hatahata
2024-11-16 00:30:09
7395文字
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おまじない=

昔見た変な夢がベース

時系列としてはけけさんを奪還してお着替えしたちょっと後くらい
戦闘シーンは書けません!薄味!
ぜーんぶ捏造(^o^)なのでサイドミッションみたいなノリでさらっと楽しんでいただければ幸いです


「願い事が叶うおまじない?」
『ええ……

誰もいない渋谷の夜。生者と死者の境界を超える為犠牲にされる人々。それら全てをただひとりの身に負わされた青年───伊月暁人は、自身に取り憑いてやれ身体を寄越せだのやれ煙草が吸いたいだの喧しい、KKと名乗る亡霊と共に般若面の男の計画を阻止する為、そして攫われた妹を奪還する為マレビトを倒しふわふわ浮かぶ幽霊達を回収しと忙しなく駆け回っていた訳だが。

『カゲリエの階段、えぇと……光階段を、一番上から下まで紙袋を被って歩いて行ければ、どんな願い事でも叶うっていう噂があったんです』
「何それ?」

このようにぽつんと立ち竦んでいたり、何かを嘆いていたりと妙に自我が強い幽霊の話を聞くこともあるのだ。
それは座敷童子に塩せんべいを与えるなんて可愛らしいものならまだしも、過去の亡者を祓い土地を浄化せよ等どう考えても普通の大学生だった暁人の手に負えるものではないのだが、KKという存在がそれらを可能にしてしまうのだから人生とは本当にどう転ぶか解らない。

『それで私、友だちと一緒に夜中こっそり家を抜け出して、試してみました。ちょうどその時学校で嫌なことがあって、でも自分の力じゃどうにもならなかったから……
「うん……それで、君の願いは叶ったの?」
……いいえ』
……。」

幽霊の青白く透けたシルエットからは力無く項垂れている様子しか窺えないが、真偽不明のおまじないに縋る程思い詰めていたのに叶わなかった、という悲しみと僅かな憤りがひしひしと感じられる。思わず暁人まで息を飲み目を伏せてしまう程の失望は、肉体という殻を持たない幽霊だからか真に迫る程強く伝わってきた。

「それで、オマエはその話をオレ達にしてどうしたいんだ?」

しかしその言葉を探しているような、身の内に沸き上がる感情を押し込めているような沈黙を、KKが破る。確かに自分達には時間が無いが、もう少しデリカシーというものを身に着けた方がいいんじゃないかな……なんてこっそり暁人は考えつつ、話の続きを聞きたいのは同意見なので黙って幽霊の方を向いた。

……このおまじないは絶対にやり遂げなくちゃ駄目なんです。でも、友だち、一緒に来てくれた友だちが、紙袋を被って歩くのは視界が悪くて怖いと途中でやめてしまって……そしたら、あの子……学校で、階段から落ちて、し、死んで……
「えっ!?」

突然話が変わった。
思春期の女の子であれば、学校なんて世界の半分を担っていると言っても過言ではない程重要な場所だ。それなのに、自分ではどうしようも出来ないことがあって、一縷の望みをかけて挑んだおまじないが何の解決にもならなかった上、そのせいで友人まで亡くしただなんて。
彼女から告げられたおまじないのルール。それを破った際のペナルティ。……彼女は、おまじないなんかしなければ、友人を誘わなければと悔いてここに留まっているのだろうか。

『ッだから私、知りたいんです。友だちを殺したこのおまじないが本当はどういうものなのか。誰がこんな噂作ったのか……お願いします……!』
……クソッ」

幽霊から涙は零れない。しかしそれでも、震えながら深々と頭を下げる様子に、こめかみの内側から苦々しいぼやきが聞こえた。存外子どもに優しい黒い亡霊は、理不尽に命を奪われた子にも、突然友人を失った子にも密かに胸を痛めているのだろう……それは暁人だって同じ。
過ぎたことは取り戻せない、お互い痛い程身に染みている。しかし彼女の言うおまじないが既に学生達に広まりカゲリエに根付いているのだとしたら、今後も願い事を叶えようと試す者が現れ続けるかも知れない。本当に途中で止めたら死んでしまうのか、彼女の友人は本当に中断したせいで死んだのかは定かではないが、『そう』と言い伝えられてしまえば真になる。到底見過ごせなかった。

……KK、良いよね?」
「仕方ねぇな」

念の為語りかければ許可が降りる。如何にも渋々といった様子だが、右手が暁人の意思ではなくギリリと固く握り締められる様子から実のところ彼とて憤りを感じているのだと伝わってくるのだから、本当に素直じゃないなと密かに苦笑しても仕方ないということにしてほしい。



