ちよど
2024-11-16 13:36:47
24902文字
Public わし様など
 

練習1P 6月分まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。
わし様中心SS。節操なくCP混在。

■2024/06/30
わし様+エミヤ
「指名は抑止力になるからな」

「すまない、今日は私が作ったものしかない」
 食堂のカウンターでエミヤが頭を下げるとドゥリーヨダナは目を丸くした。インドの王族である彼が注文時に料理した者の名前を確認するのはいつもの事だ。
 常ならばキャットや玉藻の前、ブーディカ。そしてビーマなどが調理しているが、今日はたまたま彼らの都合が悪く厨房にはエミヤしかいなかった。
「だから何だというのだ?」
 ドゥリーヨダナの答えに今度はエミヤが目を丸くした。
「君たちは料理人にも厳格な決まりがあるのだろう?」
 クシャトリヤに料理を提供出来るのは同じクシャトリヤか階級の高いバラモンだと定められている。他の料理人達と比べてエミヤは一般階級の出身だった。
「ああ、あれか。馬鹿らしい」
 最下層の老婆が差し出した水を飲んだ男は鼻で笑った。
「わし様が料理人を確認するのはうまい料理を食べたいからだ。名前が分かれば指名出来る。──むしろ今までおまえが作った料理を食べてなかったのが驚きだ。おすすめはどれだ?」
 目を輝かせたドゥリーヨダナにエミヤは表情を綻ばせた。
「ならよかった。君好みのこってりしたビーフシチューとレンズ豆のサラダなどはどうかな?」
 喜んで皿を受け取ったドゥリーヨダナが帰り際にこぼした言葉をエミヤが聞くことはなかった。


■2024/06/29
カウラヴァ+怪異
「父上、父上」

「ちちうえ、ちちうえ」
 拙い声で呼ばれてドゥリーヨダナとカルナは振り返った。
 特異点の廃墟の片隅にドゥリーヨダナの膝ほどの子供が立っている。雨に濡れたような髪でその表情は見えない。
 遅れて足を止めたアシュヴァッターマンが不愉快そうに眉を寄せるのを背後にドゥリーヨダナはその場にしゃがみこんだ。
「わし様に目をつけたのは褒めてやるが。さすがのわし様も怪異と子を成した覚えはないなぁ。パーンダヴァの連中がもうすぐ来る。どうせなら奴らに哀れっぽく鳴いてやれ」
「ちちうえ、ちちうえ」
 拙い声を繰り返す怪異に今度はカルナが首を振った。
「オレに近づくのはやめておくがいい。その身を焼き尽くしたくはなかろう」
 無言で巨大なチャクラムを取り出したアシュヴァッターマンに怪異は何も言わず、ドゥリーヨダナに向き直った。
 その頭部がぱかりと開く。
 溢れ出した触手がドゥリーヨダナに襲いかかった、途端。
「ふざけんじゃねぇぞ!!」
 叩き込まれたチャクラムに怪異がすり潰される。悲鳴と共に残骸が溶けて消え。ドゥリーヨダナが顔をあげた。
……おまえは子がおらんからなぁ」
 その言葉にアシュヴァッターマンには瞳を強く光らせた。
「あんたに危害を加えるなら、誰の子だろうが同じだ」


■2024/06/29
わし様+マスター
「どうしてそうなるのだ?」

 七夕とは一年に一度だけ会える恋人達の祭事である。
「ということで、わし様を讃えよ。わし様を崇めよ」
 飾り立てられた笹の横でふんぞり返っているクル国の王子にマスターは首を傾げた。
「七夕とインドって関係ないよね?」
「あるとも!織姫と彦星はわし様の先祖だぞ!」
 ドゥリーヨダナの主張にマスターは同じクル国の王子であるビーマを振り返った。視線を受けてビーマは首を振る。
「相手にするな」
「ばっ!!おまえ!授業中寝てただろ!馬鹿ビーマ!!」
「おまえに馬鹿と言われたくねぇ、このトンチキ!!」
 言い合いになったふたりに落ち着いた声が割って入った。
「──兄様、残念ながら今回に限ってはドゥリーヨダナの主張が正しいです」
 白い服に身を包んだアルジュナがマスターの隣に立つ。
「我々インドにも似た伝承があるんですよ。彼らが織姫と彦星と同一人物かどうかまでは分かりませんが。クル王家の先祖だと伝えられています」
「ほーら!ほーら!!わし様が正しいー!!」
 踊るように両手を動かしてビーマを煽るドゥリーヨダナ。ぐぬぬ、と顔を歪めているビーマ。そして静かに佇むアルジュナを見比べて、マスターはにっこり笑った。
「じゃあ、アルジュナを讃えればいいんだね」


■2024/06/28
ビマヨダ
「こいつは渡せない」

「ビーマがおるではないかーっ!!」
 カルデアの廊下をこちらに走ってくるドゥリーヨダナに俺は目を見開いた。
 大柄だった奴の体は幼い頃に戻ってしまっている。小さな手を俺に伸ばしてドゥリーヨダナは叫んだ。
「かくまえ!!」
 同じ大きさになっている俺の背中に奴が回り込む。
ドゥリーヨダナ、おまえ」
「なんだ。ビーマ。いつもはスヨーダナと呼ぶのに?」
 不思議そうな声に俺は言葉を飲み込んだ。同じ霊基異常で俺も幼少時の姿になっているがこいつは記憶も戻ってしまっているのだろう。まだ俺達がただの従兄弟だった頃に。
「父上がどこにいらっしゃるか知らないか?ドゥフシャラーや弟達を見なかったか?」
 やはり状況を理解していない様子に俺は考えを巡らせた。
「どこまで分かっている?」
「──目が覚めたら知らない奴がいた。王宮で見たことのない顔だ。ここはハスティナープルではないのか?」
「知らない奴?」
 ドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンやカルナと同じ部屋で寝起きしている。そこで目を覚ましたとしたら。
 答え合わせのようにそのふたりが現れた。こちらを見つけ駆け寄ってくる。
 背中で縮こまる気配に俺は庇うように手を広げた。


■2024/06/28
ビマヨダ
違うんだ」

 明かりを消した通路の片隅に宿敵を見かけて、俺はつい物陰に隠れてしまった。
 同日に召喚されたドゥリーヨダナと俺が顔を合わせたのはその時だけ。後はお互いに避けており、戦闘性能の違いからも編成が一緒になることもなかった。
 久しぶりに見るドゥリーヨダナはひとり暗闇の中で壁に手をついてうつ向いている。何をしているのか疑問に思っていると、特大の明かりが近づいてきた。
「ドゥリーヨダナ。遅くなった」
 魔力炎を吹き上がらせたカルナだ。そのカルナがドゥリーヨダナの体を抱き寄せた。
「──アシュヴァッターマンにはバレてないな?」
「あの男は笑わないだろう。おまえが暗闇を恐れることを」
 脳髄に雷が落ちた。
 俺の知る限り生前のドゥリーヨダナが暗闇を恐れた事はない。だからそれは。
 ──あの一騎打ちの後、ドゥリーヨダナは夜になった森をひとりで過ごしたのだろう。
 夜の森は恐ろしい。宮殿育ちのドゥリーヨダナはどれほどの恐怖を感じただろうか。
 俺はそっと下がり通路の入口で明かりをつける。すぐに立ち去ろうとしたが、飛び込んできたカルナに捕まった。
 ドゥリーヨダナが俺を見て顔を歪める。
「おまえに憐れまれるとはな」


