ちよど
2024-11-16 13:30:43
24007文字
Public わし様など
 

練習1P 4月分まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。
わし様中心SS。節操なくCP混在。

■2024/04/30
カウラヴァ聖杯戦争
「当然の結果だな」

「ドゥリーヨダナ。跪け!誰がマスターだと思っている!」
 令呪の強制力にドゥリーヨダナは膝をついた。大陸の片隅で行われた聖杯戦争に召喚された彼はマスターの男と一緒に索敵の最中だった。そこで単独行動していた他のサーヴァント2騎と遭遇したのだ。
「カルナにアシュヴァッターマンではないか!──勝った!この聖杯戦争勝ったな!」
 敵意なく姿を見せた友と抱擁を交わし、ドゥリーヨダナはくふくふと笑う。
「そちらのマスターはどうだ?おまえ達を信用しておるか?なら
 悪巧みを始めたドゥリーヨダナに苛立ったのは彼のマスターだった。サーヴァントに似て尊大な男は使い魔に軽んじられたと令呪を振りかざす。
 そうして頭を垂れたドゥリーヨダナに男は命じた。
「おまえはこいつらの主なのだろう?だったらおまえのためにマスターを殺してこいと命じろ」
 頭を下げたままのドゥリーヨダナが声を震わす。
カルナ、アシュヴァッターマン。わし様のためにマスターを殺してくれるな?」
「ああ、」
「分かった」
 平坦な声が重なった瞬間。ドゥリーヨダナのマスターの頭が潰れ心臓が刺し抜かれた。ドゥリーヨダナが笑う。


■2024/04/30
アシュぐだ
「さぁて。盛大にごねてやるとするか!」

「例えば、人質にされたのがわし様だとしたらおまえ達はどうする?」
 ドゥリーヨダナの質問にアシュヴァッターマンはひゅっと喉を鳴らした。
「おまえなぁ。まさかとは思うが相手の言いなりにはなるんじゃないぞ。わし様ならそんな便利な道具を開放したりせんからな」
 怒るどころではないその様子に呆れたドゥリーヨダナにカルナが首を振る。
「おまえが大人しく囚われているとは思えん」
「大人しくさせる方法ならいくらでもある。まあ、わし様は賢いので身を守るぐらいはするがな」
 方法を想像して青ざめたアシュヴァッターマンにドゥリーヨダナはため息をついた。
「問題は、囚われたのがまだ小娘のマスターだと言うことだ。アシュヴァッターマン!」
 呼ばれ、顔つきを変えたアシュヴァッターマンにドゥリーヨダナは命じる。
「こういうのは得意な奴に任せるものだ。バーの教授を連れて来い。その間わし様とカルナでマスターの無事を確かめつつ時間稼ぎをする。──行け!」
 飛び出したアシュヴァッターマンの背にドゥリーヨダナが声を投げた。
「かっこよく助けに来た王子様役は譲ってやろう!」


■2024/04/29
ビマヨダ
「と、言うことでわし様は休む」

「わし様、ゴールデンタイムにはおねむをすると決めておるのだ」
 怪異の大発生に駆り出されたドゥリーヨダナの言葉に、少女から抜け出しつつあるマスターはその背中をどついた。
「サーヴァントは睡眠も美容も関係ないでしょ!ほらキリキリ働く!!こんなにわし様向けのクエストはないよ!」
「わし様の強化はもう終わったであろう?QPもアイテムももう必要ないではないか」
「わし様が高難易度から周回も全てこなしてくれるというならいいよ」
 目が座ったマスターにドゥリーヨダナは子供のようにしゃがみこんだ。
「やだやだやだ。わし様も休みたーい!!はっ!そうだ!いたたたた!!死因の足の傷が痛むので今日は休ませてもらう!」
 わざとらしく左足を抱えたドゥリーヨダナの後ろで空気が凍りついた。彼以外の全員が、絆上げのために編成されていた新入りのランサーを見る。
 異様な雰囲気に気付いたドゥリーヨダナが振り返る。
「ビーマではないか。そんな顔してどうしたのだ?」
 わざとらしさのない表情にマスターの顔が引きつった。
「だって、ドゥリーヨダナ、その死因」
「ん??ああ、マスター。確かにわし様はビーマに殺されたが。そんなことこやつが気にするはずがないだろう?」


■2024/04/28
アシュヨダ
冷えてきたな」

「片田舎の温泉だが、貸し切りとあればまあ楽しめる」
 露天風呂に浸かったドゥリーヨダナの言葉にカウラヴァのふたりは夜空を仰いだ。静寂に星が瞬いている。
「──静かすぎねぇか。旦那、何か隠してんだろ?」
「くふふ。悪霊などおまえ達の前では存在すら出来まい?」
 顔を見合わせた太陽神の息子と魔除けの宝珠持ちは悪巧みでなければいいか、とドゥリーヨダナの左右に腰を下ろした。温かいお湯が三人を包み込む。
「王宮にはそこそこ怪談話があったものだが、おまえ達は遭遇した事はないだろう?よくドゥフシャラーが泣いてベッドに潜り込んできたものだ」
「初耳だ。アンガ王宮にはその手の話はなかった」
「それはおまえがいたからじゃねぇのか。カルナ。──怪談話じゃねぇが不思議な話ならあるぜ」
 アシュヴァッターマンの言葉にドゥリーヨダナが目を輝かせた。それに苦笑してアシュヴァッターマンは口を開く。
「大した話じゃねぇんだが。──俺が森を彷徨っていた時。孤独の呪いを受けていたはずだが割と人に会う事が多くてな。その頃の俺は目が良く見えなかったんだが、みんないい奴ばかりで何度も一緒に行こうって誘われたんだ」
 不思議だろう?と笑うアシュヴァッターマンにドゥリーヨダナは顔をこわばらせた。
クリシュナの奴がそんなヘマをせんだろ。それは──」


■2024/04/27
ビマヨダ
「素直じゃないなぁ」

ドゥリーヨダナ、なにしてるの?」
 食堂で雑に顔が描かれた紙袋を被ったまま食事をしている男にマスターが問いかけると。首から下はいつもの格好のままのドゥリーヨダナは人差し指を立てた。
「しー!今のわし様は謎の男D。新しく来たフォーリナーに譲ってもらったこの古式ゆかしいアーティファクトで正体を隠しておるのだ」
「それ。どう考えてもわし様より新しい神秘だよ」
 言いながらマスターは謎の男Dの隣に座る。ふと見ると男が食べているのは新しいメニューだった。
「それビーマさんが作ったんだよね。美味しい?」
謎の男Dとしてはなかなかの点数をつけてやらんでもない」
 その声色にマスターは悟った。ドゥリーヨダナが変装?してまでここにいるのはビーマの新作を食べに来たのだと。
「おいしいんだ?よかったね」
 にこにこと笑うマスターと沈黙を保つ謎の男D。そのふたりに影が差した。突然変装用の紙袋が剥ぎ取られる。ドゥリーヨダナが振り返るより早く、その紙袋は何かをぱんぱんに詰められた状態で突き返された。
 無言で去っていく白い服に紫の髪の男を見送って、マスターは処理落ちしているドゥリーヨダナに声をかける。
「おいしそうな匂いがする。謎の男Dさんへのお礼かな?」
それなら受け取ってやらんでもない」


