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フレーメンちう
2023-12-17 21:11:00
2190文字
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脆くも、甘い
琥珀糖をドゥリーヨダナに持って行くビーマの話。恋心も一歩進んだ様な内容です。
「意外と簡単に出来るもんだな」
空調からの風がよく当たる場所に置いていた箱の中を見つめるビーマは、目を細めて頬を緩ませる。箱の中にはクッキングシートが敷かれ、その上には半透明な鉱石の様な物が並んでいた。
「きっと気に入るだろうな」
一口程度に切り揃えられたそれをビーマは丁寧につまみ上げて瓶に詰めると、部屋を後にした。
* * *
聞き覚えのあるノックが部屋に響く。小さなデスクを前に座っていたドゥリーヨダナは、口にしていたコーヒーを飲み込むと、ドアへと視線を向ける。遠慮気味ながらも叩き付けるようなノックをするのは一人しか居ない。
今日は一体どのような用事なのだろうか。
「開いている。入って来い」
恋心を抱いているにもかかわらず、心の奥底に巣くう羨望と嫉妬の所為でビーマに対して素直になれない。
だが、羨望と嫉妬こそがドゥリーヨダナを形作る感情だ。心を曝け出し睦み合う事は、諦めざる終えないのだろう。
手にしたコーヒーから上がる湯気が、小さな溜息でふわりと揺れる。
「丁度よかった。そのコーヒーに合いそうな菓子を作ったから食ってみろ」
ドアが開くと同時にドゥリーヨダナの様子を確認したビーマは、満面の笑みを向けて手にしていた瓶をドゥリーヨダナに差し出した。
カランと、小さな音が鳴る瓶には、半透明の石のような物が詰まっている。ドゥリーヨダナはコーヒーをデスクに置き、ビーマから瓶を受け取った。
蓋を開けてひとつ摘まむと飴玉のように固く、ほんの少しざらついている。明かりに透かせば淡く煌めき、まるで宝石の様だ。数多の財を見てきたというのに、思わず菓子に見とれてしまう。
「上手く出来ているだろう?」
柔らかなビーマの視線に気づき、ドゥリーヨダナは顔を引き締めた。
「
……
飴はコーヒーに合わん」
訝しげな視線を向けてくるドゥリーヨダナに、ビーマは得意気な表情を見せる。
「まぁ、軽く囓ってみろ」
自信に満ちたビーマに懐疑の念を抱きながらも、言われたとおりその菓子に歯を立てた。
ぱり、と表面が砕け、そのまま力を加えれば、すぅ、と菓子自ら割けていく。グミと似た所食感もあるが、表面の固さは違う。甘さは控えめだが、なかなか面白くも美味い菓子だ。
目を輝かせて菓子を頬張るドゥリーヨダナの姿に、ビーマはニカッと笑う。
「美味いだろう? 琥珀糖という菓子を紅閻魔に習ってな」
ビーマの言葉にドゥリーヨダナは頷くと、コーヒーを一口含む。淡い甘みがコーヒーと混ざり合い、焙煎された香ばしさが引き立つ。ブラックを飲む際は焼き菓子などのバターの風味が強い菓子や、グラブ・ジャムンやジャレビなどの甘いシロップ漬けの揚げ菓子を好んで合わせていたが、ほのかな甘さの菓子もなかなか美味い。
柔らかな笑みを浮かべながら琥珀糖とコーヒーを味わうドゥリーヨダナに、ビーマもつられて笑みを零した。
もう一口、もう一口と興味を誘う食感と味に夢中になっていたドゥリーヨダナだが、ふと、疑問が浮かぶ。
「何故わし様をこんなにも構う。以前話していた『遊び』だとしても、些か度が過ぎていないか?」
ビーマにじっと見つめられ、少し居心地が悪くなったドゥリーヨダナは視線を外す。見つめてくる視線は、幼い頃に向けられていた視線と同じだった。
ドゥリーヨダナの言葉に、ビーマは少し体を震わせると、息をついてほんの少し口角を吊り上げる。
「お前が何かしでかさないかないか監視
……
という訳じゃねぇが、話し相手は俺の方が良いんだろ。それに、ここに喚ばれている間は俺の事を独占しても良いんだぜ?」
淡々と答えるビーマにドゥリーヨダナは目を見開いた。
――
あのビーマを独占? 手が届く訳がないのに、わざわざ傍に寄ってやっているというのか。お互い気心が知れた兄弟も共もいない者同士、情けを掛けられたのか
――
ぐち、と心臓を握りつぶされるような感覚に陥る。無意識から出たであろうビーマの言葉が、ドゥリーヨダナの心に劣等感を植えつけてくる。今まで気を許していた己が馬鹿だった。
「
……
っ」
自信の胸元を庇うように服を握り締めるドゥリーヨダナに、ビーマは小さく息を飲む。
言葉を間違えた。策に富んだドゥリーヨダナだ、他の者からの言葉なら、真意を汲み取っただろう。だが、相手が悪かった。
ビーマは心を決めたように小さな息を吐くと、ドゥリーヨダナを見据えた。
「言っておくが、間違っても、お前の為に俺が堕ちたと思うな。お前は俺を選んだのだろうが、俺だってお前を選んだんだからな」
普段であれば、大声で説明するのだろう。だが嘘のように静かな声で、しかし確実にドゥリーヨダナの鼓膜に刻みこむ様にしっかりと言葉を紡いだ。
耳の縁まで真っ赤に染まるビーマは、胸を押さえるドゥリーヨダナの手の上から思い知らせるように強く指で突く。
「今晩、俺がどこまで本気か判らせてやる。最後の一滴まで搾り取ってやるから覚悟しておけ」
「は、ぁ?!」
足早に部屋から出て行くビーマを、ドゥリーヨダナはただ見つめる事しか出来ない。
――
とんでもない奴に恋心を抱いてしまった。とうとう掴み取り、叶った筈の恋なのに
――
歓喜と恐怖と動揺がドゥリーヨダナを襲う。淡く煌めく琥珀糖へ縋るように、瓶を両手で握り締めた。
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