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gib_fox
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pkmnセキテル
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オオニューラの籠の中
pixiv再掲
クリア後しばらくしてから。
記憶は完全にはないけどときどきホームシックになるテルに、付き合いたてのセキができることを考えるお話です。
クリア後の世界線なのですが、ネタバレはしていないです。
ちょっとだけ、セキさんが性的経験があると言っている描写がありますが、本当に少しです。
※小児性愛を助長するための描写ではありません
暗くて、外が少しだけ見えて、けれど温かい。
テルは籠の中で揺さぶられながら、オオニューラの背中のぬくもりを感じた。ときどき激しくぐらぐらと上下に動くときがあるけれど、基本的には外の景色を眺めながら、ゆるやかに崖を登ってくれる。
(広いなあ)
顔の幅よりも狭い覗き穴から、空を眺めた。ムクホークが遠くに何匹か飛んでいる広い空は、雄大な峰とテンガン山の頂を覆ってなお、どんと構えているように見える。
湖も木々もはるか下方にあった。普段なら一生懸命に走ってもなかなか距離を歩けないところも、こうして見ればとてもわずかな道のりでしかない。
(こんな景色が見られるの、気分がいいな)
とテルはほほえんで、次いで息を吸った。籠の中に入り込む新鮮で冷えた空気は、肺をやさしく震わせる。最近ところどころ朧げに思い出してきた元いた世界では、なかなか味わえなかったであろう鮮度をもたらしてくれる。
(あ、海)
小島がぽつぽつ浮かんでいて、その先に海があった。みずタイプのポケモンが優雅に泳いでいて、近づいたら襲ってくるだなんて嘘みたいな光景だった。
海というのは空の色を映しているみたいだ、といつか授業で言っていた気がする。国語の授業は退屈で、でもその言葉だけはしっかり覚えていた。詩的だけど、なんとなくいいな、と。
黒板に書かれたチョークを動かす音が好きだった。先生のポケモンが補助をするように寄り添っていて、「あの先生、ポケモン捕まえるときすごく苦労したんだって」と同級生から教わったことがある。
もう戻ることのない世界の思い出は、まだテルの内側で儚いが、あえて多くを記憶に閉じ込めたままにしている。思い出せば、きっと自分が辛いだけだ。
ただわかるのは、あそこはポケモンと人間が視線を交えても、襲われるなんてことはほとんどなかった。ポケモンフーズを買い求めていたら、買ったそばから早く食べたくてポケモンたちが騒ぎ出すこともある。家に着くなり彼らにフーズを与えて、食べている姿をのんびり眺めることもできた。
(
……
俺は、帰りたい、のかな)
テルは、もう一度霧の漂う山の上で空気を吸った。オオニューラは山頂についたらしい。ここからまた任務のために素材を集めたり、新しいポケモンの調査をしなくてはならない。だから籠から降りないと。
吸った空気を吐き出すと、思い出が少しずつ風景に滲んで流れていってしまうような気がした。そのままなにもかも空に飛んでいってしまえ、と思うけれど、ふたたび呼吸をしようとすると、目の奥が熱くて鼻の頭に力がこもる。
これは冷たい空気のせいだと、誰ともなく言いたかった。そうしないと、袖で拭った水滴の跡をごまかせない。
ゴトリと音がして、自分の体が急に沈んだ。籠が勝手に動いたのだ。自分の指示なしにオオニューラが降ろしたとわかって、驚いて籠のフタを開く。
大きな猫目がじっとこっちを見ていた。長い鉤爪をしまいこんで、そっと自分を籠ごと抱きしめてくれる。
「オオニューラ?」
低いけれどなごやかな声でポケモンは鳴いた。温かい前足で涙を拭ってくれる。もしかしたら、何度かこうして籠の中という守られた環境に安心して、時折訪れるホームシックに震えていたのがバレていたのかもしれない。
