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まきわ
2024-11-15 23:56:35
3233文字
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声
クロリン寄りのジクリンです
なんかちょっと中二感あっていまいちな気もしてるんですが…
……………………
ン
……………
ィン
……
リィン
…
「リィン!!」
ひと際強く呼ばれて、リィンははっとしたように声の主へと顔を向けた。
「あ、あぁすまない。来週の小テストの話だよな。ちゃんと受けるつもりでいるよ」
取り繕うように返すと、横に並んで歩いていたパトリックはまだ納得のいかない顔でリィンをじっと見た。
「それはいいが
…
疲れてるんじゃないのか?一度しっかり休んだ方がいいんじゃないか、その、『要請』も断って
…
」
言いづらそうに出されたその言葉に苦笑する。
リィンが引き受けている以上あからさまに悪し様にも言えないでいるのだろう。
「ちゃんと休んでいるし食べてるよ。
…
動いている方が気が落ち着くんだ。何もしてないとかえって休まらない」
「その状態がむしろ問題あると思うんだが
…
」
不満げに呟く彼の姿を見ていると失礼だとは思いながら笑みが零れてしまう。
かつては諍いすらしたパトリックが今では学院で一番彼に近しい立場にいるというのはなんだか不思議だった。
「やれることがあるならしたいんだ。俺が俺でいるために
…
他の場所で頑張っているみんなに負けないために。
…
もちろん嫌なことがないわけじゃないが、アルティナもいてくれるしな。それに元々俺は動いていないと落ち着かない性質だから」
要請のたびに彼に付き添う小さなパートナーを思い浮かべたのかパトリックはやや複雑そうな顔をした。
政府から派遣されてきている彼女を全面的に信頼できないと思いながらも彼女自身は悪い人間ではないという意識があるからだろう。
「どうせ言っても聞かないだろうからこれ以上は言わないが
…
本当に辛くなる前にきちんと相談してくれよ。
頑張るのはいいが、身体の調子を悪くするようなやり方は認めないからな。
…
アルバレア達にも申し訳がたたない」
「うん、ありがとう。きちんと心掛けるよ」
気にかけてくれる心根を嬉しく思いながら、リィンは頷いた。
第一学生寮へと曲がる道でリィンはパトリックと分かれて一人で第三学生寮へと歩き出した。
再三第一でも第二でもいいから移れと勧められたがはっきりと断った。
あの場所を離れたら、何かが終わってしまうという気がしてならない。
自分でも単なる意地でしかないと思うし、一人ではあの広い建物を扱いきれないから度々近所の人に掃除を手伝ってもらうのも気は引ける。
それでも、残りの一年を他で生活しようという気にはなれなかった。
「
………
」
ふと、初夏の気配を含んだ風が吹き抜けてリィンは足を止めた。
(
…
まただ)
風に乗って
…
というわけでもないだろうが、時折自分の名前を呼ぶ声が聞こえる気がした。
先ほどもその呼び声に耳を澄ませていたら、パトリックに不審に思われてしまった。
リィンのもう一人のパートナーである灰色の機体を持つ騎神の声ではない。
彼なら念話で声をかけてくるが、もっと頭に響くように鳴るはずだ。
(あの
…
声は
…
あいつの
…
)
リィンはじっと風の吹いてきた方向を見つめた。
(
…
みんなに言ったら、きっと心配されるだろうな)
思わず苦笑する。
(
…
喪った、直後に比べればだいぶ落ち着いた。それは間違いない)
とはいえ直後のあたりの記憶はリィンにとって膜を隔てて見たように現実味がない。
それも夢幻回廊での一件を境にかなり落ち着いたという自覚がある。
それでも頭の中にでも「死んだ」「死ぬ」という言葉を彼に関して思い浮かべることができない時点で何も受け入れられていないのかもしれないとも思う。
彼のことを想うと今でも胸がじくじくと痛む。
(でも
……
痛まなくなる方がいやだ)
彼を想った時の痛みを 苦しみを 絶望を 虚無を。
感じなくなって、ただ懐かしさと切なさだけを覚えるようになってしまった時、本当に「切れて」しまう気がする。
