つ旦
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一つのバグから縮まる距離感 アベンシオ🦚🛁 全年齢


開発提案に関わっている階差宇宙内で、Dr.レイシオは、現在進行形で目の前で起きている問題を解決するため思考を巡らせていた。

…………
……レイシオ、これって仕様な訳ないか。その反応じゃ」

普段はレイシオの方が背が高いが今のアベンチュリンいや、今は『博戯の砂金石』と言った方が良いだろうか。表情は仮面のせいでわからないがきっと大袈裟に困った顔をしているのだろう。

何故このような事が起きたのかわかりやすく言うと、バグが起きたのだ。

元より天才達が思考し作られた擬似宇宙。
ナナシビトである開拓者の出会った人物達に限るが、仮想の世界に行き戦闘データを集めるのがこの階差宇宙での基本の課題だ。
サポートという立場ではあるがほぼ管理者と言えるくらいの権限をスクリューガムはレイシオに渡している。
ただ機械的に戦闘データを集めるのではなく奇物や方程式と言ったゲーム要素を取り入れ、より人間喜劇になるように順調に改良を進めていた。

だからこそ人を喜劇と言うのであれば開拓者以外も入れるようにと思考し、スクリューガムにいくつかの提案したのは記憶に新しい。
このような提案をするのであればまず試してみなければとレイシオは階差宇宙のコピーデータを手にし、自分以外にデバックをしてくれる人間を思い浮かべ連絡を取った。それが十の石心であるアベンチュリンというだけだった。
そして利害の一致を提示し素早く承諾をしてくれたアベンチュリンと共に複製の階差宇宙に入ったのだ。

最初の方は順調に進んでいた。だが、最後のボス地帯に入った途端隣に居たはずのアベンチュリンが消え、こちらが攻撃しない限り動かないはずの階差宇宙内ボス博戯の砂金石が動いており、明らかにおかしい状況にレイシオは少し思考を乱したが身体はすぐに戦闘態勢をとった。

「複数人の参加はやはり問題が起きたか、改善が必要だな」
「えっ、ちょっ、教授っ!僕にチョーク構えないで!?」

だが、虚数で創り出したチョークを構えると博戯の砂金石は焦ったように両手を上げ降参のポーズをした。その様子にレイシオは先制で攻撃を仕掛けようとしていた手を止めた。

…………
「ええーっと、これは僕がボスになっちゃってるのかな?」
ああ、確かに仕様ではなくバグが起きたようだな。同一と思われる人物が同じ空間に現れ、プログラムが混乱し、プレイヤーであるギャンブラーの意識がボスである博戯の砂金石に反映されたのだろう」
「うーん、階差宇宙のシステムのことはよくわからないけれど、今の僕はボスのアベンチュリンってことになるのかな?」
「その通りだ。だが、まだ推測の域から出ない。少し待ってくれ、解決案を考える」
「ああ、僕は階差宇宙のことについて何も知らないからね。レイシオに任せるよ」

アベンチュリンは、この世界の設定主であるレイシオの待てという指示に潔く従うことにした。問題が起きたのならば無闇に動いて問題を悪化させる訳にはいかない。
レイシオは思考の海に入ってしまって、その間お喋りも出来ないのでせっかく階差宇宙に来たのにつまんないなあと思いながらもアベンチュリンは虚数で作り出したコインを弄りながら渋々待つことにした。

思考の海にいるレイシオは、問題の解決案を探していた。
考えられる原因の中でもっとも可能性の高いものはやはり『ボスとして設定されている人物が、プレイヤーとしてボスエリアの階差宇宙内入ると勝手にボスとして反映されてしまう』というのが有力だとレイシオは思っている。

開拓者の視点で見てきた者達で敵の多くが形成されているため、このような問題が出てきたのだろう。
今回は開拓者以外が階差宇宙内にログインするプレイヤーとして来れるようにするのが目的である。開拓者以外がプレイするときの問題が浮き彫りになったのは良い事だが、流石に何の確認もせずにコピーデータを起動したのは迂闊だったと眉を寄せる。

先週の階差宇宙のボスがたまたま十の石心、博戯の砂金石で、運良く来れたのも十の石心、アベンチュリンだとは。今回の問題が浮き彫りに出たのもアベンチュリンの幸運とやらのおかげか。
皮肉めいた思考になりながらもレイシオは一つの解決案をアベンチュリンに提案する事にした。