■2024/06/27
わし様+マスター
「こういうのはウチを通してもらわないと」

「突然だが!この時間はカウラヴァショッピングが占拠した!!」
 カルデアが放送している動画に突然入り込んできたドゥリーヨダナに彼は舌打ちをした。
 大柄なドゥリーヨダナの後ろでマスターが目を丸くしている。そんなマスターに構わずドゥリーヨダナは手のひらに乗せた再臨素材をカメラに向ける。
「今日の商品は狂の輝石!いまなら太っ腹なわし様がもうひとつおまけにつけてやろう」
 いらねぇ!動画を見ていた男の心の声が聞こえていたのか、ドゥリーヨダナはにやりと笑って背後のマスターに振り向いた。
「さらにはなぁんと!マスターが梱包してくれるサービス付き!」
「聞いてないよっ!!」
 叫んだマスターにドゥリーヨダナが耳打ちする。
「梱包1個につき、これだけ出そう」
……やります!!」
 頷いたマスターにドゥリーヨダナはカメラに向き直った。
「ちなみに梱包を分ける場合は別料金だ。──それとマスター。サーヴァントが手に入れた素材はマスターが引き取ってくれるのだな?」
「うん。いつもそうしてるよね?」
 その途端、カウラヴァショッピングに注文が殺到した。


■2024/06/27
生前カルヨダ
「我らは人だと!」

「おまえがこのような男だとは思わなかった」
 友となったばかりの男の言葉にドゥリーヨダナは息を吸い込んだ。この男の言葉遣いは絶望的に下手だ。
「カルナ、詳しく話してみろ。おまえはわし様をどんな男だと思っていたのだ?」
「親に孝行する良い息子だと、父は言っていた」
「その通りだが!?って、おまえの義父は父上の御者か」
 記憶を手繰り寄せるドゥリーヨダナにカルナは続ける。
「肉塊から生まれたと聞いたが、盲目の父親の手を引く善良な子供に見えたと」
「──おまえの義父でなければ無礼を咎めていたぞ。カルナ、そういう余計な事は口にするな。お口に閂だ」
 言われた通りにカルナは口を引き結んだ。
 ドゥリーヨダナはにやりと笑う。
「わし様も聞いたことがある。父上の御者の子供は化け物だと。貧相で人相も悪く体に金属が埋まっていると」
「事実だ」
 頷いたカルナをドゥリーヨダナは小突いた。
「そういう時は怒れ!」
 突然ドゥリーヨダナが声を荒げたのでカルナは瞬きをした。
「肉塊から生まれようが、体に金属が埋め込まれていようが、我らは怒り叫ばねばならないのだ」
「何と叫ぶ?」


■2024/06/26
生前IFアシュヨダ(先天性女子)
「其の言葉は絶対である」

「聖仙になりたい?おまえならすぐになれるだろうが
 父の戸惑いに答えず俺は武器を捨てて祖父の下へと修行に向かった。時折クル国の王女から贈り物が届く。俺は使者に尋ねる。
「婿取りの儀はいつだ?」
 パーンダヴァとカウラヴァの和平は長女のドゥリーヨダナが婿取りの儀を始めれば決裂するだろう。
 奪われた正当性を取り戻したいパーンダヴァにとってドゥリーヨダナはどうしても血縁に迎え入れなければならないが、当の彼女は例え略奪婚をされても大人しくしているような女ではなかった。
 昔、俺達が共に武術を習っていた時、彼女は言ったのだ。
「なんで女なのに武術を習うのかって?ふふ、おまえは関係がないからこっそり教えてやろう。どんな男も初夜は油断するからだ。まあ、その時は私も殺されるだろうが」
 早く、早く聖仙にならなくては。
 がむしゃらに修行して聖仙だと認められた俺は、その場からクル国へと向かった。門をくぐれば華やかな祭りが行われている。婿取りの儀だ。真っ直ぐに王宮に入った俺に、きらびやかに着飾ったドゥリーヨダナが駆け寄ってくる。
「アシュヴァッターマンではないかっ!久しぶりだな!」
 無防備なその手を俺は強く掴んだ。宣言する。
「聖仙アシュヴァッターマンはクル国の長女ドゥリーヨダナを召しあげる!」


■2024/06/26
カルヨダ
「これでお揃いだ」

「オレはおまえの屍を回収せねばならないと思っていたぞ」
 意気揚々と自室に帰ってきたドゥリーヨダナにカルナはそう告げた。その手には槍がある。
 臨戦態勢のカルナにドゥリーヨダナは笑った。
「んんん?話せば分かる御仁だったぞ。わし様に私物も貸してくれたしな」
「理解に苦しむ。あの男がおまえの逸話を知らないわけではなるまい」
「ドラウパディーをひん剥いたアレか?太腿の方か?」
 ドゥリーヨダナは借りてきた小さな長方形の箱を見た。にやりと口元が歪む。
「まあ最初は串刺しにされるかという殺気だったが。紳士的であろうという奴はどこぞのゴリラと違って話が通じる」
「詳しく話せ」
「──この前、太歳星君にいい昼寝場所を教えてもらったのだが。その近くに花畑があってな。その花が奥さんに似合いますよ、と言っただけだ」
 カルナは息を吐いた。
ブリュンヒルデには近づかなかったのだな?そうまでして何を借りてきた?」
 カルナの質問にドゥリーヨダナは得意そうに小さな箱を開いた。
「叡智の眼鏡?」
「おまえも眼鏡を持っておるのだろう?」


■2024/06/25
ビマヨダ
「好き」

 ドゥリーヨダナという男は見栄っ張りでろくでなしで、呼吸をするかのように嘘をつく男だとビーマは思っていた。
 だから、ほんの悪戯心だったのだ。
「本当に、このまま続けていいんだな?」
 組み敷した男に確認すると、長い髪を乱したドゥリーヨダナは唇を噛み締めた。いつもと異なり文句すら言おうとしない様子にビーマはため息をつく。
「前にも言ったが、俺達は恋人同士じゃねぇ。だからこそ嫌な事は嫌だと言ってくれねぇと分からねぇよ。食べてくれる奴が無反応だと美味い料理が作れないだろう?」
 そう諭すが、今夜のドゥリーヨダナは毛を逆立てた猫のように唸るだけで口を開こうとしない。
「いつもは、あれをしろ!これをしろ!あれは嫌だ!とわがままばっかりだったじゃねぇか。──お前が嫌だと言うから止めたら暴れるし」
 口に出してみたら本当に最悪な男だった。
 そう思ったのが顔に出たのかドゥリーヨダナの唸り声が大きくなる。軽くキスしてみたら音量が少し小さくなった。
「本当に嫌ならちゃんと言え。おまえのイヤイヤは信用できねぇからな。だから、セーフワードを決めたんだ。お前なら絶対言わねぇだろう言葉を」
 ビーマには分からない。ビーマが勝手に決めたその言葉だからドゥリーヨダナは死んでも口に出来ないのだと。
 その言葉は──。


■2024/06/24
生前IFビマヨダ
「弟の子だが!?」


「この赤子をわし様達の子供にしよう」
 政略結婚で結ばれた相手、ドゥリーヨダナの言葉に俺は酒坏を握りつぶした。
「何を怒っているのだ?ビーマ。そもそも男同士の婚姻では子は生まれない。だが、わし様はわし様の財を他の連中に渡すなどごめんだ。そう言ってあっただろう?」
 確かにそう聞いた。この結婚はカウラヴァとパーンダヴァとの和平のため。それ以外の意味はないと。財産も、寝所も別だと。
 それでもおまえが俺のものになるのなら、と全て条件をのんだ俺の前で紫の髪の赤子が笑う。
「神の子が、王弟の子として認知されるのだ。この子がわし様達の子供になっても問題はあるまい。ああ、おまえの跡を継がせる子もいるな。好きなのを連れてきて良いぞ」
俺が女を孕ませてきてもいいのか」
 低い問いかけにドゥリーヨダナの眉が動く。
「──好きにしろ」
 ドゥリーヨダナがよろめいた。俺がその手を掴んだからだ。
 とっさに赤子を庇って動けなかったその体を抱き寄せる。
「おまえを、愛しているんだ。だから子供なんか作らないでくれ」
 精一杯の、初めての告白にドゥリーヨダナが呆れた声をあげた。


