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祭
Public
pixiv再掲文
良い日
ろぶか戦友風味。 ※pixiv再掲
GF篇少し前ぐらい。
荒い呼吸が鎮まっていくと、今度は血の腥い臭いに噎せ返りそうになる。
横倒しに立てた机の天板に背を預けて、ハーマンは大きく息をつくと、手にした拳銃の弾倉を添えた手のひらへと落とした。
そんな事をしなくとも銃爪を引きながら弾数は数えている。だから、残弾数は頭の中の想定と全く違えてはいない。
多くはないその数に嘆息して、それをどう効果的に使うか、果たしてそんな事を考えている余裕があるのかと、落ち着いた呼吸の中で自問する。
がち、と言う金属の鳴き声に顔を起こすと、向かいで同じ様に座ったシュバルツが、銃口を上にし抱えたライフルのボルトハンドルを踵で器用に押し込んだ所に出会う。
「我々の祖先がこの惑星に来る以前の話。大昔の蛮族はこう言ったそうだ」
薬室に弾丸の送り込まれる音と共にそう呟く様に言って、シュバルツは左手で大きな狙撃用ライフルを脇に挟んだ。本棚で塞いだ、もう硝子など残っていない窓の、僅かに空けた隙間に銃口を向けて固定すると、スコープの蓋を開く。
呼応する様なタイミングで、銃声が響いた。本棚の背を撃ち抜いた弾丸の鋭い軌跡が床に突き刺さるのを見て、ハーマンも拳銃を構えて窓辺に膝をつく。
「『今日は死ぬのにはいい日だ』と」
スコープから一旦目を切って、シュバルツはハーマンに向けて笑いかけてみせる。その右肩口には血で黒く染まった繃帯が巻かれ、制帽の翳りに遮られていない顔色は失血と疲労とで青白かった。
「
…
まさか、玉砕覚悟だと?」
「可能性は低くないだろうな。何しろ、帝国と共和国との合同演習を乗っ取って、帝国が共和国に攻撃を仕掛けた様に思わせるなどと言う三流のシナリオを描いていた蛮族、いや、テロリスト共だ。
──絵空事ならともかく、その馬鹿げた考えを実行しようとする様な連中ならば、命など容易く放り捨てられるだろうよ」
青白い顔で微笑んだシュバルツは、そう言うと再びスコープを覗き込んだ。この、籠城するには余りに脆弱な将官用の部屋の中、ハーマンは「くそ」と舌打ちをして通信機を叩いた。
既に援軍は呼んであるが、オコーネルの率いるそれが辿り着くのが先か、この部屋を遠巻きに包囲する連中が急拵えのバリケードをぶち破って来る方が先か。
シュバルツの見立てが正しければ、後者の方が圧倒的に早い筈だ。
こちらの手元には僅かな弾数の拳銃とライフル。おまけに一人は負傷中。それでどれだけの時間を凌げるか。考えただけで憂鬱になりそうだった。
ゾイドを動かせない様にシステムを全停止させる事が辛うじて出来たのは幸いだった。そうでなければとっくにこんな籠城は終わっているところだった。共和国と帝国は再びの戦火に包まれ、大義も目的も無い戦に、これを仕組んだ何者かは笑い声を上げていただろう。
二度目の銃声。響いたその残響が消えぬ内、シュバルツが銃爪を引いた。牽制に少ない無駄弾を使うとは思えない。だから確信はなくともそれが『敵』の数を減らしただろうと判断し、彼が再びライフルを抱え座るのと入れ替わりにハーマンは銃口を突き出し、覗き見えた人影に向けて発砲した。
残弾数にひとつマイナスを付けて、ハーマンは嘆息して座り込む。既に周囲は死体だらけだ。弾数が減った代わりにそれが増えたかどうかは最早判らない。
また器用に足でコッキングを行ったシュバルツがわらう。
「玉砕のつもりはこちらには無いが──、どう思う?」
ライフルを抱えて座るシュバルツの前には、残弾が立てて置いてある。並んだその数を視線だけで数えて、ハーマンは肩を竦めた。
「何が」
問いの内容は想像がついていたが、だからこそ少し苛々とした声が出た。
「死ぬのに良い日か?これは」
殴られた痕の目立つ、汗と埃に汚れた頬をぐいと拭って、翠色の目が冷ややかな色を湛える。
銃声とほぼ同時。かん、と高い音を立て、放たれた銃弾が本棚の金属部分にぶつかって火花を散らすのに態とらしく身を竦めてみせる帝国軍の若い大佐を見つめて、ハーマンは拳銃の遊底を引いた。
「死ぬ事を少しも考えていない様な面で言う台詞じゃあないな」
「
………
それもそうか」
口許に刻んでいた笑みをふっと消すと、迫る足音たちに二人は視線をそっと交わし合った。遠くからもゾイドの装備に因るものらしい破壊の音が聞こえて来ている。ここらが正念場になりそうだ。
「生き延びて、いい日だったと言う。それで良いな?」
「了解した」
ハーマンがバリケードで塞いだ扉に向けて拳銃を構えるのに、シュバルツはライフルの銃口をまた窓へと向けて置いた。互いに背を向け合いながら、どちらともなく静かに深呼吸する音が聞こえた。
死ぬつもりはないが、お前と共に戦って死ぬのなら悪くない、と口にしても良かったのだが、それは今度に取って置こうと飲み込む。
そして銃爪に指を掛けて、次の瞬間をただ待った。
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