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riririnf
2024-11-16 13:35:15
2372文字
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僕をあげるから君の恋を百年頂戴
とりのき様の素敵ネタ「僕をあげるから君の恋を百年頂戴」に便乗。
死ネタ、ぬるいですが子ども捏造有のため注意。
フリーナ・ドゥ・フォンテーヌ。彼女の話は大抵突拍子もなく、ヌヴィレットはいつだって振り回される。
この日もそうだった。五百年に渡る舞台を降りて人間生活を謳歌していた彼女は、またも突拍子もないことを言ってきた。
曰く。
「僕をあげるから君の恋を百年頂戴」
恋情を理解出来ないまでも、言葉の意味は理解出来た。
つまりこの提案を呑めば、フリーナ・ドゥ・フォンテーヌは、ヌヴィレットのものとなる。
それは大変に魅力的な報酬だと思われた。
ヌヴィレットは頷いた。理由なんて二の次で、この機を逃してはならないとの直感に従った。
ひとまず一年目は予定を取り決め、定期的にお茶会をすることにした。ヌヴィレットの執務室で、取り留めのない会話を重ねた。
二年目からは街でも会うことにしてみた。夕食を共にして、その日一日の出来事を語らった。
三年目以降は目的もなく街をぶらつき、目についた店に適当に入るなどした。無為な時間を過ごしている筈なのに、何故だか不思議と有意義だった。
四年目からは人目につかない場所でも会うようになっていて、どちらからともなく指を絡めたのは、五年目だったか。
見た目以上に彼女の手が小さく頼りがなくて、思わず強く握り込み、痛いよ、と笑われた。
初めての抱擁は八年目だった。その日の彼女は酷く沈んでいて、聞けば神であった頃の責を問われ、心無い言葉を浴びせられたようだった。
涙を流して震える華奢な身体を、気付けば腕の中に閉じ込めていて、彼女は驚きながらも、その小さな手を背中に回してきた。
ああ、僕って酷い奴だ。キミにこうされていると、自らの罪を忘れてしまいそうになるよ、などと余計な言葉を紡ぐものだから、ついでにその唇も塞いでやった。
十年目には国外旅行の誘いを受けた。その頃にはプネウムシアエネルギーの供給もだいぶ安定してきていたので、稼働実験も兼ねて了承した。
そこで初めて彼女と夜を越し、千年を越える生でも経験が無いほどの、極上の甘露を味わった。
二十年が経つ頃には殆ど彼女のアパルトマンに居座っていて、もっと広いところに引っ越そうと思うんだけど、どう思う?との彼女の言葉に一も二もなく頷いた。
狭いベッドを二人で分け合うのも悪くなかったのだと気付いたのは、キングサイズのベッドを購入した後のことだった。
そうして穏やかに月日が流れ、五十年目に節目だからと籍を入れた。
やっと折り返し地点だね、との言葉には、初めて同意出来なかった。もう、の間違いだろう、とは口に出来なかった。
そこからはあっという間に時が過ぎ、九十九年目に、彼女はこの世を去った。
老衰だった。人間の寿命を考えれば充分過ぎるほどに長生きで、大きな怪我も病気もなく、眠るように息を引き取った。
五百年もの間苦しみ続けた彼女の最期が穏やかなものであったことは、実に喜ばしいことだと、そう思うことにした。
残りの一年は異様に長かった。たった九十九年でヌヴィレットの生活はとことん塗り替えられていて、今までどのように息をしていたのか、思い出すのに苦労した。
そして迎えた百年目。ヌヴィレットは彼女の墓の前にいた。
今日が約束の期限。今日で、終わってしまう。今日が過ぎれば、無くなってしまう。
最後の一年は彼女はそばにさえいなかったのに、それでも無情に時は流れる。
この期に及んで、恋とは何かも理解できていないのに。
「百年と言ったのは、君だろうに」
そんな恨み言さえ、もう届かない。
時間を忘れて立ち尽くしてどれほどか。やっと彼女から渡された手紙を思い出した。
九十九年目に、百年目に読んでくれ、と渡されたもの。今日の今日まで、すっかり存在を忘れていた。
懐から出して、封を切る。お喋りな彼女にしては、随分厚みのない便箋だった。
曰く。
『約束を守ってくれて、ありがとう。キミの百年の恋は確かに受け取った。おかげで僕は幸せだったよ。愛してる』
この百年、彼女に注いだ感情そのもの、その全てを、彼女は「恋」と定義していたのだと、ヌヴィレットはやっと理解した。
ならば確かに約束は果たされていたのだろう。この百年、彼女のことを想わなかった日などない。
彼女と過ごした九十九年と、彼女に焦がれた一年、計百年。ヌヴィレットは確かに、百年の恋を彼女に渡していた。
気付いていたなら、もっと早くに教えてくれとも思うけれど、気分は妙に晴れやかだから、何の文句も出てこない。きっとそれすら彼女の計算通りなのだろう。
「ずるいな、君も」
ようやっと絞り出した恨み言も風にさらわれ溶けていく。さて、これからどうしようか、と思案していると、お父様、と背後から声がした。
「いつまでそうしているつもりだい?そんなことではお母様に笑われてしまうよ」
母親譲りの色違いの青い瞳と言葉遣い。父親譲りの青い二房の角に永き命。
手紙だって僕が言うまですっかり忘れててさ、と小言をくれるのは、彼女がくれた宝物。
「そうだな。
……
その通りだ」
これからの道は、定まった。
「帰ろう、我が家へ」
フリーナ・ドゥ・フォンテーヌ。彼女の話は大抵突拍子もなく、ヌヴィレットはいつだって振り回される。
今日だってそうだ。今日の今日まで特大のサプライズを隠していた。
だが彼女は一つ重大なミスを犯した。自ら提案した条件を違えたのだ。
曰く。
「僕をあげるから君の恋を百年頂戴」
……
貰いすぎだ。
彼女は報酬を払い過ぎた。かけがえのない宝物を残していった。
このままでは天秤の均衡が保たれないものだから、ヌヴィレットも期間を延長しなければならなくなった。
つまりは。
我が生涯の恋を、君に捧ぐ。
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