AmexAmexxx
2018-02-08 00:59:31
3211文字
Public bkyi
 

悪戯っこキャット


「スイだー!久しぶりー!」
……はあ、あの、重いです唯さん」
「スキンシップを重いの一言で終わらせるのやめて」

 二月上旬。
 化龍に会えない週末が出来てしまって暇なのでアポなしで瀧のところに押し掛けると、瀧の家庭教師でスイが勉強中だった。開口一番「何しに来た……」って面倒そうに呟いた瀧はあれだ、多分スイと二人の時間を邪魔されたの、それなりに怒っている。でも珈琲出してくれるところが瀧らしい。優しい。
 スイは中3、絶賛受験勉強中だ。……瀧とふたりで受験勉強になるの?と思ったけど、割と瀧はそういうところちゃんとしてるからなー。どこぞの教師みたいにがっついたりはしてないだろう。たぶん。
 ていうかスイの成績で果たして瀧の家庭教師が必要なの?勉強を口実にふたりで居るだけじゃん!みたいな。みたいな!こちとら彼氏に会えないからここに来てるのに!っていうのは完全なる八つ当たり。なので言わない。

「スイどこ受けるの?うち?」
「唯さんの高校だけは絶対受けません」
「えースイなら余裕で受かるでしょ」
「あの男がいるのに何で行くんですか……
「ほんとスイ化龍のこと嫌いだよねー」
「俺が知る限りお前以外全員嫌いだと思うが」
「流華さんを除いてあげて」
「まああの人はな……

 皆に嫌われちゃってまあ、カワイソウなセンセ。そゆとこ好き、って言ったらまた趣味が悪い、って言われるなあ。
 趣味が悪かろうが何だろうが、まあ、好きなものは好きだし。どーにかこーにか、今のところは何とかなってるし?問題ない問題ない。時々さみしーくらいのものだ。基本は充実している。
 それに今はせっかくスイが居るし、ちょっかい出したいよね。出したくなるよね。ちょっと困ってるの可愛いよね。どう対応すべきか悩んでるよね。可愛い。
 居心地悪そうな顔されるといじめたくなるというか。ていうか今邪魔だから帰って欲しいな的な気持ちも多分あるんだろうなー。

「じゃあ瀧の後輩になるのか」
……ええと」
「スイの成績で行きそうなとこと言えばうちかあそこかの二択でしょ」
「唯も俺の後輩になるだけの成績はあった記憶があるが」
「やだよ遊べないじゃん」

 瀧が行っていた高校は超がつく程頭が良いところだ。皆かなり勉強してます、って感じの。見るからに頭が良い。確かに成績的には狙えたかもしんないけど、日頃本気で勉強してないと一瞬でついていけなくなるようなとこ、行きたくない。
 その点うちの高校はそれなりの偏差値はあるけどそこまで勉強にがつがつしてない。入ってないけど、部活も活発だし。部活と言えば1年の時めちゃくちゃダンス部に誘われたなー。入らなくて正解だったけど。部活なんてしてたら本当に化龍と居る時間が取れなくなる。

「ツキは?元気?」
「元気ですよ」
「同じとこ受けるの?」
「はあ、まあ」
「ほんっとあれで流華さんも頭良いっていうのがイマイチ信じられない」
「本人に言うぞ」
「やめて」

 周りに頭が良い人が多いです。希羅姉も頭良いしなー。優等生だ何だと言われても周りが凄すぎて、やっぱ凡人じゃない?と思ってしまう。まあ言われている限り優等生の皮は被っとくけど。色々便利だしね。
 くるくる。スイの手の中でシャーペンが回る。何を話したらいいか悩んでるな?ふふ、可愛い。
 当たり障りのない会話で乗り切ろうったってそうはいかない。と言いたいところだけど瀧が一緒にいるからなあ。あんまりやり過ぎると瀧が怒る。
 でも好奇心がうずうずする。だってあんまり会えないしね?聞きたいことはいっぱいある。聞いてもいいかな。いいよね?

