ちよど
2024-11-16 13:33:34
26010文字
Public わし様など
 

練習1P 5月分まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。
わし様中心SS。節操なくCP混在。

■2024/05/31
ユディシャク
「悪い大人」

「シャクニ殿。罪を贖ってください」
「それは、貴方とのこの関係を告発するという事ですか?ユディシュティラ様」
 逢瀬に忍んで来たと思えば強張った顔でそう言い放った恋人に、寝台に体を横たえたままシャクニは確認した。
 本来シャクニの政敵であるダルマ神の息子は指を組む。
「昨夜、私は見たのです。この前採掘されたばかりの金を積んだ馬車が都の外へと走り去るのを。馭者はガンダーラ訛りでした。貴方と同じ」
 意外な内容にシャクニは体を起こした。どうやら甥がヘマをしたようだ。思わせぶりに指を伸ばしユディシュティラの整えられた髪をすくい取る。
「愛しいユディシュティラ。知っての通り私は故国にほとんど帰っていない。息子も私の顔を忘れている。企みなど出来ようはずがないだろう?」
「子が親の顔を忘れる事などありません!」
 幼くして父親を亡くした青年が感情を震わせるのをシャクニは微笑んで見つめた。
「そうであればいいが。明日にでも息子に問い合わせてみよう。心配してくれたのだろう?」
「心配?ああ、そうです。私は貴方を心配したのです!」
 自分をかき抱いた青年を抱き返してシャクニは豪華な天井を見上げた。
 どうやら大国クルの中枢近くにまだ居座れるようだ。


■2024/05/31
生前カルヨダ
「自分で確かめるがいい」

「クシャトリヤが何故祭事に呼ばれる?」
 腕いっぱいに荷物を抱えたカルナの質問に、弟達に囲まれて豪奢に着飾っていたドゥリーヨダナは顔をしかめた。
「付き合いだ。わし様とて退屈な儀式など行きたくはないが、金を出すのはクル王家だからな。──待て、そこで帰ろうとするな。せめて何を持って来たのか説明しろ!」
 制止されてカルナは荷物を広げた。
「みすぼらしい着替え一式に、なんだこの金属片は?」
「硬貨だ。今夜は下町も祭りだ。屋台や踊り子が来る」
「ほーう」
 カルナの意図を悟ってドゥリーヨダナは楽しそうに顔を綻ばせる。弟達を見回した。
「ヴィカルナ!おまえを『一日ドゥリーヨダナ』に任命しよう。励むがいいぞ」
 突然の指名に飛び上がった末弟に次兄が肩を竦める。
「じゃあ俺は『ドゥリーヨダナ』について歩けばいいんだな。俺が頭を下げる相手は『兄貴』しかいねぇ」
「僕の意志は?」
「「嫌なのか?」」
嫌じゃない、です」
 押し負けた末弟にカルナが頭を下げる。そこに着ていた祭服を脱ぎ捨てたドゥリーヨダナが飛び込んだ。
「庶民は何を食っておるのだ?酒も我らと違うと聞くが本当か?その硬貨とやらはどう使うのだ?」


■2024/05/30
カルヨダ
「おかえり」

「ただいまぁ!なんだ出迎えはないのか。かぁるな!」
 軽快なドゥリーヨダナの声にカルナは弾かれたように顔をあげた。3臨姿のドゥリーヨダナに続いてマスターもカルナの部屋に入ってくる。
「カルナさん。その。あの時見失ったわし様を、」
「そんな細かいことなどどうでもよかろう!」
 マスターの説明を遮って、ドゥリーヨダナが何かを振り払うかのように左右に手を振る。その紫水晶の瞳がカルナを真っ直ぐに見つめた。
「わし様がここにいて、おまえがここにいる。──他に大切な事があるか?我が友よ」
 ずっと目を見開いていたカルナはドゥリーヨダナの視線を受け止めて顔を歪めた。泣いているような笑っているようなその表情にマスターが目を伏せる。
ドゥリーヨダナ」
 掠れきったカルナの声にマスターは耐えきれず目を閉じた。
 カルナの声を聞くのは半年ぶりだった。医療班も魔術師達も心因性だと判断したそれは、とある特異点から帰還した時からどうやっても治ることはなかったのだ。
 カルナとマスターを庇ってドゥリーヨダナが霊核ごと消滅してから。カルナの声は共に消えていた。
 偽りを見抜くカルナの目が新たに召喚されたドゥリーヨダナとマスターを見る。息を吹き返した声が響く。


■2024/05/29
生前ビマヨダ
「もう知ることはできない」

 国政は火の車だった。
 財政難もそうだが、国を半分に分けた戦いでクシャトリヤの数が激減している。
 現王の兄貴と、次の王の祖父であるアルジュナはクリシュナを交えていつも朝まで話し合っていた。
 やれる事が思いつかず寝室にこもっていた俺だが、ある日3人に呼び出された。
「ビーマ、頼みがある。国境の森で狩りをしてきて欲しい」
「おう!任せとけ!美味い飯を食わせてやるぜ!!」
 リクエストに張り切った俺が山と積んだ獲物は、結局3人の口に入ることはなかった。
 不穏な他国への示威に使われたのだと囁いたのは誰だったか。もうそれくらいしか役に立たない大飯ぐらいと囁かれたのはいつからだったか。
 趣味ではない豪華な寝台に転がって俺は腕をかざす。
 どれほどの腕力があっても国をまわすことは出来ない。
 目の見えない両親を支えていたはずのあいつが出来た事が俺には出来ない。
 遠い昔、遊ぼうと声をかけてもよく断られていた。思えばあの頃からあいつは両親を手伝っていたのだろう。
 即物的で短気だったが策略に長けた男だった。
 俺が殺したあいつはこんな時どうしただろうか。
 前の持ち主が使っていたままの寝室は何の気配もせず静かに俺を受け止めていた。


■2024/05/29
ビマヨダ
「おまえがそんなヤツだから」

「そうして、太陽との賭けに負けた北風は逃げて行きました。めでたしめでたし。──どうしたの?わし様?」
 食堂でサーヴァント達に絵本の読み聞かせをしていたマスターはドゥリーヨダナの見慣れない表情に首を傾げた。
「わし様が喜びそうな話だと思ったのだけど」
 太陽神の息子を友にし、風神の息子を宿敵とする男の反応にマスターは戸惑った。北風の敗北に喝采をあげて大喜びすると思ったのだ。
 そんなマスターに様々な感情がミックスされたような顔でドゥリーヨダナはゆっくりと口を開いた。
「マスターは試合が最も盛り上がるのがどんな時か分かるか?双方の実力が伯仲している時?いいや?それだけではない。──同じ武器で戦っている時だ」
「太陽と北風は同条件だよね?」
「違う。旅人がコートを着ているという事は冬だ。北風に不利だな。端から勝負にならん!」
「確かに夏に風が吹けば嬉しいよね」
 常々卑怯で何が悪いと主張しているドゥリーヨダナの思わぬ解説にマスターは絵本を置いた。そこに、
「マスター。喉が乾いただろ?」
 ビーマが持ってきたドリンクをマスターは受け取り、ドゥリーヨダナを見た。
 ビーマもドゥリーヨダナを見るが、宿敵は不愉快そうにそっぽを向いた。その横顔に向けられる眼差しの、色!


