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2024-11-16 10:10:14
521文字
Public 💰短い金カ夢
 

お題「とける」

cytr
(金カ夢文字書き24時間一本勝負様企画)

 大きな鞄をかかえて、あの日、ちよ兄は海のむこうへ旅立っていった。
「阿寒湖が凍る頃には帰るよ。ほら、スケート教える約束だったろ」
 今にも泣きだしそうな私に向かって確かにそう言ったのに、去年も、一昨年も、その約束は叶わなかった。一体何年先の冬のことを言っていたのやら。それだけ難しいものなのね、経営のお勉強というのは――そんな風に理解できるようになるだけ、私も大人になったということ。

 今年はじめての桃を手に、約束の木のうろを覗き込む。
〝ここに匿ってたんだ、最強の怪人をね〟
 昔ちよ兄がこっそり教えてくれた秘密。そして自分がどうしても行けない時は、代わりに桃をひとつやってくれないかと頼まれたのだ。
 ちよ兄の幻だったんじゃないかと、実は私は思っている。でなければ、すっかり溶けた阿寒湖の底に今も眠っているのかしら。ううん、分厚い氷なんて砕いてとっくに出てきたのかも。だって怪人なんだもの!

 桃のにおいの移った手は、少しだけ甘く青い香りがする。
 ちよ兄を恨んでいませんか。
 また会えたら、その時はまた助けてくれますか。
 颯爽と現れて亜米利加までひとっとび私を連れて行ってくれたなら、両手いっぱいの桃だってあげるのに。