エーベネ基地の自爆装置の作動と言う一報は軍本部へと自動送信され、直ぐ様にエーベネの通信コード宛に真偽を問う連絡が届いた。基地の総責任者であったラルフはそれを認め、己の不手際だとまず前置きした。事実はどうあれ責任逃れの言い訳を最初からする様な者を、報告を受けるハーディン准将は好まないタイプだ。
その上でラルフは、エーベネを訪れていたシュバルツ少佐が、基地を襲撃しようとした『ルドルフ殿下を騙る贋物』一味と内通しており、自爆装置を作動させたのも彼だと強調した。
それを聞き、信奉するプロイツェン閣下にただでさえ反抗的だったシュバルツを快く思っていなかったらしいハーディンは、全く苛立ちを隠そうともしない声で続けて問うた。
シュバルツ少佐の身柄は抑えてあるのか、と言う事を。
ラルフはこれに、是と答えた。現在拘束中です、とも。
自爆装置を作動させたのがシュバルツであると言う物理的な証拠は何一つ無い。だから或いはハーディンは、ラルフが偶々居合わせたシュバルツに、己の不手際で生じた事態を隠蔽する為の汚れ役を負わせようとしているのではと考えたのだろう。何故その場で始末しなかったのだ、と机を叩く音と共に怒鳴られた。
通信が音声だけで良かったと思う。耳から通信機を少し離したラルフに気づく事もなく、ハーディンはシュバルツの処刑を矢継ぎ早に命じて来る。
「然し、現場だけでの判断となると、逆に証拠隠滅を疑われる可能性があります。シュバルツ少佐は元帥閣下に反する連中に特に人気が高い様ですからね。暗殺をしたなどと疑られると今後厄介になるやも知れません」
ラルフの尤もな言い分になおもハーディンは感情優先の意見をああだこうだと怒鳴り続けていたが、やがて諦めた様に次の報告を求めて来た。
基地の現状と、残存兵力の確認である。即ちそれは、まだ元帥閣下のお役に立てるのか、と言う問いでもあった。
これに対してラルフは、状況が整い次第すぐにでも追撃を出せます、と少し無理をしてそう言った。
脳裏には共和国の、嵐の刃たる飛行ゾイドの影をちらつかせながら。
*
軍事基地には当然だが、ゾイドをはじめとした兵器の類の他に様々な機密が存在している。通信のコードや暗号表、作戦行動のログやら集積したデータやら何やら、兎に角これがまるごと敵の手に落ちる様な事はあってはならない。
因って帝国に存在する基地の全てには自爆装置が設置されている。主要な基地や新しい設備のある基地であれば、自爆装置は基地責任者の持つキーもしくは生体認証とを要するのだが、生憎とこのエーベネは立地も要衝と言えず補給にも辺鄙な、古く寂れた基地であった。装置はシンプルにガラスのカバーで覆っただけの代物で、発令所に設置してあるそれは隠しすらされていなかったのである。
結果、簡単に押されて仕舞った自爆装置は勤勉にその役割をこなした。
被害は主に基地の機関部と格納庫。幸い爆発前にブラックレドラーの半数は安全空域に退避させていたが、予備機のレドラーや各種兵装などは見事に基地と共に消える事となった。
そんな中で、シュバルツがここまで来た足でもある、彼の黒いセイバータイガーは状況を把握していなかった兵士に因って速やかに運び出されており──将官の所有ゾイドなので優先的に運び出したそうだ──、その被害はと言えば見事に無傷だった。そこまで計算して爆破させた訳ではないのだろうが、なんとも忌々しい話である。
ラルフは真っ先に、被害の少なかった基地の居住区画を取り敢えずの臨時指揮所として、総員で生き延びたブラックレドラーの調整とメンテナンスを急がせる指示を出した。格納庫が破壊された為に野晒しの状態だが、幸い雨も止んでいる。
殆どの人員が作業に追われている今、居住区の廊下は閑散としていた。命令を出し終え指揮所を離れたラルフは足音も荒く、複雑なつくりの廊下を迷う事もなく進んでいく。