■2024/05/28
生前アシュヨダ
「滅びろ!!」

泥がついていたんだ」
 俺の返答にアルジュナは困惑したように繰り返した。
「泥?あなたはドゥリーヨダナに禁じられた夜襲を命じられたのでしょう?もう彼はいない。あなたも被害者です」
 お優しい言葉に唇が歪むのが分かった。
「泥がついていたんだ」
 旦那の髪に。ただでさえ頭髪は聖なるモノ。それだけではなく、旦那は自分の髪を殊の外大事にしてよほど気に入った侍従にしか手入れをさせなかった。俺ですらも一度も触れたことはない。
 花のように美しい紫の髪。
 それにいくつもいくつも泥が付着していたのだ。
「アルジュナの言う通り、あいつはもういねぇんだ。争う理由などなくなった。そうだろう?」
 ビーマの何かを確かめるような言葉に喉が痙攣する。突然笑い出した俺に『正しい』奴らが顔を見合わせた。
 旦那は常々こいつらの『正しさ』が嫌いだと公言していたが、俺はそれを理解していなかった。この瞬間まで。
「──俺は俺の意志で夜襲を行った。あんた達の息子も俺が殺した」
 笑いながら俺は近くの木の枝から葉をちぎり取る。それは禁じられた武器へと姿を変えた。
「おまえ達は父の愛も旦那の誇りも俺の意志も踏みにじるんだな。ブラフマシラーストラぁあああ!!」


■2024/05/27
現パロアシュヨダ+カルナ
「おまえがいるなら」

「ちゃちぃな。こんなの旦那が滑ったら壊れちまうだろ」
「オレ達ふたりで試してみるか?」
 とある大人用のホテルでウォータースライダーをアシュヴァッターマンとカルナはふたりで眺めていた。下見である。もちろんドゥリーヨダナが行きたいと言ったからだ。
 恋人にねだられたアシュヴァッターマンはウォータースライダーへと階段を上がっていく。それに付き添いのカルナが続いた。
「どうせならプールごと貸し切ればいいのによぉ」
「浅慮がすぎるな」
「悪ぃ、今のは解読出来なかった。どういう意味だ?」
「教える意味が無い」
 難解なカルナ語にアシュヴァッターマンは息を吐いた。そうこうするうちに階段を登りきり、ウォータースライダーの入口で腰を下ろす。
「同時に滑るのは危険だ。オレは少し遅れる」
「落ちたらすぐに避ければいいんだな。分かった」
 確認してアシュヴァッターマンは流れ落ちる水流に体を乗せた。一気に滑り降りる。たいして勢いがつかないまま水面に飛び込む。続いてカルナもプールに落ちた。
これ、面白いか?」
 首をひねるアシュヴァッターマンに浅いプールから立ち上がったカルナは薄く笑った。
「問題ない。ドゥリーヨダナは喜ぶだろう」


■2024/05/27
カウラヴァ
「仲良しの印だと聞いたぞ」

「ご禁制っ!!」
 マスターの言葉にドゥリーヨダナの部屋にたむろっていたカウラヴァ達は顔を上げた。
 ドアの入口で立ち尽くしていたマスターは叫んだ後、慌ててドアを閉める。カルデアの風紀委員と生徒会長にこの状態を知られたら惨状待ったなしである。
「ドゥリーヨダナ!まずは説明」
 呼ばれたカウラヴァの長はソファーに体を預けたまま視線だけを動かした。
「説明と言っても見ての通りだが?」
 胸を張るその仕草にマスターは目を覆った。ドゥリーヨダナのその鍛えられた胸筋は丸出しになっている。その大柄な体格は黒タイツに包まれており、その衣装に見覚えさえなければ変質者だと思ってしまっただろう。
「だから、なんでカルナさんの服を着ているんです?」
「オレが渡したからだが」
 ソファーの足元に寝転がって答えるカルナは、上半身裸に黒い腰布を巻いている。
 カルナさんの胸のルビーってセンシティブフィルターだったんだな、とマスターは実感した。
 そうなると残りの一人。ドゥリーヨダナの後ろで紫色の上着を着ていたアシュヴァッターマンがソファーの影から出てくる。その足には鎧があった。つまり。
「彼シャツじゃん。なんでこんなことをしたの?」


■2024/05/26
わし様夢?
「じゃんじゃん持ってこーい!!」

「ふははは、このサークル主はわし様の手下。すなわちわし様の庇護下にある。用事があるならわし様を通してもらおうか」
 いわゆる島中にドゥリーヨダナの声が響き渡った。
『屈強だけど女のコに怯えられないだろうから』とガネーシャ神に理由もわからずコミケに連れて来られたドゥリーヨダナだったが、並べられた机の内側に座らされ、見知らぬ女の子達からお菓子をもらったりとちやほやされてご機嫌だったのだ。
 お菓子をくれたサークル主のひとりが男に
「ねぇ、おねーさん。これって実体験?」
 と絡まれるまでは。
「このサークル主はわし様に珍妙な菓子を献上したのだ。味は筆舌に尽くしがたかったが口の中でぱちぱちして実に面白かった。わし様はわし様を楽しませた者を大事にする。──つまり、このサークル主を困らせるおまえはわし様の敵と言うことだ」
 鍛えられた大柄なドゥリーヨダナに見下され、男は後退り、弾かれたように体を翻して雑踏の中に消えていった。
 綻んだ空気にガネーシャ神が微笑む。
「変な奴らに目をつけられたって聞いたけど、これなら大丈夫ッスね」
 その視線の先。ドゥリーヨダナの前にはお菓子の山が積まれつつあった。


■2024/05/26
わし様+マスター
「やらんぞ!」

 ジャングルの真ん中で鍋が煮えていた。
「わし様って料理出来たんだ
「狩りの嗜みだ」
「チキンのいい匂いがします」
 マスターの言葉にドゥリーヨダナが応え、マシュがうっとりと目を閉じた。
 鍋がかけられている焚き火を囲んでいるのはこの3人だけだ。他のサーヴァントははぐれている。
「携帯食料などわし様が食べるものではない!このわし様のマスターも食べるものではない!」
 先ほどマスターからもらった携帯食料を一口齧った瞬間に宇宙猫のような顔になったドゥリーヨダナの訴えに、マスターは苦笑した。
「でも、シャンタク鳥は食べるんだー」
「おいしそうです」
 鍋を提供したマシュの言葉にドゥリーヨダナは顔を綻ばせて鍋の蓋を取った。
「そろそろいいか」
 ふわりと濃密な湯気が3人を覆う。鳥肉のスパイス煮が食べられるのを待っていた。
「「「いただきます」」」
 声を揃えた3人の耳に木々をかき分ける音がした。
「お、いい匂いじゃねぇか」
 現れたビーマにドゥリーヨダナが鍋を庇う。


■2024/05/24
生前アシュヨダ
「その美しい黄金を」

「『アシュヴァッターマンさま、いいことを教えてさしあげましょう。ドゥリーヨダナ様は黄金がお嫌いなのです。そう、あなたの瞳のような』」
 宴の間ずっと頑なに目を閉じていた子供が言われたままに繰り返した内容に、ドゥリーヨダナは三日月のように笑った。
「ほう、あの男。仕置きが足りなかったようだな」
「自分が質の悪い金を持ってきたくせにー」
「兄貴どうする?埋める?食わせる?」
 弟達の提案に王子は猛獣のように目を細める。
「そんなに金が好きなら一緒に溶かしてやろうではないか」
 どっと盛り上がるろくでなし達の中、子供が不思議そうに小首をかしげる。
「溶けるの?」
 固い金が溶けるのかという疑問にドゥリーヨダナはまた笑った。
「溶けるとも!すこぉし時間はかかるがな」
 笑い声があがった。そんな中でもまだ目を閉じている子供にドゥリーヨダナは手を伸ばす。
「わし様がおまえの事を一部でも嫌うわけがなかろう」
「でも、」
 ためらうアシュヴァッターマンの頬をドゥリーヨダナはそっと撫でた。
「さあ、見せてくれ」


■2024/05/24
カウラヴァCP
「やっぱりそういう事なんだー」

「シャワーブースに入れない?開け方が分からないとか?」
 マスターの言葉にカルナを従えて陳情に来たドゥリーヨダナは唇を尖らせた。
 忘れられがちだがマスタールームと同じようにそれぞれの部屋には小さなシャワーブースがある。
「使い方ぐらい分かるとも!ただわし様達3人で使うには狭いのだ!!」
「3人?えっと爛れたご関係デスカ?」
 他に健康な成人が無理やり一緒に入浴する関係性が見えないマスターにカルナが首を振った。
「ドゥリーヨダナの世話には手間がかかる」
「なにおぅ!生前はわし様が風呂に入るときは10人以上の奴隷が付き従ったものだぞ」
「赤ちゃんかな?」
「違うマスター。50人だ。この男は湯浴みをしていた」
「あー。古代は給湯器ないから
 わがまま王子が入浴する度に薪で大量のお湯を沸かしていたのだろう。それはそれとして。
「まさか、自分で体を洗えないとか言わないよね?」
「ジブンで?アラウ?」
 異星語を聞いたように首を傾げるドゥリーヨダナにマスターはカルナを見た。揺るぎない眼差しが返って来た。
 そこに爆音がマイルームに駆け込んで来た!
「誤解だ!ふたりとも余計な事を言うんじゃねぇええ!!」


