chiri_onigiri
2024-11-14 23:05:22
1954文字
Public 玑灵
 

写真


 最近ようやく聞き慣れてきた小さな電子音に盛霊淵はゆっくりと瞬きした。その音は肖征にも聞こえたようで、彼は陛下への質問を中断し「どうぞ」と短く告げた。
 といってもその鳥の鳴き声に似た音が鳴らせるのは宣璣のみで、急ぎの用件の場合は長い髪に刺さった羽が光熱を帯びるので、スマホが鳴ったということはどうでもいい用件だということだ。
 盛霊淵は肖征の心遣いに微笑みを返しながら胸ポケットを探り、スマホのロック画面に表示された通知を確認して器用に片眉を上げた。ちなみにロック画面には宣璣の寝顔、ハンバーガーを頬張っている顔、拗ねている顔、ホラー映画を見て怯えている顔などがランダムで表示される。
「ふむ」
 盛霊淵のスマホ操作は非常に優雅で、スワイプ操作でさえ高名な棋士の一手に見える。
 陛下の交友関係は決して広くなく、チャットアプリを開いても、表示されるのは極わずかである。もちろん一番上に出てくるのは宣璣で、盛霊淵は特に迷うことなく一方的に賑やかなチャットを開いた。
 宣璣から送られてきたのは十倍は加工された彼の自撮り写真と『お疲れ!俺は今後輩たちの活躍を見届けたところだ。霊淵はなにしてる?浮気してない?』というメッセージだった。メッセージのあとには赤い鳥が「寂しい」という文字を携えて泣くスタンプが続いている。盛霊淵はそれを見ると小さく笑い、非常に簡素な返事をした。
『本当の顔が見たい』
 そのメッセージはすぐに既読がつき、そう待たずに加工前の自撮り写真が送られてきた。学習能力の高い盛霊淵は、先日張昭から習った画像保存をし、新たなコレクションに満足気に頷いた。
 顔を上げると肖征が礼儀正しく待機しており、盛霊淵の表情から問題発生の可能性を打ち消したのか、またあのお騒がせ鳥人がちょっかいをかけているのかと苦々しい表情を浮かべていた。
 盛霊淵は再びスマホを一瞥し、なにか思いついたのか美しい微笑みを浮かべた。
「失礼。写真を撮っても構わないか?」
 その目は悪戯な色を帯びていた。
 
 
 宣璣の願いは非常にささやかなものが多く、それは以前彼の脳内で見た『一生のうちに恋人とする五十のこと』からも見てとれた。盛霊淵はそんな宣璣が愛おしくて堪らなく、時折望み通りベタな行動に付き合ってやっていた。
 チャットで自撮り写真を送るのもその一環で、離れたところにいる恋人同士が互いの現状を写真で見せ合うことで、相手の写真を手に入れると同時に浮気を否定できるらしい。 盛霊淵は常に傀儡術やら多種多様な方法で宣璣を見張っているので、浮気を疑う必要は皆無である。それは宣璣も同じで、毎朝新しい羽の中で選りすぐりの美しいものをせっせと陛下の髪に差し込み、あちこちに身体を擦りつけてマーキングしているので、人間どころか空を飛ぶ鳥たちでさえ盛霊淵に手を出すことはできない理解している。わかっていてそれっぽいことをするというのが、つうであると宣璣は語った。
 結局のところ、写真を送り合うことにお互いの懐をあたためる以外の意味はなかった。盛霊淵は宣璣の写真が手に入るのなら、このくだらない茶番に付き合うのも悪くないと判断した。
 そして今、宣璣は浮気を疑うテンプレメッセージを送ってきたので、盛霊淵もそれにノってやるべきだと考え、肖征が返事をする前にシャッターボタンを押した。
「ありがとう」
 皇族らしい傲慢さで、ほぼ無断であったが、偉大なる人皇に文句など言えるはずもなく、肖征は「どういたしまして」と答えるしかなかった。
 異控局局長は不意打ちにも関わらず、姿勢正しく威厳のある表情で写っていた。それはそのまま証明写真に使えそうな気もしたが、ちょうどタイミングよく彼の背後に立っていた外勤が持っていた懐中電灯をつけてしまった。結果、肖局長は輝かしい光を背負っていたので百点満点の出来とはいえない。
 しかし陛下はそんな些細なことを気にするような器ではない。さらに言えば同じものを何枚も写真におさめるという行為すら意味がわからない。宣璣の写真フォルダに同じようなものが何十枚も並んでいるのを見ると、一体これらになんの違いがあるのか訳がわからなくなってしまう。そのため、撮り直すという選択肢は存在しなかった。
 盛霊淵は宣璣のように加工アプリを使うことなく、肖征に配慮することなく、素のままの写真を送り、そのあとメッセージを添えた。
『雷泽といる』
『二人きり?浮気か!?それと陛下。俺は肖爸爸なんかじゃなくてあなたの写真が欲しいんだ!俺にもあなたの写真をコレクションさせて』
 盛霊淵からのメッセージを受け取った宣璣は素早く返信し、送られてきた写真を王泽のグループチャットに転送した。
『流石雷系。輝きが違う』