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まきわ
2024-11-15 15:23:57
3275文字
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クロリン
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証
クロリン前提のような感じですが出てくるのは先輩とオルディーネだけです
かなり初期に書いたものだけど結構気に入ってるので置いておく
仕立てあがったばかりのコートにしゅるりと滑るような音をたてて袖を通す。
ボタンをとめて、具合を見てからベルトをしっかりと締める。
そうして姿見に向き直って、クロウは少し気になって自分の前髪を摘まんだ。
「
………
」
少し考え込んでから、机の上に乗せてあった黒いバンダナを手に取って頭に通す。
一度首まで下げてから額まで持ち上げると心なしか鏡の中の自分の前髪が上がり、明るく見える気がした。
「
…
暗ぇ顔」
自嘲するように笑って、クロウは身を翻して部屋を出た。
ブーツが甲板を蹴る音が響く。
その音に警邏の兵士達が少しだけ視線を向けてくる。
クロウは貴族連合軍内においてとても微妙な立場にいた。
彼らにとっては上官でもなく、かといって結社などの協力者達よりは身内といえる。
敬礼はされないが、扱いかねるような、妬むような、複雑な視線が送られてきたが、クロウは一顧だにせずに一直線にある一点を目指した。
かつ、と殊更に足音をたてて『彼』の前で足を止める。
その音で、というわけではないだろうが、クロウよりもはるかな巨体を持ったもの
…
蒼の騎神オルディーネが駆動音をたてる。
『クロウか。
…
見違えタな』
着替えた格好のことを言っているのだとわかって苦笑する。
目線で乗せるように促すと察して白い球形の結界がクロウの身体を包み、オルディーネの中へと取り込んだ。
「ふう
……
」
甲板の兵士達の視線が外れてようやく大きく息をつく。
『どうスるのダ?』
座席に深く身を埋めてクロウは気だるげに視線だけ上にあげた。
オルディーネの「意識」に当たるものがどこにあるかなど知ったことではないが、なんとなく上の方へ視線を向けてしまう。
「しばらくは様子見だろ。当分は不意打ちと機甲兵でアドバンテージを取れるだろうが、一週間もすれば第三、第四、第七あたりは対抗策を出してくるだろうからな。
その辺りからお声がかかるだろうよ」
『カイエン公か』
オルディーネと契約を結んだ後、その報せを聞いたカイエン公はわざわざ地下のオルディーネの元まで足を運んだ。
だからオルディーネも彼のことを見知ってはいるのだ。
とはいえ騎神に好ましいだの嫌いだのいう感情が生まれるわけでもないだろう。
だが少なくともクロウにとっては好ましい人物とは言えない男だった。
(ま、そりゃお互い様だろうがな)
なんとなく気が滅入ってきてクロウはため息をついた。
「少しその辺りを回るか。なんかありゃ、ヴィータが呼ぶだろ」
『了解シた』
ぐ、とオルディーネが脚部に力を込める。
同時に背中の羽のようなパーツが駆動してバーニアを吹かせる。
一瞬の後にオルディーネは飛行するパンタグリュエルよりも高く飛び立った。
おお、と歓声が甲板の兵士達から挙がったが、クロウは知る由もなく、そのまま蒼空へと吸い込まれていった。
肘置きに頬杖をついて、正面に映った空の映像を見るともなしに見つめる。
虚脱したような思いがあった。
それは帝国解放戦線の他のメンバーも同じようで、目的を達してしまった虚無感からどこか覇気のない者が多かった。
それだけが理由ではなかったが、内戦の勃発と同時に事実上の解散とし、ほとんどのメンバーを去らせた。
こんな計画に加担する以上、家族や友人と縁を切った者が多いだろうが、それでもやり直すことは不可能ではない。
だから帝国解放戦線はどうしても残るといった数人だけを貴族連合軍の一部として残すのみだった。
とはいえクロウ自身は虚脱してばかりいるわけにもいかない。
まだ彼には成すべきことが残っているのだ。
『
……
未練ガあるノか?』
「
…
へ?」
唐突に声をかけられて間の抜けた声をあげる。
視線をあげると、ありえないことだがなんとなくオルディーネが言いよどむ気配がした。