■2024/05/23
アシュヨダ
「はいはい、そうですね」

「特異点ならともかく。ストームボーダーでバーベーキューって無理があるよ。ドゥリーヨダナ。焼き肉で我慢して」
「むむむ、わし様、あんな風に串焼きとか焼きそばとか食べてみたーい!もが!」
「絶品だ」
 カルナに肉を口に突っ込まれたわがまま王子がもぐもぐと咀嚼している間、マスターは視線を巡らせた。
 テーブルにはわざわざ持ってこさせたホットプレート。食堂に人影は少なく、カウンターに肉を取りに行っているアシュヴァッターマンの背中がよく見える。
「そんなにバーベーキューがしたかったならキャンプに来れば良かったのに。あ、王子だからああいうの苦手なの?」
「はむはむごっくん。そのくらいやったことがあるぞ。天幕を張り、野趣溢れる食事を取る。うむ。野営とかでな」
「野営、夜営あっ!」
 ドゥリーヨダナにいつもひっついているアシュヴァッターマンは禁忌を破り夜営している敵を襲ったのだ。
 それはアシュヴァッターマンの傷のひとつで、ほいほい口にする者はいない。ドゥリーヨダナ以外は。
だから来なかったんだ」
 先日行われた特異点でのキャンプにドゥリーヨダナが現れなかった理由に思い至ると当の本人は唇を尖らせた。
「わし様は高貴な王子であるからして、必要がなければお外で食べたりしないのだ!!」


■2024/05/22
カルヨダ+マスターとジナコさん
「オレが教えた」

「川があるではないかーっ!!」
「釣具がないっスよ」
 空腹を訴えていたドゥリーヨダナが喜々として川へと走っていくのをマスターとガネーシャ神は呆れて見送った。
 いつものごとく特異点の探索である。今回は特に危険がないとのことでこの3人だ。
 人里になかなかたどり着けず、携帯食料は味気ないとわがままプリンスをぶちまかしていたドゥリーヨダナは靴を脱いでドウティの裾をたくし上げると川へと入っていく。
「あの敏捷度で魚を捕まえるのは難しいと思うんスよね」
 ガネーシャ神のコメントが聞こえているのかいないのか、ドゥリーヨダナは棍棒を振りかぶった。水中に叩きつける。鈍い音が響き渡り──数瞬後には水面にぷかぷかと魚達が浮かんできた。
「わし様は寛大だからな。好きなものを選ばせてやろう!」
 得意げに振り向いたドゥリーヨダナにふたりは絶句した。
「だ、ダイナマイト漁?」「ガチンコ漁だよね?」
「ふーふふふ!わし様の華麗でダイナミックな漁に言葉も出ないであろう。だが、早めに捕まえんと逃げられるぞ」
 確かに、ドゥリーヨダナが起こした衝撃波で魚達は気絶しているがすぐに目が覚めるだろう。両手に魚を掴んだドゥリーヨダナに倣ってふたりとも川に飛び込んだ。
「ところで、なんでこんな原始的な方法知っているの?」


■2024/05/21
わし様+マスター
「たっぷり絞られた」(旧・たっぷり絞り取られた)

 ところでカルデアには非常用の固定電話がある。非常用なので鳴るのは非常時だ。今現在その電話が鳴っていて、その場にはマスターとドゥリーヨダナしかいなかった。
「警報は鳴ってないね。故障かな?いたずらかな?」
「うるさくてかなわん。わし様の繊細な耳が悲鳴をあげておるではないか。文句を言ってやろう」
 いたずらを思いついた顔でドゥリーヨダナが電話のスピーカーボタンを押す。
 その途端、聞き慣れた男の声が流れた。
「もしもし、パンツ何色?」
「履いておらんが?」
 素の表情で返事をした王子にマスターが飛び上がった。
「なんで履いてないのっ!?」
「禁欲が旨のバラモンじゃあるまいし、なんであんなものを履かねばならんのだ!」
「文化の違い!!」
 叫んだマスターに、電話の向こうでの叫びが聞こえた。
「じゃあ、カーマちゃんもパールヴァ
 ガチャン、
 電話が粉砕された。拳で。
「マスター。今の声は黒髭だな」
 主のやらかしの気配に駆けつけた弓兵の静かな声にマスターはただ頷いた。ドゥリーヨダナが楽しそうに笑う。
「あいつはQPを溜め込んでおるから次の宴が楽しみだ」


■2024/05/21
アシュヨダ
「夢を見てしまったから」

 それほどの加護を神から受けておりながら、何故バラモンとして生きないのか!?
 生前何度も詰め寄られた言葉を思い出しながら、俺は包丁を動かした。
「じゃがいもと人参は同じ大きさに切る。だいたいでいい」
 エミヤの料理教室は初心者向けで評判がいい。今回はインドの野菜カレーとの事で初めて参加したが、数人の受講者が和気あいあいと会話している。
「せんせー!なんか黄色い水が出たー!!」
「その黄色が無くなるまで洗うとアクが出なくなるぞ」
「アクって何?悪属性??」
 俺の悪属性の恋人は飽きっぽいのでメリハリのある味を好む。好みの味を出せるか思い巡らせていると、横に色とりどりの粉が入った小さなボールが置かれた。
「スパイスのミックスはやっておいた。味見をして希望を言ってくれ。こちらで調整する」
あんた。なんで料理人にならなかったんだ?」
 思わず口にすると、エミヤは困ったように笑った。
「夢をみた、からだな」
「ああ、──それなら分かる」
 俺も夢を見た。あの人と共に戦うという夢を。だから神からの恩寵を生かさずに戦士の道へと進んだのだ。
 味見をしたスパイスは舌で弾んであの人の笑顔を思い浮かばせた。


■2024/05/20
アシュヨダ
「忘れるなっ!」

 ドゥリーヨダナが恋人の部屋を訪れると。アシュヴァッターマンは三人掛けのソファーに座って巻物を読んでいた。
「珍しいものを見ているな」
 声をかけてドゥリーヨダナがそのソファーに腰を下ろすと、アシュヴァッターマンは端に寄って巻物を上にあげる。ドゥリーヨダナは当然のようにその膝に頭を預けた。
 上向きに転がれば巻物の文字が見える。
「サンスクリット語ではないか。なんだそれは?」
「経典。異聞帯の俺がこれで化け狐を追っ払った、らしい。どんなモンかと思って借りてきたんだが
「坊主の言うことなどどこでも同じだろう?」
 生前口やかましいバラモンからの苦言を浴びまくっていたろくでなしが大きくあくびをするのを、アシュヴァッターマンは微笑ましく見下ろした。
「ここなんか違いがあって面白いぜ」
 経典の一部を読み上げるアシュヴァッターマンの声をふんふんと気のないようすで聞いていたドゥリーヨダナだったが、その顔色がだんだんと悪くなっていく。
「旦那?」
アシュヴァッターマン。それ。何の聖句だ」
「何って魔祓い、あ゛!!」
 ドゥリーヨダナには魔性属性がある。至近距離でバラモンに魔祓いなど唱えられては影響がないはずがなかった。
「すまねぇ旦那!!忘れてた!!」


■2024/05/19
百王子
「俺達は皆ひとつのままだ」

 化け物だと影で囁かれていた事は俺達みんな知っていた。
 ひとつの肉塊から生まれて来たこと、100人もいるのにひとつの生き物のように動くこと。何も言わなくても分かり合える事。──今だって誰も何も言わなかった。
 何度もあいつを食事に誘ったのもひとりがやったことじゃない。痛いのを我慢して笑いかけたのもひとりがやったことじゃない。蛇の毒を用意したのも、あいつに毒入りのお菓子を食べさせたのこそ兄様だったが、手足を縛り付けて川に放り込んだのはみんな、みんな俺達がやった事だ。
「泣くなよ、ヴィカルナ。おまえだって、お祖父様がいなければ歩けなくなってたんだぞ」
 ドゥフシャーサナが俺の背中を撫でるのに首を振った。
「聖仙様って呼ばないと怒られるよ。──これで俺達天の国に行けなくなったね」
「でもこうしないと俺達が殺されてた」
「手を折られた」「木から落とされた」「足も折られた」「泣いて嫌だって言ったのに追いかけてきた」「ずっとずっと笑ってた」
 俺の言葉に兄弟達が次々と口を開く。力では敵わない、交渉が通じない、立場的に対等な従兄弟は、こうでもしないといつか俺達の誰かを殺しただろう。
 からからと兄様が笑った。あいつを沈めた川面から顔を上げて俺達を眺める。
「天の国に行けなくなったところでどうだと言うのだ?」


