柩木
2024-11-16 23:17:28
2261文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|黄色いバラを目指して

丹穹Webオンリー「もっと!恋の探求!一意専心」ドロライ企画参加作品。
お題【デート/花/嫉妬/不意打ち】なんだかんだ全部使いました。制作時間2時間程度の荒削りですので後日修正するかもです。今日は賑やかしにこのまま投稿いたします。

ピノコニーへのデートを丹恒に提案した時、もしかしたら断られるかもしれないと穹は覚悟していた。なんせ彼は初めてピノコニーへ降り立つ前に、宿泊資格を穹に譲り自分は列車に残ると決めてしまっていた。丹恒が騒がしい場所を苦手としている事は本人から聞いたが、折角の宴の星を共に歩けないという事実は、その後の街歩きを若干味気ないものにさせる。色々経験し、また美食に舌鼓を打ってもなんとなく物足りない。隣に丹恒がいない。ここに彼がいたらどんな反応をするだろう。あれは好きかな。これは苦手かも。そんな事を考えて寂しさを埋めた。
だが、今なら。丹恒が夢境に足を運ぶようになって数回目の今ならこの騒がしさにも慣れた頃ではなかろうか。そして穹もピノコニーの歩き方を知っている。なるべく落ち着いた雰囲気の観光スポットを案内できれば、丹恒も楽しめるのではないだろうか。
そう力説してもらった返事は「いいぞ」という苦笑を含んだもので、嬉しさのあまり穹は丹恒を抱きしめた。仕方ないなと言いながらも腰に回る丹恒の腕の感触に高揚感がどんどん溢れて、ニヤけてしまうのを止められない。
その日のうちに日付を決めて、わくわくしながら当日を待った――のだが、今現在穹の気分は空を飛んでいた鳥が地面を歩く程度には急下降していた。

……穹? その、さっきも説明したが」
「分かってる。さっき丹恒に抱きついてた人は酔っ払いで、知り合いと丹恒を間違えたんだろ? で、転びそうだった人を優しい丹恒は善意から受け止めた。そこに丁度俺が戻って来た。だろ?」
「あ、ああ……

穹が合流したタイミングで丹恒本人からどうしてそうなってしまったのかの説明は聞いた。その少し後になって酔っ払いの仲間と思われるオムニックが来て、本人の代わりに謝罪して人混みに消えていくのも二人で見送っている。何ならそのオムニックは迷惑をかけたお詫びと言って丹恒に何か手渡していた。悪い人達ではないのだろう。
これが普段であれば何事もなく受け入れられただろうが、今日は待ちに待ったデートであるという気持ちが強かった。一瞬離れて戻って来たら見知らぬ誰かと抱き合う恋人というのは心臓に悪い。
腹立たしくはあるが、一応冷静であるつもりだ。良いことをした丹恒を理不尽に責めたくはない。ただ、感情を咀嚼出来るまで待って欲しいだけなのだ。

「大丈夫。分かってる」
「大丈夫そうには見えないが……

場所を移し、待ち合わせた場所からそう離れていないベンチに並んで腰掛けた。一瞬離れる理由となったドリンクをひと口飲む。スッキリとした甘さのアイスティーは以前一人で飲んだ時と同じ味の筈なのに、あまり美味しいとは思えなかった。
丹恒にも同じ物を渡しているが、手に持ったままひと口も飲んでいない。

……うん。ぶっちゃけあんまり見たくなかった。でも丹恒がした事っていい事だし、俺が勝手に嫉妬してるだけだし」
「嫉妬?」
「そう、嫉妬」

ここで初めて丹恒はドリンクを口にした。氷が擦れてガラガラと音がなり、二人の間に妙な沈黙が流れる。

……美味しい?」
「ああ。……甘いな」
「え、これってそんなに甘かったかな。シンプルな味が好きな丹恒も飲みやすいのを選んだつもりなんだ、けど……

ベンチに並んでいる座っている都合上、自然と遠くの正面を見ていた穹は改めて隣の丹恒を見た。彼もまた正面を向いているので詳しい表情は分からないが、若干顔をそむけた事で耳があらわになっている。
その耳が、若干赤くなっているように見えたのだ。

「まってどういう反応? 今の会話でそんな赤くなる瞬間あった?」
「いや、これは……。お前に嫉妬されるとは思っても見なかったんだ。こう言う言い方をすると怒らせるかもしれないが、少し、嬉しくて」
「嬉しい? なんで? 今の俺ってめっちゃ面倒くさくない?」
「自分でそれを言うのか」

改めてこちらを向いた丹恒は、普段無表情と称される涼し気な表情ではなく、少し頬を赤らめて、柔らかく微笑んでいた。向けられる視線も優しく、嫉妬していた事も忘れて穹は見惚れてしまっていた。

「お前は誰にでも公平に手を差し伸べる。俺はそれを美徳だと思っているが、少し寂しくもあった。だから今、分かりやすく執着されているのが嬉しい。俺がお前にとっての特別なんだと思い知らされた」
「そ、そん……。ええ……

これには何も言えなくなってしまう。確かに丹恒は穹にとっての特別だが、まさかこんな事で嬉しそうに微笑む丹恒を見るなんて思いましなかった。
まるで暗がりから不意打ちを食らった気分だ。

「ところで、さっき貰ったチケットなんだが、どうやらランチの優待券らしい。この店なんだが知ってるか?」
……めっちゃ有名なカフェの名前だ」

なんでもないように、しかし穹から見れば上機嫌に丹恒は手に持ったチケットを見せてきた。また感情を飲み込めていない穹は言われるがまま手元を覗き込んだ。
黄色いバラの刻印が印象的な優待券は、ピノコニーでも名の知れたカフェのものである。特にランチメニューは人気で、昼時には長蛇の列が生まれる程だ。穹も名前を知っているだけで利用したことはない。

「行くか?」
……うん。今行けばランチにも丁度いいし、折角だし」

そう、折角のデートなのだ。良いものも見れたし、これ以上不機嫌にしていてもしょうがない。
残ったドリンクを飲み干してゴミ箱に捨てると、二人並んで黄色いバラの看板を目指した。