AmexAmexxx
2018-07-14 23:46:42
1754文字
Public tksi
 

まどろみシャーク


 数ヶ月に一回、ベッドから起き上がれなくなる日がある。
 幼馴染み曰く「瀧はさー、体力ないのに勉強も仕事も徹夜もし過ぎなんだよ、電池切れ起こすんでしょ」との話でーーまあ、実感としてもそういう感じなのだろう、という気はする。身体がぐったりしていて動きたくない。特にこんな暑い日は、エアコンで冷やした部屋でベッドの上、布団に包まったまま指一本たりとも動かしたくない。外に出るなんて以ての外だ。殺す気か。
 仕事もない、やらなければならない課題もない、なら今日はもう身体を休めるに限る。スマホの電源はオフ、贅沢な休日を貪って。朝からそんな感じで過ごしていた、というか完全に寝ていた。
 かちゃり、という金属音にふっと意識が浮上する。何時だ、と部屋を見回したけれど、暗くて時計が読めない。こういう時に遮光カーテンは駄目だ、一切の光が部屋に入ってこない。見えない。ベッドサイドに置いていたスマホに手を伸ばしかけて、電源を切っていることを思い出してやめる。めんどくさい。あと別に何時でもいい。この暗さならもう殆ど夜なのは分かりきった話だ。

……、あ」
……スイか」
「ごめんなさい、起こしましたね」
「いや、別にいい」

 予想が正しければぶっ通しで半日以上寝ている。流石に一度起きた方がいいだろう。とはいえ、やはり体を動かしたくはない。怠い。寝過ぎのせいもあるかもしれないけれど、いつもなら割と頭はスッキリする。今回はまだそこまでではないから、やはりもう少し休息は取るべきなのだろう。
 ごそごそ、と荷物を置く音。電気を点ければいいだろうに、と思うけれど、一応気を遣ってくれているのだろう。合鍵を渡してからというものこうして時々ふらっと来るようになったスイは、それでも最初の頃は来る前に必ず俺に連絡を入れていた。気を遣わなくていいと何度も言ってはいたのだけれど、スイ的にはそうもいかなかったのだろう。最近やっと、数回に一回くらいは連絡なく来るようになってきた。……まあ今日の場合は連絡が入っていても気付かないけれども。

……、スイ」
「はい」
「ちょっと」
「はい?」

 怠い身体を無理矢理動かして、恐らくスイが居るであろう方向に向けて手招きすれば。きょとんとした声が返ってきて、気配が近付いてくる。やっと少し視認して、腕を掴むとそのまま自分の方に引き寄せた。わ、という声と共に、バランスを崩したスイが倒れ込んでくる。
 ……ああ、うん。落ち着くな。

「瀧さん?」
……添い寝に付き合え」
「構いませんけど、……お疲れですね」
「一日こうしてれば治る」
「本当ですか?」
「ああ」

 すぐにうと、と瞼が落ちそうになる。……、眠い。本当に添い寝するように自分の体の位置を直したスイの身体を抱き寄せて、そのまま今度は逆らわずに目を閉じる。……ああ、よく眠れそうだ。最初からこうするべきだった。いや、高校生に学校をサボらせる訳にはいかないから、仕方ないと言えば仕方ない。

……ああ、そうだ、何か俺に用事だったか」
「あ、いえ。明日休みなので、こちらに泊めて頂こうかと」
……そうか」
「連絡入れたんですが、既読がつかなかったのでお忙しいのかと思っていました」
……朝から電源切りっぱなしだ」
「じゃあお休みだったんですね」
「ああ……

 連絡がつかなかったから、きっと俺は家に居ないと思っていたのだろう。俺が帰ってくるのを待っているつもりで来たら、ということか。……しかし、小さな声で、淡々と喋るスイの声が耳に心地好い。まるで子守唄のようにも聴こえて、本当にまだ自分が疲れていることを自覚する。幼馴染みにバレて怒られる前に、体調は戻しておかなければ。いつまでもこうしていられる訳でもないしーーああ、でも、スイが明日休みだと言うなら、結構ゆっくりは出来るか。
 一眠りして、そうしたら身体ももう少し動くようになるだろうから、それから食事を作ろう。二人で何か食べて、またゆっくりすればいい。時間がまだある、というのは魔法の言葉のようで、優しい幸福を投げ掛ける。
 口を開くのも億劫になってきた頃、ふふ、と小さな声が聞こえた。それは優しい、夢への誘いのように。

……おやすみなさい、瀧さん」