AmexAmexxx
2018-02-14 19:22:11
2977文字
Public OcculTrigger
 

恋の先の話


「ごちそーさまでしたっ」
「お粗末さまでした」
「いやいやめっちゃ美味かった!ゆりっぺ料理上手いんだなー」
「茅嶋さんには負けるよー?」
「本当に美味しかったー、ありがとゆりっぺ」

 へら、と嬉しそうに笑う恭ちゃんに、よかった、と胸を撫で下ろす。実際結構心配だった。恭ちゃん普段から茅嶋さんやさくらんの手料理食べてるから……あの二人の料理スキルおかしいと思うの……プロの料理人かみたいな……
 でも本当に、安心した。最初手作り料理作る!って決めた時に、結構心配になったんだよね。憂凛もそこそこ料理するようになったけど、まだまだだし。……もう憂凛に料理教えてくれるひといないし。困っちゃう。

「俺はこないだレトルトのカレーを爆発させて怒られるレベルだからマジ料理出来るひとソンケーする……
……何したらそんなことになるの……?」

 逆にそっちの方が尊敬する。何でそんなことになるんだろう……
 まあ恭ちゃんが料理出来ないのは、あー出来ないだろうなー、って感じだし。喜んで食べてもらえたのは嬉しい。パパも言ってたっけ、恭ちゃんは本当に美味しそうに食べてくれるから作り甲斐ある、って。分かるなあ。幸せそうな顔して食べてくれるの、本当に嬉しい。
 いそいそ後片付け。それにしても人の家のキッチンって緊張するなあ。どこに何があるか分からないんだもん。でもさすが茅嶋さんちのキッチン、大概のものは一通り揃ってた。いるものあるなら調達しとくよ、まで言ってもらったけど、これだけ器具も調味料も揃ってたら買い足すものなんて滅多になさそう。すごいなあ。好きなんだなあ、料理。
 いつか茅嶋さんに料理教えてもらうのもいいかもしれない。忙しいひとだから、難しいかもしれないけど。さくらんでもいいなー。本当に、ふたりの料理の上手さ、見習いたい。

「ゆりっぺー、あのー
「ん、なにー?」
「渡したいものがあるんですけどー
「あ、そか」

 忘れてた。憂凛、誕生日なんだった。
 なんかもう恭ちゃんといられたらそれが誕生日プレゼント!みたいなとこあるよね。あるある。だってしあわせなんだもんー。十分じゃない?
 ぱぱっと洗い物を片付けて、いそいそ恭ちゃんのところに戻れば。恭ちゃんの表情は固かった。……んん?

……恭ちゃん何で正座なの?」
「キンチョーしてんの!」
「なんで?」

 誕生日プレゼントだよね?きょとん、と首を傾げたら、うー、と唸った恭ちゃんがぶるぶる首を振って。気合を入れるようにほっぺたをぺちぺち叩く。え、え、なに?

「ゆりっぺ」
「は、はい」
「受け取ってもらえますか!」
「えっ」

 差し出されたのは、小さな箱。ちゃんとした。憂凛の好きなブランドのロゴが刻印されてて。
 心臓がばくんと高鳴る。ちょっと……、ちょっと待って。もしかしなくてもこれって。これって、
 恐る恐る、その箱を受け取って。開けば、きらきら銀色に輝く指輪が収められていた。シンプルなデザインの、シルバーリング。

……恭ちゃん、これ」
「プロポーズリング、って言うんだって」
「え」
「ゆりっぺ、俺と結婚してください」

 かっちこちに緊張した顔で。でも真剣な声で。憂凛が大好きな、真っ直ぐな目で。
 何を言われてるのか全然分からずにフリーズする。ぷろぽーずりんぐ?けっこん?……けっ、こん。
 ええと、待って。待って……

「あっ、えと!今すぐじゃなくて!あの!ゆりっぺお医者さんになる勉強まだまだあるだろうし!だからほら!予約、みたいな……?何言ってんだ俺」
「よやく」
「ええと……将来的にそうなれたら嬉しいです……?」
……
「わー!?ゆりっぺ何で泣くの!?」
「び、びっくりして……

