彼は嘘をつかない。中学の頃から見ていた私はそれを知ってる。もっと言うなら、彼は確実でないことを口にするのも嫌がるところがあった。もしかしたらそれは無自覚だったのかもしれないけれど。
高校生になって、付き合って数日の一番楽しい時につい溢れてしまった「結婚したいね」は笑ってはぐらかされてしまったし、大学進学で物理的な距離が離れることがわかった時の「浮気はダメだよ」の返事だって「君もね」だった。仕事を始めてから電話で伝えた「絶対帰ってきてね」は「そのつもりだよ」。この時だけはちょっと泣いた。どうしてこう、ばか正直なの、ちくしょう。
なのに今、どこにもいかないでなんて我儘に困った顔もせず笑って私を抱きしめるのを、「しょうがないな」聞き慣れた優しい声で私を宥めるのを、どんな気持ちで受け止めればいい?
いっそ早く終わってしまえばいい、彼に嘘をつかせるこの世界なんて。
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