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AmexAmexxx
2017-07-06 00:35:37
6862文字
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Summer Star Night/Eve
俺のジョギングは朝の日課だ。
それは何年も続いている日課で、雨の日以外は滅多なことがない限りは必ずする。距離はきまぐれだし、ルートもきまぐれ。走りたいように走る。知らない道を走っても、ちゃんとぶんちゃんがナビしてくれるから帰れるし。ぶんちゃんに頼りっきりと言われたら言い返せない
……
助けられて生きてます
……
。
その日もいつも通り、早朝にジョギング。ゆっくり走って、喉が乾いたから休憩ついでに公園に足を踏み入れた。ベンチに座って、持ってきたミネラルウォーターのフタ開けてーーそこで俺は、その少年に気付いたのだった。
+++
「やっほ、オニーサン」
「わ、ホントにいた」
その日の夜、ぶんちゃんにナビしてもらって再びその公園を訪れると、ベンチに座っていた少年が俺を見つけてにこにこ笑って手を振ってくれる。それに手を振り返して、俺は少年の隣に腰を下ろした。
この少年は今朝、この公園で俺が『拾った』。何言ってんだお前、と言われそうではあるんだけど、これが事実だから困る。今朝、水飲んでてふと滑り台の方見たら、滑り台の下の砂場で死んでたのだ。正確には死んだように寝てた。つっついたら飛び起きて、そしてぶっ倒れた。さっぱり意味不明だった
……
。
まあこのクソ暑いのにろくにごはん食べてないわ水さえ飲んでないわだったそうで、水飲ませたらちょっと元気になって。熱中症だったら危ないから病院連れていこうとしたらそれは全力で拒否された。高校生くらいっぽい感じがしたし、もしかしたら家出?と思ったら違うらしい。何でも一人旅の途中なんだって。不思議な子だ。
とりあえず涼しいところに移動して、ごはん食べさせてあげたらすっげー感謝された。お金払うって言われたけど別に俺が好きでしたことだし、そんなすんごい金額とかでもないし、そもそもどう見ても年下だし。旅してるならお金かかるでしょ、いいよ、ってお断りしたら、じゃあ、って夜の公園に招待されて、今に至る。
「お昼と夜はちゃんと食った?」
「昼は寝てた!夜はちゃんと食ったよ。心配してくれてありがとうね、オニーサン」
「いやあんな行き倒れてたら誰でも心配すっからね!?」
「ははー。どうにもこうにも興味ないからすーぐメシ食うのとか忘れちゃうんだよなー。夏の暑さをナメてたわ
……
」
「よくそんなんで旅してるね
……
」
「俺も思う」
真顔で同意されても。
ま、でも見た目は不健康そうじゃないし、お金払おうとしてたことから考えてもお金は持ってるんだろうし、そこまで心配しなくても大丈夫なんだろう。この年齢で一人旅してる、っていうのは気になるとこだけど、そういうのって突っ込んで聞いていいものかなー。一食奢った程度だし、ていうかそもそも俺はこの少年の名前も知らない。
さて、しかし俺は何でこの公園に呼び出されたのやら?朝飯のお礼するから!って言われたっちゃ言われたけど。俺の疑問が分かったんだろう、少年はへへー、と笑う。ぴ、と一本、立てられる指。
……
?
「うえー」
「上?」
「今日は天気も良いし、綺麗だよ。星」
「
……
ほし?」
星って、空?そう思いつつ上を見上げて。
そこに広がっていたのはーー確かに、きれいな星空だった。
「
……
わー
……
」
「都会じゃこんなに星見れるとこあんまないんだけどさ。空気汚れてるし明るいし。でもこの公園は結構綺麗に見えっから、俺、お気に入りなの」
「すっげー
……
こんな見えるんだ
……
」
「これでもすっげ少ないよ。オニーサンあんま星空とか見ない?」
「意識したことなかった!今はそこまでじゃないけど前は夜弱くって結構すぐ寝ちゃってたし」
「ふは、そうなんだ」
「星空見んの好きなの?」
「うん。色んなとこの星空見たくて旅してんの」
ほえー。思わず感心して声をあげた俺に、少年はおかしそうに笑う。いやでも、ホントにこんな風に星空見たことなかったな。すっげーキレイだ。ゆりっぺにも見せてあげたいなー、こういうの好きだろうか。デートに公園行こうっつったら怒られるかなあ。
そんなことを考える俺の隣で、少年は写真を撮っていた。スマホとかじゃなく、ちゃんとした本格的なカメラ。こうやって星空写真撮りながら一人で旅してんのか。すごいなあ、と思って、ふと気付く。
俺は、この星空、ゆりっぺと見たいなって思ったけど。この少年は、この星空を一緒に見たい人はいないんだろうか?