■2024/05/18
ビマヨダ
「たっぷり聞かせてもらおうか」

「これはビーマ、これはビーマではない、これもビーマ、ビーマではない、ビーマ、ビーマ、ビーマではなやってられるかぁ!!わし様はビーマ探知機ではないわぁ!!」
 山と積まれたクッキーを選別していたドゥリーヨダナが叫んだ。
 その横で自分のものだと言われたクッキーを黙々と割っていたビーマが口を開く。
「元はおまえが原因だろうが、人のクッキー種に異物を混入させるな!!」
「わし様悪くなーい!!マスターには食べさせない試作だと言っておったではないかー!!それに自分の作ったものを見分けられないパティシエがいるなんてわし様びっくり」
 ビーマの手の中でクッキーが粉砕した。
「だから、そういう試作だ。誰かさんが俺の作ったものだけをきれいに残すからなァ。好き嫌いはよくねぇぞ」
 響くような強い声にドゥリーヨダナは慣れた様子でふふんと顎を上げた。
「わし様はこの上なく高貴な王子。森育ちの作ったものなど口に入れるわけがなかろう」
「今のおまえはただのサーヴァントだ。──そういやお前。どうやって俺の料理を見分けているんだ?」
「わし様ちょっとお花摘みに」
 そそくさと立ち上がったドゥリーヨダナの腕をビーマはしっかりと掴んだ。


■2024/05/17
アシュヨダ
「わざとやってるよね」

「アシュヴァッターマンが死んだ!!このひとでなし!!」
 集合場所に現れた一臨姿のドゥリーヨダナにマスターの少女は叫んだ。その横でカルナが泡を吹いて倒れたアシュヴァッターマンの介抱をしている。
「わし様が悪いのかぁ?事の原因はマスターだろう?」
 素知らぬ顔で言うドゥリーヨダナにマスターは詰め寄った。正確にはその胸のバンド?に。そこには、
「確かにアシュヴァッターマンのもちをあげたのは私だけど!こんな持ち方をしろなんて言ってない!!」
 ドゥリーヨダナの胸のバンドにはもちが挟まっていた。何故か後ろ向きに。もちはその豊かな胸に顔を埋めている。
「これから周回だろう?こうでもせねば両手が空かないではないか」
「じゃあなんでその向きにしたの!?」
 マスターの詰問にドゥリーヨダナは胸からもちを取り出した。
「なに、かわいいもちに血なまぐさい戦闘など見せるべきではないだろう?もち主こころという奴だ。──ん?汗をかいたから少し濡れてしまったな」
 断末魔があがった。
「息をしろ。無理だと思うが」
 カルナが断末魔の主に声を掛ける。それを気に留めずドゥリーヨダナはにやりともちに話しかけた。
「汚れてしまったなぁ。わし様と入浴する名誉を与えよう」


■2024/05/17
生前カルヨダ+息子
「だがそれは果たされなかった」

「昔はおまえにそんなトゲトゲの鎧をつけたスーリヤを馬鹿だと思っていたものだが」
 ドゥリーヨダナがそう言うとその腕の中の赤子に指を掴まれていたカルナは顔を上げた。
「我が父に対する不敬が過ぎる」
 神に対する言い草に侍従達が顔色を変えていると指摘されて、ドゥリーヨダナは鼻を鳴らした。
「ふん。そんな触る者を傷つける事しか考えとらんような鎧など平時には害悪でしかなかろう。──だが今はその気持が分かる。この子をわし様の手から離さねばならないのなら、万の軍勢をつけてもまだ安心出来ん」
 赤子がふぁあと声をあげかけたのでドゥリーヨダナはその腕を揺らした。カルナもそれ合わせて掴まれている指を動かすと、泣きかけていた赤子はすぐにごきげんにきゃっきゃと笑い声を溢れさせる。
 それを見つめていたカルナがそっと口を開く。
「オレは父のようにこの鎧を与えることは出来ない。あるのはこの武勇のみだ」
「ほお。おまえが守ってくれるなら百万の軍勢よりも心強いな」
 カルナの宣言に顔を綻ばせたドゥリーヨダナが腕を傾けた。自身の実子に養子の姿がよく見えるように。
「よぉく覚えておけラクシュマナ。おまえを守ってくれる兄の顔を」


■2024/05/16
カルナさん+奥さん
「その言葉は違えられることは無かった」

「この中で我が友カルナの妻になりたい者はおらんか?」
 ドゥリーヨダナの呼びかけに集められた女達はざわめいた。その中にスータの単語を聞き取ったカルナがドゥリーヨダナの横で首を振る。
「無駄だ。好んで罪人になりたい者などいない」
「いいえ」
 凛とした声をあげて女がひとり歩み出た。深く布を被った若い女は床に額づく。
 その布の模様にドゥリーヨダナが手を打った。
「沼地の領主の娘だな。父上は息災か?ナーガ討伐では世話になったと伝えてくれ」
「スヨーダナ様には何度もお力添えをいただきました。領地で待つ父も私がお役に立つのならば喜びましょう」
スータと結ばれ、天の国に行けなくなってもか?」
 静かなドゥリーヨダナの問いかけに女は顔をあげて微笑んだ。
 身分違いの婚姻は重罪だ。スータの男とクシャトリヤの女ならば、女の方が罪が重い。
 だからこそ、集められた訳ありの女達でも尻込みしたというのに、女の眼差しには迷いは無かった。
「スヨーダナ様にご恩をお返し出来るのならば、この命も惜しくはありません。ひとりの男を愛するくらいどれほどのものでしょうか」
「ならば、オレもおまえを愛そう」


■2024/05/14
生前カルヨダ
「嬉しくてたまらないのだ」

「凶兆の子よ!お前など早く殺しておけばよかったのだ!!ガーンダーリーの命乞いなど聞かねばよかった!!」
 老人の叫びをドゥリーヨダナは鼻で笑った。
「身内に売られた男の負け惜しみはその程度か。──やれ」
 カルナが剣を振るい、白髪が転げ落ちた。
 後始末を奴隷たちに任せて、飾り立てられた馬車に乗るドゥリーヨダナの隣に、呼ばれもしないのにカルナが滑り込んだ。憐れまれる気配を察して睨みつけるドゥリーヨダナにカルナは口を開く。
「──赤子のオレが拾われたのは、冬の川だった」
 この辺りでも雪は降るし毎年凍死者も出る。言葉を無くしたドゥリーヨダナの肩にカルナはそっと触れた。
「オレは漆を塗られた小さな箱に入れられ、たくさんの高価な布に包まれていたそうだ」
「だが冬だ」
「寒さならば、この不死の鎧がある。──むしろ。それを知っていたなら布など必要ないと分かったはずだ」
 黙りこくったドゥリーヨダナにカルナは続けた。
「我が父はスーリヤ。それはこの身に刻まれている。だが、オレを助けてくれた母の名を知りたいと思う時がある」
「お前の方が不幸だとでも?」
 顔を歪ませたドゥリーヨダナにカルナは首を振る。
「いいや。──オレと何もかも違うおまえと。母に命を望まれたという、そのひとつだけでも同じものを得られて」


■2024/05/14
生前カルヨダ
「愛されている」

「お前の黄金の鎧は削れんのか?」
 王になったばかりのアンガ国への出立の準備を整えていたカルナは王子の言葉に瞬きした。
「──削れるのか?削れるのか!?」
「わし様に聞かれてもなー。わし様の素晴らしい鑑定眼で見たところ、それ純金。少しの欠片でもスータならば食うに困らんぞ」
 言われてカルナは自らの皮膚に癒着している鎧に触れた。黄金の表面は傷一つなく艶めいている。
 その様子にろくでなし王子は眉を上げた。
「ふぅん。試しもしなかったということか。なるほどな。──さて、カルナ。そのしょっぼい荷物は全部捨てろ」
 家から持ってきた荷物をまとめていたカルナがドゥリーヨダナを静かに見返す。ここで騒いだりしない男をドゥリーヨダナは気に入っていた。
「思い出の品ぐらいは許すが、お前の持ち物はアンガ王には相応しくなぁい!!全部この上なく高貴でセンスの塊であるわし様が誂えてやろう。わし様は太っ腹だからな護衛の小隊もつけてやる。ああ、家族も連れて行っていいぞ。特に両親。子を想う親は大事にすべきだからなぁ」
 言葉の洪水を飲み込んだカルナがかすかに微笑んだ。
「感謝する」
「──わし様が推薦したアンガ王がしょぼかったらわし様の威厳にも関わるからな。当然、だ」


