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祭
Public
pixiv再掲文
親愛なる叛逆者へ
※pixiv再掲
34話寸前。
勾留中のシュバルツ。とモブ友が少し。
囚人の待遇は想像していたよりは酷くなかった。
「てっきり、天井から吊るされて拷問吏に連日責め立てられるものだとばかり思っていたよ」
戯けた調子でそう口にするシュバルツの笑い難い言い種に、面会に訪れた同期の男は曖昧に笑ってみせるばかりだった。
明確な答えやら、乗っかる様な軽口も本来ならば彼の喉奥には山と詰まっていたのだろうが、生憎と面会の場では会話は録音されるし、何より面会室の入口に佇む見張りが、職務一直線ですと言わんばかりの鉄面皮を湛えているのだ。シュバルツほどに豪胆な精神でも無ければ、普通は余計な発言は控えるだろう。
何しろ、情勢が情勢である。どんな些事が理由で足を掬われるやら知れない。
面会に訪れた彼はシュバルツの士官学校時代の同期生の一人で、特別に親しいと言う訳ではないが、互いに久々に会えば食事にぐらいは誘い合う仲だ。知り合いと言う表現では遠く、親友と言う表現だと首を傾げる程度の距離の相手である。
そんな彼がわざわざ、国を牛耳る元帥閣下──次期皇帝即位が既に決定している──に逆らい、国家反逆罪を言い渡されたも同然のシュバルツの面会に訪れた理由はと言えば、同期の出世頭と言われた『友人』の身を案じたからと言うよりかは、疑念と興味との入り混じった感情、そして彼自身のお節介な性分から、と言った所か。
シュバルツは彼がその性格上、プロイツェン寄りではない事を確信していた。そして彼もまた、シュバルツが『叛逆』を起こした明確な理由が単にプロイツェンと言う人間を好んでいないから、などと言う理由ではない事を確信している様だった。
つまり彼は、プロイツェンに因る帝位の簒奪についての真相を求めていると言う事だ。
とは言え、現状は正にプロイツェン帝の時代に変わろうとしている最中。如何に個人的感情があれど、国がその方向を正しく進むのだとしたら、それに果たして付いていくべきなのかと、彼だけではない、誰もが己の立ち回りを悩む様な状況にある。
録音と見張りの存在もあって、彼は大っぴらにそうと問う様な愚かな真似はしなかったし、シュバルツもまた世間話以上の事は一切しなかった。
口にした通り、実際に囚人の生活は全く悪くなかった。牢に放り込まれるどころか、営倉どころか、単に監視付きの狭い部屋にずっと閉じ込められている、と言う程度である。
想像していた略式裁判も、何やらプロイツェン側にごたつきがあるらしく一向に話を持って来られる気配は無く、因って想像していた様な拷問やら極刑やらと言う処分がシュバルツに命じられる事は無かった。
…
今のところは、だが。
食事も水も与えられるし、粗末な囚人服を着せられる訳でもない。労働役が課せられるでもなければ暴力が振るわれる訳でもない。
「まるでただの謹慎だな」
シュバルツの思考を継いだ様に友人はそう言って、声も潜めず続ける。
「お前は幸運だよ、シュバルツ。今は即位を控えた元帥閣下も、ひいては准将殿もお忙しい身だ。処分のし難い囚人の待遇にあれこれと口を出している程にお暇ではないのだろうよ」
「成程。持つものは家名か。そんなものでも役立つのならば、祖先の代の功績に感謝しなければな」
「まあ、後は上官に感謝でもするんだな。間違っても俺にはするなよ、雨を降らされたら困る」
この通り手ぶらで帰りは歩きなんだよ、と肩をすくめて友人は席を立った。顎の下で指を結んだシュバルツはそれを見送って笑う。
「いやいや。差し入れの一つも寄越さない友との会話だが、気晴らしにはなった」
「相変わらず減らない口だなぁ。少しは殊勝になれよ。まあどうせお前の事など誰も心配はしないだろうが」
呆れた様な苦笑と共に友人は面会の終了を宣言して、そこで会話は終了した。屈強な見張りに促されてシュバルツはゆっくりと立ち上がり、戒められている両腕を引っ張られる様にして、元居た部屋へと戻される。
重たい錠前こそかかる、窓ひとつない狭い部屋だが、本来囚人の入れられる様なものではない。それこそ軍内部での謹慎や処罰に一時的に放り込まれる類の部屋だろう。