(だったら、ずっと苦しいままでいい)
そこに何かを留めるように胸を押さえた時、再び風が髪を揺らした。
(あ
……
また
…
)
呼び声が耳に触れて、顔をあげる。
リィン
………
浸るようにリィンは目を閉じた。
(ここにいるよ
……
クロウ
…
俺は、ここに
…
)
ここに
……
いるよ
…
「
………
!」
呼ばれたような気がして、ジークフリードはベッドの上で目を開いた。
開いた
…
のだが、傍から見れば変化はわからないだろう。
「
……
」
ジークフリードは忌々し気に顔の半分を覆った仮面に触れた。
顔に異物が常にくっついているというのは気持ちのいいものではないが、仕方のないことだという気もしている。
溜息をついて中途半端な柔らかさを持ったベッドから脚を下ろす。
意識を集中させてみたが、先ほど聞こえたような呼び声は全く聞こえない。
ここが遥か地下であるからか、そもそもこの部屋の中では彼がたてるもの以外音というものが皆無とすらいえた。
なんとなく気が滅入って立ち上がると傍に置きっぱなしにしていた蒼いコートを羽織って部屋から出る。
すると廊下の向こうから見知った顔が歩いてきた。
「ク
……
ジークフリード。ちょうどよかった。初仕事だよ」
ジークフリードとは違った意味で大きな身体を持つ彼はゲオルグと紹介されていた。
なんだか常に何か悪いことをしたとでもいうように気まずげな顔をしていて、もっと朗らかに笑う男だったはずなのに、と思って首を傾げる。
「
…
仕事か。まぁ退屈が紛れるならなんでも構わないが」
そういう、自分でもよくわからない記憶や感覚が紛れるのは時々あることなのであまり気に留めずにゲオルグの提供した話題に乗る。
「とある人達の監視
…
いや、観察かな。手出しはしなくていいから、行動を
…
行く末を見ていてほしい」
ジークフリードは思わず眉をひそめた。
諜報系統の任務ということだろうか。
あまり、面白くはなさそうだ。
「どこへ行って誰を見張ればいい」
拒否権はないことを分かっていたから問うとゲオルグは何枚かの紙束を差し出した。
「行き先はクロスベルだよ」
「クロスベル自治州
…
」
帝国と共和国の間にある元・自治州。
過去の記憶はまったく無いが、こういう一般常識は楽に頭に思い描くことができる。
「今は帝国領だけどね。観察対象は
…
これに詳細があるから」
受け取って、ややうんざりした顔をした。
「これを全部読むのか。
…
面倒な話だな」
(これ全部読むのかよー。めんどくせぇなぁ)
ゲオルグがわずかに目を瞠った気がした。
一瞬泣きそうな顔でほほ笑んだ気がして何故かジークフリードはそれから目を逸らした。
代わりに視線をやった先の資料には一人の青年の写真があった。
「リィン・シュバルツァー」
その名前を声に出す。
ゲオルグが警戒するような顔をしたが、ジークフリードは気付かない。
ここに
…
いるよ
…
俺は
…
ふと耳に呼び声が届く。
目の前の写真とその呼び声が重なって納得が胸に満ちる。
(そうだ。その通りだ。確かにこれが俺の役目だ。あいつを見守るのが、俺の)
確信が胸を染め始めた瞬間、ざざ
…
と流し込まれたように黒が視界を満たしていく。
あっという間にジークフリードの中は過去も未来もない暗黒に支配される。
「
…
地精の長の代理人としてこの男を含めたトールズ第二分校の面々を観察する。それでいいんだな」
感情の無い声で確認するとゲオルグはほっとしたような、残念そうな顔で頷いた。
「長も、ドローンを使って付き添うと思う。
…
くれぐれも、勝手な行動は慎むように」
声に懇願が含まれていたような気がしてなんだか笑えた。
どうせ自分は仮面が定義した以上の役目を果たすことはできないのに。
「行ってくる」
言ってジークフリードはゲオルグの来た方へ歩き出した。
転位装置を使って外に出る。
地下にはなかった風が髪とコートを揺らして、心地いいと感じた。
同時に呼び声が、また耳に触れる。
(あぁ
…
ここにいるぞ。俺は
…
)
応えた心の中は、またすぐに暗黒に閉じて満たされた。
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