■2024/06/24
カルヨダ
「お中元、だ」

「カルナっ!ちょっと胸を見せてみろ!」
 ドタドタと走ってきたドゥリーヨダナにいきなりそう言われ、ガネーシャ神がゲームをするのを眺めていたカルナは立ち上がった。
「ちょっとソレはセクハラッスよ」
 ガネーシャ神の抗議を黙殺してドゥリーヨダナはカルナを検分する。
「無事だな。──だったらこれは何なのだ!?」
 ドゥリーヨダナが抱えていた箱を開けると、それにはカルナの胸のルビーに似た大きな宝石が入っていた。
「突然部屋に置いてあったのだ。何かの脅しかと思ったぞ」
「わーい!わし様への貢物♪じゃなくて?」
「おまえ、知り合いの手や首を贈られた事ないだろう?」
「いきなり闇を語るのやめて。──そもそも、カルナさんが負けるなら大騒ぎになっているはずッスよ」
「確かにそうだな」
 ふたりが言い合うのを眺めていたカルナがそっとその宝石に触れる。ふむ、と頷いた。
「何か分かったのか?カルナ」
「おまえは生前競技会で不敬を行ったオレを擁護し王にしてくれた。オレをアルジュナと戦わせてくれ、オレの死を誰よりも嘆いてくれた。そしてサーヴァントになった今も良くしてくれている。父はそれを見ているのだろう」
「つまり、これは?」


■2024/06/23
カルジナ、カルヨダ
「ほらな?」

「これよりカルナ召喚の儀を執り行う!」
 棍棒で地面に描いた円の中心で叫ぶドゥリーヨダナにガネーシャ神は首を傾げた。
「マスターに念話が届かないんだから、カルナさんと連絡取れるわけないッスよー」
 彼らがマスターやカルナ達とはぐれてから半日。エネミーがうろつく森の中で彼らは迷っていた。戦闘続きでNPは枯渇し、軽度だが怪我も負っている。
 このままではジリ貧だと、ドゥリーヨダナがカルナを呼び出すと言い出したのだ。
 呆れ顔のガネーシャ神をドゥリーヨダナが手招きする。
「お前も来い!わし様が魔法の呪文を教えてやろう」
「言い出したら聞かないんだから」
 仕方なく円の中に入ったガネーシャ神はドゥリーヨダナと向き合う。自称カルナの最大の理解者がにやりと笑った。
「わし様の言葉を繰り返すのだぞ。──た」
「た?」
「助けてかるなぁ!!」
「助けてカルナさん。こんなので来るわけ」
 轟音が響いた。ふたりの近くの地面に何かが激突し土埃を上げる。その中から出てきたのは
「お前達を傷つけたモノを焼き払えばいいのか?」
 魔力炎を吹き上げたカルナだった。
 ドゥリーヨダナが満面の笑みを浮かべる。


■2024/06/23
アシュヨダ
「同じことをしたくない」

「わし様はいらん」
 ぜいぜいと息を荒げてドゥリーヨダナが言うとカルナに押さえつけられているアシュヴァッターマンの動きがとまらなかった。
 シュメル熱である。前回罹患して抗体が出来たカルナとアシュヴァッターマンはともかく、召喚されたばかりのドゥリーヨダナは高熱にうなされていた。
 ドゥリーヨダナが寝込んでいるベッドの床でアシュヴァッターマンがもがく。
 カルナとアシュヴァッターマンの筋力はほぼ互角。普段のアシュヴァッターマンなら上に乗っているカルナをすぐに振り落とせただろう。だが
「諦めろ。令呪を重ねがけされたいのか」
「この程度の熱、俺の宝珠ならすぐ癒せる!!」
 言い募るアシュヴァッターマンにカルナは首を振った。
「その宝珠が癒やすのは持ち主だけだろう?どうやってこの男に所有権を移すつもりだ?」
「体の一部にしちまえばいい。──飲ませる」
 瞳孔が開ききっているその様子に病人は息を吐いた。
「こいつの方が熱出してないか?」
「──仕方がない。許せ」
 アシュヴァッターマンの体が崩れ落ちた。カルナの念話による要請で遠隔で令呪が行使されたのだ。
「愚かな事だ。おまえが拒絶した意味が分からないとは」


■2024/06/22
ビマヨダ
「その砂粒は重いだろう」

「マハーバーラタの話をして欲しい?今、あなたに?」
 エルメロイⅡ世の確認にドゥリーヨダナは頷いた。
 小さな控室の壁の向こうでは慌ただしく何人ものサーヴァントが行き来している。
 敗戦帰りのキャスターは疲労をこらえてマハーバーラタの英雄の向かいに腰を下ろした。
「あなたが望むのはクルクシェートラの戦いの部分だろう。あの戦いは大地の女神が重さに耐えきれず人間の数を減らして欲しいと訴えた事が発端だ」
「なるほど。だからわし様達が敗れたのだな。百人が子をもうければねずみ算だ」
五王子の三男、アルジュナに助言したクリシュナはヴィシュヌ神の化身であり」
「あの数々の策略も神の思し召しとやらだったとはな」
 その受け答えに魔術師はため息をついた。
「英霊は、その逸話と信仰で形作られる。──こんなすぐ近くで同じ伝承の英霊に肯定されれば彼の力となるだろう」
 指摘にドゥリーヨダナは鼻で笑った。
「わし様はただ自分の出典とやらを知りたかっただけだ!……それに、もしこれがあやつの力になるとしても砂粒のようなものだろうよ」
 ドゥリーヨダナが見る壁の向こうでは、霊核を損傷した宿敵が医療班総出の治療を受けている。
 エルメロイⅡ世は煙草に火をつけた。煙を吐く。


■2024/06/22
アシュヨダ+マスター
「アシュヴァッターマンではないかーっ!」

夢の中に美少女が出てきたんだ」
 マイルームでのマスターの言葉にドゥリーヨダナは慌ててあたりを見回した。
「自殺願望があるなら、もっと楽な死に方を教えてやるぞ。わし様を巻き込むな」
 マスターを熱愛している女性サーヴァントは多い。その彼女たちがマスターが自分以外の女の夢を見たと聞いたらどんな行動を起こすか。
 想像してドゥリーヨダナは震え上がった。腰を浮かす。
「わし様、アシュヴァッターマンと約束があったわ」
「待って!待って!サーヴァントの誰かの夢だよ。ドゥリーヨダナの名前を呼んでた。わし様の身内に美少女いる?」
 マスターの質問に百人の弟妹がいる兄は顎をなでた。
「ドゥフシャラーはちんちくりんで美少女とは言えんし。親戚は男ばっかりだしなー」
「すんごい美少女だったんだよ!!」
 力説するマスターにドゥリーヨダナは目を細めた。
「寿命を縮める発言やめた方がいいぞぉ。──それで、その夢の中でわし様はどこにいたんだ?」
 場所から人物を特定しようとした質問にマスターは首を振った。
「いなかったよ。美少女が額を撫でてくれて『これは私のもの』って言ってくれた
 心当たりのある光景にドゥリーヨダナは叫んだ。


■2024/06/21
ビマヨダ
「人形だと思った、と」

 小さなドゥリーヨダナを拾った。
 それは手のひらよりも小さく柔らかい布の体をしている。
 動こうとしないそれを床からそっと摘んで、食堂のディスプレイに使っていた鳥籠に入れた。
 ちいさなそれは普段と違って静かで。部屋に運んで、鳥籠をベッドの上に置いてもぴくりともしない。
 横になって眺め回して、たまに鳥籠をつつく。かすかに揺れる鳥かごと一緒に小さなドゥリーヨダナも揺れて笑みがこぼれた。
 ──部屋の外が騒がしい。何かあったようだがたいしたことではないだろう。
 鳥籠の中の小さなドゥリーヨダナは動こうとしない。つまらなくなって俺は鳥籠を抱き込んで目を閉じた。
 しばらくして、腕の中からカチャリカチャリとゲージを開けようとする音がする。
 胸元で鳥かごが軋んだ。
「──明日には返してやる」
 呟くと音は止んだ。
 朝になって鳥籠を見ると小さなドゥリーヨダナは寝る前と同じ体勢で転がっていた。
 俺は何も言わない。
 ただ鳥籠から小さなドゥリーヨダナを取り出して手の上に乗せる。
 動かないそれは、簡単に握りつぶせるだろう。