やがてその足は兵士が一人前に立つ部屋の扉に到着した。兵士が敬礼を取るのに敬礼で返し、顎をしゃくって扉を開ける事を促す。
簡単な電子ロックのパネルを幾つか叩くだけで、扉のロックが外れるかちりと言う音が鳴った。どうぞ、と仕草で促されるのに鷹揚に頷くと、ラルフは拳銃を抜き遊底を引いた。かち、と銃弾が薬室に送られる無機質な金属音が静かな廊下にいやに響き、思わず兵士が一歩を下がる。
扉を開けたラルフは室内に入ると、後ろ手に扉を閉めた。その正面、手錠をかけられパイプ椅子に腰を下ろしているのは、旧友──否、囚人となったシュバルツだ。
基地を破壊され、甚大な被害を被り、『ルドルフ殿下の贋物』一味を逃した。幾つもの偶然の積み重ねの結果とは言え、ラルフがプロイツェンの信用を損ねるには十分過ぎる失態である。
目の前に居る囚人はそれをやらかした一人であって、また、ルドルフが暗殺を掻い潜って帝国へ帰還した事を知って仕舞った一人でもある。ハーディンが私情を抜きにしても殺せと声を荒らげるのも当然と言えばその通りだ。
目が合うなり無言で拳銃を向けるラルフに、然しシュバルツは悠然と目を細めてみせただけだった。
「今度こそ銃爪を引く気になったか?」
「──っ!」
煽られている、と思ったが、沸き起こった憤りの侭にラルフはシュバルツの胸ぐらを掴み上げると、その眉間に銃口を押し付けた。ぎ、と激情に逆らわず力を込めた奥歯が軋む音がする。きっと誰が見ても無様に怒り狂っている軍人の顔だろうに、そんなものを目前にしてもシュバルツは苦しげな表情に笑みすら浮かべてラルフのそんな様を見ていた。
二度、既に銃口をこの男に向けた。一度目は牽制の意図が強かったが、二度目は明確なる反逆者に向けた警告であった。或いは、基地の自爆装置の許可なき作動と言う、基地管理責任者であるラルフにならば、ハーディンが文句を言った通りにその場で銃爪を引いても何も問題の無い場面だった。
だが、ラルフはどちらも銃爪を引かなかった。あの距離なら外す事もなく、シュバルツの整った面相に小さな瑕疵をひとつ穿てただろうに。そうしていれば、こんな不快感を噛みしめる事ももう無かっただろうに。
「………ちっ」
然し、三度目もやはり銃爪にかかった指は引かれる事が無かった。軍服の襟元を掴んでいた手をラルフが離すと、僅かに浮いていたパイプ椅子の前足ががたんと地面に落ちて、息苦しさから解放されたシュバルツは軽く咳き込んだ。
エーベネ基地にあった勾留用設備は爆破の際に損なわれて仕舞っており、今シュバルツを監禁しているのは居住区にある、殆ど使わない様な予備備品を収めてあるただの倉庫だ。窓がなく鍵のかかるそれなり頑丈な部屋と言うものが他に残っていなかったのだから仕方がない。
備品の箱やら棚に囲まれて置かれた折り畳みのパイプ椅子。そこに、後ろ手に手錠と、片足に椅子の足とを繋ぐ鎖をかけられてなお、まるでリビングで寛いででもいる風情の囚人が一人。
これを見て、反逆者を捕えたと声高に言える気はしない。本来ならば基地の地下牢に吊ってやりたい所だったのに、と思うが、この囚人が全く囚人らしくないのは環境ではなく当人の問題か、と不機嫌にこじつけて、ラルフは結局発砲される事の無かった銃口を持て余し気味にシュバルツへと向け続けた。
最早溜息すら出ない旧友の苦々しい表情をどう取ったのか。シュバルツはけほけほと少しの間咳き込んでいたが、やがて乱れた己の襟元を少し不満げに見下ろしてから、眼前のラルフの突きつけた侭で居る銃口を覗き見る様に上目を向けてくる。
「…なんだ。やっぱり撃たないのか」
皮肉すら乗せない真っ向からの痛烈な、嫌味とも取れる様な事を口にするシュバルツを、ラルフには殺す理由も、殴りつけて黙らせて良いだけの権利もあった。寧ろそうさせようとでもするかの様な態とらしい煽り方だと思えてならない。囚人の癖に、己の生殺与奪を握る旧友を試してでもいるつもりなのだろうか。
