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九条空
2024-11-14 13:28:32
1752文字
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【サンプル】Who let the cat out of the bag?
よろず同人誌に収録予定の短編サンプル
ドロヘドロ
魔法使い主人公/ホール在住
昔に比べて、ホールは随分暮らしやすくなった。
それはボクが魔法使いだからそう感じるのだろう。
少し前までは、魔法使いは見つかった瞬間、魔法使い狩りに勤しむ町内会によって、集団で囲まれて殺されていた。
ある事件をきっかけに、今はさほど過激な魔法使い殺しは行われなくなったが、それでも肩身は狭い。
魔法使いが定期的にホールにやってきては、人間を魔法の実験台にして、殺したり、死んだほうがマシな目に遭わせたりしていくのは変わらないため、ホールにおける魔法使いの立場がこれ以上向上することはないだろう。
ボクは人間やホールが好きだから、戦闘に活用できる魔法を持っていれば、悪い魔法使いをやっつけるのに協力したのだがなあ。
人間だから、魔法使いだから、で相手を判断することはあまりしたくはないが、これまでの経験上から言えば、やっぱり人間の方が好きだ。
「お前、手ぷにぷにだなァ。」
「肉球っていうんだよ、カイマン。」
ボクは
空腹虫
ハングリーバグ
という店で、トカゲの頭をした大男に手のひらを触られていた。
魔法の実験台にされることが珍しくないので、この男カイマンのように、異形の姿をした人間は多い。そしてなんと、ボクもそうだ。
ボクの頭からは猫の耳が生え、ほっぺたには猫のヒゲ、おしりからは猫のしっぽが伸びている。そして手のひらには肉球がついている。ボクは猫になる魔法の実験台にされた
――
というわけではなく、ボクの魔法が、猫になる魔法なのだ。
そしてボクは自分の魔法が制御できず、自分でこうなったのに、自分で元に戻る方法を知らないのだった。
そうした理由で魔法使いの世界にいるには肩身が狭かった。自分の魔法もまともに使えない落ちこぼれであったからだ。実際、ボクは魔法のケムリを体外に出すことができず、自分が中途半端に猫になったのは、昔指に切り傷をつくって、不意に指先から漏れたケムリを浴びたからである。そのときに初めて自分の魔法が猫になるものだと知ったし、それ以降は使っていない。使えないが正しい。猫になりたいわけでもないのに、わざわざケムリを出すために指を切るのは嫌だ。
カイマンは記憶喪失で、自分に魔法をかけた魔法使いを見つけるために、日々魔法使いを探し出しては殺している。彼はボクを同じ境遇の人間だと思っているので
――
本当はどちらかといえば彼の仇に近い魔法使いなのだけれど
――
優しくしてくれる。
「お前に魔法かけた魔法使いを見つけたら、オレがぶっ殺してきてやるからな!」
それがなんと、自分なのだ。
「いいよ殺さなくて。かわいそう。」
「そんな目にあったのに心広いなァ。」
優しいのではなくて、ただの命乞いなのだった。
カイマンにはボクが、望まぬ異形に変えられても魔法使いを恨まず、健気に暮らしているように見えているのだろう。カイマンの優しさを裏切るのが心苦しくて、いつまでも本当のことを言えないのだった。
厨房でギョウザを焼いているニカイドウが言った。
「カイマン、猫と爬虫類じゃ全然違うだろ。猫はかわいい。」
「エーッ! トカゲはかわいくねェのか!?」
「トカゲもかわいいよカイマン。」
元々それほど好きではなかったけれど、カイマンに出会ってからボクはとかげ派になった。とかげはかわいい。脱皮するところがいい。
ニカイドウはギョウザを皿の上に移した。
「でも猫はもっとかわいい。」
「サベツだ! 爬虫類サベツ!」
サベツがどのような内容を指すのか不明だったが、ボクはノリでカイマンに乗じ、「サベツだ!」とニカイドウを指さした。ニカイドウは呆れて腰に手をやった。
「どっちかというとヒイキだろ。」
「ずりぃぞニカイドウ、オレもヒイキしろ。」
ヒイキなら意味がわかる。ボクとカイマンが、ニカイドウからされているやつだ。
「ニカイドウは猫がかわいいんじゃなくて、ボクがかわいいんだよ。」
そしてカイマンもかわいいんだよ、と続ける前にニカイドウが両手いっぱいに持ってきた皿をテーブルに置いた。
「そういうことにしておいてやるか。ほら、大葉ギョウザだ。」
「わーい。」
「うっまそー!」
ニカイドウはヒイキして、我々にツケという名前の無料で大葉ギョウザをふるまってくれる。
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