フレーメンちう
2024-03-10 00:05:15
2027文字
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ひとりじめ『ドゥリビマ版ワンドロワンライ企画』

ドゥリビマ版ワンドロワンライ企画「ひとりじめ」のお題で書き上げた話です。お互いにひとりじめをさせようとしたのですが、ビーマのひとりじめが失敗に終わった感があります……

 静かな廊下をドゥリーヨダナは一人歩く。

 ふと訪れた食堂で、ビーマが髪飾りを忘れていったので渡して欲しいと頼まれた。明日渡せば良のでは? と問えば、ビーマは明日特異点の調査に行くため食堂には来ないとの事。
 子供の使いではないのだ。と突っぱねても良かったが、明日はあまり会う機会が無いと思うと、無性に顔が見たくなってしまう。

 手の中にある金色の髪飾りを軽く弄りながら、ビーマの自室に辿り着いた。ほんの少し気配を感じ、ドゥリーヨダナは軽くノックをする。
……
 だが、ビーマの返事はない。もう一度ノックをしてみようか。だが、そこまで気を使う程の用事でも無い。ドアを開けて投げ渡せば済む事だ。
 ドゥリーヨダナはドアを開け、部屋をのぞき込む。その瞬間にスパイスの香りが鼻腔を満たす。
「んな……! 何だこの匂いは!」
 スパイスと言えど西洋で使う様なタイムやバジルの様な香りではなく、馴染みのあるカレーの香り。だが、カレーだけではない匂いもする。
 部屋の中心には、長く濃い紫色の髪を背中いっぱいに広げ、背を向けたビーマが一人。シンプルなストライプ柄の敷物へ座り、ビーマの褐色の腕の陰から見えるのは、低めの寸胴鍋とキャンプで使う様なコンロに小鍋が一つ。
 当の本人はドゥリーヨダナの声に肩を少し振るわせた後、ぴくりとも動かない。
――わし様が居る事に気付いているのに、反応を見せないとは――
 普段であれば「いきなり入ってくるな」とか「突然どうした?」とか聞いてくる筈のビーマが押し黙っている事が不思議でならない。振り向かないのであればこちらから顔を見てやろうと、ドゥリーヨダナは髪留めをベッドに投げ捨ててビーマの正面へと向かう。
 回り込めば、ビーマの前に並べられているものがしっかりと判った。
 寸胴鍋には半分位のビリヤニ、鍋の汚れから食べ初めの頃は九分目まであったのだろう。コンロに掛かっていた鍋には少し減ったダールのカレー、真っ正面には何枚も積まれたチャパティ。ビリヤニの時点で十人前は優に超えそうだが、これを全部食べきるつもりなのだろう。
「暴食の権化か? 一人でそんなに食いおって」
 つい、口から零してしまったが、何をどうすればこの量が胃袋に収まるのか。
 ビーマに目を向ければ、折角の食事を邪魔されたという表情を見せながらもほんの少しだけ戸惑いを見せる。
「自分で用意して食うなら構わないだろ」
 少しだけ拗ねるが、思うがままに食べている姿に恥じらいを持ったのだろう。だが、ドゥリーヨダナにしてみれば、思うがままに腹いっぱいになるまで食べるのがビーマだと思っている為、今更恥じらう事でも無いのにと小首を傾げてしまう。
……一口だけならくれてやる」
 自分自身だけ食べているのも妙に気まずい。観察する様に見てくるドゥリーヨダナの視線をを反らせようと、ビーマは声をかける。
「まぁ、お前がそう言うなら……
 突然の事にドゥリーヨダナは目をぱちくりとさせるが、ビーマからの申し出を受けた。
 手を付けたチャパティやカレーを渡すのは、行儀が悪いと思ったのだろうか。余っていた皿を手に取り、ビリヤニを皿へと盛り付ける。一口分と言った割には一食分よりも少ない程度だ。
「ん」
 素っ気ない素振りをしながらも、差し出してきた皿を受け取った。
 そんなに不機嫌になるなら全部ビーマが食べれば良いだろうに。そう思いながらもドゥリーヨダナは添えられたスプーンでビリヤニを一口頬張る。
 パクチーと生姜の味がふわりと香り、マトンの旨味が舌に広がる。マトンの臭みが一切無く、流石料理を得意としているだけある。少々感心しながらもビリヤニを咀嚼すれば、フェンネルのプチプチした食感と香りが口いっぱいに広がる。噛めば噛む程味が変わって行く様が面白くも旨い。
 緩みそうになる頬を引き締めながら食べるドゥリーヨダナだが、ビーマからみればドゥリーヨダナの感情が手に取る様に分かる。ひたすら夢中で食べている様にしか見えないのだ。
 空になった皿を置き「まぁまぁだな」と言わんばかりの表情をするドゥリーヨダナに、小さな笑みを向けそうになる。だが、ここでそんな表情をしてしまえば拗れるだろう。
 ビーマは無表情を装いながら皿を引き下げ、ふと、ドゥリーヨダナがここに来た理由が何だったのかと不思議に思う。キッチンに入り浸っている所為もあるが、普段であればキッチンで用件を伝え終わらせるのが殆どなのに。
「そういえば何しに来た」
……暇つぶしだ」
 髪留めを届けに来た。そう言ってしまえば、もうここに居る理由が無くなってしまう。
 気持ちの良い、そして思うままに嬉しそうに食事をするビーマを眺めていたい。食堂では一切見せない、無邪気で欲望のままに食べる姿。これを見る事が出来るのは、正にこの場所だけなのだ。
――決して、誰にも見せたくない。わし様だけのビーマ――