■2024/06/20
ユディシャク
「素晴らしい働き、でしたね」

「あなたはどこを怪我しているのですか?」
 弟達が棍棒の訓練を受けているのを眺めていると、ビーシュマ大叔父様が連れてきた青年が私に問いかけた。
 その言葉にまだ少年だった私は恥じ入って目を伏せる。
「いえ、私はその。ドローナ師にダルマ神の息子は武器を持ってはならないと」
 私の言葉に青年の顔によぎった様々な感情はすぐに凪いで、シャクニと紹介された彼は誇り高く微笑んだ。
「それはかわいそうに。私はまだ弓を引けます」
 その言葉通り足を怪我して走れないシャクニ殿は誰よりも戦車からの弓術に優れていた。
 この国をふたつに割った戦いで最後まで残る程に。
「ユディシュティラ様!敗走したドゥリーヨダナを守っているのはシャクニです!」
 報告に私よりも早く誰かが声をあげた。
「ならば戦車を狙え!あやつは、」
「それはアダルマです!!」
 叫んだ私に視線が集まる。私は息を吐いて言葉を続けた。
「勝敗はもう決しています。これ以上謗りを受ける必要はないでしょう」
 顔を見合わせて王達は頷いた。その意志を受けて伝令が駆け去っていく。
 数時間後。私に届けられたのは、最期までクシャトリヤとして戦い続けた彼の首だった。


■2024/06/20
カルヨダ
「あんたも男ってことね」

「QPならいくらでも積もう」
「交渉の仕方が恋人そっくりよ。カルナ。ゴーレムもホムンクルスも私より得意な者がいるでしょう?」
 魔女メディアのため息にカルナは手元の端末を開いた。
「不得手ならばこれほどの物は作れまい」
「どこでそれを!……ガネーシャ神ねっ!」
 メディアが顔を歪める。端末に表示されているのはいわゆる美少女フィギュアだ。
 ちょっとえっちなポーズをした金髪の人形に無表情で視線を落とし、カルナは口を開いた。
「ドゥリーヨダナを作って欲しい」
「管轄外よっ!ガチムチなんて美しくないわ!!」
 大きく腕でバツを作るメディアにカルナは首を振った。
「作って欲しいのは今のあの男ではない。アシュヴァッターマンの記憶にある、美少女のようだったという時代のドゥリーヨダナだ」
……詳しく話しなさい」
 美少女と聞いてメディアは居住まいを正した。
「サーヴァントの記憶を覗くのも、それをこの精緻さで形作れるのも、カルデア広しといえどもひとりしかおるまい」
アシュヴァッターマンの同意は」
「取れている」
 用意周到なカルナにメディアは指を組んで笑みを浮かべた。


■2024/06/20
現パロカウラヴァ
「自業自得だね」

「この難問、どのように解くべきか」
「ああ、解決方法が見当たらねぇ」
 カウラヴァふたりが冷蔵庫の前で唸っていた。
「どうしたの?ついでにチョコモナカジャンボ取って」
 藤丸に冷凍庫からアイスを取り出したアシュヴァッターマンが説明する。
「俺とカルナが旦那にとアイスを買って来たんだが、ふたつとも2個入りなんだ」
 カウラヴァは3人。ピノと違いパピコと雪見だいふくは分けて食べられない。
 パリパリとチョコモナカを噛りながら藤丸は提案した。
「だったら簡単だよ。強欲なドゥリーヨダナなら
 後日、ドゥリーヨダナが腹痛で寝込んだため藤丸はカルナとアシュヴァッターマンに事情聴取を行った。
「浅慮だった。あれほどまでに底が浅いとは」
「本人が喜んでいたから加減出来なかった」
 供述をまとめると、ふたりは藤丸の提案通りに2個入りのアイスを3人で分け合っていた。ドゥリーヨダナがそれぞれのアイスを1個ずつ食べるという方法で。
 普段は食べられない2個入りアイスを口にできて大喜びしたドゥリーヨダナは、他の2個入りアイスを片っ端から食べたがり、主に激甘なカルナとアシュヴァッターマンはそれを叶えてしまった。
 ドゥリーヨダナの腹痛の原因はアイスの食べ過ぎである。


■2024/06/19
ビマヨダ
「その罪を、」

「おまえの罪は、その暴食だ」
 兄のその言葉に俺は足を滑らせた。ヒマラヤの深い山肌に体が転がり落ちていく。その痛みよりも俺はただ悲しかった。
 ──ダルマ神の子である兄すらもこの罪を裁いてくれないのか。
 俺の本当の罪は暴食なんかではない。そう叫ぶ余裕すらなく俺は地面に叩きつけられた。
 手足は潰れ、受け身を取れなかった顔は削れている。だが、生まれ持った剛力無双はまだ動けると、このままで死ねるものかと咆哮していた。
 目もろくに見えないまま、這いずり、血をすすり、肉を喰らう。そうやって獣に相応しく過ごしていると。不意に殴りつけられた。
見るに耐えん」
 どこかで聞いた声が耳を打つ。
「おまえは卑怯な男だが、獣では無かったはずだ」
 断言され動きが止まった。面と向かって俺を卑怯だと罵ったのは、今となっては遥か昔のあの決闘の後、
ドゥリーヨダナ?」
 俺の声に死者は答えず、棍棒のみが打ち込まれた。

 マスターが駆けつけた時、近隣の家畜を荒らしていた巨大な獣はドゥリーヨダナの足元で跡形もなく燃えていた。


■2024/06/18
生前ビマヨダ
「それは毒よりも、」

 宮殿の料理長の首をはねた。そうせざるを得なかった。
 ドゥリーヨダナが死んでまだ一ヶ月。俺の皿にだけ混ぜられた大量の塩は毒では無かったものの叛意があるとみなされたのだ。仕事一筋の老齢の料理長は言い訳ひとつせず首を差し出した。
 だが、問題となったのはその大量の塩の出どころだ。宮殿で使われる食材は毒殺防止のためもあって厳しく管理されている。貴重品の塩は少しでも減っていればすぐに分かるはず。だが、料理長の使った塩は見つからなかった。
 悩む俺に長く勤める下男が証言した。
 昔、厨房にまだ少年だったドゥリーヨダナが来たことがあったらしい。ヤツは制止する侍従を振り切って、あの料理長を見つけ出して言ったそうだ。
「おまえがわし様の食事を作っておる男か!先日わし様が外遊に行った時に何故ついてこなかった!!食事がまずくてやる気が出なかったではないかー!」
 理不尽な叱責に頭を下げた料理長に、ヤツは小さな袋を渡したという。
「今度からは必ずわし様についてくるように。これは料理人には必要なものなのだろう?おまえの好きに使うがいい」
 ヤツが去った後、料理人の手には薄紅色の塩の塊があったと。
 それはヒマラヤでしか採れない最高級の塩で。機嫌がいい時のあいつの目の色によく似ている。


■2024/06/18
結婚ビマヨダ+アシュくん
「旅を共に」

「ビーマさん、ドゥリーヨダナさん、ご結婚おめでとうございます」
 アシュヴァッターマンの改まった言葉に会場は静まり返った。華やかな席でひとり立ちスピーチを読み上げている弓兵は、金色の瞳を潤ませて上座のふたりを見る。
「私は、いやあまり他人行儀な言い方はしねぇ方がよさそうだな。俺は幼き頃父に連れられてクル国に来てからパーンダヴァにも、もちろんカウラヴァにも良くしてもらっていた。……不幸な、本当に不幸な出来事がいろいろあったが。このカルデアでの再会で、お互いに水に流すことは出来なくても飲み込むくれぇは出来るようになったかと思う」
 アルジュナがかすかに頷く。彼とアシュヴァッターマンはビーマとドゥリーヨダナの交際に最後まで反対していた。
「大人になったなアシュヴァッターマン」
 わざとらしく目元を拭う元凶を隣の新郎が小突いた。
 それにぎらりと金の瞳が光る。
「旦那を粗末に扱うんじゃねぇ!!おやつは1日2回!朝夕のマッサージに、美容ケアに
「そのくらいはこれから全部俺がしてやるよ。最期まで」
 アシュヴァッターマンのドゥリーヨダナ取り扱い説明を遮ってビーマが新婦の肩を抱き寄せた。
 ドゥリーヨダナの頬がうっすらと染まる。
「こいつはな、今度は同じ日に死ぬと約束したのだ」