「アベンチュリン」
「おっ、解決案は出たかい?教授」
「ああ」

レイシオに声を掛けられたアベンチュリンはようやく一人の時間が終わる!と上機嫌にコインを親指で弾いてキャッチし、レイシオを見下げた。
砂金石を使った状態だと身長が高くなって少し浮いているのも相まって、アベンチュリンがレイシオを見下げレイシオがアベンチュリンを見上げる状況になっている。レイシオから見上げられ上目遣いをされている事にアベンチュリンは少しむず痒い気持ちになりながらレイシオの話に耳を傾けた。

「噛み砕いて説明する。今から提案するものはやり方が乱暴な割に表面上だけを解決するものだ。階差宇宙内にあるアベンチュリンのキャラクターデータをこの世界に出し、博戯の砂金石からキャラクターデータ内に君の意識を移す。移した後すぐに博戯の砂金石から攻撃されてしまう可能性があるが、階差宇宙は博戯の砂金石を倒せば全てクリアした事になり出られる仕様になっている。結果的にあまり大差は無い。わからない部分や質問は?」
「説明ありがとう。表面上だけって言ったけど、根本的なやり方とこのまま階差宇宙を退出するのはどういう理由で却下されてるの?教授」
「根本から解決するためにはこの世界から出て仕組みを組み直す必要がある。今はここから出ることが最優先だ。階差宇宙を途中退出する選択肢ももちろんあるが、このまま途中退出して現実の君に何が起きるかわからない。不確定要素が多すぎるんだ。だから提案はしなかった」

レイシオは所々掻い摘んで注意点や方法のみをアベンチュリンに説明する。この空気感が、アベンチュリンと意見のすり合わせをする時間が、ビジネスパートナーとしての対等さが、レイシオはとても気に入っていた。
この関係が変化しないようにと思うくらいには。
レイシオがそう思っている間にアベンチュリンは、少し悩むような動作をした後さらなる疑問を口にした。

「今までの説明は理解したよ。でも、君が先に階差宇宙を出て、仕組みを組み直して僕のところに戻って来るっていうのは出来ないの?」

アベンチュリンが疑問に思ったのは何故一時的に表面上の解決だけして、何故根本から解決しないのか?と。今回アベンチュリンはレイシオにデバッカーとして呼ばれている。
ならば、今回は一緒に問題を根本から解決する義務があるのではないか?と思うと同時にレイシオがどうしてそこまで自分の身の事を気にかけて提案してくるのか、アベンチュリンはよくわかっていなかった。

「階差宇宙の主はスクリューガムだ。僕は天才の技術をすぐに何の問題もなく組み直せるわけじゃない。それに、今は確実性と安全を第一に考え提案している。僕が目を離している間に階差宇宙が君を飲み込む危険性を捨てきれない」
……へえ、階差宇宙って自我があるの?」
……もっと説明が複雑になるが、君は今ここで聞くのか?ギャンブラー」
「おっとはは、今はやめておくよ。じゃあ、最初に教授が提案のまま進めよう」
「フン、賢明な判断だな」

レイシオに遠回しに君の事が心配だから一番確実で安全な案を提案した、と言われてキュンと胸が鳴らないならない人がいるのだろうか。しかも自覚した優しさではなく、無自覚な優しさで言われているのだ。ああいや、鈍感な人間や皮肉に気付けない人間ならば、キュンとならないかもしれない。
いつでも誰でも無償の優しさを振り撒くレイシオの優しさを、自分が独占出来ていると考えるとまた、アベンチュリンはむず痒い気持ちになった。むず痒い気持ちを誤魔化すかのように左手を背に隠し、ずっと右手に持っていたコインを弾き飛ばし、手の平でキャッチする。
問題なく階差宇宙から出れたとしても、まだ、もう少し一緒にいる時間を伸ばせないだろうか。とアベンチュリンは、よくわからない設定を弄っているレイシオを眺めながら言い訳を考え始めた。



「ふふ、本当にレイシオがいればどんな不幸もすぐに幸運へと変わるね」
……お世辞か?お世話なら必要ない」
「うーん、ふふ、世辞じゃなくて僕は心から本当に思ってるのになあ……