「ねえねえスイ、前から1回聞きたかったんだけど」
「はい?」
「瀧のどこが好きなの?」
「ぶっ」
「っ……

 あ、瀧今飲んでたカフェオレ噴いたね?ふふ、面白い。鉄面皮みたいな瀧にスイへのモーションは効果覿面だ。案外分かりやすくて可愛い。
 あんま他人に心開いたりしないし、何せほとんど感情見せてくれない瀧だから周りには勘違いされがちだけど、懐に入れた人間にはすごい優しいし、言葉足りなさすぎるだけなんだよなあ。いや本当に足りなさ過ぎなんだけどこの鉄面皮。引くほどの美形の相乗効果で本当に近寄り難いしね。
 逡巡したように視線を泳がせたスイが、そのまま瀧に助けを求めるような視線を向けるけれど。敢えて瀧が視線を逸らしたのは、助け舟を出す程でもないと思ったからか。

「いや分かるよ瀧すっごいかっこいいし綺麗だし、うん」
……あの、唯さん」
「ただ人間味が欠落してるからこの人」
「いや……そんなことは……
「スイにはちゃんと優しい?大丈夫?いじめられてない?いじめられたらおねーさんに言うんだよ、たっぷりお説教してあげるからね」
「説教が必要なのは俺よりお前だろう……
「論点すり替えて逃げようとしないのー」
……

 すごい嫌そうな顔した。あはは。ごめんね瀧。
 分かってる。瀧は自分の話をするのがすごく苦手だ。だから、自分が関わる話を突っ込まれるとどんな顔して聞いてればいいのか分かんなくなるんだよね。
 ぎゅう、とスイに抱きついて。興味本位、面白半分。つつ、と背中を指でなぞると、面白いくらいにスイの背中が跳ねた。これはあれだな、ただの何すんだこの人、的な反応だな。つまらない。

「瀧なんかやめておねーさんに乗り換えてもいいんだよー?」
「いやそれはないです……
「聞いた瀧、即答でフラれた」
……というか俺のモノに手を出すな」
「きゃーこっわーい、スイ愛されてるねえ良かったねえ」

 よしよし頭を撫で繰り回したら、スイの困った顔。でもちょっと嬉しそうなのは、瀧に言われたのが嬉しかったからだろう。ふふ。素直で宜しい。
 まあ、わざわざ聞く必要もないんだけどね。ちゃーんと知っている。瀧にはスイが必要で、スイには瀧が必要だ。それで上手くバランス取れてるし、外野から引っ掻き回そうとする奴がいたらぶん殴る。このふたりには幸せで居て欲しい。時々冗談で絡むのは趣味なので許してもらえると有難い。

……そんなことよりそれこそ唯さんは何であんな男と付き合ってるんですか、酷い目に遭ってませんか、大丈夫ですか」
「そんな心配しなくても」
「しますよそれは……
「まああのひと手に入ってるモノに関しては大して興味ないでしょ、多少の執着あるだけでしょ、そんなもんだよ」

 アレは手に入らないものに執着するタイプだから。
 例えば卒業したら一緒に住めばいいとか言われたこと、覚えてるけど。本人は果たして覚えているかどうか。進路決めさせたいが為の方便でしょ。全然本気じゃないし、多分その話をしたら今度はのらくら躱されるのが目に見えてる。そういう男だし、だから好きなのだ。
 正直なところ卒業する頃に別れ話を切り出そうとは思っていてーーそして多分化龍はその別れ話に頷くだろう。めんどくさいもんね、別れ話って。そこまでにどれだけ籠絡しきれるかが問題。別れて、もし新しい彼氏が出来てー、みたいな話を聞いた時、気が狂ったみたいに取り返そうとしてくれれば、それが1番成功の形なんだよなあ。そしてそうなって初めて、あのひとが手に入る、みたいな?
 掌の上で踊ってるフリをして、どれだけ転がせられるか。手段は選ばないし、着々と下地は整えてる。たっぷり時間かけて、しっかり頑張ってるよ。騙し合い。

……常々思うがお前ら本当に付き合ってるのか?」
「付き合ってるよー?かれぴっぴですよ?」
……
「あっスイ白い目で見るのやめて心が痛い」
……まあ、お前が楽しそうな間は大丈夫か」

 はあ、と溜め息を吐いた瀧に、にっこり笑って。ついでにもう一度スイの頭を撫でくりまわしたら、そっと逃げられた。……くそう。