■2024/04/26
アシュヨダ
「ああ、違わねぇ」

「いたぁ!」
 悲鳴に俺は旦那を見上げた。その出されたままの舌先が赤くなっている。
「だからやめとけって言ったじゃねぇか!」
 それを摘んで自分の舌を触れさせる。魔力を含ませた唾液を擦り付けると、柔らかな器官はすぐに元の滑らかさを取り戻した。
 旦那が何かを言おうとするので俺は舌を離す。
「理不尽!!生前はなんともなかったんだが!」
「今のあんたは魔性属性で、俺のコレは魔除けの宝珠だ!触るだけならともかく!舐めるんじゃねぇ!」
「じゃあ触るのはいいんだな?」
 にやりと笑った旦那に自分の失言を知るが口に出した言葉は取り戻せない。黙り込んだ俺に旦那は楽しそうに手を伸ばした。
 小さく皮膚が焼ける音がする。だと言うのに旦那は嬉しそうに宝珠を撫で回している。
そんなに欲しいなら、」
「やめろ。今のおまえだとろくなことにならん」
 遮った理由は俺の逸話だろう。俺のこの宝珠を外して逸話が再現されでもしたら困るどころではない。
 うなだれる俺の額を旦那の指が弾いた。
「外されたものはあやつのものかもしれんが、ここにある限りこれはわし様のものだ。違うか?」


■2024/04/25
生前カルヨダ
「わし様も初めて、なのだ」

「友とは冒険をするものだ」
 そう、アンガ王になったばかりのカルナをナーガ討伐に連れ出したクルの王子は胸を張った。討伐隊とははぐれてふたりきり。カルナは弓を構え直した。
「討伐が冒険なのか?」
「バラモンどもはそう謳うが? ──ところでおまえ、わし様の他に友はおるのか?」
 川辺の叢に身を伏せながらの会話にカルナは首を振る。
「いない。──オレの力と鎧は恐ろしいものらしい」
「はぁ?便利だろうが!んん、まあよい。ならばおまえの初めての友はわし様ということだな!」
 声を弾ませるドゥリーヨダナに顔を向けず、カルナは弓を引いた。──矢を放つ。
 目玉を射抜かれたナーガが身をくねらせるのと同時にドゥリーヨダナが飛び出す。一瞬で距離を詰め棍棒を振り上げた。鈍い音が響く。ナーガが潰れた頭を垂れた。
「終わったな。後は迎えを待った方がいい」
「それではつまらんではないか!ここは夜通し好みの女などを語り合うべきだろう?」
「──先程から何をなぞっている?」
 何かの型通りの行動をしようとしているドゥリーヨダナにカルナが問いかけると、クル国の長兄は口ごもった。
「わし様はクルの世継ぎなのだ。同年代のパーンダヴァの連中は政敵だし、つまりその──」


■2024/04/25
カルヨダ
「遅くなった」

「アルジュナは馬鹿がつくほど真面目だからなぁ。絶対そのまま再現していると、わし様は思うわけよ」
「確かに。アルジュナならばそうだろう」
「おまえら人の弟を分かった風に言うな」
 ドゥリーヨダナとカルナの会話にビーマがツッコミを入れる。第4異聞帯のフリークエストを終えて3人は宝探しをしていた。
 もちろん言い出したのはドゥリーヨダナである。カルナは当然のようにそれに同行し、ビーマは彼らの監視としてついてきた。
 そのドゥリーヨダナは風景を確認しながらひとつの洞窟へと入り込む。一番奥の壁に棍棒を叩きつけた。
 崩れる壁の向こうに現れた財宝にビーマが息を呑む。
「おまえーっ!こんな所に財を隠していたのかっ!!」
「ふん、欲しければくれてやるわ。このひとつ以外はな」
 ドゥリーヨダナの手が山のように積まれた財宝の中から、焼け焦げた宝石で出来たチョーカーを拾い上げる。彼はそれをカルナに手渡した。
「おまえと一緒に燃やしたのだが、燃え尽きてくれなかったのだ。……受け取ってくれるか?」
 カルナは手の中のチョーカーの残骸を見た。首を覆うこれをもし彼があの決闘の時に身につけていたならば
「受け取ろう」
 カルナの言葉にドゥリーヨダナが微笑んだ。


■2024/04/24
カルヨダ
「愛されていたという事だ」

「そのジュリエットとかいう女は度し難い」
 カルナの言葉に演劇に興じていたサーヴァント達は動きを止めた。このカルデアにカウラヴァはひとりもおらず、ガネーシャ神はいつものように自室に籠っていた。そのため、その言葉を翻訳出来る者はおらず、かろうじて
「カルナさんはどうしてそう思うの?」
 マスターがそう尋ねられ、カルナは舞台の上へと視線を巡らせた。
「呼ばれたのなら行けばいい」
「それが出来れば誰も苦労しねぇって」
 呆れたようなツッコミにカルナはゆっくりと瞬きした。
「ドゥリーヨダナは来た。オレが迎えに行くと何をしていても現れた」
 王子たるドゥリーヨダナが出来て、ただの貴族に過ぎないジュリエットが出来ない理由が分からない。そう言うカルナに童話作家が首を振った。
「それはおまえが深窓の令嬢よりも甘やかされていたという事だ」
 運良く劇作家は不在だったため、カルナはゆっくりとその意味を考える。
「ふたりで下町の祭りに出かけたのも、遠乗りで草原を駆けたのも、……甘やかされていたのだろうか」
 幼い少年の姿の童話作家はため息をついた。
「それはな、」


■2024/04/24
ビマヨダ
「今のうちに頷いた方がいいと思うよ」

「へたくそな交渉だなぁ。どれ、わし様が手品でも見せてやろう」
 ビーマを連れたマスターが男達と話し合っている間、ふらりと離れていたドゥリーヨダナの手には拳大の石があった。
 身構える男達にドゥリーヨダナは大げさに肩を竦める。
「こんな石ころひとつ気にすることはあるまい。この大きさではこの程度の手品がせいぜいだな」
 ドゥリーヨダナの大きな手が石を包み込む。
「見ての通り種も仕掛けもないぞ。ふんっ!」
 凄まじい音が響いた。満足気にドゥリーヨダナが手を開く。そこには親指程の大きさに圧縮された石があった。
「その程度の手品なら俺にも出来る!」
 震え上がる男達に構わずビーマが道端に転がっていた石をつかみ上げる。
「ふんっ!」
 指先で潰された石は、ドゥリーヨダナが先程圧縮した石よりもわずかに小さかった。
「その程度でいい気になるなよ、わし様が本気を出せばこうだ!」
 ドゥリーヨダナが新たに石を握りつぶす。それを見たビーマがまた石をつかみ上げた。
 石の断末魔が響き渡るなか、恐怖に立ちすくむ男達にマスターは提案する。


■2024/04/24
彷徨アシュくん✕転生ヨダナさん
「I love you」

 現代の発音にはまだ慣れないが、旦那に教わった挨拶をして俺は執務室に入った。
「うむ!だいぶ上手くなってきたな。わし様以外にその挨拶はしていないな?」
「してねぇよ」
 今では古語らしい言葉で会話していると、旦那は紙の束を俺に見せてくれる。
「建設中のカウラヴァパークだ。おまえの像もあるぞ」
「だったら旦那の像はいくつあるんだよ?」
 笑いながら俺は俺が囚われていた森の跡地に建てられるという遊技場の絵を眺めた。
「ちゃあんとカルナの像もある。アトラクションも多彩でな。イチオシは賭博場だ。パーク内での通貨を賭けるのだが限度額なし。通貨は金ではなくパーク内の施設を使用する事で手に入るので司法も文句を言うまい!」
 ふはははは、と悪役の顔で笑う旦那に俺は目を細めた。
 そんな俺の髪を旦那は軽く引っ張る。
「傷もだいぶ塞がったな。痛みの方はどうだ?」
「ほとんどねぇよ。あんたが森ごと呪いをぶっ潰したからな」
「わし様は天才だろう?あの挨拶をもう一度言ってみろ」
 俺は言われるままに教えられた挨拶を口に出した。
 その言葉の意味を、のちに理解した俺は絶叫することになる。