■2024/06/17
生前カルヨダ
「友よ。許してくれ」

「カルナの皿を全て下げよ!」
 オレが初めて参加したカウラヴァの宴でドゥリーヨダナはそう言い放った。
「ここに来い」
 犬のように呼びつけられてオレは末席から立ち上がる。進むにつれ並べられた皿は輝き料理は色鮮やかになっていった。一番奥でオレを友と呼んだはずのドゥリーヨダナが顎をしゃくる。隣に座れ、と示されてオレが大人しく腰を下ろしたのは紫の瞳に浮かんだ色を読み取ったからだ。
 楽士達が聞いたこともない曲を奏でる。オレに声がかけられる事無く宴が始まった。なみなみと銀色の杯に注がれた酒をドゥリーヨダナが無言で口をつける。そしてオレへとその杯を突きつけた。
「飲め」
 口を付けた食べ物を下賜するのはクシャトリヤ同士では行わない。オレを王として扱うならば決してしないその行為をドゥリーヨダナはオレに強いていた。
 約束を違えるつもりか!と詰る代わりにオレは杯を煽った。味わったことのない芳醇な味にこんな時だというのに顔が綻んでしまう。
 そんな俺を見てドゥリーヨダナも少し表情を緩めた。囁かれる。
「すまない。しばらくはわし様が渡すものだけを食べてくれ。奴らにおまえの暗殺を諦めさせるまでは」


■2024/06/16
カルヨダ
「ズルい!俺達も欲しいっ!」
※父の日

「カルナさん!落ち着いて聖杯から手を離してください!」
 令呪をかざしたマスターの命令に保管庫に忍び込んだカルナは口を開いた。
「使った後は必ず返す。約束しよう」
「聖杯を消しゴムの貸し借りみたいに言わないでください!それに使うのはドゥリーヨダナですよね!?」
 今日は父の日。ガネーシャ神から密告があったのだ。ドゥリーヨダナを父と慕うカルナが不穏な動きをしていると。
「見逃して欲しい。マスター。オレはあの男に国をプレゼントしてやりたいのだ」
「なるほどそれが目的でしたか」
 マスターの後ろから現れたシオンが指を立てる。
「なら交渉の余地はあります。民や資源が欲しいわけでもなく、永続的な支配も望まない。そうですね?」
「そうだ。あの男が飽きるまで国があればいい」
「なら簡単です。手つかずの領土ならいくらでもあるでしょう?旗でも立てて好きなだけ領土宣言すればいいのでは?」
 白紙化した地面を指さしたシオンにカルナは満足気に頷いた。
 後に自らの広大な領土を自慢したドゥリーヨダナによって、その方法はサーヴァント達に知れ渡り。当然のごとく熾烈な領土争奪戦が勃発した。
 凶兆の子の面目躍如である。


■2024/06/16
ビマヨダ
追加だ」

「バスターカルデアにアーツ周回サーヴァントなんていらないでしょう?知り合いに来て欲しいのは分かるけど、来ても魔力の節約をしているから会えないよ」
「それでも、だ」
 断られてもしつこくマスターに食い下がっていたカウラヴァ二人組が聖晶石と素材を集め始めたのをビーマは黙って眺めていた。
 彼らが集めているのはバーサーカーピースにモニュメント、愚者の鎖などなど。霊基情報にあるあのろくでなしの再臨素材だ。
 ビーマも彼らもバスター宝具だからこのカルデアでは重宝されている。弟のアルジュナオルタなどは周回の要だ。今更あのトンチキが来た所で何の役に立つだろうか。
 ──それでも喚びたいのだと、彼らは言うのだ。
 魔力も足りない、素材も少ないこのカルデアではアーツ、クイックサーヴァントはほとんど霊基保管庫で眠らされている。カルナのサンタ霊基もそうだ。
 知己が保管庫にいるサーヴァントは霊廟に詣でるように何度か保管されている霊基を眺めに行っているが、次第に間遠になるのが常だった。
 だから奴らのやっていることは無駄なのだ。
 あいつが率いるカウラヴァはいつもビーマ達兄弟には分からない事に熱中する。それに生前は壁を感じていた。
 でも、今。ビーマは聖晶石を集め、マスターに渡す。


■2024/06/15
ビマヨダ
「マスターだけが見ていた」

「ビーマを育てなおせだとぉ!?」
 霊基異常で赤ん坊に戻った宿敵を押し付けられたドゥリーヨダナは最初ごねていたが。マスターが気がついた頃には息子のように彼をかわいがっていた。
「ビーマ、すごいな!!さっき立ったかと思えばもう歩いておるではないか!」
「たくさん食べろよ。まあ、あまり怪力ゴリラになるのもどうかと思うが」
「わし様の腰まで身長が伸びたではないか!今夜はお祝いをしてやろう」
 すくすく育つビーマを褒めていたドゥリーヨダナはその言葉通りにその夜はビーマの好きな物を好きなだけ食べさせていた。
 お腹を膨らませて寝入ってしまったビーマを居室に連れ帰るドゥリーヨダナをマスターはそっと追う。何か企んでいるのかと思ったのだ。
 マスター権限でドアを開ければ、ベッドに寝かしつけたビーマの横に酔っ払ったドゥリーヨダナが座り込んでいた。
 ドゥリーヨダナの大きな手が小さなビーマの頭を覆う。
 密やかな声が落ちた。
おまえがわし様の息子だったら。同じ年ではなく、あんな立場でなければ。わし様は純粋におまえを褒め称え、わし様の全てを譲ってやったものを」
 その言葉に小さな褐色の手が握りしめられた。


■2024/06/15
カルヨダ
「これはトンチキじゃなくて」

「ドゥリーヨダナは納税しているが、オレにもそれは支払われている」
「この太陽神の息子。またトンチキな事を言い出したよ。ドゥリーヨダナの影響かな?」
 ドゥリーヨダナの寺院が本人名義で納税を続けている律儀さに反して、このカルデアのドゥリーヨダナはトンチキ粒子が出ているのでは?と言われるほどにトンチキだ。
 その影響は特にいつも彼の側にいるカウラヴァメンバーに顕著だった。カルナはその筆頭である。
「ドゥリーヨダナが来るまでは口以外には欠点がない頼れるランサーだったのに」
「今のオレは頼りないのか?」
 少し不満を滲ませたカルナにマスターは軽く手を振った。
「まさか。あらゆる敵を溶かす最強つよつよカルナさんが頼りないなんてことはないよ。戦闘時、では」
 条件を区切ったマスターはトンチキ粒子に侵食されている施しの英雄に質問を投げる。
「ドゥリーヨダナの体重と身長分かる?」
「190cm90kgだ」
「で、ドゥリーヨダナを一言で言うと?」
先程の話に戻るが、ドゥリーヨダナはオレに納税している」
 続く言葉をマスターは予測出来た。出来てしまった。
「かわいい税、だ」