「写真、誰かに見せんの?」
「んー?うん」
「
……
一緒に星空見に出掛けたりとかしないの?」
「うん」
「
……
時々寂しくなったりとかしない?」
「
……
ふは。あれだねオニーサン、いいひとだね」
「いや、だって
……
俺だったらこの星空、大事なひとと見たいなーって思ったからさ」
「そう思う時点ですぐにいいひと。普通ならそれで?って感じの星空だよ、多分ね。まあオニーサン感動してくれそうなタイプだったからつい誘っちゃったけど」
淡々とそんなことを言いながら、少年はカメラを鞄に仕舞う。結構大きめのリュックだ。荷物も結構入ってそう。こんなん持ってあちこち旅してんのかー。
なんかやっぱりどうしても、好奇心がうずうずしてくる。旅、って言うくらいだからこの辺うろうろしてるだけ、ってワケでもないだろうし。聞いてもいいかなー、きっと嫌だったら嫌って言うよな?よし。
「なあなあ、今までの旅の話とかって聞いてもいい?」
「お?いいよー。つってもまだ始めて三ヶ月くらいなんだけど」
そう言いつつ、今度はリュックからアルバムが出てきた。ちゃんと写真現像してんだなー。写真の量は三ヶ月とはいえ結構な量で、それでも一度実家に戻った時に置いてきているらしい。最初の頃は何でもかんでも写真に撮っていてすごい量になってたらしくて、それから比べるとずいぶん減ったらしいけど、それでも多い。
写真は星空だけじゃなくて、風景の写真も結構多かった。キレイだと思ったものをカメラで写真に撮っているらしい。自分の写真は撮らないの?って聞いたら、ひとりだからー、って笑ってたけど、スマホの中の写真を見せてくれて。スマホの方では駅とか、地名のわかる場所で自撮りしているのが分かる。ああ多分、今ここだよ、って報告してんだなー、っていう感じだ。
「一ヶ月北海道うろうろして、一回帰って、今回は東北うろうろして戻ってきたんだ」
「ってことは実家この辺?」
「んーん、もっと田舎。帰りの通り道的な?明日帰んの」
「そっか」
「オニーサンは?この辺住んでんの?」
「住んでんのは2駅くらい先。朝のジョギングが日課だからそれでたまたまこの辺通ったんだよ」
「んで俺助けてもらったんだ。良かったー、見つけてくれたのオニーサンで。変な人だったら誘拐されちゃうーきゃー」
「いやほんと危ないからもうちょい気を付けてね
……
」
「ハーイ」
……
ホントに分かってんのかなこの子?なんかイマイチ危機感感じないな?一人で旅して大丈夫?死なない?すっげー心配になってきた
……
。いっそ一緒に行ってあげたいレベルなんだけど
……
。
俺が心配になったのがそのまんま顔に出てたんだろう、少年が面白そうに声を上げて笑う。あ、楽しそうだ。何となくそう思って、首を傾げる。なんでそう思ったんだろ。この子、結構ずっと笑ってんのにな。
「ねえオニーサン、まだ時間ある?」
「ん?あるよ?」
「じゃあもうちょっと俺に付き合ってくんない?オニーサンいいひとの『ヒーロー』みたいだし。ん、もしかして『セイバー』だったりすんのかな、まあいいや」
「え。
……
え!?」
何つった今!?あれまたこの子も『こっち側』か『あっち側』なの!?えっでも朝ぶんちゃん何も言わなかったじゃん、アリスちゃん
……
は昨日からゆりっぺのとこに女子会とかでお泊まり中だった、そりゃ何も言わないっつの!とりあえずスマホを見たら、白いもやもやが飛び出してきて少年を凝視していた。少年は見えてるんだろう、にこにこ笑いながら手を振ってる。マジで!?
