ナガレ
2024-11-14 20:06:36
1841文字
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ぶぜまつワンライ「彼シャツ」

2024/11/2第19回ぶぜまつワンドロライ「紅葉・彼シャツ・ツーリング」で書いたもの。彼シャツを着てもらうにはどうしたらいいか悩んだ結果、こうなりました、

今日は朝からよく晴れており、絶好の洗濯日和だった。薄手のものなら夕方までに十分乾くだろう。そう読んだ男士は多く、朝早くから物干し竿には多くの洗濯物が並んでいた。松井江も朝早くから洗濯をした身だ。出遅れると洗濯機の順番を待つことになる。朝餉の時間よりもずっと早くに起きたかいあって、松井は一巡目で洗濯機を使うことができた。物干し竿も日当たりの良い場所を確保することができた。
早起きした分は午睡で補えばいい。うとうと微睡んだ後に目を覚ました松井は、乾いた洗濯物を取り込んだ。そして自室に戻る途中の廊下であるものを見つけた。――白のワイシャツだ。
……だから籠か袋を使った方がいいと言ってるんだ」
襟に黒色のラインが入った白色のシャツの持ち主に、松井は心当たりしかなかった。――豊前江だ。村雲江も同じデザインの白いシャツを持っているけれど、彼は折角洗って乾いたのに落としたら嫌だからと、松井と同じように籠に入れて干し場から部屋まで運ぶ。手で抱えて運ぶ事はない。そう、豊前の両手は洗濯物に向けても開かれているのだ。部屋の障子を器用に足で開けている、両腕いっぱいに洗濯物を抱えた豊前の姿を松井は何度も目撃していた。
「仕方ないな」
そう言いながら松井は落ちていた白いシャツを拾い上げた。汚れは付着していない。これなら洗い直す必要は無さそうだ。このまま豊前の部屋に届けてもいいのだが、どうせならアイロンを掛けてから渡そう。自分のシャツにアイロンを掛けるついでだ。松井は籠に入れた洗濯物の上に拾ったシャツを乗せた。
部屋に戻ると、松井は壁と箪笥の間に立て掛けていたアイロン台を引っ張り出した。次にアイロンの準備。シャツに軽く折り目をつけるだけだから水はいらない。あとはアイロンを熱したら準備完了なのだが、松井はある事を思いついた。……いわゆる出来心というやつだ。
内番着の上衣を脱ぎ、豊前のシャツに手を伸ばす。そして戦闘衣装の外套と同じように軽く羽織ってみた。
……
松井に新たな出来心が生まれてくる。部屋には自分一振りしかいないのに、松井は左右を確認した。そして、おそるおそる袖に腕を通してみた。
己のふわりとあそびのあるデザインシャツと違い、豊前のシャツはほぼジャストサイズだ。背格好は大きく変わらないと思っていたけれど、こうやって着てみると何となく豊前の方が大きい気がする。ほんの少しだけ、何となくだけれど。
「これが音速だっ……なんてね。フフッ」
声真似をしてみたけれども、面白いくらいに似ていない。遊びはこれくらいにしておこう。豊前のシャツを脱ごうとした松井だったが、次の瞬間その動きは止まった。突然部屋の障子が開いたのだ。「松井入るぞ」の声と共に。
「洗濯物落としたみてーで、探してたら松井さんが拾ってましたよって聞いたから来た」
「そ、そうか」
その、アイロンを掛けてから渡そうと思って。……この格好?いや、その、特に理由はなくて。あの、勝手に着てすまなかった洗いたてなのに申し訳ないもう一度洗ってから返す勿論きちんとアイロンも掛け――
「そのまんまでいーよ。あいろん、自分のにもやるんだろ?最後でいいっちゃ」
その代わり、そのシャツまだ着てろ。
「意味がわからないのだけれど……
「深く考えるなって。こっちの都合」
にこにこと、豊前が有無を言わせぬ圧を掛けてくる。困惑しつつも、松井は言われた通りにすることにした。
電源を入れてアイロンを熱し、ハンカチやシャツにアイロンを掛けていく松井。豊前はそんな松井の姿を興味深そうにを見てくる。……アイロン掛けなんて面白くも珍しくもないだろうに。一体何を考えているのだろうか。たまに豊前の考えている事がわからない。松井は心の中で大きく首を傾げた。
……これがかれしゃつってやつか」
「何か言ったか?」
「いや、何も。ひとり言。それ終わったら夕飯までまだ時間あるし、少し外に行こーぜ」
「わかった。あとは君のしゃつだけだから、もう終わるよ」
「んー……あいろんいらねぇわ。終わったなら行くぞ。冷えるといけねーから、何か羽織って待ってろ」
「急だね」
松井の返しを肯定と見なした豊前は、鍵を取ってくるからと言って部屋を出ていった。鍵がいるということは、歩きではないということか。もしかしたら夕飯までに戻れない可能性もある。念の為に財布と通信端末も持っていこう。脱いだ内番着を再び着た松井は、上衣のポケットにその二つねじ込んだ。


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