九条空
2024-11-14 15:37:11
2512文字
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【サンプル】ビキニアーマーの死体回収屋さん

よろず同人誌に収録予定の短編サンプル
ダンジョン飯
現地女主人公/一巻前

ついさっきまで死んでいた男が目を覚ます。
男は死因になった頭部押さえながら、油断なく周囲を確認する。おれは男に尋ねた。

「名前は言えるか」
「ナカモト・トシロー」
「よし、意識もはっきりしてるな」

男はおれを見て、先ほどまでのダンジョン冒険者らしい油断のなさを失った。
目線を外し、頬を赤らめながら咳払いをする。

「その……薄着すぎやしないか……
「ああ。お前のモン盗んでも、隠す場所がねえだろ」

おれは堂々と胸を張った。
ダンジョンどころか、そういう酒場でもなければそうそうお目にかからない薄着の女である自覚はある。素材こそ鉄であるが、局部しか隠せない面積の小さい鎧を身にまとっているからだ。
この装備は時にこう呼ばれる――ビキニアーマー、と。

「確認しな。大事なもんは全部あるか? 無くなったのがわかりやすいもんだったら一緒に探してやる」
……ああ。問題ない。配慮感謝する」
「おれのせいにされたら寝覚めが悪ぃからだよ」

装備を一通り確認したナカモトが礼を言うと、おれは首を横に振った。

「全滅したパーティには手を出さない。それだけの余裕はないし、パーティのうち数人だけ生き返らせたところでほとんど生きて帰れねェから」

ダンジョンとは、必要最少人数で潜るものだ。
そのうちの1人が欠けるだけで、探索は続行不可能になるのは当然のこと。
特にこれほど深部ともなれば、一度メンバーを死なせて崩れた体制を立て直すのは至難の業だろう。
おれはナカモトにあっけらかんと言った。

「一人だけ死んで幸運だったな」
「他の者が無事だと良いが」
「大丈夫だ。アンタら優秀なんだな。もう来たぞ」
「シュロー! 無事か!?」

五人、近づいてくるのは足音でわかった。今この階層にいる冒険者は彼らだけなので、大して警戒もせずに受け入れる。

「そっちの女性は……?」
「死体回収屋だ」

ナカモトの紹介を受け、おれは彼らに軽く手を振った。ハーフフットの中年男性を見て、おれは言う。

「ハーフフットがいてくれると、確認が楽でいい。盗品を隠してないか調べるか?」
「死体から盗んでたとしても暗黙の了解だ。わかりやすく公にやってなきゃ目くじら立てねえよ」

世渡りのうまいハーフフットのようだった。
死体回収屋は、死の境界があいまいになるダンジョンにのみ存在する職業だ。ここでは体と魂が強く結びつくため、死体の状態が良いなら魔術で人間を蘇生できる。ダンジョンでは、パーティが全滅したとしてもまだ望みがあるのだ。
しかし死体回収屋は印象の良い職業ではない。冒険者からは、蘇生代をゆすったり、死体からものを漁ったりしているのではないかという疑いをかけられている。それはいわれなき偏見というわけではなく、客を作るために自ら冒険者を殺すチンケな輩は実際に存在する。
おれはそういう印象を助長するのが嫌だから、こんな格好をしてまで努力しているのだがなあ。

「やってるって言い方やめてくれよ。無実を証明するのは、完全犯罪するよりよほど大変なんだぜ」

それを聞いて、ドワーフの女が静かに言った。

「チル」
……悪かったよ」
「いいんだ。お前ら良いパーティだな」

彼らの戦闘は遠くから見ていた。基本に忠実で、安定感がある。
今回の戦闘では少々間が悪かったようだが、ナカモトが抜けて以降の戦闘の立て直しも良かった。死霊魔術に長けたお嬢さんがいるので、ナカモトだっておれが手を出さずとも無事だっただろう。この層でこれだけの冒険者に出会うのは初めてだ。おれは微笑んだ。

さて、相当なリスクを冒して助けてやったのだ。相応の報酬を貰わなければなるまい。
そこまでして金が欲しいわけでもないが、欲しいのは信用だ。
信用を得るためには、それなりに普通の人間の価値観にあわせてやらなければならない。

「おれがいなくてもこいつは無事だっただろうから半額でいいよ。リーダーは誰だ?」
「あ、俺だ。悪いけど今そんなに手持ちがない。上に戻ってからでもいいだろうか」
「うーん。3層より上にはほとんど戻らんからね。迷宮内でいいんなら待つよ」
「迷宮で暮らしているのか!?」
「まあほとんど」
「すごい」

おれの発言を好意的に受け入れたのは、リーダーの男と、その男に雰囲気の似たお嬢さんだけだった。それも当然である。
3層には一部店を開くものもいるが、それは地上に戻ることのできないいわくつきの人間だ。
信用は得たいが、それならば尚更嘘はつくべきではない、とおれは考えている。

「俺はライオスという! こっちは妹のファリン、ハーフフットはチルチャック、ドワーフはナマリ、エルフはマルシル、さっきまで死んでたのがシュローだ!」
「言い方」

ライオスがしたシュローの紹介があんまりだったために、エルフのマルシルが少々引いていた。
シュローに関してはさっき本人から聞いた名前と違うが、愛称だろうか。

「普段は5層で暮らしてる。この迷宮であそこが一番街らしい」
「じゃあお金を持って5層に……
「バカ」

3層までなら戻ると言ったのに、ライオスはそれでも5層まで向かうと言いかけマルシルに呆れられた。
なんだかワクワクした顔をしているように見える。
おれがどんな暮らしをしているのか気になるのかもしれない。

「アンタ面白いね、ライオス。君のためなら久々に地上に出たって良い」
「それなら一緒に地上まで行かないか!?」

暗に拠点を特定されると怖いという意味を込めたが、暗過ぎたようでライオスにはまったく伝わらなかった。これはおれが悪いな、今のは王宮向けの嫌味だった。

「パーティメンバーの意向をちゃんと聞きな」
「私はいっしょに行きたい!」

ふんすふんす、と鼻息荒く気合いを入れてファリンが言った。
ちゃんと話し合ったらおれを連れて行くのはなしになると思ったからそう言ったのだが、早速雲行きが怪しかった。

「タンマ」
「いいよ」

ナマリがこちらを手で制したので、頷く。
彼らはおれに声が届かない程度に遠くへ行って、円陣を組んで相談事をした。


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