『学院トやらでの生活。よほど楽しンでいたようダと魔女ガ言っていタ』
(ったくあの魔女め、余計なことを
…
)
クロウは一瞬眉を寄せたものの、頭を振って両手を頭の後ろで組んだ。
自然、視線は真上を見上げる形になったが、やはりそこに何が見えるというわけではない。
「別にそういうわけじゃねぇ。楽しくなかったとは言わないがな」
『では、灰の起動者ト戦うことに迷いガあるノか?』
わずかだがぴくり、と思わず体が震えた。
『
………
』
搭乗中起動者のバイタルを測定し続ける騎神がその動揺に気付かないはずはなかったが、
オルディーネは何も言わずにクロウの反応を待っていた。
「別に
…
今更迷いなんかはねぇよ。ただ
……
」
クロウは視線を落としてあの学院で過ごした一年半を想った。
「オレはオレの信念を曲げるつもりはねぇし、今更他の道を選ぶ気もねぇ。
かといって自分が選んだのが邪道だってのも
…
間違ってるってのもわかってる。
…
わかっていて選んだ。それでも
……
」
一年の時、共にテスト実習の時を過ごした三人を、そしてたった数か月を共に過ごしただけのⅦ組の後輩たちを想う。
「あいつらを見てると、思っちまうんだよ。他にもっと道があったんじゃないのかって」
『
………
』
オルディーネはただ、訥々と紡ぎだされるクロウの言葉を聞いていた。
「あるに決まってるんだよ。そんなこたずっとわかってた。ただオレには
…
なかっただけだ。
…
全てを諦めて飲み込む覚悟も、正道を貫こうとする強さも」
ぐっと唇を噛み締める。
間違った道を正そうと行動し続ける、彼らのような強さがあれば違う道があっただろうか。
もしくは自分が独りでなければ
…
。
そこまで考えてクロウは首を振って体を起こした。
「
…
まぁ。んなこた今更言っても仕方ねぇんだけどな」
『
…
強さ、カ。クロウ、そなたハ灰の起動者が「その時」マでにそなタに迫る強さヲ手に入れルと思っていルのか?』
あのリィンとの一戦を共に戦ったオルディーネは、今のリィンが全くクロウに及んでいないことを知っている。
あまり時間もない。
その間に対等に戦えるほど強くなるには相当の努力が必要なのは明らかだった。
「
…
五分五分だろうな。とりあえず一旦舞台からは下ろしたものの、あそこからどう這い上がってくるか
…
。
他のⅦ組のヤツらとどう合流できるかも鍵になるだろうしな」
最後に見た、飛び去っていくヴァリマールと自分を見上げるリィン以外のⅦ組メンバーの顔を思い出す。
リィンはともかくとして、その誰の目にも絶望はなかった。
信じているのだ、彼らの重心たるリィンを。
彼らを見る度に思っていた。
彼らと共にあったなら、もっと違った形で自分の道を通せただろうか、と。
だがもはや退ける道はない。
クロウにできるのはただ一つ、彼らがその道を貫く為の壁になってその強さを世界の理不尽から守ることだけだ。
(そうか
…
もしそうならオレは)
クロウの顔に笑みが戻る。
「さっきの言葉、撤回するぜ」
『ム
…
?』
「あいつなら必ず最終幕までにオレに届かせてくる。あいつはオレと違って独りじゃねぇ。
オレとは違った道で
…
きっとここまで辿り着くだろ」
『
…
そうカ』
「もし
…
そうなったら
…
」
クロウは一面空の景色で埋まった正面のディスプレイを見つめた。
よく晴れた薄い冬の空がクロウを包んでいる。
「オレが辿った道は、間違った道だったとしても、何かの意味はあるのかもな」
きっとⅦ組にその証が残るから。
共にあり、共に貫く「ありえた未来」をきっと彼らなら成してくれるだろう。
「うし、無駄話はこの辺にするぜ。ぐるっと一回りしてパンタグリュエルに戻る。あんまりふらふらしてるとあのおっさんうるさそうだしな」
声音に少しの明るさと、いつも通りの強い覚悟を取り戻したクロウにオルディーネはほんの少し笑んだような気配を見せた。
『了解シた。
…
デはアイゼンガルド連峰辺りマでを一回りしテ戻るとシよう』
「
……
ほんと、余計な気を回すデカブツだぜ」
どこか嬉しそうに呟いて、クロウは北に針路を向けてオルディーネを操作した。
そして蒼い機体は蒼穹に滲むようにして、飛び去って行った。
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