「……軍人とは言え、銃爪が軽過ぎるのもどうかと思うんでな」
「ふぅん?それはその通りだな」
苦し紛れに逸らしたラルフの言葉に、シュバルツは首を傾げると感心した様に頷いてみせた。
時折シュバルツが後ろに回された手を動かしていると知れる、鎖の耳障りに鳴る音さえしなければ、本当にただの世間話を交わす旧友たちでしか無い。その違和感に然しそれ程不快感をもう憶えない事に気付いて、ラルフはそこから連想出来る感情或いは感傷に触れかけて目を眇めた。
「お前の所為で始末書を書く羽目になったよ、シュバルツ」
「そうか。暇な基地の配属では味わえない有意義な仕事が出来た様で何よりだ」
忌々しげに投げれば、今度はきちんと皮肉が帰ってくる。如何にも育ちの良さそうな風貌の癖に口は昔から可愛くない男である。ラルフは舌打ちをしかかるが、いや、と思い直す。今は明らかに自分の方が有利な立場に居るのだ。口先だけの攻撃に怯んでいてどうする。
「…反乱軍への加担、エーベネ基地の破壊。本国に移送されれば間違いなく銃殺だ。時勢を見誤ったが故に家名に泥を塗って人生終わりとは、あのカール・リヒテン・シュバルツにしては全く下らない話だと、お前はそう思わないか」
シュバルツが殊更に家名についてを自慢したり強調したりした事はラルフの知る限りでは無かったが、名家に生まれついた人間とは往々にして家の名や祖先の名声に縛られるものだ。況してやシュバルツ家と言えば軍属の人間ならば誰もが知る名門だ。その誉れ高い家柄に傷を付けたのだから、何かしら思う所ぐらいはある筈だ。
己の溜飲を下げたいだけの言い種であると理解はしていたが、ラルフは少し態とらしく呆れ調子で言う。だが、それに対してシュバルツの反応はと言えば、期待していた様な悔しげな顔でも後悔を滲ませる表情でも無く。それどころか彼はふっと笑うとかぶりを振った。
「時勢に因ってころころ変化する志など大義でもなんでもない。元帥閣下も貴様も、どう言葉を飾ろうが、ただの帝位簒奪の罪人でしかない」
「時勢が作るものが何れは真実の歴史になるんだよ。お前のそれは負け犬の遠吠えさ」
ラルフが何を言った所でシュバルツの表情には堪える気配など微塵も表れなかった。家名などシュバルツにとっては、生まれついて持っていたただの付属物の様なものでしかなかったに違いない。どんな生まれであろうと彼の性情や才気は恐らく変わるまい。
そして家名がどうであろうが一族が何を言おうが、一連の行動に後悔などすまい。この男はルドルフ帝を救う為に自らを犠牲にする事を何一つ厭わなかったのだから。己の定めた大義に従っただけとしか思っていない。そしてそれを果たした今ならば、殺されようが構うまいとさえ考えているだろう。
無論己に向けられた引き金が引かれるその瞬間までは、諦め悪く起死回生の一手を考え続けるだろう。士官学校の同期だった頃から、この男はそういう奴だった。
突きつけられている、安全装置の解除済みの拳銃は、ラルフの指が僅かでも動けば、動いて仕舞えば、銃としての機能を当たり前の様に発揮するだろう。
一秒後に己の命を奪うやも知れない、その洌い金属の銃口をじっと見上げるシュバルツの表情にも、やはり堪える気配も怖じける気配も微塵もない。ラルフ自身に撃つ気が無かったとしても、手が滑っただけで、何かのはずみが起きただけで、銃爪は簡単に引かれると言うのに。
「…つまらんな。どうせなら命乞いぐらいしてみせろよ、シュバルツ」
「なんだ、そんなに俺とのコミュニケーションに飢えていたとは。気づかなくて済まなかった」
相変わらずの減らず口を投げるシュバルツに苦笑して、ラルフは銃爪に置かれた己の指に意識を向けた。必要なのはほんの僅かの力と意思。或いは偶発的な何かの弾み。その何れかが手の中の重みに今作用して呉れはしないだろうか。