薄青色の毛並みがくすぐったい。テルはしばらく、オオニューラの抱擁に身を任せていた。山の中腹で一人と一匹、短くはあったが、そうして時をやり過ごす。
──そういう行為が、ときどき続いた。テルは心が寂しくなると、決まって山へ登りにいく。
◇
パチパチと火が鳴って、コンゴウ団の集落も薄暗くなってきた。
寒さも強まってくる季節だ。作物の実りは多いが、まもなく集落でも冬に備えて用意をしなくてはならない。セキは、蔵の中はどうなっていたかな、と思案する。
米も実も冬を越すほどはまだない。明日から自分も収穫に出向かないといけないだろう。山の上にある痩せた木でも、刈っておかないと薪が足りない。シンジュ団ほど寒い地方に住んでいるわけではないが、ここ数年は湖が凍るほど寒さが厳しいから、備えておきたい。セキは頭で予定を整理すると、くつろぐために服をゆるめる。
(山、か
……
)
セキには一つ、引っ掛かっている節がある。節、というより、植物の蔦のように心に絡みついている。コンゴウ団の集落近くの山で、一度目にした人とポケモンの光景だ。
あのたなびくきれいな薄青の毛並みは、一度見たら忘れない。セキが山を登り、木の実や鉱物を探していると、はるか遠くにそのポケモンが見えた。ニューラよりもはるかに大きい姿と優雅な立ち振る舞いは、もしかしたらテルに懐いたオオニューラか? とそっと忍び寄る。
幸いオオニューラに見られず、様子を探ることはできた。いつも背負っている籠を下ろしているからテルも近くにいるのかと思ったら、近くどころか籠の中にいた。帽子を脱いだ黒髪がオオニューラの腕に収まって、すやすやと寝息を立てている。
(珍しいな)
セキは騒がしい男と言われるが、時と場はわきまえられる。静かに様子を窺うこともできた。オオニューラの大きなあくびの音を聞きながら、思わず忍び笑いを漏らしてしまうときも、声は決して出さなかった。
「あ
……
ごめん。寝ちゃってたね」
あくびに気づいて眠りから覚めたテルは、目をこすって伸びをする。ようやくセキからも少年の顔がはっきりと見えて、セキは片眉を吊り上げた。
テルの目が赤く腫れている。大きな瞳は少し充血していた。旅の途中に眠ってしまうほど、夜に寝られていないのだろうか、と考えたが、そうだとしても目は腫れない。
オオニューラは心配そうに鳴いていた。「大丈夫だよ」とテルは頭を撫でているけれど、
(あまり当てにならないセリフよな)
とセキは渋い顔になる。テルの傍らの大きなポケモンもセキと同意見らしく、まだしばらく少年を見つめていた。
「本当に大丈夫だよ、ありがとう
……
そりゃ帰ってみたいけど、ここの生活だってとても好きだから
……
だから、大丈夫」
テルがそう言うと、ふたたび籠のフタをみずから閉めた。
ポケモンはしゃべることができない。だから今回のひそやかで、しかし心に重い影を落とすこのことをオオニューラと共有できたのは、テルにとってはちょうどいい安寧の場だったんだろう。
セキはその場を去ろうとするオオニューラの背を、じっと見つめる──ふと、薄青色のうつくしい毛並みのポケモンがこっちを向いた。少し紫がかった毛先がまもなく訪れる夜のしじまに灯りをともしているようだ。
セキの存在に気づきながらもあえてテルに何も知らせなかったのは、このポケモンなりの気遣いか。
それとも。
(オレがどうにかしろってことか)
ガチグマほどではないが、オオニューラも鼻がいい、きっと勘付いている。テルからのぼる体の匂いには、ときどきセキの匂いが混じることがあるから。
(あれからずいぶん経っちまった)
ベッドのうえに羽織を放り、しばらくあぐらをかいたまま、濃い青色の壁一点に目線を置く。ちらちらと揺れるろうそくの炎が、視界の隅でうろついた。
──「好きだ」と想いを伝えたのは、セキからだった。ヒスイの英雄になんて大それたことを、と心臓が震えたが、テルはややあって頷いてくれた。嬉しさで咄嗟に口づけをしたが、そんなことはテルの経験の中にまるでなかったようだ。
(真っ赤になって困ってたっけな、かわいかった)