二心一体が渋谷の夜を駆け抜ける。ビルとビルの間を飛び越える緊張感にも、天狗に糸を伸ばし一気に宙へと引き上げてもらう際のゾッとするような浮遊感と風切る感覚にも漸く慣れ、普通では考えられない程の時間短縮を経てカゲリエ近くの高架下へ難なく着地出来たことに暁人はひとつ息をついた。

「バイクよりも生身の方が速いなんて、今まで考えたことなかったよ」
「交通網は麻痺してるし、人がいないから出来る芸当だろうな」
「つまり出来ない方がいいってことだよね……

同感かも、と胸中に転がしつつ、身を低くして先へと進む。幸運にもマレビトは見当たらずすんなり目的の場所まで着いたのでむしろ拍子抜けしたくらいだ。
人がおらずとも使命を全うするその階段は、変わらず明明あかあかとサイケデリックな模様を描いている。人通りがあればきっと見映えするのだろうが今此処にはふたりしかいないし、道にも階段にも人間の抜け殻達がぺしゃんこに倒れているのだからむしろ怖い。
背筋を冷えた羽先でなぞられるような薄ら寒さを感じながら、暁人は服や鞄を踏まないよう注意しつつ光階段を慎重に上っていく。おまじないの条件は階段を下りることなので、つまり下りる為には上らなければならない。

「ここ、手摺りが無いから普通に下りるのもちょっと怖いかも。それなのに紙袋を被れなんて普通に危ないよね」
「端に寄れば良いだけだろ」
……そういえば、僕紙袋持ってないや。その辺に落ちてないかな」
「落ちてるものなんか被ろうとすんなよ……霊視しろ、霊視」

最上段のフロアに立ち、今踏んできた階段を見下ろしながらぼやいた言葉に対するKKからの返答に、そっか、わざわざ試す必要ないんだなんて思いつつ、暁人は言われた通り左手を翳し軽く振る。そこから雨垂れのような金色の光が掌から滴り、……目の前に突如としてぐわり、渦を巻く真っ暗な虚空が口を開いた。

「え!?な、うわぁ!」
「!?クソッ……!」

酷い眩暈のような掻き混ぜられる視界と共に、抵抗など何の意味もなくふたりはその中心へと吸い込まれていく。浮遊感が気持ち悪い、思わず暁人はぎゅっと固く目を瞑り、衝撃が去るのを待った。



……ここは……

目を開けた先は、どこかの学校のような場所。昇降階段を背にした廊下に立っている為、目の前には学年とクラスの書かれた下げ看板と教室の扉が並んでいる。……暁人もほんの数年前程に通っていたので、薄らと懐かしさすら覚える光景が広がっていた。

「噂になってるのはカゲリエなのに、何で学校に飛ばされたんだろう?」

依頼人の少女が通っていたのだろうか……そういえば、彼女の友だちが学校で階段から落ちた、と言っていたし、そのせいで引っ張られたのかも知れない。

「僕たち、また穴に吸い込まれたよね。噂される内に力を持ったのかな?」
「いや……力を持ったにしても、カゲリエの階段からどこかの学校に繋がる理由がない」

ただキョロキョロと辺りを見回す暁人に対し、KKは明らかに警戒心を滲ませながら周囲を見ている。彼の言う通り、噂はカゲリエの光階段で行うおまじないなのに何故そこから学校に吸い込まれるのか。
そして、ふたりと同じようにここに連れてこられた者がいるのであれば、噂は『おまじないをやり遂げなかった者は行方不明になる』や『神隠しに遭う』といった風に囁かれていてもおかしくはない。しかし依頼してきた少女の話とは食い違いがある……彼女の友人は、階段から落ちて死んだ筈だ。

……何か手がかりが欲しいな、頼む」
「うん、解った」

KKの言葉にひとつ頷き、暁人はまた掌を軽く振り下ろす。光の雫が滴り美しい波紋を描いた……それを見下ろすふたりの視線の先で、階段の一番下でふわりと青い火の玉が浮かび上がり、たちまちに小柄な人間の姿をとった。
まさに女の子、といった形のそれはオドオドした様子でしきりに周囲を見回しながら階段を上って来る。───KK達のアジトになっているアパートから痩男を追う際にも見た残留思念だ、幸いなことに残っていたらしい。
上を、恐らく暁人達のいる場所を何度も見上げる仕草を見せるのでまるで自分達が見られているように感じる。何となく気まずくてそそくさと端に寄るが、人影は当たり前だがふたりのことなど意に介さず最上段へ足を踏み入れた。そのままくるりと振り向いて、先程の暁人と同じように段下を見下ろしている。彼女をただ見ていると徐々に青い光が薄れ、霊視の効果が切れかけていると察し慌ててもう一度左手を振る。そうしたら、ふっと暁人の後ろからもうひとり青い人影が飛び出してきたので思わず「うわっ!?」と背を階段横の壁に押し付ける羽目になった。

「も、もう1人いたんだね」
「後ろにいたから気付かなかったな」

跳ねた心臓を落ち着ける間にも、2人に増えた人影は隣同士に並んで会話を交わしているような仕草を見せる。恐らく暁人達の後ろから来たのが依頼主の女子だ。何かを取り出し手渡すような動作をして、階段を上ってきた方の人影がそれを受け取ったのを見て、おまじないを試すつもりなんだなと察する。

「あれ……?」

しかし、ここは見るからに学校だ。おまじないの舞台はカゲリエだったのではないか?