そんなラルフの様子に何処か気怠さすら漂う視線を向けていたシュバルツだったが、銃爪が動く事も銃口が退けられる事も無いと悟ったのか、拡散した沈黙の中でそっと、口元だけでラルフに微笑みかけて寄越した。自信と確信とに裏打ちされているからこそ作れる様な、腹立たしい程にうつくしい笑みだった。
「知っているか?死体の始末と言うのは非常に厄介だと」
だから、そんな笑みが紡いだ唐突な言葉に、ラルフは思わず鼻白んだ。
「…何だ、藪から棒に」
脈絡がないにも程がある。思って問い返して仕舞ってから、良い様に誘導されたかとまた気付いて臍を噛む。
そんなラルフの憮然とした困惑に気付いているのかいないのか、シュバルツはどこか淡白な調子で続ける。
「殺害そのものは至って簡単だ。だが死骸の処分はそうはいかない。死ぬと質量は倍加するんだ。血や分泌物は流れ、臓物の臭いも防げない。組織が胃酸に溶かされて腐敗が進めばガスで風船の様に膨れ上がる」
つらつらと、お綺麗な顔で、形の良い唇で、酷く不釣り合いな言葉を紡いで行くシュバルツを見下ろした侭、眉をひそめたラルフは夕食がまだだった事を少しだけ後悔した。
軍人として死体そのものに慣れはあるが、細かい状況までわざわざ想像や分析などしたくもない。そんなものは死体処理屋の仕事だ。
だが、何が言いたいのだ、と苛立ちに流されて口を挟む事もなく、ラルフは伶人の紡ぐ美しくも不気味な詞を聞いていた。
「20瓩程度の重りでは水に沈めた所で浮かび上がって来るそうだ。土を掘って埋めるにしても並大抵の事ではない。ではどうするか?手っ取り早いのは焼却する事だが、実はこれが一番始末に負えない。灰は『永遠』の分子だ。何処にも消えずただ堆積するばかりのものだからな」
物騒な言葉を連ねている癖に、銃口越しにラルフへと向けるシュバルツの視線は滲む程に柔らかい。
ふ、と笑う。ああ、これは見覚えがある。自爆装置を作動させ、己の勝利を確信していた時のあの表情だ。敵中で銃口を突きつけられていると言うのに、それでも浮かべてみせた、不敵で、後悔も恐れも欠片もなく、確信しかない、あの。
「どうせプロイツェン──いや、ハーディン准将辺りか?報告したんだろう?お前の過失より明確に解り易い反逆者がこうして居るのだから、こうなる前にお前はとっとと撃つべきだったんだよ、ラルフ」
紡ぐのは痛烈な皮肉めいた言葉だと言うのに、然しどこかあたたかな声でわらう。恐らくシュバルツは引かれなかった、これからも引かれる事の無いだろう銃爪を、揶揄するのではなく感謝しているのだろう。悔しい事だがその想像が正しいと言う確信はラルフにもあった。
「……お前にはそんな破滅願望があったか?」
だが、舌打ち混じりに、気づかない風にそう投げれば、「いいや?」と片眉を持ち上げ面白そうに言われる。飽く迄白を切る事を決めた旧友の、その弱味につけ込むつもりは無いらしい。
「確かに、ハーディン准将はお前を即刻殺せと喚いていたよ。だが俺の考えは違う。元帥閣下にお前の首を差し出した方が自分のメリットに──この度の失態を払拭出来る程度のご機嫌取りにはなると、そう判断したまでだ」
「へぇ?」
「建前ならばお前の言った趣味の悪い、死体処理がどうとかそう言う理由でも構わんが、余り俺の好みじゃないんでな」
ぞんざいに言うと、ラルフは銃口でシュバルツの額をとん、と突いた。
「どの道、お前はここで死ななくとも帝都に移送されれば略式裁判の後に銃殺だ。どうした所でお前の命運が尽きたって事実に代わりはない」
死体の処理がどうとか。結局それは、物理的に残る事も面倒だが、何よりそこに永遠に遺ると言う事だ。心などと言うセンチメンタルなものではなく、単に後味として。
銃爪に指はかけた侭。鈍く光る銃口がシュバルツの金色の前髪をそっとのけ白皙の額を押している。あとほんの僅かでもラルフが指に力を込めれば、雷管が叩かれ爆発力を受けた銃弾は高速回転しながらシュバルツの額に小さな穴を残して、その脳味噌を致命的な程に破壊するだろう。
