gozentyuam39
2024-11-15 23:09:44
1296文字
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美味しいスペアボディの食べ方

前に書いた短編SF。ワードサラダ的文章を書きたかったのが主で内容はあまり無い。

 今日も培養器からスペアボディを取り出す。船員と同じ顔を解体するのは毎度のこと気が引けるが仕方ない。
 うつ伏せに置き、頭を落とす。濡れた髪が指に絡みついた。切り口から青い血がゆっくり流れていく。関節の隙間を狙って手足を切る。ぎっ、ぎっと骨が音を立てるので、叩くように刃を入れてへし折った。
 ダメになった刃物を捨てて、新しいものに変える。指先を落とした腕と足はやっと"生物"というより"肉"らしい雰囲気になってくる。
小分けした肉を全自動調理器に入れて蓋をする。透明な蓋の向こう側で、肉は艶のある黄色の液体に浸され、茹でられていく。
 ぼんやり眺めていると、数分で調理完了の音が鳴った。蓋を開けるとぶわりと白い湯気と脂っぽい匂いが室内に立ち込める。
 トレイに肉を移してテーブルにつく。肉にスプーンを突き立てる。繊維が柔らかく解けているので、スプーンでもあっさりわけることができた。
 肉の乗ったスプーンを口へ運ぶ。いつもと同じ味。足元に転がる頭が私を見ている。肉を口に運ぶ。足の裏に髪が絡みつく感触がする。肉を口に運ぶ。どこかから泣き叫ぶ声が聞こえる。肉を口に運ぶ。腹が満たされる。
 安堵が身体を支配した。暫くぼーっと天井を眺めていると、沢山の手が天井から飛び出して私の首を絞めようとする。少し首を動かせば、その手は煙のように掻き消えた。
 足元から声がする。唇が私に話しかけている。掠れた声をよく聞き取ろうと両耳を指で引っ張る。ぼそ、ぼそと唇は喋る。
『あなたのワイングラスを這い上る排卵官は葉脈の裏側に剥離した砂糖を振りかけている』
 思わず私は部屋を飛び出していた。
 唇はついてくる。
『8番目の誘拐は家畜の暦だった』
『弾力のある魂は夏の日の磁気テープである』
『接着剤で閉じ込めた細長い鼠の脛節は溶かすと苦い李の香りがする』
 恐ろしい。耳を塞ぐが唇は尚も言葉を紡ぐ。
声が頭に響いている。"私"の唇が言葉を紡いでいる。
 私は服を脱ぎ捨てようとしたが、シャツのボタンホールの糸が中途半端に解けて私の指をぎゅうぎゅう縛り上げ、片方だけ脱いだままの不恰好な状態になった。乱雑に糸から手を振り解いて、ベルトに手をかける。……靴下が脱げない。
 逸る気持ちを押さえつけて落ち着いて足から靴下を剥ぐ。靴はとっくにどこかへ行ってしまった。
 全裸になった私は落ちていた首を持って全自動調理器の中へ身体をできるだけ折りたたんだ状態で滑り込んだ。
 首を思い切り壁に向かって投げ、素早く蓋を閉める。壁にぶつかり跳ね返った首がこちらにぶつかってカチリと音を立てた。
 目の前が艶のある黄色の液体で満たされていく。肌がピリピリと痛む。脂の匂いがする。
 透明な蓋の向こうで沢山の首が私を見ている。私は笑いかけた。彼らも笑ってくれた。嬉しいな。私の身体が美味しくなっていく。きっとこれから私はスプーンで刺せるほどに柔らかく、程よい塩加減の肉になれる筈だ。そうして出来上がった私で、彼らの腹が満たされるのならこれ以上の幸いはない。