■2024/04/23
彷徨アシュくん✕転生ヨダナさん
「ああ、今度は勝つぜ」

「捕まえたぞ!アシュヴァッターマン!!」
 呼ばれたような気がして俺は顔を上げた。体は大きな網のような物に絡みつかれて地面に引き倒されている。
 そんな俺の前に立ったのは数千年ぶりに見る人間だった。俺が囚われている森をここ最近熱心に削っていた大きな鉄の塊をいくつも従えている。
 どこか遠くに響く声で男が言葉を連ねる。
「わし様がいて、カルナもいた。あのビーマまでもがおるというのにおまえがいないのは何故か!?賢いわし様はピンときた!あのクリシュナのろくでもない呪いのせいではないかと!『ひとりで永遠に森を彷徨うがいい』?よろしい!ならば森そのものを更地にしてやろうではないか!!」
 一息に言って男は俺の顔を覗き込む。
「念の為に確認だが、わし様が誰か分かるか?」

……だん、な」

 そうだ、この人はドゥリーヨダナだ。そして俺はアシュヴァッターマン。ぼんやりしていた意識が形を取り戻す。四肢に力が巡り体を起こした俺を旦那が抱きしめた。
「アシュヴァッターマン!!おまえが来たからには百人力だ!!再びのハッピーカウラヴァタイムといこうではないか!」
 子どものように笑う旦那に俺も笑った。


■2024/04/22
カルヨダ
「とりあえず今日だ!!」

「ねぇ、カルナさんの誕生日っていつ?」
 マスターの無邪気な質問にカルナは口ごもった。食堂にいた聖杯知識で事情を知っているサーヴァント達の間に沈黙が落ちる。それを打ち払ったのはドゥリーヨダナだった。
「カルナの誕生日ならわし様はよぉっく知っておる」
 当の本人が目を丸くするのに構わずドゥリーヨダナは続けた。
「わし様だけではない。アシュヴァッターマンも、アルジュナのヤツも。ビーマすら知っておるわ」
知らないのはオレだけか」
 顔色を曇らせたカルナにアシュヴァッターマンが慌てて首を振る。居合わせたアルジュナもビーマも心当たりがない様子にドゥリーヨダナは不満げに鼻を鳴らした。
「ふん、どいつもこいつも情けない」
 ドゥリーヨダナがカルナの細い体を抱き寄せる。
「いいか、よぉっく聞け。『英雄カルナ』が生まれた日はわし様とおまえが出会った日だ。わし様がおまえを見出したから、おまえは『カルナ』に成ったのだ。──それ以外にない」
 その言い様にパーンダヴァの兄弟の顔色が変わる。そんな彼らの『本当の長兄』は目を細めてドゥリーヨダナの体に手をまわした。
 そこに神経がナイロンザイルのマスターが口を挟む。
「じゃあ、結局いつなの?」


■2024/04/22
ビマヨダ
「とある特異点の話」
※ビマさんがヨダナくんを殺害してます。

 ビーマの手によって倒された少年は聖杯を持っていなかった。
 古代インドの特異点。マスター達が招かれた宴では毒も盛られた者達が何人も何人もうめき声をあげて転がっている。
 その宴の主催であり犯人である少年は父とは異なる紫色の髪を散らばらせて絶命していた。
「スヨーダナ!? スヨーダナ!!」
 上座に有り一人だけ無事だった盲目の王妃が叫ぶ。この特異点で初めて聞くその名前にビーマが顔を歪ませた。
「やっぱりここはドゥリーヨダナがシャクニの子供として逃された特異点か。──王の子供じゃなくても意味がなかったどころか、」
 その目は毒に苦しむ99人の王子達を映していた。母親が何かと構う『従兄弟』を虐めていた彼らも少年の悪意の対象になっていたのだ。
「──あなた方は何もかも知っているのですね」
 王妃が静かにビーマの方へ顔を向ける。その手が両目を覆う布に触れた。
 美しい唇が歪む。
「また、この子を殺しましたね。ビーマセーナ」
 目隠しが外され、溜め込まれた霊威が溢れ出す。再び子供を亡くした母親の胸で聖杯が輝いた。


■2024/04/21
わし様+マスター
「それは永久封印された」

「顔のシミュレーション!?」
 マスターが食堂に持ってきた端末にはダ・ヴィンチちゃん製のAIがインストールされていた。AIといっても某後輩には及びもつかない玩具みたいなものだが。
 覗き込むサーヴァント達にマスターは説明する。
「顔の年齢を変えられるんだ。みんなの子供の頃の姿が見たくって」
 屈託なく笑うマスターに皆も微笑む。その中でドゥリーヨダナが爆弾を投げた。
「それは年をとった姿も見られるという事だな?わし様、さらにダンディなわし様を見てみたい」
 ざわり、と夭折した者達とその関係者が雰囲気を変えた。
 王妃が楽しそうに手を打つ。
「素敵だわ!私もおばあちゃんになった私を見てみたいわ!」
 その言葉に妻が先立った夫を見る。憧れの英雄を見上げる者。若くして死んだ友の手を取る者。殺した相手を盗み見る者。そして不老の者達も顔を見合わせた。
「待て待て、最初は言い出したわし様からだろう?」
 進み出るドゥリーヨダナにカルナとアシュヴァッターマンが付き添う。
 ドゥリーヨダナが端末を覗き込み、AIがその顔を書き換えていく。──そして。
「!!アシュヴァッターマンが倒れた!!」


■2024/04/20
現パロカウラヴァ
「違う、そうじゃない」

「今、何枚溜まった?」
 カルナの質問にアシュヴァッターマンは手元のナンをちぎる。
 カウラヴァグループ系列のインド料理屋でふたりは食事をしていた。
「50枚くらい」
 アシュヴァッターマンが溜め込んでいる宝物はドゥリーヨダナの名刺である。
 ビジネス用の名刺とプライベート用の名刺を分けるのは嗜みだと聞くが、ドゥリーヨダナはみっつめの名刺を持っている。その使い道は。
「では、オレが使おう」
 食べ終わっているカルナがボーイを呼ぶ。持ってこさせた伝票に持っていたドゥリーヨダナのみっつめの名刺を挟んだ。
「オレの名前は書いてある」
 その言葉に頭を下げてボーイが下がっていく。
 ドゥリーヨダナのみっつめの名刺は魔法の名刺だ。これに自分の名前を書けば、カウラヴァグループでなんでも贖うことが出来る。なんでも、だ。
 ドゥリーヨダナは目をつけた相手にこれを配っていた。
 当然、お気に入りのふたりは山のようにそれを渡されていたが。──溜め込むアシュヴァッターマンと飲食店にしか使わないカルナにドゥリーヨダナは頭を抱えていた。


■2024/04/19
ヨダナさん+ムニエル
「萌えの代償は」

「おまえ、男の娘とやらが好きだそうだな?」
 突然性癖を晒されてムニエルは顔を引きつらせた。それに構わずドゥリーヨダナはムニエルのむちっとした肩を抱く。
「なんでも三次元の女は興味ないとか? ──ところでわし様はそれは美しい女装っ子を知っておるが」
「くわしく」
 悪属性のあからさまな釣り餌にムニエルは食いついた。代償?萌えの前には些細な事だ。
「わし様の従兄弟にて大英雄たるアルジュナは女装して後宮で過ごしていたことがある」
 ムニエルの喉がごくりとなった。後宮は女の園である。そこに男の娘がいて何も起こらないはずはなく──。
 ちなみにこのカルデアにはアルジュナはオルタしかいない。つまりは、うさ耳?女装子がムニエルの脳内に爆誕していたのだ。
「もっと聞きたいか? ──なら、」
 ドゥリーヨダナの提示した代償にムニエルは無条件で頷いた。
 そして今、ムニエルはその代償を支払っている。霊基異常で混乱するカルデアの中で彼は一人の少女を見つけ出したのだ。
「シャラーちゃん、お兄ちゃんの代わりに迎えにきたよ」
 ドゥリーヨダナから逸れた霊基のひとりが顔を上げる。