たかだかそれだけの事。想像は易くとも、己の指がその想像に向けてはもう動かないだろう事を、或いは銃爪を引かせる偶発的な事象が起こる事も無いのを、ラルフは不承不承に認めていた。
「破滅願望は無いな。殿下がご存命と知れた以上、俺の命はそんなに安易に使うものではなくなった。だから、撃たないのならもうそろそろその物騒なものを退けてくれないか。額が痛い」
丁度、ラルフのそんな思考を読み取りでもした様に顎を軽く擡げて、シュバルツが口を尖らせ抗議する。今更何を、と思ったが、ラルフは勿体ぶった動作でゆっくりと銃口を真上へと向け、それから漸く腕を引っ込めて銃をホルスターに収めた。
引いていく銃口を目で追ってから、シュバルツはさも迷惑を被ったとばかりに態とらしく首を何度か左右に傾げた。伸びでもしたい所なのか、肩が揺れて手錠が一度大きくがちゃりと鳴る。
命を安易に使わないなどと言ったと言う事は、この男はまだ諦めていないと言う事だ。どうにか生き延びてあの、『ルドルフ殿下を騙る贋物』一味を助けるつもりでいる。現状は己が囚人であると言うのに。
その勝ち気に過ぎる自信は一体この涼し気な風貌の何処に収まっていると言うのか。何年経っても全く解りそうもない。
(脱走を目論むとしたらやはり移送中か?然しこの荒野を徒歩で逃げられる訳もない。そうなるとゾイドを盗む可能性が高い…?ならば先にブラックレドラーで奴を運んだ方が…、いや、今はルドルフ一味の追撃の方が優先だ…)
「そう言えば、結局茶は馳走になっていないな」
ふと思いついた様にそんな事を言い出すシュバルツに、真剣に思考を巡らせていたラルフの口元は流石に引き攣った。
シュバルツの口にした、茶を用意するとかしないとか言う件は、帝都で偶々会った彼をエーベネに来る様誘った時に、誰あろうラルフ自身の口にした言葉であるのだが、どう考えても今持ち出す様な話題でもない。いっその事、空気の読めない愚か者、と断じる事が出来る様な相手であれば未だ、呆れるだけで済んだだけましだった。
「飲ませろと?生憎、折角用意してやった茶も爆発に巻き込まれて仕舞った。自業自得だろう」
「…そうか。それは残念」
拳銃を突きつけられても動じなかった男が、今ばかりは消沈して言うのに、ラルフはようよう気付いて馬鹿馬鹿しくなる心地を堪えきれなかった。この期に及んでシュバルツは、まだラルフと世間話でもしているつもりでいるのだ。
今忙しく立ち働いているだろう整備員たちの仕事を手伝えはしないが、そこに立っているだけで作業への真剣さも士気も上がる。わざわざ処刑予定の囚人の元を訪れた目的は、本来ならば一つしかなかった筈だった。それが出来なかった以上はこんな所で下らない雑談に花を咲かせても仕様がない。
「…シュバルツ。くれぐれも妙な真似はするなよ。本来軍人ってのは、任務の上では銃爪が軽いものだからな」
恫喝するには説得力がこの上なく無いなとでも言われるかと思いきや、目の前の囚人はただ静かに、
「そうか。貴重な忠告をありがとう」
と頷いたのみだった。今度は心には書くが紙に書く必要はないと思ったらしい。
それから動く気配もなく黙り込んだので、ラルフは旧友に背を向けると、もう振り向きもせずに独房代わりに使っている倉庫を後にした。
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29話後のMousou。すれ違いまくりの基地破壊被害者ラルフさんと加害者シュバルツさん。
どうやらうちのラルフはシュバルツに、解ってくれればいいのに、と思いながらも、それが絶対不可能で、それでこそカール・リヒテン・シュバルツなのだとも思っている模様。
叛逆者を処刑場に突き出す気は変わらないし、叛逆者も我を曲げる気ゼロ。
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