AmexAmexxx
2016-02-23 22:37:53
2904文字
Public OcculTrigger
 

WED予告編/茅嶋 律の場合


……あーもういい加減にこの状況どうしようかなあ……

 溜め息ひとつ、ぼやく他にやることがない。指先一本動かせないように拘束されている今の状況で俺に何が出来るというのか。全身傷だらけだしぼろぼろだし、……ああもう勘弁して欲しい……何でこんなことになってるんだ……
 現在俺が居るのは、アメリカ、ロサンゼルス――だと思う。
 『仕事』でアメリカに渡って最初にやることが「オッケーリツ、じゃあ捕まってきて貰ってもいい?」ってもう一体どういうことなのかな、とこの場に居ない今回の『仕事』の相棒である『化生』、吸血鬼アレクサンダー=F=ハートフィールドのいい笑顔を思い出す。……いやもうこのまま此処に居ると殺されかねないんだけどなあ。
 今回の『仕事』の概要としては、ロサンゼルスで『ネクロマンサー』と『ディアボロス』が勢力争いを繰り広げていて、それがもう一般にも被害を及ぼすレベルになってしまっていて、まあ喧嘩両成敗ということでどちらにもご退場願おう、というものだ。……聞いた時から本当に嫌な予感しかなかった、下手すれば死ぬ、とは思った。けれど今の俺には『仕事』を選んでいる余裕なんてない、どころかなるべく積極的にキツイ『仕事』を受けて自分の力を磨く必要がある。だから受けた――受けた、けど!
 ドジを踏んだフリをしてわざと捕まった先は『ネクロマンサー』、メイナード=グルーバーの側。自分を倒そうと現れた『ウィザード』、つまり俺を捕まえたメイナードは、俺を殺すのではなく戦力増強の為に『ネクロマンサー』に堕とそうと画策、拷問を開始した。ちなみにそれは狙い通りだ。多分今日でもう3日目。
 ……いやそれにしたって本当に、俺何で捕まってるんだろうか。ちょっと死にそうなんだけど……心折れそうなんですけど……
 外側からいくら調べてもメイナードについている戦力も、そして敵対している『ディアボロス』ジェイク=リンドバーグ側についている戦力も、イマイチ把握出来ない――という理由からこうなってはいることは理解しているんだけど。なるべく一掃してしまいたい、となると戦力をきちんと把握していなければ不慮の事態が起きる可能性が排除出来ない。誰が逃げ出しても分からない。だから内偵するしかない、ということになったのだけれど、……でもこれ内偵にならなくないか?ここに連れてこられてからメイナード以外に会ってないんだけど、俺。
 度重なる拷問に体は既に悲鳴を上げている。大概痛い目には遭ってきたと思うんだけど、これはまた話が別だ。あちこち切り刻まれるわ骨折られるわ火傷負わせられるわ窒息させられかけるわ死にかけたら一旦傷を全部治療されてまたイチからやられるわ。……いや本当に心折れる。いっそ死にたい。何なんだこの『仕事』……
 勿論俺に被虐趣味なんてものはないし、けれどメイナードには完全に加虐趣味があると見ていい。ああもう、アレクは一体何をしているんだろう。さっさとどうにかして欲しい。俺の心が折れていないのは奇跡だと思って欲しいレベルだ。いや本当に。
 かつん、かつん、と足音が聞こえて、無意識に体が強張る。植え付けられた恐怖、というのは本当に厄介だ。俺の意思なんて関係ないんだから。

「お目覚めかな、ユウジ」
……ドーモ」

 ユウジ――悠時。とっさに口をついて出た俺の偽名は幼馴染みの名前だ。白石 悠時。ごめん悠時、勝手に名前借りました。今俺は『茅嶋』の人間だとバレる訳にはいかないのだ。警戒されるどころじゃ済まない――『茅嶋』の名はこの世界では有名なのだ。まあ基本的に母が、なのだけれど。俺はまだまだ駆け出しのレベルでしかないから『茅嶋 雪乃には息子がいる』程度にしか知られていない。有名人じゃなくて良かった。それなりに頭の良い『あちら側』であれば、死にたくなければ『茅嶋 雪乃』には手を出さないし喧嘩を売るようなことはしない――そんなことをするくらいなら一目散に逃げていく。そして今回は万が一逃げられると非常に困る。『仕事』にならない。
 現れたメイナードの手には幾本ものダガーが握られている。それだけでこれから起こることが大体想像出来てしまう。……いやもう本当に勘弁して欲しい。ギブアップしてもいいかなあ……。指先一本動かせないとはいえ喋ることは出来る今、『魔術』を使う方法はないことはないのだ。解放して貰わないとそろそろ右手が痛くなってくる気がするし。……いや右手の傷より痛い目には遭わされているけれども。
 あーあ。アレクはちゃんと『仕事』してくれてるだろうか。それが心配だ。アレクが『仕事』をしていないと俺がこんな目に遭っている意味が無いんだから。

「ユウジは強情だな。早く『こっち』に来れば、もう痛い思いをすることはないっていうのに」
……『そっち』に堕ちるくらいならこの場で舌噛みきって死んでやるっつってんじゃん」
「イイ目をするなあ。ああ、本当に殺してしまうには惜しい人材だ。いやいっそ殺して手に入れてしまうのもアリだろうか……悩ましい」

 悩むな。殺してくれるな。頼むから。
 まあ本当に、自分に酔いまくっているらしいメイナードには非常に悪いのだけれど、俺に死ぬ気なんてさらっさらないし、『迎え』を待っているだけだ。『迎え』が来たらこんな奴ぶちのめしてやる。やられた分徹底的にやってやる。殲滅戦だ。こんな奴の仲間は一人残らずとっ捕まえて刑務所行きだ。ああもう、本当に腹が立つ。
 俺の心中なんて知ったこっちゃないメイナードは、やたらニヤニヤしながらダガーを鞘から引き抜いた。そしてそのダガーは無造作に壁に突き立てられる――俺の首の薄皮を裂いて。それが、二度。首を刃で挟まれる形だ。少しでも動けば切れる。……悪趣味だなあ。これから俺をたっぷり甚振るつもりの癖に、動くと死ぬように仕向けるか。

「さあユウジ。『こちら』に来て私の味方になると言え」
「お断りだって言ってる……、ッ!」
「本当に強情だな君は」

 躊躇なく振るわれた刃は、俺の体を切り裂く。大怪我にはならない。軽く皮が裂けて血が滲む程度のものだ。けれどだからこそ、キツイ。これが延々と続いて、そして最終的にざっくりやられる訳だ。……これ今日は間違いなく首がズタボロになるな。最悪だ。
 あー……家に帰りたい。泣き言言ってる場合でもないけど……

「君は私の味方になるべくして此処に来た。そうとしか考えられない。此処に君がいるのがその証拠だ。さあ堕ちるんだ、『こっち』に来るんだ」
……あーマジ変態気持ち悪いな……大概変人見てきてるけどほんっと慣れないな……
……?ぶつぶつ何を言っている?」
「おっと。別に」

 つい日本語で愚痴ってしまった。いやそりゃ愚痴も出るよこの状況じゃ。
 刃が振るわれる度にあちこちに傷が出来て、どろりと血が溢れ出る。痛みに身動げば首に刃が食い込んで、頸動脈が切れたら洒落にならないから必死で堪えることしか出来ない。笑いながら傷口を抉るように刃を滑らせるメイナードは本当に悪趣味だ。