AmexAmexxx
2018-01-15 18:34:29
2689文字
Public OcculTrigger
 

忘れ去られた日々のこと 06


 ーーそう、前を向けた筈だったのだ。

 とにかく事実関係を知らなければならない。けれど俺は永瀬に対価を払えない。だから永瀬から因果関係を知ることは現状不可能だ。
 けれど、他の方法なら?永瀬が辿り着けたのだ、他の方法で案外どうにか辿り着けるかもしれない。それこそーー恥を承知で柳川に連絡を取ってもいい、同居人に手伝って貰ってもいい。とにかく1人で動くには限界がある。
 誰も巻き込みたくはないけれど、誰かを巻き込まなければどうすることも出来ない。その辺りはしっかり考えて、それから動こう。碓氷が死んだと決めつけるのは、まだ早計だ。
 さてどうしようか、とそんなことを考え始めた矢先に、俺は出会ってしまった。再会してしまったーー会うべきではない人間に。

「久し振り、渚」
「え、」
「あるじさまの為に、『使わせて』ね」

 若宮 柑菜。
 とある滅んだ村の巫女ーー村を滅ぼした、巫女。高校時代関わらされた事件の相談者であり、犯人。
 鴉がその後面倒を見ていることは知っていた。その特異な『カミ』の性質が役に立つだとか何だとか言って、小間使いにしていて。鴉に心酔しているのか何なのか、若宮も大人しくしている、とは聞いていたーーけれど。
 どう考えても大人しくしている、という雰囲気の顔じゃない。明らかな敵意の、ーーまずい。
 過去の経験からよく分かっている。コイツを相手取って勝てるほど俺は強くない。この女、あの鴉が小間使いにするだけの実力はあるのだ。そもそも俺は調べ物が得意なだけで戦闘は然程得意ではない、というか苦手だ。弱い。
 そう、だからその時。一瞬意味が分からずに判断が遅れた。どうして若宮が、とか、何を言われているのか分からずに、すぐに対応出来なかった。それが運の尽きだった、ということだろう。
 一瞬で俺の意識は堕ちて。次に記憶が戻ったのが2ヶ月後だったーーなんて、誰が信じてくれるだろうか。

+++

「ーーどういうことか説明しろ」

 俺がキレるのは何も間違っていない。2ヶ月の空白ーー結論から言えば、俺はその2ヶ月、若宮に『憑依』されていたのだ。しかも半分『外法使い』に堕とされた状態で。
 若宮に悪びれる様子はなく、何がおかしいのかとでも言いたげな顔で俺を見ている。……そうだ、コイツはこういう奴だった。目的の為には手段を選ばない。大方『陰陽師』と『外法使い』双方の力が必要で、たまたま俺に目をつけたということなのだろう。いやふざけるな、俺の都合は無視か。

「渚のお陰で随分情報は集まったの。ありがとう」
「いや礼を言う前に謝罪しろよお前は」
「どうして?」
「無断で俺を使うな」
「許可を得る価値があるような人間だったの?」
「殴るぞ」

 しれっときついこと言ってんじゃねえよこの女。
 まあ話を要約すれば、鴉が生死不明の行方不明になって、若宮はその理由を探っていたらしかった。それを調べるのに『陰陽師』の力が欲しかったのだという。半分堕とされているのは「だって渚があまりにも弱いから、『外法使い』の力使った方が強いでしょう」とか言われた。屈辱が過ぎる。そもそも相談をしろ相談を。……いや、相談されたところでもう2度とこの女には関わりたくなかった。本当に酷い目に遭ったことを、俺は今でも鮮明に覚えている。
 若宮に使われている間、俺も行方不明の状態になっていた訳だ。憂凛や同居人のことを考えると頭が痛い。どう説明するんだ……というか何でこんなことになってるんだ……巻き込むなよ勝手に……

「それに、渚にも無関係じゃないの」
「は?何が。鴉が行方不明とかどーでもいいんだけど俺には……どうせしれっと戻ってくるだろあの鴉のことだから……
「橘 憂凛」
「!」

 何でお前が憂凛の名前を知ってる。弾かれたように若宮を見れば、若宮はにこりと虚ろに笑う。
 かつて若宮の事件に巻き込まれた時、俺は憂凛を巻き込まなかった。だから憂凛は若宮を知らないし、若宮も憂凛を知らない筈だ。そもそも俺は『そういうこと』に巻き込まれた時、憂凛を巻き込んだりはしないーー憂凛に巻き込まれるなら兎も角、だ。

「大事な幼馴染でしょう」
……憂凛が、何だって?」
「彼女は白い仮面の『ディアボロス』を倒せる人材のひとりとして狙われている」
……白い仮面の『ディアボロス』?」
「シャロン=マスカレード」

 淡々と紡がれたその名に、聞き覚えはない。誰だそれ。何でそんなよく知らない奴を倒す為に憂凛が狙われる。何言ってるんだコイツ。
 頭にはてなマークしか飛ばない。そんな断片的に情報を貰っても困る。何も分かんねえよ。大体『ディアボロス』って、三条と同居人くらいしか知り合いもいねえし、白い仮面とか知らねえし。
 ……いや、一度、鴉に頼まれて『ディアボロス』について調べたことがあったな。あれは確か助けて貰った対価として俺が調べることを強要されてーー何のことだったか。確か『ナギサは知らなくていいことだ』なんて言われた記憶があるから、多分調べ終わった後に記憶吹っ飛ばされてる。鴉はそういう奴だ。
 その時調べたのが、もしかしたらシャロン=マスカレードについてだったかもしれない……?いや、でも、そうだとして、そこから憂凛に何の関係があるっていうんだ?

「あと、渚の調べ物」
「あ?」
「碓氷 奈瑞菜のこと」
……だから何でお前が碓氷のことまで知ってんだよ」
「私なら力になれる。だから取引をしましょう」
「しねえよ」
「するの」
「強制かよ」
「なら貴方1人で碓氷 奈瑞菜のことを調べられるの?」
「ーー……

 痛いところを突いてくる。調べられない、だから困ってた。1人で動くには限界がある、誰かに協力して貰うべきだ、そう思っていたことは覚えている。
 けれどその相手に若宮を選んでどうする。この女はヤバい。人のことを利用するだけ利用してぶっ殺すような奴だぞ?信用ならない。信用する理由がない。

「『サイキッカー』、紹介してあげられるけど」
……だからお前の手は借りねえって」
「そう。私は渚の力がいるの」
「話を聞け」
「応じないなら『憑依』して使う」
……なあ俺に拒否権ねえのかよ……
「ない」

 即答かよ……
 見つかってしまったのが運の尽き、と諦めるしかないのだろう。どうせ使われるのなら取引に応じた方が確かに利はある。何の利益もなく使われるよりは余程いい。

 そしてこれこそが罠だったのだと。
 俺が知るのは、更にもう少し後の話だ。