フレーメンちう
2024-01-03 00:11:26
2751文字
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広義的には同じ肉料理

ドゥリーヨダナからビーマへご飯の注文をする話です。
エジプトはキョフテ、インドはコフタというらしいのですが、間違っていたら事が気づき次第直します……!

 昼の一時を過ぎ、厨房の忙しさも随分と落ち着いてきた。
 注文をする者もまばらになり、下げられた食器を洗う作業が多くなっている。ビーマが生前に体験した厨房とはまた違った忙しさに、最近はすっかり慣れてしまった。
 そんな中、珍しい奴の声が厨房に響く。
「おい、ビーマ。コフタを作れ」
 食器を洗っていたビーマは手を止め、声のするカウンターへと視線を向ける。
 昼には殆ど顔を見せないドゥリーヨダナだ。カウンターに肘を付き、早くしろと言わんばかりの視線を送っていた。
 あまり上機嫌とは言えないドゥリーヨダナだが、聞き慣れた料理にビーマは頬を緩ませる。
――挽肉にスパイスを混ぜ込み、丸めて揚げた料理。カルデアでよく作られるミートボールよりも大きく、地域によっては揚げたり焼いたりした後に煮込む事もある――
 懐かしさに思いを馳せるが、不遜な態度のままじっと見つめてくるドゥリーヨダナに対し眉をひそめる。
「それが頼む態度か?」
「わし様の態度など関係なかろう。お前が作る肉料理を食いたいから言っているのだ。それ以上でもそれ以下でもない」
 説明も面倒と言わんばかり顎を擦る。だが、ほんの少し期待を滲ませながらも、そう言われてしまえば突き放す訳にもいかない。ビーマは小さな溜息を吐くと、食堂の出口を指差す。
「コフタは少し時間がかかるから部屋で仮眠でも取りながら待っていろ。ただし、俺も作りたい料理があるから、コフタをベースにした料理になるからな」
……それでも構わん。あまり待たせるなよ」
 声だけは不満そうにドゥリーヨダナだが、料理を食べられる事に機嫌を善くし、食堂を後にした。

* * *

「おい、料理持ってきたぞ」
 ベッドに寝ころんでいたドゥリーヨダナは、むくりと顔を上げた。漸くビーマも料理を食べられる事に心を弾ませる。
「開いているから入って来い。全く、待ちくたびれたわ」
「待ちくたびれるくらいなら手伝え。お前の飯を作っていたんだぞ」
 料理を運んできたビーマに満面の笑みを浮かべるドゥリーヨダナに対し、ほんの少し呆れながらも素直な表情を向けてくるドゥリーヨダナの姿にビーマの頬が緩む。

 ビーマに対し料理を注文する際、あんな態度を取らなくても良いのだが、他の者がいる前で宿敵である者と親しく接するのは、恥と思えてしまう。どうせなら『ビーマがドゥリーヨダナを気にかけている』と見られた方が、『犬の様に絡んでくるビーマをドゥリーヨダナが構ってやっている』と思われ易い。
 だが、ドゥリーヨダナがそんな浅はかな了見を持っているという事など、ビーマは既に感づいている。普段であれば厄介な策や物事を起こすというのに、時々あまりにも稚拙な行動を取るのが不思議でならない。今日だってそうだ。だが、問うたとしても答えるような奴ではない事はよく知っている。

 食事をする為にと既に敷いていた赤い敷物の上へ、ビーマは座りこむ。ビーマが手にしていた皿には同じ料理が盛られており、ドゥリーヨダナが座るであろう場所の手前と、ビーマ自身の目の前に並べた。
「何だ、お前もここで食べるのか?」
「俺も昼飯をまだ食ってなかったんだよ」
「賄いを食いながら調理場に居たのかと思ったわ」
 調理場もある意味戦場なのだな、と哀れむような表情を見せるドゥリーヨダナに、ビーマは目をぱちくりとさせる。
「いや、賄いは食った。一人分の飯だけで腹が減るからな」
 当たり前の様に答えるビーマだが、それがビーマにとっては当たり前だった事を忘れていた。愚かな質問をしてしまったと少しだけ後悔しながらも、気持ちを切り替えようと運ばれて来た食事に視線を向け、料理の前へと座る。
 少し大きな皿には炊いた白米、その上にはコフタが二つ乗り、酸味と淡い香辛料の香りが立つソースがかかっている。更にコフタの側には目玉焼きとくし切りのアボカドが添えられていた。
 ドゥリーヨダナが想像していたコフタとは少々違う。だからといってランチタイムの際に見かけたハンバーグとも違うようだ。
「おい、こんなコフタは知らんぞ。わし様の注文通りに作れ」
 料理を指差し、不満げなドゥリーヨダナだが、ビーマは気に留めない。
「ハワイのロコモコっていう料理だ。俺が作りたい料理を作るって言っただろうが。それに焼いた肉団子なら、調理法としてはコフタの様な物だろ」
 確かに焼いた肉団子料理はコフタといえる。特に特別な調理法でない事もあり、世界中で同じような料理があるのは当たり前だ。
 広義的にはコフタでもあるロコモコに渋々納得するドゥリーヨダナに対し、ビーマは百面相の様にころころと表情を変えるドゥリーヨダナへ微笑みながらスプーンを差し出した。
「手では食い辛いからスプーンを使え。いつも作るコフタは丸い方で、エミヤから教わったコフタは平たい方だ。羊肉で作ったから熱いうちに食うといい」
 ドゥリーヨダナはスプーンを受け取ると、淡い湯気と食欲をそそる香りが立ち上るロコモコを食べ始めた。
 丸いコフタをスプーンで一口大に切り、ソースが染みた飯と一緒に口へと運んだ。トマトベースの中に胡椒が効いた香辛料と、煮込まれた野菜と肉の深い味わいが広がる。肉団子を噛みしめれば、粗挽き故の歯ごたえと共に旨味が凝縮された肉汁が溢れ、ソースの味に馴染みながら新たな旨味となっていく。
「んむ……
 平たいコフタはどうだろうか。丸いコフタと同様に一口大に切ろうとスプーンを押し当てると、何の抵抗もなくスプーンが通る。随分と柔らかいコフタを不思議に思いつつも、ソースを絡めて食む。コフタを軽く噛めばほろほろと崩れ、混ぜ込まれていた玉葱の甘みと相まってコクのある肉汁が広がった。玉葱の甘さが香辛料の刺激を抑える事により、ソースにまろやかさが生まれ、少々品の良い味に仕上がっている。
 ロコモコという料理は想像していたよりも美味い。馴染みのないソースの味、入れた事がない食材を混ぜ込んだ肉団子も、それぞれの美味さがあり、合わさると更に美味い。それがドゥリーヨダナの率直な感想だった。咀嚼する度に肉の旨味が広がり、柔らかな米の甘みで味わいが深くなるのが興味をそそられた。
「旨いだろう?」
 味わう様に食べるドゥリーヨダナを眺めていたビーマは、ニカッと満面の笑みを浮かべる。
……まぁな。意外と悪くない」
 嬉しそうな笑みを向けられ、ドゥリーヨダナは少しだけ気恥ずかしそうに俯く。
 ビーマに胃袋を完全に掴まれてしまった事に気づき、ほんの少し負けた気持ちを抱く。「こんなにも入れ込んでしまうとは」と、増していく恋心と共に「二人だけで取る食事も良いのかもしれない」と頬を緩ませた。