けれど、手を出すのもそこまでにした。互いが互いの求められている場所で力を振るう以上、余計な行為はかえって気を遣わせるとセキは考える。テルも、調査の折にここに立ち寄るときだけ、そっと自分と二人になる時間を作ることで精一杯らしい。抱き寄せた体は自分の腕にすっぽり収まって、背を撫でてやるだけでテルの心臓の音がよく聞こえた。
テルが野山を駆けるたびに作るすり傷に難色をしめしたり、セキの目の下にクマがあるのを悲しまれたり。双方をそれぞれに心配しながら、最後には「いってきます」とやわらかい声を出すという愛情を寄越すテルは、アヤシシに乗って坂を走って降りていく。手を振って見送る自分も、そこからの仕事を張り切れたりしたが。
(やっぱり、埋めらんねえ寂しさはあるよな)
後ろ頭をかいて、セキは薄着のまま外へ出る。笛の才能はまるでなかったが、祖父に教わった古い歌を奏でるくらいの音感は持ち合わせていた。自分を落ち着けるために、のんびりと鼻歌を流す。
今日は、テルが来る夜だ。
坂を上がってアヤシシの背から降りたテルを、何も言わずに室内に引き寄せて抱きしめた。そうしてからしばらく、目を白黒させているテルから身を離すと、「悪い」と笑う。
「久しぶりにあんたを見たから」
率直に会えた嬉しさを伝えたら、テルは恥ずかしそうにしながらも、
「俺も嬉しいです」
と告げてくれた。
少したくましくなった体は、力を入れてもつぶれたりはせず、「痛いですよ」と言いながらも体が離れれば、名残惜しそうに指先だけセキの服をつかんでいた。その指には包帯が巻かれ、つい最近の怪我だとわかる。
「うっかりしてて、でも平気だから」
思わずセキが指に目をやったのに気づいて、慌てて引っ込めるのは相変わらずだ。テルは話題を変えようと悩み、すぐに閃いた表情を見せる。
「そういえば、セキさんの鼻歌なんて、初めて聞きました」
と言って、テルはまた嬉しそうに顔をほころばせた。緊張なんてすっかり取れた様子で、ストーブの前に座る。セキもそれに
倣
なら
った。
「そうだろ、じいさまが教えてくれた歌なんだ」
「へえ
……
おじいさんって、セキさんに似てたんですか?」
「似てた
……
らしいな、ばあさまによると」
懐かしむ声は、自分でもわかるほど温度があった、温かくてやわらかい。
「せっかちなところとか?」
「おい、そりゃカイが言ってんだろ。さてはテルよ、あいつになにか入れ知恵されたな?」
「そんなこと
……
ああ、でもそういえばこの間シンジュ団に行ったら
……
」
思い出したことがあったようで、含み笑いをもらしながら話し出そうとするテルの口を手で塞いだ。カイはことセキの悪口となると湯水のようにあふれさせてくる。どれもこれも、周りから見ればほほえましいと言われるのもまた歯痒い。ちっ、と舌打ちすると、テルはついに声をあげて笑った。年頃の男子らしい笑いだ。セキはわずかばかり安堵して、手近にあった慣れ親しんだ急須を持つと、茶葉を入れ始める。
ひとつ呼吸をおくと、湯を注ぐのを眺めるテルの横顔に、単刀直入に、しかしやさしく聞いた。
「あんた、寂しい思いをしてねえか」
テルはそれが、少し違う意図に捉えたようで、
「ええと
……
たしかにセキさんに会える日は少ないから、ときどき寂しくは、」
と顔を赤らめた。
「違う。ああいや、そう思ってくれてんならありがてえが
……
それじゃねえんだ」
顔の前で手を振り、異なった意味を持つことをどうにかして伝えたかった。不思議そうな目で見つめてくるテルに、観念したセキは長いため息をついて、重い口を開く。
「オオニューラの、籠の中」
テルの体が、ピタリと止まった。セキは苦しく顔を歪める。
「
……
実は、見ちまったんだ」
コンゴウ団の集落より外れた山のうえで、オオニューラを見たこと。そこにテルもいて、籠の中でオオニューラに抱えられるように昼寝をしていたこと。けれど起きたテルは疲労の色こそ取れていても、泣いていた跡もその理由も、セキには知らないことだらけだったこと。
テルは、口をつぐんでいる。悪いことも、やましいこともない。セキはそれを教えるように言葉を紡ぐ。
「言いたくねえんなら、言わなくていい。せっかく楽しみでここ来てくれてんのに、蒸し返すようなこと言って悪かった」