■2024/04/19
ビマヨダ、カルヨダ
「例のアレ」

 このカルデアにビーマが召喚されて以来、ドゥリーヨダナはあの手この手でビーマを挑発している。
 挑発しては撃退されているそれを世間ではうざ絡みとも言うが、今日のドゥリーヨダナは何故かマイクを片手にビーマにラップバトルを仕掛けていた。
 軽快に韻を踏む。
「変わらねぇな、森育ち。ディスってみろ、これはフリースタイル」
 マイクを受け取ったビーマが真顔で叫ぶ。

「髭が変!」



「泣いちゃったでしょ!泣いちゃったでしょ!!ちいさくてかわいい生き物みたいに!」
 ビーマを叱るマスターの後ろで涙を流すドゥリーヨダナに赤いもふもふが近づいた。
「国が必要か?」
「かるなぁ!!」
 抱きつくドゥリーヨダナにマスターが振り返った。
「あ、訂正。かわいくてちいさな生き物じゃなかったわ」


■2024/04/17
ビマヨダ
「ひ、卑怯すぎる!!」

 純粋な神の力は圧倒的だった。
 サーヴァントとしてデチューンされておらず、また信仰も歴史もしっかりと維持しているその神は怒り狂っていた。光芒から反射する光がいくつも大地を抉る。
 それにビーマは槍を構えた。その背後、ドゥリーヨダナに庇われているマスターが叫ぶ。
「ビーマ!!ここは一度撤退
「二度目はねぇのは分かってんだろ、マスター。心配しなくても、俺は一応半神だ、あの程度耐えられる」
「ハァ!?おまえは自分が半神だから強いとでも思っておるのか?」
 明らかな無茶に大声を上げたのはマスターではなくドゥリーヨダナだった。
「賢いわし様が教えてやろう。おまえは馬鹿だから強いのだ」
「状況が分かってんのか!この、」
 喧嘩を売られて振り返ったビーマはドゥリーヨダナの表情を見て言葉を失う。ぎらぎらと屈辱に輝く目が美しくて。
「馬鹿ビーマ。あほビーマ。あんなものに真っ向から突っ込むような馬鹿に負けたかと思うと情けなくて座に帰りたくなる」
 矛盾した事を言いながらドゥリーヨダナは声をひそめた。
「いいか、こういう時はな
 囁かれた作戦にビーマとマスターは声を揃えて叫んだ。


■2024/04/17
カルヨダ
「力技は得意だ」

「かぁるなー!!わし様とおまえのように分かち難くくっつくはずなのだ。これは」
 ドゥリーヨダナの自室に入った途端、助けを求めて差し出された玩具にカルナは目を瞬かせた。
 事情はさっぱり分からないがそれでもカルナは細やかな針金細工のそれを受け取る。
「これをこうして、こうなるはずなのだ」
 ドゥリーヨダナが針金の一部を動かすと全体の形が変わる、がそれは不揃いで意味のあるものではなかった。
 絡み合った針金を動かして、元の形に戻す玩具だ。
 カルナはドゥリーヨダナの言葉を繰り返した。
「オレとおまえのようにくっつくのか?」
「それはもう、ぴったり、と、だ」
 ドゥリーヨダナの断言にカルナは手元の針金細工を動かす。くっつくどころか崩れていく形に白い眉が寄った。
「オレとおまえが分かち難いのは。おまえもオレもそうあろうとしているからだ」
「そうだそうだ!根性がないぞ!針金の分際で!!」
 文句を言うドゥリーヨダナにカルナは断言した。
「くだらない玩具だが、おまえとオレのようにあるべきだと言うなら俺は全力を尽くそう」
「あ、待て!」
 ドゥリーヨダナが制止するよりも早くカルナの手の中で針金細工がめきりと変形した。


■2024/04/16
カルヨダ+ドローナ
「おまえに与える必要はない」

「わし様の友はアンガ王だが?」
 ドゥリーヨダナの主張にドローナは眉をしかめた。
 クル王族の鍛錬場は選ばれた者しか入れない。それは王族にのみ伝える武術の奥義などがあるからだが、そこにスータを連れてきた王子は彼を王族と共に指導しろとまたわがままを言うのだ。
「いつ戦が起こるか分からないのだ!カルナほどの勇士がさらに武芸を磨く事はクル族の財産だ!!」
 重ねられた言葉にドローナは首を振った。
「私の雇い主はあなたの父であり、あなたではありません」
「カルナはアンガ王だ。──賢明な師ならば後々のことを考えて王族を追い返したりしまい?」
 ちらりと小狡い王子が向けた視線の先で愛息子がこちらを見ていた。──息子のためにも禍根が残るのは良くない。
「追い返しはしない。だがそれだけだ」
 言い捨てると王子は顔を輝かせた。
「なら、見ているのはいいのだな! ──カルナ!わし様の勇姿をしっかり見るのだぞ!!」
 鍛錬場の隅に立っていたスータは王子の声にわずかに微笑むと、ドローナに軽く頭を下げた。
 ──友情と引き換えに玉座を与えられた男。
 ドローナは彼から視線を外し、そして二度と顧みなかった。


■2024/04/16
アシュヨダ+ぐだマシュ
「喜んで欲しいから」

「あ、アシュヴァッターマン!これは、その、マシュにプレゼントしようと思って
 マスターの部屋には色とりどりの包装紙が散らばっていた。少年の手元には華やかな赤がある。
「──旦那の受け売りなんだが。好みがあまり派手じゃねぇヤツへの贈り物は入れ物を地味にして中身を豪華にするといいらしい」
「え、でもそれって受け取った時にがっかりしない?」
 マスターの疑問は最もだ。俺も昔、旦那に小さな木製の容器を貰った時にそう思った。蓋に何の装飾も施されていないそれを母にと言われた時には少しがっかりしたものだ。
 それも、蓋を開けた母の顔を見るまでだったが。
「外側は相手に合わせた方が使って貰いやすいぜ」
 実際、あの地味な容器は旦那が贈ったものだと父に気づかれず、あまり派手を好まない母の部屋にずっと置いてあった。そして時折母はそれを開けては顔を綻ばしていた。
 容器の中身は香りのよい軟膏だった。
 貧乏だった時代に荒れた手にも、来客前の顔にも塗れる滑らかなクリーム。
「中身に自信あんだろ? ならこの色はどうだ?」
 俺の提案にマスターは顔を輝かせた。
「マシュの髪の色だ!ありがとう!アシュヴァッターマン」
 旦那と違って打算のないプレゼントを抱えるマスターに俺は微笑んだ。


■2024/04/15
カルヨダ+サンタカルナ
「愛する者」

「何故、オレに勝てないのか。おまえには分かるまい」
 サンタのオレのエキシビションとやらに付き合いながら槍を薙ぐと、リングの外から声援が上がった。
「いけいけ!わし様のかぁるなぁ!!!」
 赤と緑の2色の団扇を交互に振る友に苦笑が零れる。
「移り気な事だ」
「勝者も敗者も共に応援するとは、強欲としか言いようがない」
「──おまえの敗因を教えてやろう」
 床に伏せたサンタを置いて、カウントとやらを待たずにオレは友の元へと向う。
 ドゥリーヨダナは当然のようにオレの体を抱擁した。
「──オレの鎧が怖くないのか?」
 初めて抱擁された時の言葉を繰り返すと、ドゥリーヨダナはくつくつと笑った。
「動かない鎧などこちらが避ければいいだけのことだ。──おまえこそ力加減を誤ってくれるなよ」
 あの時と同じ言葉にオレはドゥリーヨダナの体に腕をまわす。
「おまえに危害を加えるなら、オレは自身の腕だろうが許しはしない」
「ヴァージョンアップしたな!?」
 オレを恐れず笑う友がいるから、オレはこの身を裂いても強くあれるのだ。


