フレーメンちう
2024-01-13 23:57:31
2708文字
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夜食『ドゥリビマ版ワンドロワンライ企画』

ドゥリビマ版ワンドロワンライ企画「夜食」のお題で書き上げた話です。 夜食の域をを超えた量を作る男、それがビーマだと信じてる……!

 夜も更け、眠りに就く習慣が抜けないサーヴァント達はそろそろ寝始めている時間。廊下に響く音は何処かの機械音程度。
「こんな時間に食いたくなるとはな」
 ドゥリーヨダナは軽い伸びをしながら気怠そうに食堂へと向かう。小腹が減る事は無いが、無性に口さみしい。
 やはりこの時間に酒盛りをしているサーヴァント達はいないのだろう。食堂の明かりは落とされ、最低限の照明だけが灯っていた。
 食堂の入り口に置かれたテーブルの上に並んだクッキーに目を留める。幾らQPを払うとはいえ、食堂に置いてある作り置きの菓子に手を付けるのは物乞いの様な気がして嫌だ。食べるのであれば、自分の為に作られた料理が良い。それかフルーツ。切り分けなければならないのは面倒だが、あれならば幼少の頃に宮殿のキッチンから使用人の目を盗んで食べていた楽しい思い出があるから良い。
 ドゥリーヨダナは食堂の入り口からキッチンへ視線を向けると、一角だけ灯りが点いていた。
――嫌な予感がする――
 食堂に入りキッチンの中を確認すれば、見慣れた白い服に紫色の毛束が一筋。これではフルーツを持って行くことも出来ない。小さな溜息を吐きながら、ドゥリーヨダナはその主へと声をかけた。
「ビーマ、何をしている。つまみ食いか?」
 自分の行動を棚に上げながらもそう言うと、大きな白い背中がびくりと震えた。振り返ると安堵した表情を浮かべながらも、気まずそうに眉間に皺を寄せる。
……盗み食いしようとしてるのはお前だろう」
 ほんの少しだけ声を詰まらせたビーマは、手元に視線を戻す。
 一体何を作っているのだろうか。気になったドゥリーヨダナはキッチンへ向かうと、カウンター越しにビーマの手元を覗き込んだ。
 保存袋いっぱいに詰められている肉は薄いオレンジ色の液が絡ませてあり、ホーロー製のバットには小ぶりなミカン程度に丸めた薄ら茶色い生地が八つ程並んでいる。肉はタンドリーチキンの材料だろうが、丸めた生地はパンになるのだろうか。
 不思議そうに見つめるドゥリーヨダナに、ビーマは口を開く。
「何か食いたくてここに来たのなら、分けてやる」
「ほう。わし様に貢ぎたいと言うなら、食ってやらんでもないぞ?」
 ドゥリーヨダナはカウンターに肘を付き、目を細めてニヤリと笑う。

 以前の仲であれば、「なら食うな」と一蹴されたが、ビーマが惚れているからこそ言える言葉だ。それにビーマもこの程度の減らず口を叩いた所で腹を立てる様な奴ではない。
 狡猾的ながらも自信満々な笑みを向けるドゥリーヨダナに、ビーマは不満げに小さく鼻を慣らす。

 当初の頃であれば、ドゥリーヨダナが因縁の相手が作る料理を食べようとはしない。ドゥリーヨダナ自身もビーマに惚れているからこそ、貢がれても良いと思っている。
 未だに己自身の気持ちに気づいていないドゥリーヨダナに不満を抱く。指摘したところで意固地になるのは目に見えている。ゆっくりとドゥリーヨダナの本心を気づかせなければ。

……貢いでやるから、そこで見ていろ」
 目を離すなと言わんばかり見据えてきたビーマに少々驚きながらも、ドゥリーヨダナはビーマの言う通りにビーマの手元に視線を向けた。
 フライパンを二つコンロにかけ、火を付けた。片方でタンドリーチキンを焼き、もう片方は空焚きしている。何をするのかと眺めていると、丸めていた生地を一つ取り薄くのばし始めた。フライパンにバターを塗り、伸ばした生地を置く。じゅ、と焼ける音が小さく鳴り、しばらくすると生地が焼けてきたのか少し縮んできた。それを裏返してくるくると滑らせて指先で軽く押しながら焼くと、風船の様に膨らむ。ほんのりついた焼き色と、パンやナンよりも甘さの少ない香ばしい麦の匂いで、それがチャパティと判った。
「チャパティはそんな風に焼き上がるのか」
 興味津々と見つめるドゥリーヨダナに、ビーマは少し嬉しそうにしながらも、得意げに頬を緩ませた。
「しかし、夜食を作るのに何時間前から作っていたんだ? 鶏肉の仕込みは時間がかかると聞いたが?」
「あぁ、これは前から仕込んでいた肉だ。他にも羊肉をスパイスに漬け込んであるが食うか?」
「いや、わし様はこれだけで充分だ。そんなに食えんわ」
 焼き上がるチャパティの香ばしさと、タンドリーチキンのスパイシーな香りが食欲をそそる。最後のチャパティが焼き上がる頃にはタンドリーチキンも丁度焼き上がり、ビーマは冷蔵庫からサニーレタスを取り出した。
 チャパティの上にサニーレタスを一枚乗せ、その上にタンドリーチキンを一列に並べていく。レタスとチキンが落ちない様にくるくると円柱状に包むと、ドゥリーヨダナに差し出した。
「前にケツァル・コアトルがトルティーヤを教えてくれてな。それを参考にしてみたんだ。このままかぶりついて食え」
 食器も無い上に立ち食いとは随分と品が無い。だが使った食器を洗えと言われるのも面倒だ。
 ドゥリーヨダナはビーマから受け取ると、一口齧り付いた。
 美味い。いつもより薄いチャパティに、チキンから溢れた肉汁とヨーグルトでまろやかになったスパイスが染みる。軽く食むだけでほろほろと崩れるチキンと、しっかりと効いたスパイスの風味がまた美味い。
 ふと、ランチで時折口にするビーマが作るタンドリーチキンよりもスパイスが効いている事に気付いた。
「この肉、随分と味が濃いな」
「ん? あぁ、まぁな」
 ドゥリーヨダナの言葉に少し驚いたビーマだが、それ以上理由も言わず、黙々と自身の分を作る。
 他の国生まれのサーヴァント達に気を使ったが為にスパイスを控えめにしていたのかもしれない。裏を返せば、このタンドリーチキンはビーマ自身が好む味付けなのだろう。そう思うとドゥリーヨダナの頬が無意識に緩んでいく。
 その上、誰も居ない食堂でこっそりと、二人だけで食べる夜食。秘め事の様な状況に、ますます頬が緩んでいくのがドゥリーヨダナ自身でも判った。
「何だ、急に笑い始めて」
「いや、愉快だと思ってな」
 笑うドゥリーヨダナが笑う意味が判らず、ビーマは怪訝そうな顔をする。だが、ドゥリーヨダナは一切気にせず、嬉しそうにもう一口頬張る。
「よし、出来た」
……んむ、お前、七本も食うのか?」
「勿論。もう一本食うか?」
「いらんわ」
 バットに山の様に積まれた夜食に呆れるが、ビーマは待っていましたと言わんばかりに一つ取ると齧り付いた。

 ドゥリーヨダナとビーマの上に点いた灯りが一つずつ。暗い部屋の中、夜食を食べ合う二人だけを照らしていた。