帝都にある軍刑務所のつくりにシュバルツは明るくはなかったが、今しがたの『面会』のお陰で色々な事が知れた。
友人は同じ陸軍所属で、階級も同じ少佐である。佐官の身分の人間が手ぶらの歩きでふらりと『面会』に訪れる事が叶う状態。本来ならば重罪を言い渡された囚人の面会には家族や友人などの近いものはまず許可すら下りないのだが、どうやらそうではないらしいと言う事。
誰も心配しないと言うのは、弟の事は心配するなと言う意味であろう事。
そしてプロイツェンが多忙なのはともかく、懐刀であるハーディン准将も忙殺されていると言う事は──恐らくはシュバルツのエーベネでの行動が功を奏して、ルドルフ殿下が水面下でプロイツェンの即位を防ぐべく動けていると言う事の証左と言えよう。
シュバルツの──陸軍の上官は元々にプロイツェン派ではなかった。どちらかと言えば反戦派で、シュバルツをレッドリバーと言う前線に派遣する事をプロイツェンに推薦したのも彼だったと言う。
そんな上官に感謝をしろと言う事は、恐らく今のシュバルツの待遇の殆どは彼の尽力と考えるべきだろう。誰もがプロイツェンにつくべきかに頭を悩ませている最中、生存説の密やかに浮上したルドルフにつくべきかと言う流れが出て来ていてもおかしくない。
プロイツェン派の筆頭であるハーディン准将が不在であるのを良い事に、ともすればルドルフ生存の生き証人ともなるシュバルツの身を秘密裏に保護しようと言う動きは不自然なものではないだろう。
と言った所で、軍部や刑務関係の人間全てが味方と言う訳でもなく、互いに互いを「どう出るのか」と監視している様な状況なのだろう。『協力者』が近くに居る事は間違いないが、それを特定とは易々行くまい。
つまり、シュバルツの囚人生活らしからぬ囚人生活は未だ暫くは続きそうだ、と言う事だが──
簡素なだけで粗末ではない寝台に腰掛けて、シュバルツは目を閉じる。この部屋に押し込められてからと言うものの、今日の『面会』に連れ出された以外は殆ど施設内を歩くには至っていないが、廊下の歩哨や出入り口に配された衛兵らを、いざと言う時どう制圧し脱走したものか、と、ぼんやりとだが想像するのが最早日課になっていた。
『協力者』とそうでない者との判別は、事が起きるまでにはしておきたい所なのだが、なかなかそれも難しそうだ。あの分だと『友人』も出来れば巻き添えを食うのは御免に違いないだろうから、過剰に期待も出来まい。
(
……
せめて、殿下がご存命であらせられると言う事をもっと広められたならば良かったのだが)
エーベネ基地のあの状況では如何ともし難かったが、と思えば押し出される様に溜息が出て来て、シュバルツはともすれば余計な方向へ流れそうになる意識をなんとか事務的な思考へと戻した。
事情はよく解らないが、どうやらルドルフは共和国の者たちと共に行動している様だった。共和国の最新飛行ゾイドがルドルフの帝都帰還の手助けをしているのもシュバルツはこの目で目撃している。
蒼いシールドライガー──ブレードライガー──に乗ったあの少年は一体何者なのか。共和国のゾイドに乗っている以上は共和国の人間なのだろうが、それにしては彼の行動は余りにも軍人らしからぬもので、不可解極まりないものだった。
(本来ならば非戦闘員の様な子供たちだが
…
)
有り体に顔を顰めてはみせるが、戦時下と言う状況では往々にして起こり得る事だ。帝国とて身に憶えがないとは言えはすまい。
そして何より、シュバルツのほぼ唯一の希望はそこにこそあった。
レッドリバーに於いて起こされた意図的な、真正面からの開戦。そこから始まるだろう泥沼の進軍を回避する一助となった、蒼いシールドライガーの、少年。
すれ違った一瞬には緊張感こそあれど明確な敵意はまるで無かった。その侭向けた背に感じる呆気に取られた様な気配が、彼が戦争の為に戦場に居た訳ではないのだと証明していた。
恐らく軍人ではないだろう。遊撃隊と言う程には様々な状況でのゾイド戦に不慣れであったことからもそれは知れる。だが、奇しくもかの少年もまたオーガノイドを連れた未知数のゾイド乗りだ。
彼がどう言った理由でルドルフと同道しているのかは解らない。だがあの少年が、シュバルツが戦場で垣間見た印象通りの人間であるとするならば。
瞼を薄く持ち上げ、軍人は苦く、然し諦念を込めてわらう。