でも、セキは知りたかった。そこに少し、ずるい大人の言い回しを含んだ。
「
……
秘密にしてたわけじゃ、ないんです」
たどたどしい口調で、テルはぽつぽつと話し始めた。
「あの、セキさんは
……
暗いところは平気ですか?」
「? まあな」
「
……
俺も大丈夫、なんですけど、最初は、怖くて」
「籠の中がか?」
そうです、と頷くテルは、頭の中でどうにか言葉を選んで一つ一つを結びながら話している。セキは待った。
「でも、オオニューラがやさしいから、そのうち慣れてくるようになって」
ふたたび話すために、テルが息を吸う。
「
……
胎児、に戻った気持ちになりました。赤ん坊のころの記憶だってもちろんないけど、ちょうどあんな感じなのかな、って」
テルが膝を抱え、自分を守るように顔をうずめる。セキは黙ることしかできなかった。
「そしたら、懐かしくなったんです。顔の出てこない母さんが、父さんが、記憶にない前にいた世界が」
咄嗟にセキは、時間を巻き戻すことを考える。いくらコンゴウの長であり、ディアルガの声を聞くことができても、その力を使うことができるわけではない。テルの世界をセキだって知らないし、戻してやりたくても、結局アルセウスに呼ばれてテルが落ちてくる未来は変わらない。パルキアと共に時空を開くなんてことができるのかもわからない。ギラティナはもう、そんなことはしない。
きっと、やりたいこともあっただろう、やり残した思いもあっただろう。
「
……
オレじゃ、そいつらの代わりにはなれねえ」
唯一無二のその存在に、敵うはずはない。テルの生まれたときからを知っていて、ここまで前向きにこの世界に向き合う子どもに育ってくれた。今頃テルの世界で、必死に探し回っているに違いない。
「ポケモンの扱いも、調査の代わりも、オレにできることはねえ。今はまだ、かえって足手まといだ」
「そんなこと
……
っ」
テルに青ざめて袖を握られるが、セキは「まあ待てや」と存外晴れやかな笑顔を浮かべる。
「でも、それ以外のことならなんだってしてやれる。腹が減りゃ、飯に連れ出せる。眠けりゃ場所を作ってやれる。案外あんたは強がりだから、無理して任務を全うしようとしてんだろ?」
お見通しだとばかりにセキが口の端を吊り上げると、テルにとって痛いところを突かれたようで冷や汗をかいていた。そんな顔を長くはさせたくないから、軽口をはさむ。
「オレのことも、笛で呼び出せたらいいのにな」
「
……
セキさんのことをそんな簡単に呼び出してたら、コンゴウ団のみんなに怒られるよ」
「冗談だって──さて、テルよ」
セキがまだ表情を変えないまま、黒いインナーの腕をまくる。骨と筋がくっきりと影を作る、力のありそうなひじまでのラインが覗いた。その腕をはこんでテルの後頭部を下から上へとやさしくなぞると、赤い顔に染まるテルがいた。
「寂しけりゃ、どうしてほしい?」
きっといつものように、そっと抱きしめてほしいだとか、他愛のない話を聞いてほしいだとか、そういうささやかな願いだろう。できればオオニューラに頼らないでもいいぐらい、今日はたくさんわがままを聞いてやりたい。下手をして聞いてやれずに終わってしまったら、テルを大事にしているあのライドポケモンたちに爪で切り刻まれるかもわからない。
テルが、おずおずと口を開いた。
「キスを、してください」
キス。と言われて、面食らった。それはポケモンがたまに見せる技にある、あれのことだろうか。つまりは口づけ。
「
……
ええと、キス、ね。あんとき以来か」
セキが好きだと伝えた日、セキから勢いのあまりしてしまったたったの一回だけ。
テルの表情が、少し怒ったようになる。戸惑ったことがかえってまずかったか、とセキは身構えたが、少年は一口茶をすすると、床に視線を落としたまましゃべり出した。
「セキさんとは家族じゃないし、調査隊として一緒にいるわけじゃない」
さっきセキが「自分は代わりになれない」と言ったときと同じようなトーンで言葉が返ってきた。結構きついな、と今更ながらセキは傷を広げる。けれど、テルは自分の前述をかき消すように、声を張った。
「でもこの世界に来て、セキさんは俺の初めての好きな人です」