 ぼろぼろ涙出てきた。けっこん。結婚。プロポーズ。……ほんとに?恭ちゃんが?憂凛に?
 信じられない。夢みたい。嘘でしょ?未だに憂凛、恭ちゃんと付き合ってるのも夢みたいなのに。プロポーズって。ホントに?何か都合の良い夢見てない?
 おろおろする恭ちゃんは、本当に憂凛が泣いてるの苦手なんだよね、知ってる。だいじょーぶ、びっくりして、嬉しくて泣いてるんだよ、恭ちゃん。大丈夫だよ、って言いたいんだけど、どうしよう、言葉が出ない。
 嬉し過ぎると、こうなるんだなあ……。ぼろぼろ出てくる涙を拭って、深呼吸。落ち着けー、落ち着け、憂凛。

「め、迷惑かな……やっぱだめ?しかもふつーに家でする話じゃなかったなやっぱ……いやでも」
「だい、じょぶ。きょーちゃんらしー……
「いやプロポーズって高級レストランとかでするもん?サプライズ的なのやるべきだったのかな、でもあれじゃん迷惑だったらあれだし、今日どうしたらいいのか全然分かんなくって、いやもうホントごめん」
……んーん。うれしい……

 十分サプライズだよ。
 憂凛は、恭ちゃんに酷いこと、してしまったから。2度と会わないと思ってたから。再会して、一緒に居れることになって、更には付き合えることになって。それだけでも夢みたいで幸せ過ぎて死んじゃいそうだったのに。
 プロポーズ。結婚。だってそれって。

……憂凛、一生恭ちゃんと一緒に居ていいの?」
「当たり前じゃん。……つか、居て欲しい。俺、そういうの、ゆりっぺ以外と考えらんないし」
……ほんとに、憂凛でいいの?」
「あったりまえだし、つか逆にゆりっぺは俺なんかと一緒に居てくれる?」

 不安そうな顔してる。思わず笑ってしまった。何で笑うの、って不貞腐れた顔する恭ちゃんは子供みたい。可愛い。
 俺なんか、って言わないでよ、恭ちゃん。恭ちゃんは憂凛にとって唯一無二で、大好きなひとなんだから。ずっとずっと忘れられなかったひと。誰に出会っても、恭ちゃん以上なんて考えられなかった。大好き。……大好きなひと。

……恭ちゃんっ」
「はいっ」
「指輪……、嵌めてくれる?」
……!もちろん!」

 ぱっ、と恭ちゃんの表情が輝いた。うん、やっぱりそういう表情が恭ちゃんらしくて、好き。明るくて、太陽みたいで、いつだって憂凛の心を照らしてくれる。
 箱から取り出されたシルバーリングは、ゆっくり憂凛の左手の薬指に嵌められる。……すごい、サイズぴったり。いつの間に憂凛の指輪のサイズなんか調べたんだろう、恭ちゃん。そもそも憂凛、指輪ってあんまりしないから、分かりそうにないのになあ。
 きらきら輝く指輪を眺める。……ああ。本当に夢みたい。でも夢じゃないんだよね、これ、現実なんだよね。

……いつか、ちゃんとした婚約指輪買うから。あとそん時は、ゆりっぺも一緒に買いに行こ。俺ぜんっぜん分かんなくってもー……ていうか場違いぽくてもー……
「ふふ。ありがと、恭ちゃん」
……喜んでもらえて良かった。つか断られたらどうしようかと思った……
「断る訳ないでしょっ」

 憂凛がどんだけ恭ちゃんのこと好きだと思ってるの!分かってないなあ、もう。
 いつかこの指に婚約指輪が嵌められて、……その次は結婚指輪?すごいなあ……、すごい。高校生の頃の自分に教えてあげたい。憂凛は幸せになれるよ、って。言ってあげたい。

 いつか夢見た幸せを、越えていく。