■2024/04/15
アシュヨダ+モブ
「旦那のそういうところが、」

わし様に恥をかかせたな」
 ドゥリーヨダナの低い声に料理にわざと汚い布を触れさせた奴隷に視線が集まる。俺はため息をついた。
 元はと言えば数日前の旦那の気まぐれが原因だ。
「おいそこの。今、菓子を下げようとしているお前だ。その手にある布はなんだ?見せてみろ」
 貴人の気紛れに震え上がった奴隷は慌てて汚れを拭き取った布を広げる。旦那が叫んだ。
「あっー!!菓子にばっちい布が触れてしまったではないか。そんな菓子などいらん!持って帰れ!!」
 誓って言うが布は何にも触れていない。そしてその奴隷の顔色がもとから悪いのは誰が見ても明らかだった。
「早く帰れ!今すぐ帰れ!──その菓子はちゃんと家で処分するがいい」
 通告に平頭する奴隷に旦那は言葉を続ける。
「わし様の菓子を台無しにした分はちゃんと働いてもらうからな。──出ていけ」
 一生かけても口にできない菓子を持って涙を溢れさせながら奴隷が下がっていく。
 旦那は本当にろくでなしだが、こういうところが見捨てられないのだ。
 そして旦那は自分を甘く見られるのをひどく嫌う。
 旦那の温情に便乗しようとした奴隷が衛士に引きずり出されていく。あの奴隷はもう二度と現れないだろう。


■2024/04/14
アシュヨダ
「show the flag」

 帰ってきた俺が身にまとっていた服を見て、父は眉をしかめ、母は頬に手をやった。
「それを着て出歩くんじゃない。いいな」
 言い捨てて家の奥に去って行った父を見送って母はころころと笑う。
「アシュヴァッターマン。どうしてあの人が怒っているか分かるかしら?」
「俺が旦那にこんな高価な服を貰ったからだろ。親父はアルジュナがお気に入りだからな」
 俺が旦那に近づくのを父が嫌がるのは今に始まったことではない。そう吐き捨てる俺に母は大げさに目を見張った。
「あらあら。アシュヴァッターマン。その染料の価値が分かっているの?籠いっぱいの宝石からほんのひと刷毛しか取れないのよ」
 王の養女であった母の言葉に俺は凍りついた。
「だ、旦那はいらねぇって
「そうねぇ。確かにその色は流行ではないわ。でもあなたによく似合っている。──だからこそ、誰があなたに贈ったのかよく分かるのよ」
 そこまで説明されて俺はやっと父の言葉の意味を理解する。これを着て歩くという事は誰に所属するかを明白にするという事だ。
 だからこそ。
「あら、また出かけるのね。──いってらっしゃい」


■2024/04/14
アシュヨダ
「大好き、なんだろうなぁ」

 アシュヴァッターマンはライチが嫌いだ。
 本人は言わないけどひとりの時は決して食べようとしない。ドゥリーヨダナと一緒の時だけ頑張って真っ赤になりながらも食べている。だから。
「嫌いなものを無理に食べさせるな、だぁ?」
 マスターがそうお願いすると、ドゥリーヨダナは呆れたように眉を上げた。
 椅子に座っている彼の横に立っていたアシュヴァッターマンが青ざめる。
 ドゥリーヨダナがテーブルの上のライチを摘むと、無言でアシュヴァッターマンに渡した。
 褐色の大きな手が震えるように小さなライチの皮を剥く。当然のように開かれた口に丸いライチを転がり込ませた。
 ドゥリーヨダナがアシュヴァッターマンを引き寄せる。唇が重なり──アシュヴァッターマンの喉が上下した。
「こやつは昔からこうして食べるのがお気に入りなのだ。──無理に食べておるのか?」
 質問にアシュヴァッターマンは光よりも早く首を振った。その顔はそれ以上はないほど赤く茹で上がっている。
 賢いマスターは悟った。
 アシュヴァッターマンはこの食べ方を思い出すから、ひとりの時はライチを口にしなかったのだと。
 そして多分、嫌いなどころか。


■2024/04/13
生前ビマヨダ+弟
「大嫌いだっ!!」

「兄貴。それ、夜の宴の準備だよな?気合入れすぎ」
 俺の感想に着飾った兄貴はふてぶてしく笑い、隣で侍従に指示を出していたドゥフシャーサナは目元を険しくした。
「来るんだと。──ユディシュティラの名代で」
「ビーマかよ。あいつに交渉なんて出来んの?」
 パーンダヴァの次男は武力と食欲しか取り柄がない。だというのに兄貴だけはあの男を一番敵視していた。
 たいしたことのない宴に状況的に許されるぎりぎりまで着飾り、兄貴はあいつに自分の財を見せつけようとする。
 美しく飾り付けられた兄貴が衣装を翻した。
「弟達よ!わし様は美しいか?」
「「「この世で一番!!」」」
 俺達が声を揃えて答えると兄貴は満足そうに笑う。──ああ、気に入らない。
 兄貴は楽しそうだ。まるで逢引を待つ乙女のように。
 複雑な気持ちの俺達と兄貴の元に、侍従が駆け込んできた。
「申し上げます。ビーマセーナ様は今宵の宴は欠席されるとの事です」
 空気が凍った。視線を浴びた侍従は震えながら続ける。
「そのドゥリーヨダナ様が出席されるなら、ご自分ではなくアルジュナ様の方が相応しいと」
 兄貴が着ていた衣装を床に叩きつけた。宝石が涙のように散らばる。


■2024/04/13
ビマヨダ
「ずっとずっと見ていたかった」

 特異点での交渉は難航を極めていた。マスターを隣に庇いながらドゥリーヨダナが野良サーヴァント達に告げる。
「今あの霊脈を受け渡せば見逃してやると言っておるのだ」
「ぬかせ。お前ひとりで何が出来る」
 嘲笑う彼らの前でドゥリーヨダナの耳飾りが揺れた。一度、二度。止まって、三度。
 その不自然な動きにマスターが見上げるとドゥリーヨダナは不愉快そうに目を細める。
「ゴリラにも脳があったと言うことか。──まあいい。お前達、死んだぞ?」
 ドゥリーヨダナの言葉と同時に轟音が響く。足元で霊脈が大きく鳴動した。
「やれっ!マスター!!」
 打ち合わせ通りにマスターは令呪を掲げる。所有者が変わった霊脈に乗って新たなサーヴァントが召喚され戦況は覆された。
 そうして野良サーヴァント達を退去させた彼らに、別行動して霊脈を奪い取ったサーヴァントが合流する。
「ビーマ!!無事だったんだね」
「森育ちのゴリラめ。我がカウラヴァの符丁を使うとは」
 マスターの横で耳飾りを撫でるドゥリーヨダナにビーマは風を揺らした。
「そのくらい知っているさ。ずっと、見ていたからな」


