既に昼食の時間から外れ、時計は一時半を指している。だが、食堂からは未だに良い香りが漂い、食欲が刺激される。食堂に居るのは数人のサーヴァント、厨房では片付けが始まりかけていた。
ふと、食堂を通りかかったドゥリーヨダナは、「たまには異国の食事でも取ってみるか」と、エミヤに声をかけた。
「昼食を取りたいのだが、まだあるか?」
「ん? そうだな、ハンバーグランチは終わってしまったが、五目ご飯と煮魚のランチならまだある」
「五目ご飯?」
「米と一緒に野菜や肉を炊いたものだ。日本式のビリヤニといった所か」
「ふむ……では、それを貰おう」
食べ慣れた米料理と食べ比べが出来て丁度良い。ドゥリーヨダナはそのランチを注文して受け取ると、空いている席へと着いた。
壁には今日のランチメニューが掲げられており、説明された内容よりも詳細に書かれていた。
鶏五目ご飯・赤魚の煮付け・キャベツとキュウリの浅漬け・大根と油揚げの味噌汁・デザート。
受け取ったランチに視線を落とすと苺が盛られた小鉢がついている。もしかしたら、注文したタイミングでデザートが変わっていたのかもしれない。しかし、そこまで甘味に執着のないドゥリーヨダナは、特に気にせずフォークを手にした。
取りあえず、一口ずつ食べてみるか。
塩と馴染みの無い風味の効いたキャベツとキュウリ、程よい柔らかさに煮込まれた大根は美味いのに発酵した匂いが鼻に付く汁、ほろりと柔らかい肉と味は良いがベチャリとした食感の米料理、甘辛い味付けと魚の旨さが残っていて悪くないが何故か味に締まりが無く感じる煮物。
「うーむ……」
口に残る魚の味を探りながら、諸手をあげて「美味い!」と言い切れないランチに頭を悩ませる。
「眉間に皺寄せて何考えてんだ」
聞き慣れた声をかけられたドゥリーヨダナは、慌てて声の主へと顔を向ける。
ランチが乗った盆を手にしたビーマが、怪訝そうな顔をしてこちらを見下ろしていた。厨房を見れば他のサーヴァント達は片付けや料理をしており、未だに働いている。「此奴、もしやサボりでは?」そう思い、ビーマに再び視線を向ければ、同じテーブルの向かいに座り始めていた。
「なんでお前が相席してくるのだ?! 他の席が空いているのがみえんのか?」
「俺がどこに座ろうがいいだろ。それに、飯は人と食った方が美味いからな」
「……わし様の食欲が失せ取るんだがな」
悪態を吐くも、今更席を変えるのも癪だ。ドゥリーヨダナは眉間に皺を刻み続けながら、再びランチに手を付ける。
一掬いずつ丁寧に食べるドゥリーヨダナだが、ビーマに視線を向ければ同じランチを吸い込む様に食べていた。あの様な食べ方で味わえているのだろうか。だが、ドゥリーヨダナが気にかける事でも無い。あまり気にせず食べ続けていたが、料理人として、ビーマの感想を聞きたくなった。
「なぁ、お前はこの料理どう思う?」
「うん……美味いんだろうが、この味に慣れていないから、どうも旨さが分からねぇな……」
この国の料理を食べ慣れていない事もあり、さすがにビーマも味の評価が出来ないのだろう。多分、今まで食べてきた自国の料理には、何かしらのスパイスが使われていた。それが無いため、ドゥリーヨダナもビーマも味わい馴れない料理だと思うのだろう。
「けど、この苺は美味いな。甘さが強い」
「…… お前なぁ、料理人としては知らんが、他人が作った食事を食べる者としては最低な感想だぞ? 素材の味が一番美味いと言っているのだからな?」
不躾なビーマにドゥリーヨダナは溜息を吐く。正しくも強い男の筈なのに、妙な所で社交性がなっていない。
「仕方ねぇだろ、今はそう思うんだからよ。というか、……お前は他人を気にかける様な性格じゃねぇだろ」
一番指摘されたくない相手から人との接し方を説かれ、ビーマはドゥリーヨダナを睨む。あんな度を超した我儘な振る舞いをしていたというのに、どういう風の吹き回しだ。
眉間に皺を刻むビーマを嘲笑う様な笑みを零すと、ドゥリーヨダナは得意げに頬杖をつきフォークを向けてユラユラと揺らす。
「わし様は人心掌握に長けているからな。礼節をわきまえておる」
「あ? 礼節? あんなに好き放題したお前が言うか?」
「利を取ったまでの行動よ。何かを成すには人が必要だ。チャトランガで遊ぶにしても、駒が揃わなければ話にならん。常に大志を抱かずしてどうする?」
ふん、と嘲笑い再び食事をとるドゥリーヨダナに、ビーマは深いため息を零した。
未だに読めないドゥリーヨダナの考えだが、人を必要とする戦争をここで起こす様な事はしないだろう。それなのに、持て余した独占欲を大志などと聞き心地の良い言葉を吐く。
ドゥリーヨダナを理解出来る日はきっと来ないだろうとビーマは悟る。
だが、他人には親しく接しようとするドゥリーヨダナに対して、ビーマ自身が嫉妬を抱いているなどと、露ほども気付いていなかった。
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