AmexAmexxx
2018-01-27 07:26:43
2584文字
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忘れ去られた日々のこと 07


 何かがおかしい、と気がついたのは、調査を始めて暫く経った頃だった。
 白い仮面の『ディアボロス』のこと、憂凛のことを知っている『ディアボロス』の捜索が俺の主だった仕事となったのだけれど――白い仮面の『ディアボロス』のことは噂程度には知っていても憂凛のことは知らない、という『ディアボロス』にしか会わなかったのだ。いっそ同居人に聞くか、と思いはしたけれど、何せ若宮のせいで2ヶ月行方不明扱いになっている。そんな今の状況でアイツに会うのは面倒だ、という気持ちが先立った。根掘り葉掘り聞かれてもそんなに説明も出来ないし、俺の身体に『憑依』して使っていた、なんてことを聞いたら何をやらかすか分からない。
 まあそして極めつけは――碓氷と一緒に、柳川が居たことだった。柳川が碓氷と知り合いな訳がない、少なくとも俺はそんな話を聞いたことは一度もない。碓氷が俺と楠が柳川の話をしていた時に聞いていたことは多分あるだろうけれど。俺はともかく楠の方は柳川とそれなりに親交はあったのだ。俺と柳川の関係と、楠と柳川の関係は全く別だし、そこに俺の事情を持ち込んだりはしなかった。碓氷は碓氷で柳川に興味を示しはしたけれど、会いたいとかそういうことを口にしたことは一度だってなかった筈だ。
 そして、碓氷と一緒に居た柳川は、憂凛のことを忘れていた。

……有り得ねえ」

 ショックが大き過ぎて記憶を封じ込めた?そんなことは有り得ない。俺は柳川 恭という人間がどういう人間か、それなりには知っているつもりだ。あんな馬鹿正直で単純で真っ直ぐなヤツはそうそういない。分かりやすい。大体、そんなことが起きていたら茅嶋さんが気付くだろうし、気にするだろう。いや、柳川が茅嶋さんに憂凛とあったことを一言も話していなければ、或いは?……いや、それでも、アイツが記憶を失くすことはないだろう。アイツはどちらかと言えば受け止めて、受け入れて、戦う人間だ。亡くなったお姉さんのことだって、茅嶋さんが堕ちた時だって、アイツは戦ったんだから。
 アイツが忘れてるとすりゃ、馬鹿だから覚えてねえ、みたいなことだけだ。憂凛のことを忘れてしまう程馬鹿じゃない。そんな馬鹿なら、流石に俺だって殴ってる。

「先にそっちのセン、調べた方がいいよな……

 恐らく若宮は俺に何かを隠しているのだろう。というか、俺が調査していることに本当に意味があるのかどうかさえ分からない。問い詰めたところであの女ははぐらかすだろうし、また『憑依』されて訳の分からないことに使われたらたまったものじゃない。
 若宮の言いなりになったフリをしたまま、俺は柳川のことを調べ始めた。大学2年に怪我をきっかけに陸上を辞めたこと、テーマパークでバイトをしていること、大学には何とか留年もせずに通っていること。一緒につるんでいるのは『サイキッカー』の乙仲 響、それに『ディアボロス』の三条 小夜乃。三条は俺も知っている、琴葉先生の助手のような親友のような、どうにも読めないヤツだ。……三条。『ディアボロス』。
 ……仮に。仮に、だけれど。碓氷が碓氷ではない何かになってしまった件と、若宮の調べている『ディアボロス』の件が繋がっていたり、しないだろうか。本当は全部繋がっていて、俺が碓氷の件を調べるのも、こうして若宮の言いなりになっているのも、誰かの書いたシナリオで。その延長線上で柳川が碓氷と一緒に居たり、憂凛の記憶を失ってしまったりしている、という可能性はないだろうか。
 そう、そもそもおかしい。何故俺は若宮に再会した?若宮は何故俺を使うことに固執した?確かに俺と若宮は知り合いだけれど、その辺に他にも『陰陽師』は居る――それこそ碓氷も『陰陽師』だったし。下手に探すよりは知り合いの方が楽だったのかもしれないけれど、それにしたって俺でなくても良かった筈だ。
 俺は、誰かが描いたシナリオの駒にされているんじゃないか?
 いや、それでもそんなことは馬鹿な想像だと思いたかった。一笑して忘れ去るような、馬鹿な仮説だった筈なのだ。
 覆ったのは、簡単な切欠だった。俺と若宮は鴉が根城にしていたという洋館を間借りするような形で生活していたのだけれど――そこに、思わぬ来訪者が居たのだ。

「首尾は上々だな」
……うん。絶対に、仇は取れる」
「ああ。……あと、もう一押しありゃいけると思うんだ。……そっちも頼む」
「任せて、響」

 ――そんな会話を、小耳に挟んでしまったものだから。
 響。乙仲 響。柳川がつるんでいる『サイキッカー』――『サイキッカー』の筈だけれど、俺がちらっと見た感じアイツは『サイコジャッカー』だった。いや、恐らく、若宮の『カミ』――『ホシヒメ』の力で自在に入れ替わっている、ということだろう。必要な時に『サイキッカー』に、そして『サイコジャッカー』に。
 乙仲が『サイコジャッカー』であるならば、簡単に柳川の記憶を弄ることが出来るだろう。恐らく傍に居るあの男が、柳川から憂凛の記憶を消している。何らかの意図を持って。じゃあ、その意図は何だ?
 そもそも、憂凛が狙われているというのは本当か?――俺を扱うのに、憂凛の名前を出しておけばいいだろう、くらいの気持ちで使われている可能性はないか?本当の狙いは柳川で――その狙いで、俺もここに引き摺り込まれているんじゃあ。

……、くそ」

 確認しなければならない。けれど、誰に?
 若宮と乙仲は俺がその会話を聞いてしまったことに恐らく気付いていない、とは思う。聞いてしまったことに気付いていれば、今すぐにでも俺の記憶が消されていてもおかしくないからだ。問い詰めたところで、相手が悪過ぎる。俺にはどうしようもない。じゃあ誰に聞けば。
 そこで思い出したのが、あの陰気な『情報屋』だった。俺が死ぬ、と言ってのけたあの男は、恐らく本当に全てを知っている。俺の知りたい情報を、全て。
 対価は払えないかもしれない。けれど一か八か、賭けてみるのもアリだろう。大体、柳川に何かあったと知れば憂凛が泣く。……泣くくらいで済めばまだマシだ。何年経ったって、アイツの心の中には柳川が居るままなんだから。

 心の中に広がるどす黒いシミは、見ないふりをして。俺は急いで、永瀬に連絡を取ったのだった。