テルの瞳は、静かな水の膜に覆われている。セキは驚いて、目をまたたかせた。
「その関係性は、あっちの世界でも、この世界でも、セキさんただ一人なんです。だから
……
もう帰れない過去より、新しい先を一緒に過ごしてくれる人がいるなら
……
共に進みたいです」
そう言い切ったテルは、まだ怒っているような、切ないような顔でセキに向き直った。自分より少ない年月だが、たしかに十五年を生きてきた少年の一世一代の告白に、セキはただ呆然と見惚れてしまった。
(勘弁してくれ、子どもはこっちかよ)
セキは喉を詰まらせた。てっきり帰りたくて寂しがっていたのかと思っていた。埋められる隙間があればいくらでも埋めてやりたいと言葉を待っていた。
(あんたはもう、次を考えていたんだな)
テルの顔を両手で包むと、寂しさをずっと一人で紛らわしていた冷たい頬が、溢れそうな涙を懸命にこらえていた。
「テル、すまねえ。寂しい思い、させてたなあ」
そう言って、そっと啄むように唇を吸った。濡れた頬を拭ってやって、もう一度キスをする。
(だめだ)
セキは腹の奥から煮えて湧き出す感情を止めるのに必死だった。葛藤していた。細い体の形がもう少しではっきりわかるほど抱き寄せそうになって、押しとどまる。
けれど、テルの手がセキのインナーを掴んでくる。その手も同じくらい必死で、震えていて、離すまいとしていた。ぶつかるようなテルからのキスに、理性はわずかに数本糸として体を繋ぎ止めているくらいで、残りの本能がセキに犬歯を剥かせた。
──コンゴウ団の住居に使われる濃い青色の壁は、灯りを消すとまるで宵闇に体を預けるような気持ちにさせてくれる。セキはこの瞬間が好きだった。深海の深くに身を沈めて、すべてを忘れさせてくれるような。
テルの記憶はこれ以上蘇ることはないだろう。本人がそれを望んでいなくて、この世界で生きていくと決めている。共に沈んでくれるのならばセキにとっては本望で、大切にしたいと願っている。
「辛いか?」
「ん、っ
……
は、い
……
辛い、です」
「まだ慣れてねえもんな」
「セキ、さんは、慣れてる?」
「はは、嫉妬か?」
掛け布団に敷いたセキの青い羽織の海で、テルは苦しそうに体をつっぱらせている。大切に、大事に、やさしく、セキはキスを続けた。セキの力なら相手の体に押し入ることもわけなくできるのに、皮膚のうえをただひたすらなぞった。背中にもう何度目かわからないキスをすると、そこをやわらかい極上の肉を
食
は
むように噛んだ。傷跡はほとんど残らない。尖った歯の先にテルの味を感じた。そのたびに、テルが抑えている声を漏らしそうになっている。
代わりに、言葉を吐いた。
「嫉妬
……
わかんない、です、俺は、好きだから
……
」
今までの比でないほど甘やかされ、とろけた頭でテルは一生懸命選んだ文をしゃべっているつもりだろうが、セキにはかわいく見えて仕方がなかった。
ろうそくの光はとっくに消えた。燭台からろうが垂れ、そんなになるまで脇目も振らずに唇で、舌で、歯でテルを食し尽くしていた。まだ足りなくて日焼けをしていない太ももに手をはさみ、親指でぐいと開かせ口を寄せる。夜目に慣れた目が相手と交錯するたびに、心臓は高鳴った。
(ちくしょう、余裕ねえ)
童貞みてえだ、とセキは己をからかった。テルはぐったりと体を横たえて、ただ皮膚への愛撫だけで息も絶え絶えの状態のまま、瞳を閉じている。食い散らかした跡はテルの体に刻まれて、セキの犬歯が通ったのがよくわかった。それを見るとグル
……
と喉が鳴った、野生のように。
けれど、やがて疲れて眠ってしまったらしいテルの、あどけない寝息で我に帰る。乱れた着衣を戻してやって、抱きしめながら共に布団に入った。理性の糸をだんだんと拾い集めて、テルの無垢な寝顔に口を端を上げて笑えるほど、本能を抑えられるまで回復した。そうしてセキも、目を閉じる。
オオニューラの籠の中から一歩踏み出したばかりの少年を、今はまだ、守るように包んで眠る。
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