■2024/06/14
わし様+オルジュナ
「そうだ。おまえの兄弟、だ」

「紹介しよう!わし様の新しい息子のアルジュナオルタだ。こちらはおまえの祖父となるアシュヴァッターマン。ふたりとも仲良くするように」
 新しく召喚されたサーヴァントを連れてきたドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンはため息をついた。
「旦那、どこまで『子供』を増やすつもりだ?」
「知らん、マスターに聞け」
 気心がしれたふたりの会話にアルジュナが口を挟んだ。
「私を召喚したドゥリーヨダナが私の『父』ということは、あなたがドゥリーヨダナを召喚したのですか?」
「そうだ。あんたの指導を俺も手伝うことになる」
 このカルデアでは一種の師弟制度を導入している。召喚されたサーヴァントはその時マイルームにいたサーヴァントの『子供』となり、カルデアでの生活を教わるのだ。
 マイルームにほぼ軟禁されているドゥリーヨダナには『子供』が多かった。アルジュナオルタもそのひとりだ。
「わし様ひとりではとてもじゃないが手が回らん。カルナの手も借りる事になるが、いいな?」
「否、とは言えないでしょう。分かりました」
 頷いたアルジュナオルタにドゥリーヨダナは息を吐いた。
「それでも分からん事があればビーマにでも聞け」
「兄様がいるのですか? ……まさか、もしかして?」


■2024/06/14
わし様+ドラコー
「再臨して戻ってきた」
※紙月、ACコラボのネタバレを含みます

「「趣味ではないっ!!」」
 マイルームに男女の声が響き渡った。
 わがままバーサーカーのドゥリーヨダナとわがままビーストのドラコーである。揃って首を振る二人をマスターは指さした。
「ドラコーは欲望が好きで、ドゥリーヨダナは年下の女の子が好き。そこに何の違いがあるの?」
「「大違いだっ!!」」
 声をハモらせた二人はお互いを指差す。
「言ったはずだなマスター。余は汚濁は好まぬ。怠惰も好まぬ。無駄も好まぬ。そして情熱も好まぬ。この男はその全てを兼ねておる。余の皿に乗せる価値もない」
「なんだとー!!わし様をオードブルのように言うな!!そもそもマスター!おぬし、わし様を変質者のように言うな!!わし様はこう成熟した女が好みだ!そこのつるぺたを召し上げる趣味はない!」
 ドゥリーヨダナの手がくねくねと曲線を描くのに、ドラコーの眉が跳ね上がった。
「余を端女のように召し上げるというのか!貴様の趣味など知ったことではないがしばし待て!!」
 マイルームから駆け去っていったドラコーを見送って、マスターが首を傾げる。
「言われてみれば、なんでドゥリーヨダナが年下の女の子に弱いと思ったんだろう?」


■2024/06/13
アシュヨダ
「俺の夜明け」

「旦那、犬嫌いだっただろう?」
 新入りのサーヴァントが連れてきた白い犬を撫で回していたドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンの言葉に顔を上げた。
「うむ。獣臭くて吠え声もうるさい。生前だったら飼い主に文句のひとつでも言っていたところだ」
 ドゥリーヨダナは軽く言うが、彼の誕生時に獣の吠え声が響いたというだけで凶兆とされた経緯を知っているアシュヴァッターマンは、犬を飼い主に引き取ってもらおうと視線を巡らせた。
「セタンタならスカサハに追いかけ回されていたぞ。この感じだと捕まったな」
 ドゥリーヨダナはそう飼い主の現状を告げて立ち上がった。
 犬が尻尾を振る。
「かわいいものだ。──こいつらはわし様に何も出来ない。あの夜の森ですらわし様は無事だっただろう?」
 瀕死のドゥリーヨダナが過ごした夜の森では獣の吠え声がいくつも響いていた。
「生まれた時と同じく獣の吠える真夜中に死ぬのだと思っていたが、──おまえは帰ってきた」
 ドゥリーヨダナの瞳がアシュヴァッターマンの黄金の瞳を覗き込み、意外と繊細な指が赤い髪をすくった。
 焦がれるように囁かれる。


■2024/06/12
生前カルヨダ+ビマさん
「これで母子が共に生きられるな」

 まだ俺達が共に在れた青年の頃。
 理由は忘れたが俺とドゥリーヨダナ、カルナの3人で街を歩いた事がある。物珍しそうに辺りを見回すドゥリーヨダナと言葉少なに説明するカルナに、何故かつまらなさを感じていた俺の前に女が駆け込んできた。
「ドゥリーヨダナさま!」
 俺に叫んだ女は赤子を抱いていた。意味が分からず硬直した俺の横からニヤニヤとドゥリーヨダナが顔を出す。
「わし様がドゥリーヨダナだが。──さては暗くて分からなかったのか?ひどい女もいたものだなぁ、カルナ」
 暗い?今は日中で街は喧騒に溢れている。こちらを見る好奇の目を浴びてカルナが奴に何事かを囁いて女を見た。
「あ、、はい、そうです、その、それで」
 青ざめたり顔を赤らめたりと忙しい女が言い淀むのに、ドゥリーヨダナは豪快に笑った。
「分かっておる。みなまで言うな。──だが、わし様も外聞というものがある。カルナ!砂金を1袋分渡してやれ。これでおまえとその赤子とわし様は無関係だ。よいな?」
 無関係も何も端から宮殿育ちのドゥリーヨダナと市井の女に関係があるわけがない。だというのに頭を下げた女に砂金を渡したカルナにドゥリーヨダナは笑いかけた。
 奴の言葉に珍しくカルナが微笑む。
 ああ、なるほど。カルナの母親もこれくらい強かだったらよかったのに。


■2024/06/11
カルヨダ
「なんで膝枕してんだよ」

 シミュレーターで再現された夏の海には日差しが燦々と照りつけていた。
 大きなパラソルを貫通してくる熱気にドゥリーヨダナはレジャーシートの上でぐったりと転がった。
「カルナ、暑い」
「──暑いのか」
 アシュヴァッターマンは飲み物を取りに行っており、ここには太陽神の息子しかいない。そのカルナは少し考えて転がっているドゥリーヨダナの上に覆いかぶさった。
 カルナが突き立てた両腕の間でドゥリーヨダナが器用に仰向けに体勢を入れ替える。視線が交わった。
「まだ暑いか?」
「どうしてこれで涼しくなると思った?」
「知っての通りオレはスーリヤの息子だ。故に、オレはBランク以下の太陽神系の英霊に対して高い防御力を持つ」
「つまり?」
「シミュレーターの疑似太陽の盾になれるという事だ」
「最高ではないかっ!!」
 顔を輝かせたドゥリーヨダナはしかしすぐに考え込んだ。
「しかしおまえの体型ではわし様をすべてカバー出来んだろう?守るべきものは頭だな。そしておまえも楽な体勢であるべきだ。その方が長持ちする」
 ごそごそとふたりは体勢を整えた。そこにアシュヴァッターマンが戻って来て、ため息をつく。


■2024/06/11
カルヨダ
「浮気者」
※アーケードコラボのネタバレが含まれます

「この、浮気者ーっ!!」
 螺旋証明世界第五特異点にドゥリーヨダナの叫びが響き渡った。
 言われたのはマスターではなくこの世界に召喚された槍兵。カルナである。マスターに召喚されたドゥリーヨダナではなく、同じく世界に召喚されたアルジュナの隣に立つカルナは困ったように眉をわずかにさげた。
「浮気ではない」
「浮気者はみんなそう言うのだ!」
「これはサーヴァントとして召喚された者の務めだ」
「わし様と世界とどっちが大切なのだ!?わし様だろう!!」
 言い合いする二人からアルジュナがそっと距離を置いた。痴話喧嘩に巻き込まれたくない。
「おぬし、なかなかおもしろいサーヴァントを飼っているな」
 ドラコーまでもがマスターに同情的な視線を投げるなか、ドゥリーヨダナがそっぽを向いた。
「わし様を優先しないカルナなんて知らん!!わし様のカルナはあーんしてくれて、おねむの時はぽんぽんしてくれるのだ!」
「カルデアにいるのかよ!」
 セタンタのつっこみに、カルナがドゥリーヨダナに視線を投げた。