■2024/05/13
カルヨダ
「それは正しい判断だ」

「アシュヴァッターマンがな、お前が黄金の鎧をつけた勇士に見えるというのだ」
 そう言うと友となったばかりの貧相な青年は顔をあげた。
「オレは父の鎧を身に着けている」
「そう言うがなぁ。わし様にも弟達にも見えんのだ。パーンダヴァの連中にも見えておらんようだし。一体なんの幻術だ??」
 ぺたぺたとその細い体を触るがなんの変哲もない男の体だ。あのアルジュナに匹敵する武勇の持ち主にはとても見えない。だが、アシュヴァッターマンはシヴァの半化身だ。
「シヴァの第三の眼は真実を見抜くという。わし様もみたいなぁ。おまえのスーリヤの鎧とやらを」
 ねだると青年はほんのわずか唇をほころばせた。
「必ず見せよう」
 その数十年後、約束は果たされた。
「──あれが、カルナなのか」
 首を撃ち抜かれた屍を問うとアシュヴァッターマンは首肯した。
 いや、言われなくても分かる。一目見れば分かる神威ある黄金の鎧を身に着けた体。繊細で美しい顔。俺が見えていたモノと変わりすぎる姿に彼が本当にスーリヤの子供であったのだと実感した。
 ああ、これほど美しい男ならば幻術がなければ人の世にいられなかっただろう。


■2024/05/13
カルヨダ
「それを早く言ってよ!」

「ドゥリーヨダナに外では肌を見せるなと言われている」
「独占欲つよいなぁ」
 これから特異点の調査で聞き込みに行こうという所でどこからか出した布を体に巻き付けたカルナにマスターは呆れた声を出した。
「そんなものつけている方が目立つよ。大丈夫、ドゥリーヨダナには内緒にしておくから」
了承した」
 そしてそのままの姿のカルナとマスターは人々に状況を聞いてまわるが、誰もがカルナを見て目を見張った。
「なにか変なのかな?」
……
 マスターの疑問にカルナは答えなかった。
 そして何人かと言葉を交わし、夜になったので彼らは野営の火を灯す。不意にカルナが顔を上げた。
「特異点の住民は極力殺さないのだったな。──マスター。そこを動くな」
 カルナがそう言うと同時に武装した男達が飛び込んで来た。襲いかかってきた彼らをあっという間に地に伏させて、カルナは再び布を体に巻きつける。
「ドゥリーヨダナは言った。オレは金目のものの塊だから気をつけるようにと」
 カルナの体には黄金の鎧と大きな宝石が埋め込まれている。


■2024/05/12
カルヨダ、ビマヨダ
「どうして」

「子供が溺れてる!!」
 特異点でのマスターの叫びにカルナが躊躇なく川に飛び込んだ。それに続いて川に飛んだ人物にマスターは思わず叫んでしまう。
「ドゥリーヨダナ!?」
 それは共に同行していたビーマではなく、ろくでなしのドゥリーヨダナだった。らしくなく人命救助に体を張っている男は川の中からマスターに叫び返す。
「カルナは沈むのだ!あんな鎧をつけておるから!!」
 その言葉どおりに要救護者を抱きかかえて沈みかけていたカルナをドゥリーヨダナは意外と巧みな泳ぎで引き上げ、危なげなく岸へとたどり着く。
 マスターに子供を引き渡したドゥリーヨダナが岸辺に疲れたように腰を下ろした。
「かぁるなぁ。わし様は何度も言っただろう?我が身を削ってまで施すな、と」
「一刻を争う事態だった」
 ドゥリーヨダナの隣に座ったカルナが言葉を返すと、自称最大の理解者はその濡れた髪を引っ張った。
「この馬鹿者が」
「否定はしない」
 笑い合う二人に無言の影が差した。ドゥリーヨダナによって川に流された男がふたりを見下ろす。
 その視線にカルナが顔を上げた。視線が行き違う。


■2024/05/12
わし様+マスター(母の日)
「お母さん大好きの歌」

「茶々に何を贈ったらいいか?なんでわし様に聞く?」
「だってよく周回で一緒にいるし」
 マスターの言葉にドゥリーヨダナは腕を組んだ。
「わし様よりマスターの方が付き合いが長いだろう?」
「毎年この時期に贈り物をしてるんだけど、」
「ネタが尽きた、と?ふぅむ。ああ、あれか母の日というヤツか」
「うちのお母さんだから、喜んで欲しくて」
 ドゥリーヨダナはマスターの髪をかき回した。
「親というものは子が何を持ってきても喜ぶものだ」
「でも」
 言い募るマスターに父であり息子である男は目元を緩ませた。
「昔、母上の誕生日に宝石で出来た花を持ってきた馬鹿者がいてな」
「え?見えないのに!?」
 ドゥリーヨダナの母親が目隠しを外さなかった事は有名だ。驚くマスターにドゥリーヨダナはおかしそうに唇の端を吊り上げた。
「祝いの場を白けさせるわけにはいかんだろ?わし様達スペシャルな兄弟はどうしたと思う?」
「贈り物を取り替えた?」
「外れだ。正解は、皆で宝石の花の素晴らしさを歌い上げた、だ。──分かるな、マスター」


■2024/05/11
カルヨダ
「今はおまえと共にいる」

 空が波打っていた。
「太陽フレアが収まるまで念の為ストームボーダーは地表で停泊するよ。外で羽を広げておいで」
 そう言われて地表に出たマスターとサーヴァント達を光り輝くオーロラが出迎えた。絶景に顔を上げる者ばかりだが、そのうちひとりが横を向く。
「旦那、戻って部屋で休むか?」
「ドゥリーヨダナ?」
 珍しい光景に大はしゃぎしそうなドゥリーヨダナが顔を強張らせている。不思議がるカルナの肩をアシュヴァッターマンが押した。
「旦那を連れて戻ってくれ」
「──わし様は戻らん。こんな光景初めてみたわけでもない。珍しくもなんともないな!」
 不愉快そうに言い放ったドゥリーヨダナにカルナが首を傾けた。
「オレは見たことがない」
 途端、ドゥリーヨダナは目元を歪ませた。
「──お前が、お前が死んだ日だ。カルナ。空がこんな風に光り輝いて。この世の終わりかと思っていたら伝令がお前の死を運んできた」
「そうか」
 死後、父であるスーリヤと一体化した青年は友の言葉に目を閉じ彼の体をかき抱いた。

■2024/05/11
ユディシャク
「私は心を奪われた」

「そこのチビ。この先はガーンダーリー妃の宮殿だ」
 見知らぬ青年の声に私は回廊の途中で立ち止まった。侍従が声を荒げる。
「シャクニ殿!いくら弟君だと言え、女性の宮殿に出入りされていらっしゃったのですか!?」
「なにかと不自由な姉の手伝いをして何が悪い。最近治安が悪いからなァ。それでそこの坊主は何の用だ?」
「──チビとか坊主とかは私の事でしょうか?」
 今までそう呼ばれた事が無かったので確認すると、青年は面白そうに片眉を上げ、侍従は色めきだった。
「この方はダルマ神の子。そのような呼び方を!」
「パーンドゥの子だろう?神など何の役にも立たん。──たしか、ユディシュティラだったか」
「ご存知でしたか。ガーンダーリー妃にご挨拶をと」
 私が笑みを浮かべるとシャクニ殿は私を見つめた。
「つい先日まで森に住んでいらっしゃった尊き方はご存知ないかもしれませんが、訪問の先触れがこちらに届いておりません。ご用意が出来ておりませんので申し訳ございませんが今日のところはお引き取りを」
 抑揚の無い声に歓迎されてないのだと思い知らされる。侍従が声を荒げた。
「次期国王たるユディシュティラ様を門前払いする気か!取るに足らない小国の生き残りが!」
 その時のシャクニ殿の眼差しが宝石よりも美しくて。


