AmexAmexxx
2018-01-09 06:40:43
2712文字
Public OcculTrigger
 

忘れ去られた日々のこと 04


 そして俺は、『情報屋』を探してその男に出会ったのだった。
 永瀬 梓人。パソコンとネットワークーーというよりは本人曰く「0と1」の『カミサマ』に愛された男。完全に『情報屋』をビジネスとして『本職』にしている『神憑り』。
 本職にしている、というのは信頼がおける。何せ情報というものは信頼が命だ。依頼主の情報を漏らさず、正確な情報を与えるーー世の中に『情報屋』というものは結構存在するけれど、その大半は眉唾だったりするので、『本職』として成り立たせるのは案外難しい。『情報屋』か『詐欺師』か、その辺は己で見分けるしかない訳だ。
 彼にコンタクトを取ると、案外あっさりとOKの返事が返ってきた。三日後、指定の喫茶店で会いましょう、という返信。俺の依頼の内容も何も聞かず。憑いている『カミ』から考えれば、コンタクトを取った時点で俺の情報なんて筒抜けなのだろう。
 指定した日、指定された時間、指定された場所。少し早めに行ってカフェオレを飲んでいると、時間ぴったりにその男は現れた。
 俺が言うのも何だけれど、第一印象は陰気な男ーーという感じだ。前髪で完全に目を覆い隠して、ぼさっとした適当な髪型に適当な服、という感じの。けれどオタクっぽい、とかそういう訳ではなく。何だろう、他人を徹底的に受け入れていない、そんな雰囲気がする。

……松崎、渚さん」
「あ……永瀬、梓人?」
「そうです……、席、失礼しますね……

 特に俺は写真を送ったとかそういうことをした訳では無い。けれど彼は迷わずに俺を『松崎 渚』だと言い当てた。うんうん、と何か納得したように頷きながら、俺の前に腰掛ける。
 重い前髪に隠されて、全く目は見えない。見えないけれど、真っ直ぐにこちらを見ているのが分かる。それを怖い、と思ったのは何故だろう。ーー全部、全部見透かされているような、そんな気がしたからかもしれない。

……警戒、しないでください……取って食べたり、しませんよ……
……失礼を」
「お気になさらず…………俺の方が年下ですし、タメ口で構いません……喋りやすいように、喋ってください……
「あ、ああ……

 淡々と。穏やかに紡がれる言葉には、やはり怖さがある。多分もう、コイツは全部知っている。俺が何を依頼しようとしているかも、その経緯も。
 『情報屋』に調査を依頼する、というのはそういうことなのかもしれない。依頼した時点で、俺のことなんて全部調べ上げられる。俺なんて、大した経歴でもないし。ただのしがない『陰陽師』で、中古文学が好きで、変な外人に言い寄らせてて、……『半人』の大事な幼馴染がいるだけの、何も無い男だ。
 何も無い。……嫌になるくらい、俺には何も無い。

……メールした通りで。依頼を、したいんだが」
「ええ、分かっています……碓氷 奈瑞菜さんについて知りたい、ですね……?」
……ああ」
「とても残念な事なのですが……貴方には教えられません……
「ーーは?」

 俺、まだ何も、と言いかけて、黙る。いや、この男はもう全部知っているのだ。永瀬 梓人。「0と1」の『カミサマ』に愛された、情報に愛された男。話していないから知らない、なんてことはないことは、分かっている。分かっているはずなのに、どうにも俺の中で理解が追いつかない。……理解したくないのかもしれない。知られている、というのは、怖い。
 ゆっくりとした、ぼそほそとした喋り方ではあるけれど。その言葉には芯がある。決して適当に言っている訳では無い。もう本当に、俺が知りたいことまで全て、この男は知っているのだろう。それだけのことを調べ尽くしてから、こうして俺の前に姿を現したのだろう。
 それは一種、バケモノ染みた。ーー『この世界』の片鱗を、思い知らされる。その辺の事件に足突っ込んでる程度の俺とは比べ物にならない。永瀬は、茅嶋さんと同じだ。俺からは遠い世界の、人間なのだ。
 どうせ俺は、『陰陽師』として生きていく覚悟などない人間で。普通に生きて普通に死んでいく。それしか出来ない、ただの凡人だ。一斗さんが居たから自分が『陰陽師』の力があると知っただけで、知らなければ何も知らないまま生きていただろうし。何も、気付かないフリをして。

……何で、教えられない?」
「貴方には……対価が払えない……
……金?」
「いいえ……貴方のような『こちら側』の人間から金を取っても……大した利益になりません……お金には困りませんしね……
「ならお前の言う対価って何だ」
「対価は…………コレですよ……

 とん、とん。永瀬は静かに、己の人差し指で己の頭を叩く。……頭?意味が分からずに首を傾げると、ふ、と小さく永瀬は笑った。

……『記憶』」
「記憶……?」
「はい……俺は、古今東西、様々な『向こう側』のデータを集めて……データベース化するのを、趣味にしていて……『こちら側』の人からは……基本的に、そのメモリーの中から……釣り合うだけの情報量を精査して、対価として頂いています……
……俺もそれなりに『向こう側』には出逢って来てる筈だけど」
「足りませんよそんなもの……貴方が知りたいことに比べたら、全然……
「全然?」
「そう……釣り合わないものは、渡せません……という訳で、諦めて下さい、と言いに来ました……

 ーー諦める?ここに来て?
 目の前のこの男は、俺が知りたい情報を全て持っているのに?ここに来て何も教えて貰えないのか、俺は。所詮その程度なのか。……諦めるしか、方法が、ないのか?
 碓氷はもしかしたら、俺のせいで。その可能性が拭えないまま、一生それを背負って生きるのか。……ああでもきっと、真実を知る方がしんどい。そんなことはないと言い聞かせて、気のせいだと言い聞かせて、それでこのままにしてしまった方がいいんじゃないだろうか。
 俺が持っている記憶が釣り合わないということは、それ以上の情報だということだ。俺にはどうすることも出来ないということだ。ーーつまり、俺には手に負えないと。言外にそう言われているのだ。そういうことに、碓氷は巻き込まれてしまった。
 俺は一体、何を知ろうとしているんだ。

……どうしても?」
「ええ……どうしても……
……じゃあアンタに会った意味がない」
「まあ、そうですね……何にしろ、貴方はこの件から……手を引くべきだ」

 重い前髪の向こう。ちらりと覗いた目が、本当に真っ直ぐに俺を射抜く。真剣なその目に、気圧される。

「でないと……貴方は、死ぬことになりますよ……