■2024/06/09
カルヨダ、ビマヨダ
「おまえの初めてにはなれないのだから」

「おまえは柔らかく飛ぶのだな、カルナ」
「比べるのも愚かだ」
 そう応えてカルナはドゥリーヨダナを強く抱きしめた。ふたりの足元にはストームボーダーの甲板が遠くに見える。
 サーヴァントと成ったカルナが空を飛べると知ったドゥリーヨダナが強請ったのだ。
 跳躍とは異なる滞空にドゥリーヨダナは子供のように笑顔で足をばたつかせる。
「子供の頃はただ恐ろしいだけだったが今は落ちてもなんとかなる。サーヴァントというものは気楽でいい」
「オレがおまえを落とすことなどない」
「知っている。例えだ、例え」
 そう言いつつもドゥリーヨダナの腕はしっかりとカルナにまわされている。幼い頃の飛行はよっぽど怖かったのだろう。
 ──ドゥリーヨダナのまわりに彼を連れて空を飛ぶような存在はひとりしかいない。
 カルナは遠ざかっているストームボーダーを見下ろした。
 アーチャー適正のあるカルナはバーサーカであるドゥリーヨダナより視力が優れている。甲板の影でこちらを見上げている紫の影をカルナはずっと捉えていた。
「ドゥリーヨダナ。空を飛びたくなったらいつでも言うがいい。オレはおまえが飽きるまでおまえの翼でいよう」
 カルナは続く言葉を飲み込んだ。


■2024/06/08
生前アシュヨダ
「彼は最期に手に入れた(彼は間に合った)」

 そんなものはいらない、と言えば良かった。
 夜の森は暗く。潰された顔では影しか見えない。獣の声は近づいてきている。
 ひとり座り込んでいた俺はなんとか大木を背にしたものの、負傷した足では立ち上がる事すら出来なかった。
 豪華な椅子も煌びやかな布もなく。地べたに広がった血の匂いはむせるようで、意識は段々と薄くなっていく。そんな中で繰り返し思う。
 いらない、と言えば良かった。
 五王子の首なんかよりも欲しいものがあるのだと、言えばそれは手に入ったのに。
 体に震えが走る。寒い。血が流れ過ぎている。もう、自分は助からない。
 ──この人生の最期に欲しいもの。
 力の入らない指先を動かす。掴むべきだったモノはとっくに走り去っていた。
 息を吐いて息を吸う。自分の呼吸音が脳髄に響く。誰の声も聞こえない。──いや、聞きたいあの声が聞こえない。明らかな思慕を滲ませて俺を呼ぶあの声が。触れる度にいつも高い体温が。熱を滲ませているあの眼差しが。
 ぼんやりとした視界に朝焼けが広がっていく。あいつは復讐にと駆け出していったが多勢に無勢。帰ってくることはないだろう。俺は、ひとりで、このまま。
「旦那っ!ドゥリーヨダナっ!!」


■2024/06/07
アシュヨダ
「あの人だから」

「アシュヴァッターマンの目って、額の宝珠よりきれいだね」
 マスターの少女の言葉にアシュヴァッターマンは一瞬目を見開いたかと思うと、顔を真っ赤に染めた。
「えっ!?なんか変なことを言った??」
 武闘派サーヴァントの意外な反応に慌てる少女に、アシュヴァッターマンは片手で自分の顔を隠す。
「あんたは悪くねぇよ。昔、旦那に同じ事を言われたんだ」
「──えっと、のろけ、だよね?」
 アシュヴァッターマンとドゥリーヨダナは付き合っている。恋愛的な意味で。
「思い出の言葉だったりするの?もしかして」
 恋バナの予感にテンションが上がる少女にアシュヴァッターマンは視線を逸らせた。
「俺がまだガキだった頃だ」
「そして恋に落ちたと?」
 沈黙の返答が答えだった。思わず赤面が移った少女がわたわたと両手を動かす。
「ごめん!!そんなに大切な思い出だったら、私、言わない方がよかったよね!」
 その言葉にアシュヴァッターマンは首を振った。
「いや、助かった。俺が惚れっぽいんじゃねぇって分かったからな」
 同じ事を言われても恋に落ちなかった。それは、


■2024/06/05
ビマヨダ
「彼は凶兆の子」

「あっ、」
 ドゥリーヨダナがビーマに勢い良くぶつかったせいで、ビーマがテーブルから回収していた皿が床に砕け散った。
 食堂に居合わせたマスター達はまた喧嘩が始まると身構えたが、ビーマは無言で床の破片を拾い集める。そして顔をあげた。
「おい、馬鹿王子」
 何故かきょとん、と目を丸くしているドゥリーヨダナにビーマは静かに言い聞かせる。
「こういう皿は割れる。ここは宮廷じゃねぇんだ」
「皿とは割れるものなのか?」
 不思議そうに首を傾げるドゥリーヨダナを置いて、ゴミ箱に向かうビーマにマスターは駆け寄った。
「大丈夫?怒ってない?」
「いくらあの馬鹿相手でも、知らなかった奴に怒ったりしねぇよ。──あいつは銀食器しか使ったことがないんだ」
「銀?金じゃなくて??」
 派手好きなドゥリーヨダナに似合わない金属に疑問を抱いたマスターに、ビーマは薄く微笑んで答えなかった。

 ──マスターは後に孔明に聞いた。
 無味無臭の猛毒である砒素に銀が反応することを。よって毒殺を恐れる者は銀食器のみで食事をするしかなかったのだと。つまり銀食器しか使ったことがないという事は。


■2024/06/05
カルヨダ+次男
様付けだけで許してやる」

「俺の事は叔父上様と呼べ。おまえは兄貴の息子になるのだからな」
 胸を張るドゥフシャーサナに煌びやかな布を巻き付けられていたカルナは目を瞬かせた。
 ドゥリーヨダナに見出され養子になったカルナをお披露目する準備、衣装の打ち合わせの場である。
 その場に居合わせた数人の百王子がにやにやと笑うのに、ひとりの男がため息をついた。
「なるほど。そうならば、おまえは私のことをシャクニ叔父上様と呼ぶのだな?」
「えーっ!」
 突然現れたスータの肩を持つ叔父に百王子達が声をあげる。そこに遅れてドゥリーヨダナが部屋に入って来た。
「地味ではないかーっ!!わし様のカルナのお披露目だ!もっと派手にならんのか!派手に!!例えばその胸の宝石よりも大きなルビーを飾るとか」
「これよりも大きなものなど」
無いと言うのか?」
 大国の王子の平坦な声に商人が体を震わせる。カルナが首を振った。
「ドゥリーヨダナ。これは父からの賜り物だ」
……ああ、スーリヤを超えるなと言うことか」
 大人しく引き下がった兄にドゥフシャーサナは目を丸くした。改めて兄が連れてきた男を見る。


■2024/06/04
アシュヨダ
「特に何もなかった」

 心地よいぬくもりと規則正しい心音で目が覚めたアシュヴァッターマンはこの世の地獄を味わっていた。
 修羅場である。
「もうお婿に行けない」
 しくしくとベッドの上で泣き真似をしている2児の父に、生涯独身だったバラモンは床でジャパニーズ土下座をしていた。
 ベッドの上のドゥリーヨダナは下着すら身に着けておらず、ベッドの下のアシュヴァッターマンも同様である。これで二人の体に情交の跡があったらアシュヴァッターマンは秒で『座』に還っていたがそうではない。
 事の発端はやはりドゥリーヨダナだった。とあるキャスターからイカサマ博打で巻き上げた『隠された欲望を実行する薬』をアシュヴァッターマンに騙して飲ませたのだ。
 あーんなことやこーんなことをされるのでは?とアシュヴァッターマンの恋心を知るろくでなしは楽しみにしていたのだが。
 薬が効き物凄い形相になったアシュヴァッターマンに服を剥ぎ取られたところまでは計算通りだったのに、体中を隅々まで撫で回されて、抱きつかれて、胸の上で泣かれるのは予想外だった。
 薬が切れて飛び起きたアシュヴァッターマンにろくでなしは思わせぶりに泣き真似を続ける。青ざめたアシュヴァッターマンが何も覚えていないと分かったから。