「ふは。ちょーおもしれー反応返ってきたー」
「いや、俺、そういうのゼロ感で
……
昔っから全然分かんないもんで
……
」
「俺の場合は元ご同業だから、オニーサンが分かんなくてもそこのちっこいのが分かんなくても不思議じゃないよ。元『サイキッカー』、今はそういうのにちょっとビンカンなただの一般人ー」
「ほ、ほえー
……
、
……
元?」
「そう、『元』」
力がなくなった、ってこと?そんなことあんの?いや、有り得ない話とかじゃないのか、『カミサマ』が関わってたら基本的には何でも有り得ることだよなあ。
色々、あるのか。
……
いろいろ。だからこの子は、ひとりで旅をしてるのか。
「オニーサンいいひとっぽいから。『ヒーロー』って大体偽善の押し付けしてくる頭おかしい奴か根っからのいいひとかどっちかだと俺は思ってるんだけど」
「
……
ん、んん?」
「いや大体頭おかしいけど。まあそんなこと言い出したらフツーの頭のひととかいないね、そんなひとは気が狂ってイカれるしな」
「
……
お、おう
……
?」
「オニーサンて、何の為に生きてる?」
なんかよくわからないけどけなされた
……
?と思う間もなく。笑顔が消えて、少年の表情が真剣そのものになって。飛んできた質問は、さっきまでの話が嘘みたいに難しい問題だった。
何のため。生きる、理由?
……
そんなもの、いっぱいある。死ぬ気はないし、ずっと生き抜いてやる、と思って生きている。戦う場所に身を置いている限り、俺はどうしたって傷まみれになっちゃうし死ぬような危険な状況に追い込まれたりだってするけれどーー散々、したけれど。きっと、これからも。
それでも死んでなんてやらない。俺が死んだら悲しむひとがいる。大切なひとが、友達が、知り合いが、死んでしまうのはあまりにもつらくて。苦しくて。誰かに殺されたりするなら、尚更だ。だから死なない。ーーあんな思い、もう誰もしなくていい。嫌だ。
「
……
俺が死んだら悲しむひとがいて、そのひとの悲しい顔を見たくないから、生きる、ってのが一番俺の理由かな」
「へえ?」
「怪我しただけでも、いっつもすごい心配させるし、俺より痛そうな顔するからなあ」
ゆりっぺも、律さんも、その辺は一緒だ。二人とも自分の方が怪我したみたいな顔して、でも大丈夫だよ、良かった、って笑ってくれる。俺のことを安心させようと笑ってくれる。俺だって、二人が怪我したらそうなるんだろう。
誰も死んで欲しくない。出来れば皆笑っていて欲しい。それは俺もいてこそだってことを、俺は知っているから。
「でも世の中普通生きる理由なんてなく生きてる人多いじゃん?その辺はどう思う?」
「幸せな証拠じゃん。俺は別に生きる理由なんて知らなくていいと思うけどなあ、いや、俺の場合はだけど」
「
……
何で?」
「俺は何回か死にかけてっから、そういう答えが出ただけだし。そんなことなけりゃそんなこと考えることもなくのほほんと生きてたし、大体何だ、アレ、えーと。テツガクテキ?な話じゃん?」
「そっかな」
「そーだよ。生きる理由なんてなくたって生きていけっし」
考えない。普通は絶対。どうして生きているんだろう、なんて。大体いくら考えたところで今生きてるんだし、だったら楽しく生きた方が絶対楽しい。人生楽しく生きなきゃ。せっかく生きてるんだから。
「理由なんてなくても生きていいんだよ、生きてんだから」
「
……
そっか」
「うん。なーに、色々あるんだろうけどさー、そんな難しく考えなくていいと思うよー?なんて、俺は何も知らないから言えるんだろうけどさ」
もしかしたら、そんなこと軽く言えないくらいしんどいことを抱えて生きてるのかもしれないけど。でもきっとそんなことなら俺なんかには言いたくないだろうし、無責任かもしんないけど、俺にはそんなことしか言えない。
まだ若いのになあ、っていや、俺もそんなに歳変わらないね?なんて心の中で自分にツッコミ入れつつ、よしよし、と少年の頭を撫でる。撫でてからしまった、嫌がられるかな、と思ったけど、思いの外少年はおとなしく撫でられてくれた。表情はちょっとびみょーだけど。
「
……
オニーサン」
「ん?」
「生きて欲しいひとが死のうとしてる時、俺はどうしたらいいのかな」
「ーー
……
えっと」
「
……
ごめん、初対面なのに変なこと聞いて」
「
……
