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AmexAmexxx
2016-03-11 00:38:00
3837文字
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WED予告編/柳川 恭の場合
「おはようございます!」
「お早う御座います、恭くん。今日も一日頑張りましょうね」
「はい!」
姫氏原家の朝は早い。俺も大概朝早い方だと思うんだけど、ここはもっと早かった。朝4時起床、そっから道場の掃除をして、朝ごはんの用意を手伝って、朝ごはん食べて、一日中鍛練。3日目、既にあちこち筋肉痛で身体が辛い
……
辛い
……
。
永鳥さんは華道のおうちの家元にして剣道の師範というよく分からない人で、しかもその上でお偉いさんのボディーガードをすることもあるってこの人超人かと思うレベルだ。いや『ヒーロー』なんだけど。物腰はすごい柔らかいし線も細いのに、と思うけれど、木刀持ったら雰囲気変わる。すっげえ怖い。話を聞いたら律さんと同い年らしくて、
……
何だろう、あの年齢の人って皆怖いの?
鍛練の内容も素振りとか剣道の型とかをひたすら教えてもらったり、かと思えば精神統一の練習とかで座禅したり。永鳥さんは結構忙しいので、代わりに永鳥さんの妹さんの柚彩さんや弟子の人が俺のことを見てくれる。慣れないことばっかだし陸上とは勝手が違うし、多分使ってる筋肉も全然違うみたいで、
……
キツイ。キツイんだけど、こういうの嫌いじゃない俺としてはまだいける、とも思う。それにまだ3日目だし、序の口っていうか。これくらいじゃまだまだだ。
俺の目標は。俺の、夢は。律さんの相棒になることは。もっと、厳しいことだ。もっと頑張らなきゃ。もっと、戦えるようにならなきゃ。律さんを頼らなくても済むくらいには。
――
あの人を守れるくらいには、と思うには、少し目標が高すぎるだろうか。
「おはよー恭くん
……
今日も一日私が面倒見ることになったんでー、よろしくー
……
」
「おはようございまーす柚彩さん!よろしくお願いするっす!」
「朝からうるっさいなあ
……
」
あくびひとつ。寝癖でぼさぼさの髪にめんどくさそうな女の人
――
姫氏原 柚彩さん。ここに来てからというもの俺の面倒を見てくれているのは大体この人だ。ものすごくやる気なさそうだけど、それでもこの人、すごい。俺の方見ずにあくびしながら片手で俺の打ち込みを受けるとかいうよく分からないことをする。いくら俺が剣道初心者とはいえちょっといやかなり凹む
……
。
一撃でも食らわせられるようにならないと、全然出来てないんだろうなあ、とは思う。受け止められるにしたって、せめて見てもらえるくらいにはならないと。当面の目標は、そこだ。
今日も、一日が始まる。
+++
「
……
つかれた」
「恭くん邪魔ー」
「あいで」
夕方。というかもう夜。
稽古終了の声と共にその場にへたりこんだ瞬間、柚彩さんに竹刀で頭を叩かれた。痛い。ひどい。さっきまで死ぬほど人のことしごいてたのにまだ叩くか。ひどい。
体力には自信がある方だけれど、本当に慣れないことだし、疲労感はハンパじゃない。無駄なところに力が入ってたりするんだろうなあ、と思う。余裕が持てれば、ていうか余分な力が抜ければ、もうちょっと楽になると思うんだけど。まあこういうのはやって慣れるしかない。
「頑張れ柳川!また明日なー」
「がんばるー
……
またあしたー
……
」
あれこれかついで元気に帰っていく中学生を見て、溜め息。年下だけれど俺より先輩で更には俺より遥かに強いあの中学生、こわい。すっげえ声出してすっげえ打ち込んでくる。一発も入らないし。勝てるようになるのかどうか結構不安だ。
……
俺って本当に、戦い方知らないんだなあ、って、しみじみ。
どうしたらいいんだろう。気ばかり焦る。
……
気になることがいっぱいあり過ぎるんだ。焦ったってすぐに強くなれる訳ないのに。
「恭くんには集中力が欠けている」
「柚彩さん」
「短期の集中は出来るけど長期の集中が出来てない。すーぐ集中が切れて違うこと考えて隙まみれ。打ち込まれまくり。剣先ぶれぶれ」
「あう」
「兄貴が帰ってくるまで座禅してなー。晩御飯はその後ね」
「ハイ」
すぱるたこわい。ていうか永鳥さんていつ帰ってくるの。いつまで座禅すればいいの。こわい。早く帰ってきてくれることを願おう
……
おなかすいた
……
。
柚彩さんの指摘はいつも、何ひとつ間違ってない。その通りだ。言い返せないのは悔しいけれど、俺の駄目なところをちゃんと指摘してくれるのはありがたい。
……
頑張らなきゃ。
――
今頃、皆は何をしているんだろう。
律さんはアメリカで『仕事』してるって桜ちゃんが言っていた。いつ頃帰ってくるんだろうか。ゆりっぺにはここに来る前にちょっとだけ話した。頑張ってね、って送り出してくれたゆりっぺは笑顔だった。