■2024/05/10
アシュヨダ
「あれ?邪魔しちゃった?」

「アシュヴァッターマン。わし様の魔力は美味しかっただろう?」
 にたりと笑った魔性をアシュヴァッターマンは地面に転がったまま見上げた。戦闘の喧騒は遠く退場した彼らに意識を向ける者はいない。
 行儀悪く地面に座り込んだドゥリーヨダナは再び身をかがめアシュヴァッターマンの唇を奪った。魔力が流れ込む。
「宝具にされた後、宝具を撃つとはどんな気分だ?」
 ドゥリーヨダナの問いかけに、爆散した体をなんとか修復したばかりのアシュヴァッターマンは目を瞬かせた。
旦那。もしかして怒ってんのか?」
「怒ってなどおらん!!」
 そっぽを向いたドゥリーヨダナの横顔にアシュヴァッターマンは目を細める。その口の中で彼のものではない魔力がどろりと染みた。
 不自然な沈黙に振り返ったドゥリーヨダナがアシュヴァッターマンを見て妖艶に微笑んだ。
「パブロフの犬というやつだな。──おまえがわし様の魔力を味わうのは」
 ドゥリーヨダナの指先がアシュヴァッターマンの体を艶かしくなぞる。
「こういう時だからな」
 寄せられた吐息にアシュヴァッターマンの喉が鳴る。
 その瞬間、戦闘終了の歓声が上がった。


■2024/05/10
カウラヴァ
「あまくてあまい」

「え~い!!おまえ達が持つと溶けるではないかーっ!」
 三人掛けのソファの真ん中で人悪のカリスマが円筒形のパーティボックスを抱きかかえた。両側に座る施しの英雄と憤怒の化身が困ったように眉尻を下げる。
 ドゥリーヨダナが持っているのはアイスクリームの詰め合わせだった。強欲な彼は大きなカレースプーンを色とりどりの丸いアイスに突き立てる。
「ほら、カルナ。あーん、だ」
 口をあけた太陽神の息子に王子は華やかなトッピングのアイスを食べさせる。
「次はアシュヴァッターマンだ。ほらほら、あーん、」
 遠慮がちに口をあけた炎の精っぽい何かを従えている青年にただの人間はシンプルな風味のアイスを食べさせた。
「どうだっ!」
 得意げに胸を張るドゥリーヨダナに、体温が高いふたりは口を揃えた。
「「うまい」」
「そうだろう、そうだろう。わし様はおまえたちの好みぐらい把握しておるのだ!」
 むふむふと笑いながら、ドゥリーヨダナはボックスの中身のアイスをスプーンでひっくり返している。
「あったあった!わし様はこれ!」
 見つけ出した極甘のアイスをドゥリーヨダナはすくい取り、両脇の視線に気づいた。


■2024/05/09
アシュヨダ
「おまえは何をやらせても卒がないな」

「コーヒーを淹れたい?ドゥリーヨダナにかね?」
 厨房の方のエミヤの問いかけにアシュヴァッターマンは頷いた。昨夜、カウラヴァ3人で見ていた映画の舞台が喫茶店だった。サイフォンに湛えられたコーヒーがこぽこぽと零れ落ちる様子に目を輝かせた恋人の所望に彼は弓兵仲間に指導を願ったのだった。
 お人好しの弓兵は白い眉を寄せる。
「初心者にサイフォン式は難しい。自身で美味しいコーヒーを淹れたいならペーパードリップを勧めるが」
「いや、旦那が望んだものを出してぇ。協力してくれ」
 頭を下げたアシュヴァッターマンにエミヤは一瞬微笑ましそうに口元を緩めたが、すぐにそれを引き締めた。
「ならば、特訓するしかないだろう。期日はいつまでだ?」
「今晩だ。旦那はすぐ飽きちまうから
「ばっ!!今すぐ特訓を始めるぞ!!これを着ろ!」
 くまさんエプロンを叩きつけられたアシュヴァッターマンがそれを身につける間に、エミヤは光の速さで必要な器具を並べた。
「理論の説明はしない。動きだけ覚えるんだ!」
「応!!」
「ドゥリーヨダナの味の好みは把握している。合わせるぞ!」
「応!!」
 体育会系のやり取りの後、1秒単位の動きのトレースという地獄の特訓が始まった。──その結果。


■2024/05/09
カルヨダ
「それならいい」

「一度しか使えないのか?」
 確認したオレにバラモンの姿をしたインドラはおかしそうに目を細めた。
「自ら鎧を剥いだ勇士が強欲を恐れるのか?」
「オレはこの槍をアルジュナに使うだろう。ドゥリーヨダナが使う分がない」
 息子を倒すと言ったというのにインドラは大声で笑う。
「おまえは不死の鎧を分け与えていたのか。愚かな勇士よ。人の子の下へ帰るがいい」
 消え去ったインドラに押されるようにしてオレは岸辺から離れた。全身を血に塗れ大きな槍を持つオレに人々が道を開ける。ほどなくして、馬が駆け込んできた。落ちるようにドゥリーヨダナが地面に降り立つ。
「カルナ!なんだ!その姿は!?」
「すまない。この槍は
「黙れ!馬鹿者!!」
 馬上に押し上げられ、ドゥリーヨダナが鞍に飛び乗る。走り出した馬の背中で説明するが、馬が速度を緩めることは無かった。
「おまえが妙なバラモンに絡まれていた事は知っておる。そやつがインドラだとおまえが言うなら、まあそうなのだろう。不死の鎧がないのは見れば分かる。槍の一度はアルジュナに使えばいいだろう。──それで、おまえは無事なんだな?」


■2024/05/09
ビマヨダ
「何度でも惚れ直してしまうのだ」

 首が締まる。
 熱い手が俺の首を掴み締め上げている。
 乱れたベッドに仰向けになった俺の体の上に体重を落とし俺を抑え込んでいるのが誰か。目を開けなくても分かる。
 気道を狭められ呼吸が細くなる。顎が上がり、脳内が赤黒く変色していく。
 霊体化すればこの苦しみから逃れられる。それか腕を振り払えば俺の首を締めているヤツの体勢を崩す事くらいは出来るだろう。
 俺は動かない。
 汗の匂いが鼻に触れた。ふたりで流した汗は他の情事の香りも連れて来る。
 恥をかくのを異様に嫌うこいつを、思う様に抱けば怒り狂うのは分かりきっていた。
 棍棒を握る手が俺の首を締めている。
 殺すことは自分に相手を刻むことだ。だから、それならいいか、と思ったのに。
 絶望して俺はドゥリーヨダナの両腕を掴んだ。手が離れる。
「サーヴァントは首を締めたくらいじゃ死なねぇ。どうして頭を潰さなかった」
 目を開けて、俺は後悔した。
 どうせくだらない言い訳を重ねるのだろうと思っていたのに、真っ赤になって涙を浮かべているその表情に、俺は。


■2024/05/08
カルヨダ
「愛されているから願いは叶う」

「了承した。ドゥリーヨダナに最も愛されている男、カルナが持ってこよう」
 どこか誇らしげにマスターからのお使いを受けたカルナが廊下を歩き出す。
……アレ、何?」
 そんなカルナの言葉に偶然通りかかった人々は囁きあった。その中のひとり。刑部姫が額を覆う。
「カルナさん、読んだらしいんだよね。ガネちゃんの持っている禁書」
 心当たりのあるサーヴァントが視線を泳がせる。世界二大宗教の開祖がマスターの故郷で同居する漫画は洒落にならない関係者が多いカルデアでは閲覧制限が出されていた。
「あー、なるほど。『師に最も愛された弟子』が一人称の」
「しー!しー!しー!!」
 元ネタを口にしそうになったマスターに何人かのサーヴァントが人差し指を唇に当てる。
 同じインド鯖のラーマがカルナが去っていった方向に視線を向けた。
「マスターの故郷にはコトダマがあると聞く。余も『シータに最も愛されている男』と名乗ればシータが召喚されるだろうか」
 このカルデアにはドゥリーヨダナはまだ召喚されていない。