■2024/04/13
ビマヨダ
「ヤツにも作れない料理があるらしい」

「おまえは兄弟丼とやらは提供せんのか?」
 恋人の言葉にビーマは凍りついた。
 時刻は昼過ぎ。自室でくつろいでレシピ集を見ていたところにドゥリーヨダナが突撃してきたのだ。
「鶏と卵で親子丼だろう?兄弟の肉と具とはなんだ?カルナに聞いたがおまえに聞けと言われたのだ!!」
 きらきらと旨い食事への期待に目を輝かせているドゥリーヨダナにビーマは胸を撫で下ろした。
「トンチキ。それを俺とカルナ以外に聞いたか?」
「?いいや?厨房にリクエストすればいいのか?」
 全く分かっていない様子のドゥリーヨダナにどう説明するべきか。下手な事をすると退去しかねない難問だった。
「──例えばの話。俺がおまえの弟に手を出したらどうする?」
「殺すが?」
 即答にうっかりときめきそうになったビーマは続いた言葉に頭を抱えた。
「わし様の弟たちはか弱いのだ。お前のような乱暴者に好きにさせられるか」
「あいつらのどこがか弱いんだよ。それに、優しくしてるだろ」
「どこがだ!?カルナの方が100億倍優しくしてくれるが??」
 ひどい目にあったドゥリーヨダナは後にこう語った。

■2024/04/12
アシュヨダ+マスター
「こんな顔する人だったんだ

 穏やかな午後。マスターたる少年はお気に入りのサーヴァントとふたりきりで昼寝を楽しんでいた。
 洗いたてのシーツはお日様の香りがして、共寝しているサーヴァントの花のような匂いと混ざり合ってうっとりとするような心地よさ。少し暑かったのでふたりとも上着をはだけているのでお互いの体温が直接伝わっていた。
「ドゥリーヨダナの胸って柔らかいんだね」
 頭を預けている胸筋に触れるとそれはゆっくりと少年の手を受け止めた。
「ちからを入れておらんから当然だ。──ふふん、弟達はこぞってわし様の胸を枕にしたがったものだそ」
「分かるー!!すごく気持ちいいー!!」
 少年は笑って胸枕に頬ずりする。そこに、
「旦那、カルナのやつが──」
 アシュヴァッターマンが部屋に入ってきた。彼はベッドの上で半裸のふたりを見て動きを止める。
 少年もつられてドゥリーヨダナの胸の上で動きを止めた。
「?カルナがどうした?──おまえも一緒に寝るか?」
 暢気にあくびをしながら言うドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンを見ていなかった。だから、少年がすすすっとベッドから降りたのに不思議そうな顔をする。
「マスター?もう起きるのか?」
「うん、すごく目が覚めたから」
 もうしない。マスターはそう誓った。


■2024/04/10
カルヨダ、アシュヨダ、ビマヨダ
「わし様に心当たりはまったく無いのだが!!」

「愚患者にも理解出来るように説明すると、コレはおまえの子供だ。ドゥリーヨダナ。──ついでにお前にはない神性属性もある。興味深い症例だな」
 アスクレピオスの診断に幼い頃の自分そっくりな少年を膝に抱えたドゥリーヨダナは顔色を変えた。独り寝から目が覚めて横に寝ていたコレを発見した彼は嫌な予感がしてこっそりと医務室に来たのだ。その判断は正しかったが、彼は予測出来なかった。いつもと違うドゥリーヨダナの動きに気づかないはずのない男達がいることを。
 医務室の扉が乱暴に開かれる。なだれ込んで来たのは聞き耳を立てていた3人の神性持ちの男達だった。
「旦那ァアアアア!!あんたの子供なら誰が父親だろうが俺がちゃんと育てる!!」
「無駄な思考だ。必要なものがあればオレが全て賄う。他は必要ない」
「人ごとのように言ってる奴らと違い。俺はちゃあんと食わせてやれるぜ」
 それぞれが自分の子供ではないと認識しながらも育てる気はある様子にドゥリーヨダナは額に青筋を立てた。
「すみませーんっ!!」
 怒鳴りつけようとしたドゥリーヨダナに幼い少年の声が割って入る。頭にぬいぐるみ(仮)を乗せたパリスだ。
「そのお膝の上の。その子。あぽこちらの手違いなので引き取らせてもらっていいですか?」


■2024/04/09
アシュヨダ
「残念だ」

『緊急事態発生!!アシュヴァッターマンが魔力リソースを強奪して逃走中!!至急捕獲してっ!!』
 鳴り響く艦内放送にアシュヴァッターマンが追い詰められたのはストームボーダーの甲板の端だった。そこには
「ドゥリーヨダナ、君が手引きしたのかい?」
 ダ・ヴィンチちゃんの言葉にドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンの体を抱き寄せた。
「わし様が我が戦士の味方をするのは当然であろう?」
 Lv120のバーサーカーの宣言に追っ手達は身構え、アシュヴァッターマンは顔を伏せた。
すまねぇ、旦那」
 その手にはサーヴァントの霊基が格納されているカードがある。ドゥリーヨダナを強化した際に余った霊基だ。
「レアプリは貴重なんだ。返してくれないかな?」
 マスターの懇願にアシュヴァッターマンはカードを握る手に力を込めた。その背後でドゥリーヨダナが首を傾げる。
「マスターはいくつかのレアプリと、わし様とアシュヴァッターマン。どちらを取るのかな?」
 あくまで彼らが抵抗するならば供給している魔力をカットするしかない。マスターは首を振った。
そのカードはあげます」
「よぉし!!ならわし様はおまえにこれを返してやろう。ちょーっと拝借した聖杯だ。わし様駆け落ちとやらをしてみたかったのだが


■2024/04/09
ビマヨダ
「そういうことだ、馬鹿ビーマ!」

「わし様が初めて抱いた女は体に毒蛇を仕込んでおってな」
「突然妙な事を言い出すんじゃねぇ、このトンチキ!
 ──ってまさか、その毒蛇の毒は?」
 敵はとうに消滅し。ここにはふたりだけしかいない。カルデアへの通信は隔絶している。
 トンチキな言葉を受けての俺の嫌な予感に、汚れた地面に転がったままドゥリーヨダナはふてぶてしく笑った。
「わし様の魅力に刺客もめろめろというわけだ」
「最悪だ」
 蛇の毒は神経毒だ。俺がこいつに盛られた毒はその女が持ち込んだ毒蛇から抽出したのだろう。それならば俺がナーガに噛まれて耐性がついたのも納得出来る。
 げほげほとドゥリーヨダナが咳き込んだ。側に立っているだけしか出来ない俺を手招きする。
 膝をついて顔を寄せると耳に荒い息がかかった。
「それ以来、わし様は情を交わす相手を、厳選、することに
「もういい黙れ」
 そう吐き捨てると、カルデアに還れない程に霊核を損傷したドゥリーヨダナが息を吐いた。
 突然、頭を強く引き寄せられ頬に柔らかい感触が当たる。
 驚いて顔を向けるとドゥリーヨダナが勝ち誇ったように笑った。


■2024/04/08
カルヨダ
「おまえが先に逝くはずがない!」

「何故、俺を息子にした?」
 出会ったばかりの頃カルナにそう聞かれたことがある。
 ふたりきりの東屋は涼しい風が吹いていて、奴隷が仰ぐ扇の風が重たく奴の白い髪を揺らしていた。
 果実酒を片手に俺は説明する。
「おまえの父はスーリヤだそうだな」
 見間違えようもない不死の鎧を身に着けたカルナは首肯する。わし様は手近にあった菓子を摘むとカルナに差し出した。
 カルナが躊躇いもなくそれを口に含む。
「わし様は半神とやらがどれほど生き汚いのか嫌になるほど知っておる。おまえもわし様より長生きするだろうよ」
「なら、なおのこと」
「わし様は兄弟は間に合っておる」
 そして、わし様より優れた『兄』などいらん。
「わし様と弟達はひとつの命。死ぬ時も一緒だろう。わし様達になにかあった時、相続に揉めることが無い息子達の保護者が欲しい。──わかるな?」
「なるほど。継子たる俺はただ弟達を守ればいいのだな」
「弟妹とは守るものだ」
 そう言うとカルナは繰り返した。
「弟は守るもの。──守るものなのだな」
 そんなカルナの射抜かれた首を持って俺は泣き叫ぶ。