「何かおかしい。KK、どう思う?」
……まだ解らない。そもそもここは現実世界じゃないから、階段という概念が重なっているのか、単純に歪んでいるのか、……他に原因があるのかだな」

つまりもう暫く様子を窺うしかなさそうだ。
じっと人影達を見守る先で、少女達は未だ会話をしているように向かい合って時折身動ぐ程度の動きしか見せない。

……辛いことがあったのに、おまじないのせいで友だちまで死んじゃうなんて酷いよね」

今から何が起きるのか。幽霊からの伝聞とはいえ知ってしまっている暁人が遣る瀬無さにぽつり呟けば、暁人の中からも「……そうだな」と苦い肯定が返ってくる。

「藁にも縋る、ってやつだな。特にガキなんかおまじないや占いにハマるもんだ」
「KKの時はどんなおまじないが流行ってたの?」
「オイオイ、俺が学生だったのなんて何十年前だと思ってんだよ」
「それもそっか、歳取ると物忘れも激しくなるしね」
「おいコラガキ」

敢えて軽口を叩いてモヤモヤとした胸の澱を少し吐き出す。こんなことを言うが、昔から河童だの一反木綿だのを追い掛けていたと言うKKのことだ、きっと子どもの頃からそういうものに触れて、時折危ない目に遭ったり、人を助けたりしてきたのではないか。
ふたりに見守られる先で、2つの人影は更に動きを重ねていく。階下から来た影ともう片方が両腕をいよいよ頭上へ掲げるような素振りを見せたので、今から紙袋を被るのかと心做しか身構えた。この2人は紙袋を被って、階段を降りていく。つまり1人が足を滑らせて階段から落ちる過程を目の当たりにしなければならないのだ。しかも、どう足掻いても助けられないと解っている過去の再現を。
と、頭上に掲げた手を肩の高さに下げるような動きを見せた途端、人影達はすぅと薄れて消えた。反射的に左手を翳し、一瞬、先を見たくないなぁと躊躇って、それでも暁人は霊視の光を掌から落とす。三度現れた人影は、今にも階段へ足を踏み出そうとしているひとりと、その後ろに立つもうひとりを形作って───

……えっ」

どん。形容するならばそんな音だろう。
突き飛ばしたのだ。人影が、人影を。
暁人の目の前で、下りようとしていた青い光が空気中にふわりと溶けるように霧散して、残る片方も後を追うように消えていく。ごろごろと転げ落ちていく様を見せつけられなかっただけマシかも知れないが、暁人もKKも、今起きた光景に言葉を失くし反応が遅れた。

「ッ暁人!」

先に気が付いたのはKK。空気を切り裂くような怒号に暁人が肩を揺らした、のと同時に、背中に強い衝撃を感じぐらりと身体が前へと傾ぐ。

「あ、ちょ、嘘だろ!?」

落ちる、と感じ血の気が引いた。しかし先んじてKKが声を上げたお陰で意識を取り戻していた為、咄嗟に靴裏が地を離れる前に踏み込んで跳躍へと切り替え、十数段下の踊り場へと不格好ながら着地することが出来た。引いた血が戻ってくるのと、衝撃を殺しきれなかったせいで全身がびりびり痛む。
思わず揃って震える息を吐き、つい先程まで立っていた最上段を見上げる。青い人影は既に消えていたが……そこには、人の形をした光がふたりを見下ろすように立っていた。
霊視で見た人影と違い辛うじて人型だと判別出来る程度のものだが、それが誰であるのか、そして今暁人の背を押したのがあの子・・・であることはすぐに解る。

……キミは」

体勢を整えた暁人が声を掛けようとする。しかし上へと足を踏み出した途端、バチッ、バチッ、と火花が弾けるような音が響き、もう一歩進もうとした脚が内側・・から引き止められた。

『邪魔』

視線の先で、姿が燃える。地面から噴き出すような赤黒い光が少女を包み込み、しゅわしゅわと柔らかな青い瞬きが不気味な揺らめきへと移り変わる。
───悪霊と化した彼女が、忌々しげに此方を睨みつけていた。