……
良かった、笑ってくれて。小夜ちゃんは目が覚めただろうか。大丈夫なんだろうか。心配だ。ひびちゃんは
……
どうしてるんだろうか。分からない。考えるとちくり、と胸が痛むのは、やっぱりショックなんだと思う。ひびちゃんに殺されかけたのが
……
、いや実際死んだんだけど。
そして
――
松崎先輩。
松崎先輩は、まだ無事だろうか。ちゃんと生きてるだろうか。すごく、怖い。殺されに行くのだと言ったあのひとは、何を考えているんだろう。何を知っているんだろう。
……
本当に、ぶんちゃんがありとあらゆる手段を使って探してくれているのだけれど、ちっとも見つからない。完全に行方不明だ。ゆりっぺはこのことに気付いただろうか。俺は、ゆりっぺに、何も言えなかった。
何ていうか、気分がすごい重たい。
……
律さんに松崎先輩の話をした方が良かった気がするんだけど、アメリカに居るんじゃなあ
……
。それに俺は今相棒審査中の身で、律さんは何も手助けしないって言ってたし。いやでもこれは松崎先輩のことだし、俺に手を貸すのとは話が違うし。
俺がすることは。俺に、出来ることは。
考えても考えても、全然分からないままだ。今のままじゃ何に手を出してもきっとどうすることも出来ない。最悪また殺されるだけで。
強く、なりたい。
……
ちゃんと、本職『ヒーロー』になれる人間に、俺は、なりたいんだ。
「頑張ってるね、恭くん」
「あ!?永鳥さんおかえりなさっ、
……
っ!」
「
……
おや。足が痺れたかな?」
「ぎゃー!?」
「ふふ、面白いね」
「俺は面白くないっす
……
!」
痺れた足をつつかれて転げた俺を見て、永鳥さんは笑う。俺は全く、いやもう本当に全く笑えない。道場の床で転げ回る俺の隣に正座して、永鳥さんはぱん、と手を叩いた。
「転げているところ申し訳ないけれど、夕餉の前に手合せ願えるかな」
「てあわ
……
せ?」
「君には取り敢えず柚葉から剣道の基礎を叩き込ませているけれど、君が学びに来たのは『ヒーロー』としての戦い方であって剣道というものは飽く迄も手段でしかない。そして私は時間がある時しか君を相手出来ないからね、そろそろ一旦君の実力をきちんと見ておきたいのだけれど、良いかな」
「あ、あし
……
しびれ、治ってからでもいいすか
……
」
「それは勿論」
「ぎゃー!?」
これ、絶対、イジメだと、思います。
永鳥さんは笑うだけだし。絶対面白がってるこのひと!どえす!
――
まあ、ごろごろ転がってる間にしびれも落ち着いて。
道場の真ん中で、永鳥さんと向かい合う。俺の手には竹刀、永鳥さんは手ぶらだ。ハンデ
……
なのかな。竹刀持たされても俺これちゃんと使えるんだろうか
……
?まあでも剣道にこだわらなくていいんだったら、リーチの長さは武器になる、と思っていいのかもしれない。
でもこんなの、多分、間違いなく、何のハンデにもならない。永鳥さんを相手にする、というのは、ある意味で律さんを相手にするようなもんで。
永鳥さんはにこにこしている。にこにこしているけれど、何だろう。背中がじっとりする。怖い。
怖がっても仕方ない。これは練習試合みたいなもんだ。本気じゃない。怪我をすることはあっても死ぬ訳じゃない。落ち着け、俺。落ち着いて
――
本気で、戦え。
深呼吸。一瞬の間を置いて、突っ込む。永鳥さんは動かない。竹刀を振り上げる
――
と見せかけてそのまま足払いをかけてみるけれど、ゆっくりとした動作で避けられた。それくらいは予想出来る。そのまま竹刀を横に薙いで、その次の瞬間。
「う、お
……
っ!?」
「遅くはないけれど、甘いのかな。太刀筋に迷いがないことは褒めるべき点ではあるけれど」
「
……
ッ!」
「その反撃は遅い」
「っ、は
……
!?」
何が起きたのか分からない。けれどこの一瞬で、俺が持っていた竹刀の所有権は永鳥さんに移っていて、直後容赦なく鳩尾を突かれて俺は吹っ飛んだ。道場の壁に強かに背中を打ちつけて、息が止まる。
何今の。アレか、シンケンシラハドリ!的な?何が起きた?混乱する俺の前に、本当に鼻先すれすれに、永鳥さんは竹刀を突きつける。
「今此処が戦場なら、恭くんは死んでいるね」
「
……
えと」
「私が今持っているのが真剣ならば、今此処で君の首を薙いで殺せるということだよ」
「
……
スイマセン」
「謝ることはない」
にこり、と永鳥さんは笑う。その笑顔は優しいけれど
――
怖い。優しい声で、永鳥さんは冷たい現実を、俺に突きつける。
「それで今迄良く茅嶋嫡男の隣に居られたね。生きているのが不思議なくらいだと私は思うのだけれど。
――
此処で諦めた方が、君の為じゃあないかな」
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