(刃も交えず、言葉も交わさず、『印象』などと言うあやふやなものを判断基準とするなど)
軍人としては、多くの命を扱う者としては到底あってはならない様な事だが、だがこの囚われの身にはそれだけが希望なのだ。
あの蒼いブレードライガーを駆る少年と銀色のオーガノイドとが、ルドルフを連れて帝都に戻り、偽帝であるプロイツェンを打ち倒す。
──全く、子供の想像する絵本の様な話だ。
だがそんな想像を荒唐無稽と笑い飛ばせないだけの何かを──そう、希望を、シュバルツはそこに見い出していたし、ルドルフも恐らくは何か勝算に足る確信を得たからこそ彼らと行動を共にしているのだろう。
何故だろう。彼の少年に付随し浮かび上がるイメージは、希望やそれに似たものを想起させるのだ。彼の姿形も為人も知らない。或いはだからこそだろうか。
それは、大人が子供に未来を見出すある種の身勝手な想像なのやも知れない。
格子の入った嵌め殺しの窓をそっと振り仰ぐ。どうやら帝都の空模様は余り宜しくないらしい、精彩のない白い光が斜めに柔らかく射し込んで来ている。雨になるやもしれないと思って、俺は悪くないぞ、と面会に訪れた友人の顔を思い出したシュバルツがそんな益体もない事を考えていた時であった。
こと、と小さな音が耳朶を打った。何か動作でもしていれば聞き逃す程度の小さな、小さな音だ。
「
……
」
錠前の音だ、と幾つかの想像からその可能性を拾い出したシュバルツは、立ち上がると目を凝らして出入り口の扉を見つめた。扉の外に掛けられた錠前を、例えば指で軽く押した様な音。偶然でも鳴り得る様な『物音』。
それは偶然を装った、意図的な『物音』だ。己の勘がそう確信すると同時、シュバルツは頷く様に、こつ、と床に靴音を響かせる。これもまた小さな、室内を歩いていても起こり得る様な音。
こと、ともう一度音がした。今度は確実にそうと拾える音であった。シュバルツが足音を忍ばせ扉に近づくと、扉の下、床との僅かの隙間から、茶色い小さな紙片が姿を覗かせた。
かさ、かさ、と小さく紙が床に擦れる音をさせて室内へと進み入って来たそれを、一瞬の逡巡の後にシュバルツは抜き取った。
これが罠である意味は恐らく、友人の話して呉れた状況からも有り得まい。プロイツェンには囚人一人の処遇に策を弄し頭を悩ませている暇など恐らくはない。勝利を目の前に見据えた奴は足元の些事よりも、遠くから訪れるであろう明確な『敵』を見据えて、その為の準備を進めている筈だ。
拾い上げたそれは、元々薬や荷物を包む為の、防水用に油の薄く塗られた薄手の紙だった。乱雑に折り畳まれた紙を慎重にシュバルツは開いて行く。
「
………
」
拡げられた皺だらけの紙片に、流暢な字体ながらも木炭か何かで書き殴る様に刻まれたメッセージは、酷く簡潔であった。
──その時が来たら、軍部の格納庫へ向かえ。命を賭して殿下と帝国を護られよ。
『協力者』が危険を冒し寄越したのだろうメッセージには、反論の一切を期待しない力の勁さがあった。まるで、シュバルツがそれに正しく応えると確信しているかの様に。
(
…
了解した)
声にはせずただ顎を引いて頷くと、紙片を細かく千切って寝台の足の下に無理矢理に突っ込んで隠す。囚われの状態では紙一枚の処分でさえ容易ではない。それだけに『協力者』も危険な橋を渡っている。
そうしてでも勝つと言う、それはシンプルに強い意志の表れでもあったのだろう。
寝台に座り直したシュバルツは、ただ静かに『その時』を待つ事にした。それはそう遠からぬ事なのだろうと言う、希望の確信は既にあった。
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34話ですんごい良いタイミングで駆けつけて来たので、何か示し合わせや協力があったのかなと。
兄さんがエーベネで囚われ>帝都移送だとしても、エーベネから脱走していたとしても、反逆者になった身でコング部隊引き連れて出て来られ>且つその後帝国軍の指揮の一部を担っている、のは、正式に反プーから任されないと難しいのではないか、と。
まあデスザ&プーVS殿下存命と言う時点で義があるのは後者だって現場ではなっていたとは思いますけど
…
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