■2024/06/03
ビマヨダ
「何を言ったの?」

「人が嫌がることしか言えねぇなんて、いつものこいつと何が違わねぇんだ?帰れ」
 取り付くしまもない拒絶にドゥリーヨダナはビーマを指さしてマスターを無言で揺さぶる。
 霊基異常のため口を閉ざしているドゥリーヨダナの無言の訴えに遠い目をしたマスターは口を開いた。
「ビーマの部屋だと心配して探しているカルナとアシュヴァッターマンに見つからないんだって。あとひどい事言わないであげてよ。たまには褒めてくれたりするし」
「ひでぇことを言ってんのは、このトンチキの方だ」
 ビーマの指摘にドゥリーヨダナは不思議そうに首を傾げた。カウラヴァふたりはこの霊基異常で傷つけたくないのに、ビーマの所には来るのだ。このろくでなしは。
 何を思いついたのか、最悪でカスな性格の男は顔を輝かせてビーマに身体を寄せる。耳元に近づいた。
「■■■」
 囁やきが終わると同時にビーマはドゥリーヨダナの首筋を引っ掴んで部屋の外に放りだした。続いて問答無用でマスターも追い出す。
 ドアが閉まった途端、凄まじい音が響いた。
 マスターが目を丸くしているドゥリーヨダナを見る。
「しばらく出撃報酬から修繕費を天引きするから」
「人類最後の暴君!!」
 思わず引っ叩いたマスターの耳に破壊音は続いていた。


■2024/06/03
アシュヨダ+カルナ
「進め!」

 友よ、おまえの足元には影がある。それを踏んで進むのだ。

 故郷の森は時代が進むにつれ様相を変えていく。葉の色は波打つように流れ、生い茂ったかと思うと縮こまり、焼けたと思えば芽生える。
 その中をひとりの男が歩いていく。赤い髪を垂らし病に侵されふらつきながら、ひとりで永遠に近い時間を。
 オレ/スーリヤはそれをずっと見下ろしていた。陽の光は男を、友を照らし続けているが病に盲た目では分からないのだろう。今も何かに躓いて友は地面に転がった。
 オレ/スーリヤの眼は地上を見つめ続ける。今は神霊たるオレはこの後作り出されるサーヴァントシステムという存在を識っている。あの男がサーヴァントとして現界することを。そして彷徨える友と再会出来ることを。
 だが、オレはそれを赤毛の友に伝えるすべが無い。オレ/スーリヤは天空から離れる事は出来ず、『カルナ』として召喚されればオレはスーリヤとしての権能を失い、神霊としての知識を手放してしまう。
 ふらつきながら友が立ち上がる。オレ/スーリヤは陽の光を降り注ぐ。その身体をわずかに温め、足元に影を作る。友の傷ついた足がそれを踏む。
 進め、アシュヴァッターマン。その先にお前が誰よりも会いたい男が待っている。


■2024/06/02
ビマヨダ
「今、誰かわし様に触れたか?」

 俺は生涯盗みをした事は無かった。
 やむなく強奪はした事はあったが、それも正々堂々力で押し勝っての事だし。こんな盗人みたいに物を掠め取るなんて戦士のやることではない。それがマスター相手ならなおのことだ。
 今戻せば間に合うと心の中で繰り返しながら俺は霊基保管庫から出て、何食わぬ顔でマスターにマナプリの山を渡し、自室に戻り。懐から1枚のカードを取り出した。
 必要以上に召喚されたサーヴァントはカードの形で霊基保管庫に格納されている。手の中のカードにはあのろくでなしでトンチキでわがまま野郎な従兄弟の姿が写されていた。
 今頃、カウラヴァの連中と食堂で騒いでいるだろうヤツの長髪と異なるふわふわの髪。鎧すら身に着けていない初な霊基。
 カードになっている時は意識はないと聞く。
 どうしてこんなことをしてしまうのか分からないまま、俺の指先がドゥリーヨダナの輪郭をなぞる。
 直接触れた事など、何も知らなかった子供の頃が最後だ。カードの硬い感触は俺の胸を噛んで。俺は堪えきれずドゥリーヨダナを口元に引き寄せた。

 ──食堂で笑っていたドゥリーヨダナがふと不思議そうに自分の頬に手を当てた。


■2024/06/02
不死者アシュくん✕転生ヨダナさん
「誰にも殺させない」

 古い吸血鬼の映画をふたりで見た。
 膝の上のまだ幼さが残る少年は俺を振り返る。
「アシュヴァッターマン、口開けて!牙、ないね」
「スヨーダナ、俺は吸血鬼じゃねぇよ」
 そう言うと少年は不思議そうに首を傾げる。
「でも年をとらないんでしょう?家政婦たちが言ってたよ。僕が生まれた時から変わらないって」
 この命が誕生した気配に駆けつけてみればそこは凄惨な事故現場だった。旦那はなんとか無事に助け出したが両親の視力は未だ戻らない。
 不幸につけ込むかのようにこの家に入り込んだ俺を気味悪がる連中がいるのは知っていた。
「俺が吸血鬼じゃなくてよかったぜ。あんな風に子どものまま永遠を生きたくはないだろ?」
 脅かすと心身ともに幼い少年は体を震えさせた。
「アシュヴァッターマン。僕を日光から守って死んだりしないよね?」
「あんな風に死なせねぇよ。安心しな」
 変わらない紫色の髪を撫でてやると少年は安心したように笑う。俺は少年から手つかずのお菓子を取り上げた。握りつぶす。
「わりぃ、手が滑った」
 菓子に練り込まれていた破片を握り込む。財に目が眩む奴がいるのは昔も今も変わらない。今度こそは、


■2024/06/01
ビマヨダ+ジナコ
「なんでだろうねー」

「ぐぬぬ、このパラメータは上げない方がよかったのか。だが、そうすると今度はこっちが
「うわぁ、目が血走ってる」
 ガネーシャ神の部屋でゲーム機を抱え込んでいるドゥリーヨダナにマスターは呆れた声を上げた。
 コーヒーを3人分持ってきたガネーシャ神がぴこぴこと耳を動かす。
「ちょっと貸したらどうもハマっちゃったみたいで。女王様が森で拾った男の子を好みに育てるっていう乙女ゲーなんだけど」
「おとめげー」
 ジャンルを繰り返してマスターは乙女とは程遠いムキムキの成人男性を見た。そのドゥリーヨダナが突然肩を震わせる。
「ふははは、やっと、やっと、やってやったぞ!!」
「ええ!?どのエンド??結婚エンドも、王様エンドも、勇者エンドも納得しなかったのに!」
 高笑いするドゥリーヨダナのゲーム画面を覗き込んだガネーシャ神の顔が強張った。
反乱軍エンド。断頭台行きっスよ、これ」
 指摘にドゥリーヨダナは爛々と目だけを輝かせて満足そうに頷いた。
「それでいい、これでいいのだ」
なんでこの人こんなに拗らせてるの?」


■2024/06/01
生前?カルヨダ
「父よ、許し給え」

 獣の悲鳴がまた響く。夜の森にひとり置いていかれた男は踏み潰された目を擦った。
「誰か残っていたのか?」
 応えはなく、ぼんやりとした視界で人影だけが動く。槍を使っているならクシャトリヤだ。
 大きな戦は終わって男は敗北した。一騎打ちでも卑怯な手段で宿敵に倒された。僅かに残った味方は復讐へと森を飛び出して行き。ろくに身動きとれない男はひとり獣が徘徊する森で死を待っていたのだ。
「カウラヴァの生き残りか?アシュヴァッターマン達が戻ってくれば褒美を出せるが。いくら欲しいのだ?」
 返答はない。傷ついて身動き取れない男を喰らいに来た獣がまた槍に追い払われていた。
 男はまだ無事な両腕を地面についた。なんとか体を起こす。棍棒で潰された足を引きずって動こうとする。
 その眼前に手が伸ばされた。
「動くな、ということか。──お前のその動き、見た覚えがある」
 応えはない。男がいくら傷ついた目を凝らしても見えるのはぼんやりとした影だけだ。
 その影は空を仰いだ。遠くから昇る煙を朝日が照らそうとしている。還らなければならない。父の下へ。
 死者は生者に干渉してはならない。だが影は神々がほんの瞬きする間、死する運命を引き伸ばしただけだ。


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