AmexAmexxx
2017-12-06 19:37:44
2885文字
Public OcculTrigger
 

恋の話


 好きです、付き合ってください。と。そういうのに、このひとはどれだけ勇気を振り絞ったんだろう。
 いつもその言葉を聞くたびに、思い出すのは高校生の頃の記憶。……全然言えなくて、いっぱいいっぱい考えて、でも結局ちゃんと出来なかった、あの告白のこと。

「ごめんなさい」

 頭を下げて。ああやっぱり、なんて言いたそうな顔した子に、どんな顔したらいいのか分からない。
 本当は誰かと付き合ってみたりした方がいいのかもしれない。そっちの方が忘れられて、幸せになれるのかもしれない。でもね、忘れられないの。何年経っても大好きなの。その気持ちが、どうしても変わらない。
 きっと、好きでいるべきじゃない。あんなことをしてしまって、許される気持ちじゃないと自分で思っているけれど。ーー忘れられないんだもの、しょうがないじゃない。

「憂凛、好きなひとがいるの」



+++



「憂凛、噂になってるよー?またフッたって?」
「春佳ちゃん」

 お昼、中庭。ぼーっとひとりでーー正確にはアリスちゃんとだけれどーーパパの作ってくれたお弁当を食べていたら、ひょい、と現れたのは同級生の中岩 春佳ちゃん。春佳ちゃんは優秀な外科医になる!って夢を持って医大生になった、フツーの子。フツーのオトモダチ、というのがあまりいない憂凛にとっては、珍しい感じではある。憂凛の友達って大体『こっち側』だったり『あっち側』だったり、『向こう側』だったりもするもんね。
 隣に座った春佳ちゃんは何も持ってない。お昼、食べ終わったのかな。
 大学生になって2年目、何だかすっかりこの台詞も聞き慣れてしまった。んんー、何でかよく告白されるから、よくお断りしていて、何だか大学名物みたいになっちゃってる気がする……
 この間『医学部の橘をオトせる男は果たして誰か』みたいな集まりがあるとか聞いたし。やめて欲しい。憂凛、おとなしくしてるのになあ。ていうか皆そんなことしてる時間あるなら勉強すればいいのに……

「食堂で『橘が好きな人は誰か』っていう会議開かれてたよ」
「えー……
「眼鏡の人が有力候補」
「なぎちゃんはただの幼馴染みー」
「時々見かけるちょっと怪しい感じの年上の人は?」
「信田くん?親戚のおにいちゃん的な人ですー」
「えー、じゃあたまに顔見る後輩?」
「宮内くんはお友達だもん」
「ええー?あと誰がいるの?ていうか本当に憂凛の好きな人って誰なの?私も聞いたことないんだけど」

 春佳ちゃんの言葉に、曖昧に笑う。大学からの友達は皆知らなくて当たり前なんだもんね。でも言ったって皆知らないでしょー、って思う気持ちもあるし、何だかやっぱり口にしたくなくて。名前を口にしたら、今でも泣きそうになるんだから。せっかく落ち着いたのに、また思い出してしまう。
 皆にいっぱい、迷惑かけちゃったから。もう大丈夫って、言ったんだから。だいじょうぶ。

「ていうか憂凛にオトせない男とかいるの」
「何それひっどい!憂凛を何だと思ってるの!」
「超絶可愛い医大生」
「可愛くなる努力してるもん」
「いや素材からして可愛いから……

 女の子だもん、いつだって可愛くいたいじゃない。好きな人に可愛いって思われたいし、可愛いって褒めてもらえるのは嬉しい。おじいちゃんに憂凛は可愛いなあって頭よしよしされるの大好きだし、ヒメちゃんに可愛い!ってぎゅーってされるのも大好きだし、可愛いって思ってもらえるの、嬉しい。嬉しいから、努力は怠りません。
 そんな憂凛が可愛いの当たり前でしょ、みたいなこと言われたくなーい。憂凛、頑張ってるもん、ちゃんと。

「憂凛と恋バナほんとしないもんなー、たまにはいいじゃん、しようよー」
「えー。春佳ちゃんのノロケ話ならいくらでも聞くよ?」
「だから憂凛の話が聞きたいんだってば」
「憂凛に恋バナはないよー」
「好きな人がいるのに?」
「そう、好きな人はいるけど」

 話せることなんて、何もないんだ。進展なんてしないし、ずっと思い出としてそこにあるだけ。もう二度と会わないって決めたんだから。その気持ちはずっと、変わらない。
 アリスちゃんはずっと何か言いたそうだけど、でも、「憂凛が決めたことなら」って言って、それ以上のことは言わない。なぎちゃんとはその話をしなくなった。ていうか、なぎちゃんにあまり会わなくなった。学校忙しくなったからー、とか言ってたけど、絶対ウソ。なぎちゃんにだって色々思うところはあるんだろうなっていうのは分かる。……分かるから、何も言えなくなっちゃう。なぎちゃんには、いっぱい迷惑かけちゃったし。
 好きなひと。きっと一生だいすきなひと。あの太陽みたいな笑顔が、心があったかくなる笑顔が、だいすきで。その気持ちを持ったまま他の人と付き合うなんてやっぱり出来ない。それは、憂凛を好きになってくれたひとに、失礼でしょ?

……いつか春佳ちゃんにそんな話する日が来るのかなあ」
「いつでもしてくれていいんですよ?」
「じゃあいつかね!」
「約束だよー?」

 そのいつかは、きっと来ない。憂凛は、好きな人に会わない。
 ぱく、と口にいれたたまごやきは、パパ特製の甘いたまごやきのはずなのに。何だか少ししょっぱくて、胸がきゅっとなった。



+++



「ねえうちの大学にあんな人いたっけ」
「イケメンじゃない?どこの学部の人?」

 帰る用意してたら、周りからそんな声が聞こえて。はっとして顔を上げると、見慣れたひとがすごい人に囲まれて困ってた。

「恭ちゃん!」
「あ、ゆりっぺいた!」

 ひらひら手を振ってくる恭ちゃんに、慌てて荷物まとめて。人かきわけてやって来た恭ちゃんに飛び付いたら、ちゃんと受け止めてくれた。んふふ。周りから色んな声がするけど気にしないっ。恭ちゃんかっこいいから目立つんだもん、憂凛が好きなひとかっこいいでしょ!って自慢したくなっちゃう。

「どうしたの?何で?」
「んや、何か待ち合わせまですっごい時間余っちゃったから迎えに……橘さんどこにいますかーって聞いたら皆連れてきてくれた」

 あ、だから周りに女の子いたんだ。むう、面白くない。憂凛がいないとこ連れてかれちゃったらどうするの!恭ちゃんてそういうとこ無防備なんだから。自分がかっこいいの分かってないんだから。もう。
 ふっと視線を感じてそちらに視線を向けると、まだ教室に残ってた春佳ちゃんと目が合った。口パクで何か言ってる。……あ、そっか。春佳ちゃんに、恭ちゃんのこと、全然言ってないままだった。口パクには首を横に振っておく。
 彼氏。彼氏じゃないんだよ、春佳ちゃん。残念ながら。恭ちゃんは、憂凛の好きなひと。だいすきなひとなの。今度ちゃんと紹介出来たらいいなあ。ほんとは彼氏!って言いたいけど。……いつか言えるかなあ。最近の恭ちゃんはずっと思わせ振りなこと言うから、どきどきしちゃうよねえ。本人無自覚なんだろうなあ。憂凛ばっかりどきどきしちゃって、悔しい。