■2024/05/08
ビマヨダ?
「だからおまえは馬鹿だと言うのだ」
※「そんなに分かりたくないんですか?」の続き

「わし様が女だったらあの戦争は起きなかった?」
 体を縮こませて正座しているビーマの願いによって、女性の体にされたドゥリーヨダナは細く白い顎を上げた。
「確かに。わし様とユディシュティラが婚姻すればクル王家の後継者問題は解決しただろうな」
「ドゥリーヨダナ」
 アルジュナに名前を呼ばれてドゥリーヨダナは視線を下げた。不満そうなビーマに鼻を鳴らす。
「ところでわし様は英霊となってマハーバーラタとやらを知ったのだが。伝承によると、あの戦いは神々が人の数を減らすために起こしたものだそうではないか?──カルナ!おまえなら目的が達成出来なかったらどうする?」
 問われて半神の長兄は即答した。
「他の手段を選ぶだろう」
「例えば、使えなくなったわし様の代わりにドゥフシャーサナあたりを次の凶兆の子に仕立て上げるとかな」
 絶句したパーンダヴァに、にたりと笑ってドゥリーヨダナは視線を巡らせた。
「常々、わし様達はなんで百に分かたれたのか不思議だった。五十でも十でも良いではないか。それは」
「ドゥリーヨダナっ!」
 ビーマが遮るとドゥリーヨダナは髪を揺らした。
「スペアは多いほど良い。確実に目的を達したいのならば。──まあ、わし様は優秀なので一度で達成したがな」


■2024/05/07
シャクヨダ、ビマヨダ
「馬鹿野郎っ!!」
※女体化注意

「初体験なんていうモノはな。マスター。高く買ってくれるものに高く売るものだぞ」
 その言葉にマスターとドゥリーヨダナの女子トークに耳を澄ませていたサーヴァント達は絶句した。静まり返った食堂にカトラリーやら調理器具が落ちる音が響く。それに構わず王女は傲慢に続けた。
「わし様は目端の利く大人が欲しかった。あやつはわし様の姿形を愛でたかった。うぃんうぃんというヤツだな」
 妖艶に笑う女性を見上げて、まだ少女のマスターはミルクティーをひとくち飲んだ。
「それでドゥリーヨダナは幸せだったの?」
 その問いにドゥリーヨダナは花のような瞳を微笑ませた。
「あやつはな。最期に命を賭けてわし様を戦場から逃がしたぞ」
 厨房から大きな音が響いた。ビーマだろうと誰もが思ったが、そちらを向く勇気のある者は誰もいなかった。当の本人以外は。
「うるさい!馬鹿ビーマ!!わし様が話しておるというのに!大人しく聞くことも出来んのかっ!」
「馬鹿なのはてめぇだ!!そんな、そんな事で。あいつはおまえの叔父じゃねぇか!!」
 ざわついた人々の中心で紫の髪が逆立った。
「だったら何だ!わし様達に頼れる大人が他にいたとでも言うのかっ!!」


■2024/05/07
わし様+モブ(ビマさん)
「ああ、よかった」

「なんであんなクズに忠誠を誓うんだ?」
 俺の問いかけに捕らえられたカウラヴァの伝令は腫れた顔を歪ませた。ヒューヒューとその喉が鳴る。
私は、要領が悪い。足も早くない。伝令なんて向いていない、いつもそう思っていた」
 苦痛に途絶えがちの言葉に不意に力が宿る。
「でも!あの方は多くの伝令の中から私だけを召し上げてくださった!おまえが一番口が硬いと。こんな私になら重要な任務を頼めると。そう私の手を取って笑いかけてくださった!それなのにっ!」
 歪んだ瞳から涙が零れる。拷問には耐えきったが幻術に惑わされて目指す部隊の位置を口にしてしまった伝令は、この世の終わりのように泣き叫んだ。
「ドゥリーヨダナさま!申し訳ありませんっ!!」
 そこに先に様子を見に行かせていた斥候が駆け戻ってきた。
「ビーマセーナ様!!いません!!」
「何がだ?」
 嫌な予感に俺は問い直した。斥候が床に転がっている伝令を見て、顔を歪めた。
「言われた場所にカウラヴァの部隊はいませんでした!」
「罠かっ!?」
 慌ただしく指示を出し始めた俺の足元で囮に使われた伝令がけたたましく笑う。


■2024/05/06
生前カルヨダ
「そんな事出来るものかっ!」

「構わん、燃やせ」
 今日の戦死者の中で最も大切に扱われた戦士へ向けてドゥリーヨダナは言葉を投げた。
「旦那!だけどカルナは、」
 アシュヴァッターマンがその骸の胸元を指す。そこには大きな紅玉が埋め込まれてあった。
 生前、カルナはドゥリーヨダナに言ったのだ。
 ──オレが死んだら、この胸の宝石は全ておまえに捧げよう。何かの足しにはなる。
 カウラヴァの財政は戦費で底を尽きかけている。これほどの宝石があれば多くの兵を贖えるだろう。
 それを誰よりも分かっている旗頭の王子は叫んだ。
「火を点けろ!わし様は燃やせと命じたぞ!」
 慌てて兵が集められた死者を荼毘に付す。カルナを包む一際美しい布が炎に包まれていくのを睨みつけていたドゥリーヨダナをアシュヴァッターマンはそっと窺った。
 炎の照り返しだけでなく、ドゥリーヨダナの目元は赤くなっている。その友の死を知って泣き叫んでいた名残にアシュヴァッターマンはかける言葉を見つけられなかった。
「旦那、」
「──カルナの奴ならば。わし様が剥ぎ取った宝石で連中に勝ったとしても気にせず喜んでくれるだろうな」
 ドゥリーヨダナと違ってカルナはそんな男だった。
「だが、それはわし様が友の体を売り払うという事だ」


■2024/05/06
アシュヨダ
「なに買ってんだ!あんたはっ!!」

「アマゾネス・ドットコムだ。ここにサインを」
「あー。俺の名前でいいか?」
 寝ているドゥリーヨダナの代わりに小さな段ボールを受け取ったアシュヴァッターマンは、品名の「精密機械」という文字に目を細めた。
 ドゥリーヨダナは新しもの好きだが決して機械に詳しくはない。送り主の名前を確認すると「娯楽倶楽部」とある。それはドゥリーヨダナより先に召喚されているはずのアシュヴァッターマンに聞き覚えのない名前だった。ますます怪しい。
 荷物の大きさはアシュヴァッターマンのウエスト程。重さは軽く。そっと振っても音はしない。
 その手が滑った。
 床に落ちた荷物がガチャンと固い音を立てる。
 「精密機械」ならば致命的な音にアシュヴァッターマンは慌てて段ボールの封を切った。

 ……数分後。うららかな惰眠を貪っていたドゥリーヨダナは、突然掛布を剥ぎ取られて目を開けた。
 そこには顔を真っ赤にして唇を引き結んでいる恋人の姿がある。いつもの爆声すら無く突きつけられた物体にドゥリーヨダナはにたりと笑った。
「おお、さっそく使ってくれるのか。アシュヴァッターマン!!」


■2024/05/05
生前アシュヨダ
「その数千年後、逆に食べられた」

「で、ドローナ師がなんと言ったんだ?」
 鍛錬に来た途端、幼いアシュヴァッターマンに抱きつかれたドゥリーヨダナはその泣き顔を覗き込んだ。
 師のアルジュナびいきは今に始まった事ではない。今回もその類だろうとアシュヴァッターマンの視線に合わせてしゃがみこんだ王子は続いた質問に目を瞬かせた。
「クシャトリヤは鶏を飼っているのでしょう?」
「鶏も豚も牛も馬も象も飼っておるぞ」
 孔雀も獅子も王宮には王子たるドゥリーヨダナが把握していない程の生き物が飼われている。その多くは
「クシャトリヤが生き物にご飯をあげるのは食べるためだって」
「あー。まあ、食べることもある」
 殺生を禁じられているバラモンの子供の言葉にクシャトリヤの王子が回答すると金色の瞳が大きく潤んだ。
「ドゥリーヨダナはこの前、俺にマンゴーをくれた。その前はライチもくれた。俺のこと食べるつもりなんだー!」
 大声で泣き出した子供に王子は爆笑した。それに頬を膨らませた子供に笑いかける。
「アシュヴァッターマン。食われると思ったらそいつから全力で逃げるべきだろう?泣きついてどうする?」
「食べるの?」
「こんなちっちゃな体を食べる程、わし様は飢えておらん」
 その言葉に幼子は安心したように体をすり寄せた。


