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しじみ
2024-11-14 18:20:09
2801文字
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🏀
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ジュンブラ無配
流花オメガバ既刊「しあわせのありか」の流川サイドです。載せるタイミング見失ってて遅くなりました
本編読まないと内容分からないと思います🙇♂️
鮮烈な赤だった。夜眠ろうと思って瞼を閉じても、チカチカと瞼の裏側に写るくらいに。
***
流川楓はアルファであった。第二の性別なんてものに流川自身は興味がないものの、周りが放っておかない。
中三の春、クラスの女子生徒が発情を起こした。オメガである当人は抑制剤を飲み忘れたと主張したが、状況から流川を狙ってわざと発情を引き起こしたのは明らかだった。一人、二人、三人。流川が一人でいる時や昼寝している時などを見計らって、発情をわざと引き起こす者が続いた。煩わしい。流川からすればその一言に尽きる。
流川自身はアルファだと診断されたときから親に言われて薬を飲んでいた。オメガのフェロモンに反応しないようにする薬を。そのため一連の事件で最悪な事態には至ることはなかったが、気が付いた時には流川は嗅覚の一部を失っていた。普通の匂いは感じられるが、フェロモンを感じることが出来ない。しかし本人は特に気にしていなかった。だってバスケにフェロモンは関係ないから。
***
桜木花道に会ったときから、炎のような赤が流川の脳裏に焼き付いていた。その上目を合わせると心臓が試合の時みたいにうるさくなる。流川本人はそれを不思議に思いつつそこまで気にしていなかったのだが。
「好きです。初めて流川くんを見たときに一目惚れしました」
部活のない放課後、呼び出しを受けて向かった先で言われた言葉に衝撃を受ける。「一目惚れ」、これこそが自分の症状なのではないか。返事もそこそこに、流川は本屋に向かった。
「
……
『特集! 初めて好きな人ができたら⁉︎』
……
これにするか」
薄い女性向け雑誌を購入し、自宅で開く。活字はあまり得意ではないが、背に腹は変えられない。
「
……
『相手を見るとドキドキするのは恋の証!』『好きな人のことはキラキラして見えちゃう!』
……
なるほど」
自分の症状とそっくりである。流川は一つ頷いた。どうやら自分は桜木のことが好きらしい。不思議と忌避感なく受け入れることができた。
本を読み進めると、今の自分に必要な情報がたくさんあった。なるべく話しかけること、ご飯を一緒に食べること、一緒に出かけること。まずは距離を詰めるべき。そう考えて流川は雑誌を閉じた。
***
思ったよりも接触できるもんだな、とは流川の弁である。今日も桜木と話せた。ただちょっと、殴り合いになったりはしたけれど。明日は一緒に昼飯を食べたいな、と思っていたのだが。
「
……
今日も水戸といる」
教室前を通った桜木を見つけて弁当片手に教室を飛び出したが、空振りに終わった。「一緒に飯食いたい」と精一杯のアピールを視線に込めたが伝わらなかったようだ。
その日一日少し肩を落とす流川だったが、数日後に幸運が訪れる。たまに朝練しに行く公園で、桜木を見たのだ。そこで天才的な閃きをした。ここで自分が桜木にシュートを教えれば一緒に出かけることになるのは? 冴えた考えに流川は浮かれる。浮かれついでにとても良い夢を見た。緑の芝生に寝転ぶ桜木にキスする夢。芝生色に桜木の赤が映えて、綺麗で良い夢だなと思ったのを覚えている。
部活の前に話せてさらに浮かれる。嫌そうな顔されたのには少々傷ついたが、それでも顔を見て話ができるのは嬉しい。桜木の話を聞いて、流川は自分が桜木に怪我をさせてしまったのかと焦った。幸いにも桜木は傷ひとつない。安心したところでふと気がつく。夢の中の唇の感覚が、やけにリアルではなかっただろうか。答えを探したくて、桜木を見つめたけど解決しなかった。
「レイアップ、教えてやる」
心臓がバクバクした。好きな人を誘うというのはこんなに緊張するものなのかと、流川は学ぶ。その夜は、朝が来るのが待ち遠しかった。
桜木と二人で秘密の練習。その響きだけで流川は小躍りしそうだ。翌朝の練習は、好きな人との逢瀬という点を除いても楽しいものだった。桜木の身体能力は凄まじく、荒削りながらも流川の言ったことを吸収していく。教えるのは別に好きではなかったが、桜木にバスケを教えるのは楽しかった。
ドサクサに紛れてフォーム修正を密着して行ったとき、重なった手から感じる熱が生々しくてドキドキする。この心臓の音が伝わってやしないかと桜木を見ると、真っ赤になっていた。なぜ。流川は首を傾げてハッと気が付く。もしや、「脈アリ」というやつなのでは。
練習終わりに桜木の満面の笑みを浴びてその確信は強まる。だってオレの前で笑うことなんて今までなかった! 確かな手応えに、流川はぐっと拳を握る。
***
そこからはもう距離を詰めようと必死だった。眠い目を擦り毎朝目覚ましで起き、桜木との朝練に臨む。時々桜木が自分の昼寝ポジションに来ていることももちろん知っている。ただ、朝頑張りすぎて昼は寝ないと耐えられなかった。
今日も校舎裏の木の根元で丸くなっていたが、人の、桜木の気配に意識が浮上する。
「ん
……
さくらぎ?」
必死に目を覚まそうとする。けど意識はふわふわしたままだ、眠い。ふわふわしすぎてこれは夢なのかもしれないと流川は思った。
「おめー猫好きなんか」
猫。猫は好きだ。あまり懐かないけど、カワイイから。けど桜木の方がもっとカワイイ。おっきな体で喜怒哀楽を表すところも、敵わないのに真っ直ぐ自分に向かってくるところも、大口を開けて笑うところも、真っ赤な髪も。全部可愛くて仕方がないのだ。そんなことを考えながら、流川の意識はまた深いところに沈んでいった。
この可愛い男に想いを告げたい。けれど、以前買った雑誌にはこうあった。「いきなり告白するのはNG! まずは好きであることを行動でしめしてみましょう」。なので流川は行動した。桜木が他の男と接触すれば消毒するし、他の男と仲良くなれば自分をアピールする。そうして自分の好意を流川なりに示し続けた。
***
ある雨の日。昨晩から降る雨に流川は朝練を断念した。昼も会えないため少し気分が落ちるが今日は部活がある。放課後、勇み足で部室に向かった。
「そういえば、流川君ってアルファなんだよね」
同級生から聞かれる。流川は素直に頷いた。自分がアルファだからといって、別にオメガを求めたりはしない。そもそも流川はフェロモンを感じることができないけれど。桜木がアルファであろうとベータであろうと、流川は桜木が好きだった。
「やっぱり、運命の番に憧れたりするの?」
運命の番。それは流川にとってはどうでもいいものだ。桜木でなければ他はなにもいらないのだから。
「運命なんてくだらねぇ」
オレが、欲しいのは桜木だけ。運命は関係ない。そう想いをのせて、流川は桜木を見つめた。
それが、どういう結果を招くかも知らずに。
【了】
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