俺、難しいことは分かんないけど、俺なら全力で止めるかなあ」
「自分が死ぬかもしれなくても?」
「死なない。ぜってー死なない。だってその場合、そのひとが生きても悲しい思いさせるだけだから。死んでなんかやんねーし、どーにかして助ける。無理でもやるよ」
「
……
ひゅーかっこいーい」
笑いながら言っているように聞こえはしたけれど、声は震えていた。ああ、抱えているものがこぼれそうなんだなって思って、胸が痛い。きゅ、ってなる。
よしよし、ってもう一度頭を撫でると、今度はその手は振り払われた。でも顔は上げない。きっと泣きそうなの、耐えてるんだろうなあ。
……
うん。
空を見上げる。キレイな星空だ。この子は、少ない方だって言ってた。確かにこの子が持ってるアルバムの中にはすっげえ星空を収めた写真とかあって、フツーに感動した。すごい。でもその写真を撮ってる時、この子はひとりで。その瞬間、キレイだね、って分かち合えるひとがいないのは、きっとずっと寂しいことで。でもそうやってひとりを、耐えている理由があるんだろう。
笑って生きるのって、実はなかなか難しい。
……
それは、俺も思い知ったことだ。
「
……
はー、もう、何つーか、涙腺弱くなった
……
」
「泣けばいいじゃん、泣くの我慢すっと体に悪いぞー。ちなみに俺はすぐ泣く。恥ずかしい」
「恥ずかしいっつってんじゃん自分で」
「
……
でも泣かないと、自分の体の中の、何つーか、もやもやしたもん、絶対晴れないからなー」
「
……
そか」
「うん」
「オニーサンやっぱ変な人だ」
「ひでぇな!?」
「俺もっと早くオニーサンに出会ってりゃ人生変わったんだろな、もったいね」
はー、と特大の溜め息を吐いて、少年は顔を上げる。その目に涙はなくて、まっすぐに星空を見上げる瞳は、笑ってはいなかった。ただただ、悲しそうで。
もっと早く出会っていて、それで果たして俺が何か出来たんだろうか。この子の人生に何か関わって、どうにか出来るようなことがあったんだろうか。分からない。俺は確かに『ヒーロー』でーー『セイバー』で。でも誰かを助けられるようなすごい人間じゃない。助けられてばっかりで、自分のことで精一杯で。それでも何とか、自分の周りにいるひとたちをこれ以上死なせたくない。それだけ願って日々必死で足掻いてる、それだけの人間だ。
「
……
同族嫌悪だったのかな、だとしたら因果応報かな
……
」
「ん?」
「なんでもなーい。ねえねえオニーサンまた会える?つっても俺またこの辺来るの2、3ヶ月後だと思うけどー」
「あ、うん、全然!連絡先交換する?」
「んー。てか今気づいた、俺オニーサンに自己紹介してないねえ」
「それね。名前も知らないね。俺、柳川 恭」
「やながわ、きょーさん。よし。覚えたっ」
スマホを取り出して、さくっと連絡先交換。新しい連絡先として俺のスマホに表示されたのは、星のマークひとつ。
「これ?」
「そう、それ。俺、『ホシ』だから」
「ほしくん?」
「ってことにしといて。俺、現状名前がない、が正解だったりしちゃったり」
「?」
「ふは、まあ気軽にほっしーって呼んでもらえりゃいいよ!じゃあまたね、柳川さん」
「あ、うん。近く来るなら連絡して!また写真見たい」
「ふっふー。じゃあちょーいっぱい撮ってくる!楽しみにしてて」
「うん!」
重そうな荷物をよいしょ、と抱えて。にこやかに笑って、少年はーーほしくん?ほっしー?は歩き出す。その背中に手を振って、俺はもう一度空を見上げる。
……
うん、やっぱ、ここ、一回ゆりっぺと来ようかな。都会で見れるなんて思えないくらい、キレイな星空だから。
次にあの子に会う時、あの子はどんな顔をしてるだろう。せめてもうちょっと、明るい顔してたらいいな。悲しそうな顔、しなくなってたらいいな。何を抱えてるのか分かんないから、勝手なこと言えないけど。俺で手助け出来るなら、と一瞬思って、でも何となく、あの子に断られる気がした。多分。話を聞いてあげることくらいしか、きっと出来ない。何も知らない俺だから、ぽろっと出た言葉もあるだろうしなー。うーん。
……
考えてても仕方ない。俺も帰るか、と思って立ち上がって。
……
あ。
「ぶんちゃん帰り道ナビして
……
」
『どつくぞお前』
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