■2024/05/04
現パロアシュヨダ
「そして捕まえた」
※「ああ、今度は勝つぜ」「I love you」の続き

「ここにテーマパークを作る!」
 高価な腕時計をこれみよがしにつけたドゥリーヨダナの手が地図を叩いた。
 その場所は俺達が前世で戦ったクルクシェートラの地の近く。未だ原生林が残る広大な森だ。そして、俺の前世の記憶では呪いを受けたあいつが消えていった森でもある。
「アシュヴァッターマンを探すんじゃなかったのか?」
 俺の疑問にドゥリーヨダナは不愉快そうに顔を歪めた。
「探したとも。だが見つからん。──誰かさんが『ひとりで森を彷徨うがいい』なんていうくそったれな呪いをかけたせいでな!」
 こいつには珍しい下品な罵倒に俺は返す言葉を持たない。あいつがやったことは許されないが、俺達兄弟やドゥリーヨダナ、カルナ達が転生した後も独りで呪いを受け続けるのはやり過ぎだろう。──だが。
「ここは自然保護区だ。開発なんて出来ねぇぞ」
「自然は金にならん。今必要なのは観光だ。我が国が誇る叙情詩の英雄ドゥリーヨダナが率いるカウラヴァをテーマとした一大施設の方が即税収になる。そう決まった」
 根回しを終えたらしいドゥリーヨダナは悪辣な顔で笑う。
「『森を彷徨う』呪いなら、その森を更地にしてくれる!待ってろよ!アシュヴァッターマン!!」
 高笑いするドゥリーヨダナは必ずあいつを取り戻すだろう。

■2024/05/04
ビマヨダ
「嫌がらせだっただろう?」

「ドゥリーヨダナ、何してるの?」
 ふたりで敵地に潜入する途中、森の枝を引っ張ったり結んだりしているサーヴァントにマスターは尋ねた。
「こういうのは王宮育ちのわし様向けではないのだが、帰りの随行サーヴァントはビーマの奴だろう?嫌がらせだ」
「嫌がらせ
 どう見ても罠を作っているように見えるドゥリーヨダナにマスターは口をつぐんだ。
 ドゥリーヨダナは我がままで尊大だがマスターを害する男ではない。何か考えがあるのだろうと。
 そして
「凄い、確かに嫌がらせだ」
 敵を倒し、マスターを抱えて走るビーマの後ろで悲鳴が響き渡る。
 ドゥリーヨダナの仕掛けた罠を、ビーマは見ていたように避けるが追っ手達は面白いように引っかかるのだ。
 ぎりぎりと歯ぎしりが聞こえる。
 宿敵が設置した罠に助けられているのが気に入らないビーマが走る速度を増す。マスターの耳元で風がごうこうと唸った。
助けてくれたんだから喧嘩しないでね」
 マスターの言葉にビーマは子供のように唇を引き結んだ。


■2024/05/04
ビマヨダ
「だが、おまえはどうだったかな?」

「なになに?昔々あるところにおじいさんとおばあさんが?つまらん!昔々インドの大国にそれは素晴らしい王様とお妃様が暮らしておりました」
 絵本の読み聞かせをしていたドゥリーヨダナが開始3秒でアドリブを始め、集まった子ども達は目を輝かせた。
「お妃様は玉のような子どもをたくさん産んで、みな面白楽しく過ごしていました。ところがある日!王様の弟の子ども達が国を寄越せとやってきたのだ!」
 大げさに嘆くドゥリーヨダナにジャック・ザ・リッパーは首を傾げた。
「お母さんならはんぶんこするよ」
「なんで一度手放したものを返してやらねばならん」
……
 ところでここは食堂である。つまりは厨房のビーマにもドゥリーヨダナのよく通る声が聞こえていた。
 ドゥリーヨダナとよく一緒にいるふたりの視線を感じながら、ビーマは無言で料理を続ける。
「もとより父上は伝統だのなんだのとうるさい奴らには嫌われておった。わし様達もドラマティックな出生故に妬まれておった。──そんなわし様達が王位を追われたらどうなると思う?」
「兄貴はそんなことはしねぇ!」
 思わず叫んだビーマにドゥリーヨダナは鼻を鳴らした。
「ユディシュティラはそうだろうな。ビーマセーナ」


■2024/05/03
ビマヨダ
「そんなに分かりたくないんですか?」
※まほよコラボのネタバレがあります
※女体化注意

「わし様をこんなにした下手人は誰だー!!」
 全裸で天空の間に飛び込んできたドゥリーヨダナにマスターの少年は絶句した。目に入るのは、ふんわりとしたふたつの果実。細い肢体。そして柔らかくなった顔。
「わし様の美貌が損なわれるなど世界の損失だろう!」
 高い声で主張する女性になったドゥリーヨダナに、追いついて来たカルナが大きなバスタオルを巻きつける。
「アシュヴァッターマンは?」
「水風呂に浸かっている」
 彼らの様子から想像するに入浴している最中にドゥリーヨダナが変化したのだろう。真面目なバラモンの受難にマスターは心の中で黙祷した。
「カルナは平気なんだ?」
「オレはブリハンナラで慣れている」
「人聞きの悪いことを言わないでもらえますか」
 突然の声に三人は入口を振り返った。そこには肩を落としたビーマと見慣れない生き物を抱えたアルジュナがいる。
「それ、怪異というか椀椀様に似ているように見えるね」
「残滓のようなものです。変成男子を女子にする程度の力しかない」
「それでわし様の偽物が現れたのか。プチっと倒したが。──で、なんでビーマがおるのだ。つきそいか?」
「私があなたを女にしたいと願うわけがないでしょう!!」


■2024/05/02
生前アシュヨダ
「ひとつの願い」

 愛して欲しい。死んで欲しい。富が欲しい。地位が欲しい。苦しんで欲しい。呪われて欲しい。望みを叶えて欲しい。──最も素晴らしい王子たるわし様の元には有象無象どもが数多の願いを持ってきたものだ。
 誰もが願いを口にする。カルナですらも。だが、一度も望みを言わない者がひとりだけいた。
「アシュヴァッターマン。おまえはわし様に叶えて欲しい願いはないのか?」
「──ねぇよ。強いて言うならパーンダヴァとの和平に同意してくれ」
「い・や・だ!!」
 この男が自分と叔父の首を差し出すから和平を結べと馬鹿な事を言いだしたのは数日前だ。断固として拒否してわし様はアシュヴァッターマンに言葉を投げた。
「だいたいおまえの命を賭ける意味などないだろう。わし様と違っておまえとドローナ師はどちらが勝とうとどうとでもなるではないか。──悪かった」
 その顔に浮かんだ表情にわし様が謝罪すると、アシュヴァッターマンは無理に笑みを浮かべた。
 ──あの時と同じ顔をしているアシュヴァッターマンを潰された顔でわし様は見上げた。震える声が降り注ぐ。
旦那。俺の願いを叶えて欲しい。──死なないでくれ」
 ああ、俺は。最初だけでなく最期にも生を願ってもらえるのか──。


■2024/05/01
わし様+モブ
「ありがとう」

「あいたぁ!!!」
 突然叫んだ男に女は目を丸くした。薄暗い部屋で女の手は男の手を自分の胸に押し当ている。男は藤色の目を痛みに歪めて吐き捨てた。
「そんな余計な事はしなくてよい!わし様の妹がうるさいではないか!」
 男と女が出会ったのは数時間前だった。荒れた路地裏で女を乱暴に組み敷いていた青年の頭を男が果実のように握り潰したのだ。血を浴びて呆然とする女に男は問いかける。
「この辺りで若い娘が休めるところはないか?」
 よく見ると男はぐったりとした少女を背負っていた。話を聞くと旅人で体調を崩した妹を休ませたいらしい。
 だから女はこの家にふたりを連れてきて、少女が眠りについた後に『お礼』をしようとしたのだ。
 女の胸から手を振り払って男は頭を抱える。本当に痛みを感じているかのような仕草に手を伸ばすと男は叫んだ。
「近づくな!まず服を直せ!わし様はそんな返礼などちょっとは役得だと思わないでもないが、いててっ!ドゥフシャラーの奴が暴れるので今は受け取れんのだ!!」
 妹を理由に不器用な芝居で女を気遣ってくれる男に、女は目を潤ませた。
 だから、男の妹の代わりに囮になってもいいと思ったのだ。血の海に沈んで女は微笑む。


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