯気と共に、普段とは少々違うスパイスが鼻をくすぐる。ビーマは何を思って味付けを変えてみたのか、興味を抱きながら手を伸ばした。
 コン、コン。
 不意にドアをノックされ二人は顔を見合わせた。こんな時間に来るのはマスター位だろうか。ドゥリーヨダナはドアに向かって声をかけた。
「開いている入って来い」
 そう声をかけると、ドアが軽い音を立てて開く。だが、ドアの向こう側に立っていたのはマスターよりも背が高い人影がひとつ。
「あ~……あら、まぁ……
 開いた途端に困惑した声を漏らすのは黒髭だった。片手には小さな皿を持ち、ビーマとドゥリーヨダナへ視線を何度も往復させる。
……ドゥリーヨダナの王子様、ちょっと……
 小さく手招きする黒髭にドゥリーヨダナは「はっきりと言え」と言いつつも、黒髭の元へと向かう。
 耳打ちするようにポソポソと話し始め、その内容が気になるビーマだが、生憎二人の声が届かない。
 盗み聞きをするべきでは無いと判っているが、やはり気になってしまう。気にしないようにと、残りのシークカバブの切り分けをして気を紛らわせる。
「じゃ、拙者はこれにて」
 ドゥリーヨダナとの話を終えた黒髭は、少々訝しげなビーマに手を振り部屋を後にした。
「全く、突然で驚いたわ」
 呆れた声を漏らすも楽しげに頬を緩ませるドゥリーヨダナは、小皿を手にしたまま再びビーマの前へと座る。小皿には小さな薄切りの何かが二つ乗っていた。
 あれは一体何なのだろうか。ビーマの鼻を薄らと撫でる燻製の香りに、料理だと言う事はわかる。だが、どのような料理かは見当がつかない。
「食いたいのか?」
 ドゥリーヨダナが声をかけると、ビーマは肩を震わせた。穴が開くのではと思う程にジッと見つめてくる姿が気になるが、料理人だからこそ気になるのだろう。

 マグロを塩漬けにして水分を抜いた食べ物、モハマ。黒髭からは「マグロで作った生ハムみたいなものでござるが……生ハム自体、馴染みありませんでしたな」と謝られてしまった。少し燻したモハマを薄切りにしてオリーブオイルをかけたが、口に合うか判らないから、一人前にもならない二口分だけ持ってきたとの事だった。

 ドゥリーヨダナの言葉に顔を一瞬明るくさせたビーマだが、直ぐに堪えた表情を見せる。
「いや……いや、要らねぇ。それはドゥリーヨダナが貰った物だろう」
「ふぅん……ならばさっさと食ってしまうか。料理を食べずに置いておくのは、ビーマの目には毒だろうしな」
 未だ、大きなガーネットを削いだようなマグロの塩漬けから目が離せないでいる。珍味ということもあり、ビーマは直ぐに飛びついて来ると思ったのに。つまらない奴だ。
 ドゥリーヨダナはモハマをひとつ摘まむと口へと運ぶ。
 雑味の無いオリーブオイルと、甘味と渋味を含んだ燻製の香りが鼻へと抜ける。今まで嗅いだ事の無かった組み合わせに驚いたが、興味深い香りだ。舌に触れるモハマは少し固く、塩味が強い。塩漬けで水分を抜いた所為だろう。だが、水分が抜けた所為でマグロの旨味が濃くなりけているからだろう。
 なかなか旨い。酒と合わせたら一層旨く食えそうだ。
 残りも食べようと手を伸ばしたが、一切れ残った皿をビーマへと突き出した。
……飽きた。お前が食え」
 突然の言葉にビーマは戸惑いを見せる。ドゥリーヨダナを見れば、口をへの字に曲げ少し面倒そうに視線を外している。
「飽きたって……食いかけ寄越すな、お上品さはどこにいっちまったんだ?」
「そこまで言うなら、これは捨てるしかあるまい。わし様からの慈悲を無下に……あっ!」
「捨てる位なら俺が食った方が良い」
 ドゥリーヨダナの手から素早く皿を取り上げたビーマは、皿に乗ったモハマを摘まむと一口で頬張った。数口噛みしめた途端にビーマは頬を緩ませ、嬉しくも興味深そうに味を探っている。
 結局食うのか、そう思いながらビーマに視線を向けるドゥリーヨダナだが、新たな味を求めシークカバブを食べ始めていた。
 美味そうに食べるドゥリーヨダナに、ビーマは小さな笑みを浮かべその姿に視線を外せないでいる。

 もっと正直になれ。そう思いながら、見つめてくる恋人に小さな溜息を吐いた。