■2024/04/07
アシュヨダ
「軽い知恵熱だな」

「なんつー格好をしてんだ!旦那ァア!!」
 鼓膜を突き刺すアシュヴァッターマンの絶叫に再臨を終えたばかりのドゥリーヨダナは目を丸くした。
 そんなドゥリーヨダナが召喚されるのを何日も休まず召喚室に詰めていたアシュヴァッターマンは、突然二臨の姿になりフルフェイスの甲冑を外す。それをドゥリーヨダナに突きつけた。
「着てくれ!あんた自分の死因を忘れちまったのか!そんな軽装で危ねぇだろう!!ここにはヤツもいるんだぞ!!」
 火種をまき散らす発言は止めてくれないかなぁと見つめているマスターの前で、ドゥリーヨダナは顔色を変えて甲冑を押し戻した。
「ビーマがおるならなおのこと!わし様は全身鎧など着ん!!王がそんな格好をしたら士気に関わるではないか!?」
 火種を撒き散らす(略)と願うマスターを置いて二人は言い合いを始める。
「今は士気なんて関係ねぇだろ!!ここにはチーズで死んだ女もいるんだぞ!!」
なにそのおもしろ死因」
 火種を(略)と祈っていたマスターに冷静になったドゥリーヨダナが振り返る。
「おい、マスター。アシュヴァッターマンは前からこんな顔色をしておったか?」
……!!!!! メーディク!!」


■2024/04/07
アシュヨダ
「あんたが手を汚すなら」

「旦那、泥遊びしたことねぇのか」
 俺の言葉にボウルで薄灰色の生地を捏ねている旦那は首を傾げた。
「泥は玩具ではないだろう?」
 その手つきはおぼつかなく、手の甲まで汚れている。
 旦那が料理をしてみたいと言い出したので、厨房に相談したところ簡単な団子を勧められたのだ。
 邪魔をしないように側で見守っている俺に旦那は言葉を続ける。
「わし様のような富豪の王族の子供は金銀宝石で遊ぶものだ」
「──冗談、だよな?」
 思わず問い返すと水晶の瞳が静かに見返した。
「そうすれば。将来、どんな財宝を積まれても判断を狂わさずにおられるだろう?」
 当たり前のように言って旦那は生地を捏ねる作業に戻った。
 確かにこの人は財宝で狂うことはなかった。──嫉妬と羨望では狂ったが。
 あの戦場を思い出す。血の泥土に壊れた戦車。積み上がる躯。それの元凶は誰だと聞かれれば多くの人がひとりを指すだろう。
「旦那、俺も手伝うぜ」
 そう声を掛けて、俺もぐちゃぐちゃな生地に手を汚した。


■2024/04/06
わし様
「建前というものだな」

 ドゥリーヨダナはわがままが過ぎる。節約のためサーヴァントの実体化を制限しているストームボーダーで気ままに現れてはマスターにちょっかいをかけているのだ。
「ちょっと示しがつかないんですよね」
 シオンの言葉に管制室に呼び出されたドゥリーヨダナは鼻で笑った。
「だが、わし様のような存在は必要だろう?」
「君のような察しのよいサーヴァントは嫌いだよ」
 そう答えたダ・ヴィンチちゃんにゴルドルフ所長が首を傾げる。ドゥリーヨダナがわざとらしく両腕を広げた。
「人類最後のマスターなどサーヴァント連中に何を命ずるのも自由自在だ。異聞帯を皆殺しにしろと言っても従う奴はごまんとおろう。
 そんなマスターに善性を維持させるためにここでは皆を公平に扱っている。しかし、それだけでは息が詰まるだろう?生活にはサプライズが必要だ」
「別にそれは君じゃなくてもいいんだよ」
 最もなツッコミにドゥリーヨダナは大きく口を開いた。
「何を言うか!?周回採用率ナンバーワン!貢献度天井破りのわし様でなければ、それこそ示しがつかんではないか!?」
 ドゥリーヨダナの主張にシオンは片眉を上げた。
「そこまで言うなら、この話し合いの意義も理解しているようですね」


■2024/04/06
アシュヨダ
「これが夢ならよかったのに!」

 花の匂いに包まれて意識が覚醒する。
 世界は暗くて、一瞬あの森を思い出すが。温かい腕が頭部にまわされている感触に俺は目を閉じた。
夢のようだ」
 呟くと、俺を抱き寄せていた旦那がくふくふと笑う。
「おまえはいつもそう言うな。アシュヴァッターマン」
 触れ合う距離で体温が揺れる。旦那の胸は生きているかのように上下して、ちょっと前まで確かめ合っていたその体はどこもかしこも仮初の姿だとは思えなかった。
 旦那とカルデアで再会するだけでも奇跡だというのに。俺達がこんな関係になるなんてそれこそ夢のようだ。
 ──もしかしてあの森で彷徨っている俺が狂った脳で生み出した幻想かもしれない。
 そんな懸念を読んだかのように旦那がまた笑った。
「うむうむ。分かる分かるぞ。こんな素晴らしいわし様の恋人という至高の座を射止めたのだ。夢のようだと舞い上がっても無理はない。舞い上がっておるよな?」
「この上もなく」
 正直に答えると旦那は満足そうに喉を鳴らした。その手が俺の首筋を撫で下ろす。明らかな誘いに俺は目を開けて。
「わし様ちゃん!遊びましょう!!」
 マスターの声にふたりして飛び上がった。どんどんと部屋のドアを叩く音に時計に目をやればいつの間にか周回の時間になっている。旦那が悲鳴を上げた。


■2024/04/05
生前ビマヨダ
「夢の時間の終わりを告げた」

 生涯に一時だけドゥリーヨダナに手放しで褒められたことがある。
「あいつらを蹴散らすほど強いというのに、口が利けないとは。──困っておるだろう。我が王家で雇ってやるぞ」
 地面に直接座り、俺の作ったものをパクつきながらドゥリーヨダナは笑った。
 その瞼は閉ざされている。
 ガンダルヴァの虜囚になっている間についた傷は、簡単な手当さえすれば今すぐにでも見えるようになるだろう。
 でも、俺はそうできなかった。助けに行った瞬間、俺を味方だと思ったこいつが見たこともない顔で笑ったから。
 今も、ドゥリーヨダナは『ビーマセーナ』には決して向けない顔で笑う。
「この食事も美味い。うちの宮廷料理人ほどではないが、修行さえすればすぐに超えるのではないか?」
 思いもしなかった言葉に声を上げそうになるのを必死で抑える。
 俺達をからかいに来たこいつがガンダルヴァに捉えられたと聞いて正直ざまあみろと思ったし。兄貴に助けに行かされて不服だったが。──こいつからこんな言葉が聞けるなんて夢のようだ。
 だというのに。遠くからこいつを呼ぶ声が聞こえてくる。
「カルナ!? アシュヴァッターマン!!」
 立ち上がったこいつの手から料理は落ちて。


