雪洞
2024-11-16 22:04:50
1636文字
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【マレ監♀】監♀受けワンドロお題「満ちる」

好きな人がいる空間でお互いに好きなことしてる時間っていいよね、な話。サンキュークラブウェア。

 雨の滴る音がカーテンのようだった。
 昨夜から続く雨は今日の放課後になっても止む気配はなく、薄曇りの空からしとしとと、強まりも弱まりもせず降り続いている。こんな日は、「じめじめして嫌なんだゾ」とごちるグリムをよいしょと抱いて登下校しなければならず――猫用レインコートの在庫を購買に尋ねてみようか――なかなか骨が折れるのだが、今日はまだ二人は帰宅の途についていなかった。
 今聞こえるのは、雨の音とグリムの寝息、そして硬い岩を削る音。容易く岩も砕いてしまうその腕は、納得のいく造形を生み出そうと槌を振るう。雨天の下、マレウスが物言わぬ石と向き合うここは、彼が主催する研究会の活動の場だ。校舎を出ようとしたときにちょうど見慣れぬ格好の彼と出くわし、せっかくなら見に来ないかと連れてこられたのだ。
 彼が拝借しているのは学園のバルコニーの一角だ。柵のすぐ外側にはガーゴイル。そこもまた上階から二頭のガーゴイルに見守られている場所で、だからここを選んだのかと納得する。辺鄙な場所にあるためか、続く廊下の奥もひっそりと静まり返って人の気配がしない。まるで秘密基地みたい。そう告げれば、彼は目元を和らげて微笑んだ。
 見学者たるエミリとグリムのために、マレウスはバルコニー全体に雨よけの魔法を施してくれた。まるでここだけ透明なドームが覆い、雨から切り取られたように感じる。
 掛けるよう勧められたパラソル付きの椅子からは、マレウスの作業の様子がよく見えた。
「なかなかやんじゃねえか、ツノ太郎! オレ様が大魔法士になった暁にはグリム様の像を造らせてやってもいいんだゾ!」
「かまわんが、僕が創れば漏れなくガーゴイルになるぞ」
「え……オレ様水を吐くのはちょっと……
「何だ、耳の炎をどう表現するか手応えがありそうだと思ったのだが」
「あ、ちょっと本気だったんだ」
なんてやり取りを最初こそしていたが、雨音と石削りの音がちょうどいい子守唄になったようで、いつしかグリムは眠ってしまった。色々と説明をしてくれていたマレウスも、自分の手元に集中している。
 こうして創作に打ち込む者を眺めていると、自分もそわそわとしてくるもので。ふと思いたち、エミリは鞄の中から針と糸、そして刺繍枠を取り出した。重たくも温々としたグリムのお腹の上でやるのもちょうどよい。
 続く雨の中で不規則に混ざる、石を叩いて削る音。時折かぁんと鋭く響くその音を耳に針を動かしていく。縫い物をするときはいつも静けさに没頭していた。まるで世界から自分を切り離すように。けれど、今はこの音に包まれながらの作業こそが心地良い。
 ふと手を止めたマレウスは、エミリが刺繍をしているのを認めて、それから像の全体を確認すると再び修正にかかる。一方が一方へ目を遣るとき、大抵彼も彼女も自らの手元を見ており、その視線に気付かない。けれど、それは決して寂しさを想起させない。むしろ、その夢中になっている姿を見るのが嬉しいとさえ思う。その眼差しが片や糸、片や岩に注がれていても――独りだとは感じない。
 雨は依然降り続く。周囲のガーゴイルは、立派にその役目を果たしている。ずっと続いてもよいとすら思える時間が、そこに確かに満ちている。
 瞬きをして、ふっと顔を上げると、その視線がかち合った。
「進捗は?」
 そうエミリが尋ねれば、マレウスは唇に弧を描き
「捗々しいことこの上ない」
 そしてまた、その腕を振り下ろす。

「できた」
 やがて上がったその声に、マレウスが手を止めて歩み寄る。見て見て、と差し出した刺繍枠の中に生まれたそれを目にした途端、彼は一瞬きょとんとし――そして、とびきり破顔した。
 白地の布の中で、デフォルメされたグリムならぬグリムガーゴイルが立派に水を吐いている。
――絶対、笑ってくれると思ってた。
 今日ここに来なければ、決して得られなかったもの。それらを前にエミリもまた、満たされた思いで微笑んだ。