AmexAmexxx
2020-06-30 17:55:01
1469文字
Public tksi
 

【Alors vas-y/安穏】

タキスイ

 ソファに座って、手にした『本』の内容に目を通す。ページを捲らなくとも自動記述という形で次々に情報が書かれては消えていくそれは、現在の瀧の仕事道具のひとつだ。いつだったか双子の姉の方、或いは母の方がその構造を知るべく弄り回そうとするものだから、かなりの時間を割いて厳重なロックを掛ける羽目に陥った。別段構造自体は知られても問題はないが、悪戯心で悪用されては困るものであることに違いはない。本人からは今更そんなことはしないと猛抗議されたが、過去に幾度か実験体の如く被害に遭ったことがあるこちらとしては当然の処置である。
「瀧さん、何か飲まれませんか?」
「いや、いい」
……少しくらい休憩なさった方が。もう11時間37分その状態です」
……何だ、構って欲しいのか?」
「いや俺は純粋に心配して」
 瀧が『本』から視線を外せば、自動記述は停止して『本』の頁は全て白紙と化す。ソファの後ろに立ったまま慌てたように困った顔で首を振るスイは、その言葉通り心配してくれているのだろう。現在は状況が落ち着いているから、スイやツキに仕事を頼むこともない――そして状況が落ち着いているということは、彼らは彼らですべきことが今はない、という状況でもある。瀧の感覚が正しければ、先程まで双子でああでもないこうでもないと何か話をしていたような気がするのだが、そちらは一旦お開きになったということだろうか。ツキの気配は感じないから、どこかに出掛けていったのだろう。
「することがないなら隣に座っていろ」
……はい」
 不本意そうな返事をしつつ、スイが瀧の隣に腰を下ろす。ソファが重みで沈むのを感じながら、瀧は『本』に視線を戻した。『本』の動きは再開され、自動記述が始まる。内容に目を通しつつも、そわりとした視線が絡まって離れない。
 視線は向けないまま、片手を伸ばしてその手に絡めればびくりとした反応が返ってくる。気にせずに指を絡めて握れば、恐る恐る、ぎこちなく握り返された。未だ慣れない様子なのは故意か、それとも本当にどう反応すべきか迷っているのか。自分という存在が愛されることに未だ懐疑的なのか。何にせよスイは瀧を神聖視し過ぎているきらいがあるせいか、或いはその奥底に抱えているどす黒い欲望を隠しているせいか、様々な感情がぐるりと絡まって、どうにもこういった触れ合いに慣れる気配がない。
 じ、とスイの視線が手元に落とされている。指先で手の甲を撫でてやれば面白いくらいにびくんと身体が跳ねて、そのままバツが悪そうに目を逸らすものだから笑ってしまう。
「わざわざツキに出掛けて貰っておいて、俺に言うのが休憩した方がいい、だけでいいのか?」
……ええと」
「望みはきちんと口にしろ。でないと叶えようがない」
「その……瀧さんの仕事が溜まってしまうのは、本意ではないので……
「知っての通り今はそれほど忙しくない、後で楽が出来るように片付けていることの方が多い」
……、じゃあ」
 ――少し2人でゆっくりしませんか。
 意を決したように唇を震わせて紡がれた言葉に、瀧は『本』を閉じた。途端弾けるように『本』が分解されて、表紙だけを机の上に残して部屋中に霧散する。必要になればまた開くだけ――これはそういう道具なのだから。
「ゆっくり、何がしたい?」
……最近の瀧さんは少し意地が悪いと思います」
「そうか?お前のことはかなり甘やかしている自覚があるが」
「そういうところです本当に」
 困ったように眉を下げるスイに、瀧はほんの少し表情を緩めて。