「な、何で!?あの子……!」
「さァな。だが、さっき見えたモンといいあの様子といい、オトモダチの次はオレ達も殺すつもりみたいだぜ」

KKの言葉にハッとする。気付けば悪霊の傍から首から上がないセーラータイプの女学生服、オフィスワーカーのような衣服を纏う女人の嫋やかな姿、───マレビト達が現れて、各々真っ赤な敵意を向けてきていた。

「やるしかないか……!」

動きの速い女学生達と火炎球を吐く女の組み合わせは厄介だ、片方に気を取られているともう片方にぶつかってしまう。
纏めて対処出来るならそれが一番、取り出した麻痺札に気を込めて放てば天穿ついかづちがマレビト達の足を留めた。その隙に印を組み蒼の光で薙ぎ払えば、数体程硝子の割れる音と共に内部の核が露出する。残党の為にもう一撃、今度こそ全ての核が現れたことを確認して手を翳せば光の糸が掌へ向けて伸びてくるのを、掴んで──手繰り寄せ──巻き取って──引っこ抜く!
核を抜かれたマレビト達は断末魔の悲鳴を上げながらしゅわしゅわと、くるくると解けて消えていく。何とかなったねと暁人が思わず長い溜息を吐いた、その呼吸が切り替わるよりも早く、恨めしげな声が上から降ってきた。

『何デ死ナナイ!?皆皆ミンナココカラ落チタノニ!私ノ邪魔スル奴ハ皆死ンジャエ!邪魔!邪魔ナンダヨ!邪魔シナイデヨォ!』
……悪いけど」
『イヤッ、ヤメテ、来ナイデ、来ナイデェ……!』

淡々と、暗くてどこか懐かしい階段を殊更ゆっくりと上る。悪霊は悶え苦しむように身をくねらせながら恨みや自己保身の言葉を吐いているが、KKはおろか暁人の耳にもその声は聞き入れられることはない。
たん、と最上段に足を乗せ悪霊の正面に立つ。その姿を認めて怯えたように震える赤黒い光は本来少女であったことを踏まえると哀れみを誘うが、それでもこれは人殺しの悪霊だ。先程の叫びからしてひとりやふたりではない人間が、彼女に背を押されここから足を踏み外しているのだろう。
一切の動揺も躊躇もなく、悪霊の正中にぱん!と札が叩き付けられる。途端に硬直し苦悶の叫びを上げる姿へ刀印を結び、その切っ先を向けられた赤黒い光が怯えたように揺らいだ。

「僕は許されてないから」

内からの導きに沿って空間をゆったりとなぞれば、一際大きな絶叫と共にしゅわりと光が解け消えていく。同時に何処か空気が軽くなったように感じられ、世界が真っ白に、硬質に色褪せて薄れつつあるのに合わせ瞬きをすれば、ほんの一瞬の暗転を経て暁人は光階段の最上段に立っていた。

「戻ってこれたね」
「とんだ茶番劇だったなァ」
「まさか調べてほしいって言ってきた張本人が黒幕で悪霊だったなんて思わなかったよ……ミステリー小説みたいだ。友達が死んじゃったって悲しんでた時の様子は演技だったのかな……

『願い事が叶う』なんてかわいらしい目的の、それでいてルール違反者の命を容赦なく奪うそれはおまじないではなく正しくのろいであった。彼女達の間に何があったのかなどふたりには知る由もないが、きっと一度激情のままに友人を階段から突き落とし、そこから狂ったか味を占めたかしたのだろう。一度取った手段は、以降の道程でも選択肢としてずっと付き纏うものだから。

「でもあの子、あの階段で何人も突き落としたって言ってたけど……流石にそんなことあったら話題になってる筈だよね?カゲリエのおまじないも初耳だったし……
「悪霊に成っていたからな、学校やカゲリエ以外のあちこちに出ていたのかも知れないぞ。それに殺したと思い込んでいただけで、実際は足を踏み外して転んだ程度の怪我で済んでいたとかな」
「迷惑な話だなぁ……

疲れた溜息と共にボヤく暁人の感情は凪いでいる。……内部にいるKKには当然暁人の表情など見えないが。あの時悪霊に向けた声音は、いっそ何も感じられない程冷たく乾いていた。
許されていない、というのは、何に対してだろうか。

……ほら、ヘバッてる暇はねぇぞ。さっさと行こうぜ」
「わっ、ちょ、待ってよ!解ってるって!」

───その答えは暁人の中にしかなく、暁人にもまた解っていないのかも知れない。もしかしたら、妹と重ねてしまってまた深く傷付いているのを飲み込んだか、単にまだ自覚が無いのか。
この夜は終わるまでには答えが出ればいいが、お互いに。そう思いつつ宿る右腕をぐんと引き急かすKKと、引きずられまいと慌てて脚を踏み出す暁人のふたりは、また霧深い渋谷の街へ駆けていく。



END.