■2024/04/04
アシュヨダ
「俺はクシャトリヤなのだから」

「アシュヴァッターマンはなりたいものになれたんだね」
 マスターの言葉に俺はこみ上げた感情を飲み込んだ。
「そうだな。俺はクシャトリヤになりたかった。──だから、バラモンであることを捨てざる得なかったんだ」
 どちらかを選ぶということは選ばなかった方を捨て去るということだ。
「生涯一度だけクシャトリヤを選んだ事を後悔したことがある」
 例えば、瀕死の大切な人がいたとして。バラモンであれば聖仙の祖父を頼れただろうが、大罪を犯しクシャトリヤとして生きる事を選んだ俺には成すすべはなかった。
 戦う足を潰され、顔に屈辱を刻まれたあの人はもう表舞台には立てない。ならば、静かに生きていく分には見逃されただろう。多分、それを見越してあいつは──。
 施された温情を活かす事が出来ず嘆く俺を旦那は呼ぶ。
『おまえをカウラヴァ軍の五人目の司令官に任命する』
 たった三人しか生き残っていない軍の司令官など何の意味もない。それは──クシャトリヤとして生きろという旦那の願いだった。
 あいつから施された温情を拒否すると言外に告げた旦那に俺は誓う。
『必ず、パーンダヴァの奴らを皆殺しにしてくる』
 そうだ戦う相手に温情を施すなど侮辱でしかない。この恥辱を許すことなど出来はしない。必ず復讐を果たそう。


■2024/04/03
ビマヨダ+次男
「おまえを殺せなくなった」

 俺には呪いが掛けられている。聖仙の呪いよりも凶悪なものが。
「わし様が好きだと?殺す価値もなかった相手によく言う」
 カルデアで再会し、悩みに悩んで告白したドゥリーヨダナはそう俺を嘲笑った。
 俺はそれに反論する言葉を持たない。
 そうだ。俺はこいつを殺しておかなければならなかった。
 報告によればまだアシュヴァッターマンは健在で、必ずこいつを助けに来ただろう。聖仙の所にでも担ぎ込まれて回復すればドゥリーヨダナがまた騒ぎの種になる事は間違いなかったのだから。
 だというのに、俺は致命傷だけ与えてこいつを夜の森に放置した。──それが戦士に対しての侮辱だと分かっていながら。
 げらげらと品のない高笑いが脳裏に響く。
 カウラヴァ軍が敗走する数日前、俺が殺したドゥフシャーサナが悪魔のように笑っている。血を飲まれ、胸を裂かれながらドゥフシャーサナは笑っていた。
「狼腹!馬鹿な狼腹!意気地なしの狼腹!兄貴に何もしてやれなかった弱虫でくそったれな狼腹!」
 どこまで知っているのか赤黒く染まった従兄弟は笑う。
「おまえに呪いをかけてやる。せいぜい俺を惨たらしく殺すがいいさ。──兄貴にそっくりなこの俺をな!!」
 絶命する瞬間までドゥフシャーサナは笑い続け、俺は。


■2024/04/03
わし様+モブ
「思い出の品だそうからな」

「わし様を拷問するつもりなら、その腕時計は外した方がいいぞ」
 身動き取れない虜囚の言葉に男は左腕を見た。
「なかなかいい時計ではないか。こんな仕事で汚してもいいのか?ん?」
 言われて男は思わず持っていた拷問器具を床に置いて腕時計に手をかけた。虜囚はぺらぺらと言葉を続ける。
「見たところだいぶ丁寧に扱っているようではないか?思い出の品ではないのか?」
「──妹が」
「妹か!わし様にも妹がひとりおるぞ。これがなかなか生意気でなぁ」
 人懐っこく笑いかける虜囚に男は思わず笑い返してしまう。妹の事を口にしたのは何年ぶりだろうか。少しぐらい『仕事』を遅らせても依頼主は困らないだろう。
 思い出しながら妹の事を話せば、虜囚は興味深そうに聞き、自分の妹の話で返してくれる。その差異がまた男の記憶を刺激して話を繰り返すうちに、突然、轟音が響いた。
 拷問部屋の扉が砕け散る。飛び込んできた赤と白のふたりの男が虜囚を見、床の拷問器具を見て気配を変えた。
「待ってくれ!もうそんなつもりじゃ!」
 男の言い訳に虜囚が笑う。
「それがおまえの仕事なのだろう?──腕時計には傷をつけてやるなよ。なにしろ」


■2024/04/02
カルヨダ(+マスター)
「ごちそうさま」

「それはドゥリーヨダナだな」
 カルナの一言に食堂が静まり返った。
カルナさん。俺は今までで一番美味しかったものを聞いたんだけど」
「ドゥリーヨダナだ」
 確認に即答されたマスターは、赤くなったり青くなったりしながらカルナの恋人へと振り返った。
 その当人、ドゥリーヨダナは大袈裟にため息をついてみせる。
「かぁるなぁ!おまえはいつも一言足りんなぁ!ここは正確に『大富豪ドゥリーヨダナ様が提供した贅を尽くした料理が忘れられない』と言うべきだろう? 
 ──マスターも一度食べれば虜になるぞ!我が国の食事は最高だからな!!」
 からからと笑うドゥリーヨダナの背後に金色の鎧が立った。
「聞き捨てならんな、雑種。最高の料理とはすなわちウルクのもの!」
「これだからローマの贅を知らぬものは」
 皆が口々に言い始めたなか、マスターはそっとカルナに耳打ちした。
「本当に一言足りなかったの?」
 カルナがうっとりと微笑む。
 マスターは悟った。


■2024/04/02
カルヨダ
「カルナはどんな姿だろうとわし様の役に立つ!」

 ある朝、カルナが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一体の小さな人形に変ってしまっているのに気づいた。両手で体中を触ってみるが大きな頭に比べてデフォルメされた小さな身体。周りの枕などから比較するに元の自分の手のひら程の大きさだろう。
 霊基異常ではあるが無害である。どうしたことか。とカルナが考えていると。
「かぁるなくん、あっそびましょー!!」
 上機嫌な友の声が聞こえて、カルナはとっさに枕の影に逃げ込み損ねた。
「なぁんだぁ? これは? ──ふぅん、」
 大きな指に摘み上げられて、カルナは動きを止める。
 人形に徹したカルナにドゥリーヨダナは不満そうに頬をふくらませると、カルナを持ったまま部屋を出て食堂へ向かう。食事が出来上がるまでの間、テーブルの向かいに立たせられていたカルナをナーサリーライムが覗き込んだ。
「わし様のカルナに触るならただとはいかんなぁ」
 ドゥリーヨダナの言動に慣れっこな彼女は大きなお財布を開いて何かを渡す。
この程度なら五分がせいぜいだな」
「美人局みてぇな事してんじゃねぇぞ、トンチキ!」
 ビーマの制止にドゥリーヨダナは唇を尖らせた。
「カルナがわし様の友情を疑うのが悪い。──人形になろうと、カルナは我が友だと言うのに」


■2024/04/01
カルヨダ
「だから、オレはおまえを見下ろすことは出来ない」

 カルナが墜落した。
 召喚されたばかりのドゥリーヨダナの前で宝具を開帳しようとした途中、電池が切れたかのように中空から落っこちたのだ。
 慌てて駆け寄ったマスターやドゥリーヨダナ達に受け身も取らず地面に転がったカルナは口を開いた。
「オレはこの男の前では宝具を使えない」
「わし様は何もしとらんぞ!!」
 無実を主張するドゥリーヨダナの手をカルナは掴んだ。
「──オレは見ていた。父スーリヤと一体化した後、地上を、おまえを」
 自分の死後何が起こったか知っていると告げたカルナに、ドゥリーヨダナの顔色が変わる。
「つまりおまえは、」
「おまえが嘆き叫んでいた姿を覚えている」
「忘れろっ!!」
 カルナの両肩をひっつかんで叫ぶドゥリーヨダナの顔は真っ赤に染まっている。
「忘れろ!忘れるんだ!!よぉし!忘れたな!!」
「──許せ。スーリヤたるオレが地表に手を伸ばせば、全てを焼き尽くしかねなかった」
「忘れろと言っておるだろうっ!!」
 羞恥のあまり大声で叫ぶドゥリーヨダナを見上げてカルナは手を伸ばした。


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