AmexAmexxx
2015-12-24 23:37:15
6062文字
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For You


 クリスマス・イヴだ。

……暇だ」

 ぽつり。口から漏れたのは本音。バーテンのバイトを始めてからというものクリスマスというのはかき入れ時なもので、大体めちゃくちゃ忙しくて気がついたらクリスマスが終わっている、というのがいつもの日常だった。ていうかクリスマスにかこつけてお客さんに告白されたり口説かれたりほんっとクリスマスってめんどくさいなと思いながら働いていた。
 今年は何もない。……そりゃまあ、右手の怪我をきっかけにバーテン辞めたし、本当に久し振りにクリスマスに家に居るのだけれど。やることがない。暇だから腕によりをかけてクリスマスディナーを!と言いたいところだけれど、この右手じゃまだ料理をするのは難しい。……暇だなあ。どうしようかなあ。
 ベッドの上でごろごろ。駄目だ、このまま二度寝してしまう。そんな過ごし方をしていいものか。かといって俺は一人で出掛けるのが現在禁止されている。この間黙って墓参りに一人で出掛けたのがバレてその後椿くんにこっぴどく怒られた。14歳に本気で怒られる25歳。情けない感満載。でも俺は元来一人っ子なもので、一人で出掛けるの平気だし普通だし、寧ろ一人で出掛けたい……。椿くんは心配し過ぎだ。まあ、『何かあったら』っていう椿くんの心配は間違ってはいないのだけれど。俺も逆の立場なら心配する。
 せっかくクリスマスだし、何かしたいよなあ。そういえば、椿くんと桜ちゃんの2人と過ごすクリスマスって初めてだ。年始は実家に帰るけど、クリスマスとかそういうイベントに帰ったことはない。ていうか仕事してるし……。せっかくだから、何かしたい。でも料理出来ないし。うーん。プレゼントくらいはしてあげたいよなあ。一人で出掛けられないとなると。……いや、ちょっと待てよ。恭くん誘えばいいか。椿くんと桜ちゃんもだけど、恭くんも終業式だったんじゃないっけ。それなら昼から出掛けられる。
 よし。そうと決まれば。『昼から出掛けたいから付き合って』とだけメールを入れて。……さて、帰ってくるまでやることがない。あー。何しようかな。プレゼント何にするか考えないと、か。どうしようかなー。
 ごろごろ転がりながら考えていると、音を立てる携帯。開けば、恭くんから『もうすぐ帰るっす!どこ行くんすかー?』と返事が返ってきていた。どこ。……どこ行こう。うーん。ていうか中学生って何あげたら喜ぶんだろう……。俺中学生の頃何貰ったかな、と思ったけど、よく考えなくても楽譜とか買って貰ってたんだった。恭くんにも相談してみようか。歳も近いし、恭くんの方が詳しいかもしれない。『椿くんと桜ちゃんにプレゼント買いに』だけ返事を返すと、速攻で『すぐ帰るっす!』って返ってきた。恭くんのすぐ帰る、は本当にすぐ帰ってきそうだ。
 さてどうしようか、と悩むこと数十分。廊下をバタバタ走ってくる音。

「りっちゃんさん!」
「廊下を走るなクソガキ」
「だって!お買い物!つばっちと桜っち帰ってくる前に出ないと!」
……そういや2人遅いね?」

 中学生だし恭くんよりうちから学校近いし、帰ってくるの早そうなんだけど。言った瞬間に恭くんが「あ、やべ」みたいな顔をしたから、それで合点する。……3人、俺にナイショで何か企画してるな?ここは大人として気付かない振りをしておくべきだろうか。明らかに挙動不審だけど。恭くんが。

「どっか寄り道とか!してるんすかね!ほらクリスマスだし!」

 墓穴掘ってるよ。
 ツッコミ入れたい。我慢。我慢だ俺。

「中学生ってさー、何プレゼント貰ったら喜ぶんだろ?恭くん中学生の頃何欲しかった?」
「俺っすか?中学生かー……携帯欲しかったっすけどねえ」
「2人ともガラケー持ってるよ」
「何でスマホじゃないんすかそういや」
「高校生になったらスマホにするってお父様が言ってた」
「へえー。……中学生かー。うーん」
「ちなみに恭くんは何貰ってた?」
「俺は靴っすね。ランニングシューズ」

 普通に言われた。……そうか、この子昔から陸上馬鹿だった。そりゃシューズだよなあ……
 アクセサリーとかあげるには、中学生はまだ幼いかな、と思ってしまう。というか、中学生が持ちそうなアクセサリーが俺には分からない。どうにもこうにもだ。

「2人ペアのものとかあげればいいんじゃないっすか?」
「ペア?」
「お揃いであげたらあの2人喜びそうじゃないっすか。つばっちは桜っち大好きだし、桜っちはつばっち大好きだし、嫌がらないと思うんすよね」
「ペアなー……

 定番は指輪だけど。とかついつい思ってしまうけど、中学生の兄妹にペアリングプレゼントしてどうする。うーん。実用的なものの方が良いかな。どうしようか。

……あ。時計とか?」
「お、いいかもしんないっすね。結構あったら便利っす」
「いいペアウォッチあるかなー、ていうかクリスマス商戦まっただ中に買いに行くのか……
「何でもうちょっと早く思いつかないんすか」
「そもそも今日クリスマスイヴだって気づいたの朝だもん」
「世の中こんなにクリスマスなのに!?……あ、りっちゃんさん外に出てなかった」

 クリスマスムードな街中を満喫してない。そもそもクリスマスだから何かしようって考えるのが久し振りだ。それは仕方ないと思って欲しい。
 まあ、そうと決まれば、だ。……時計屋か。何処にあったかな。

「中学生にあげる時計ってどれくらいなの、値段」
「そこからっすか!?」
「俺の時計あげてもいいけど」
「お値段三桁万円の時計を中学生にあげるのは絶対ダメっす」

 真顔で言われた。まあ、そうだよなあ……。かと言って、次にいつ出来るか分からないクリスマスで数千円で済ますのもなあ。2、3万くらいで何かあればいいんだけど。ああだこうだ言いながらぶんちゃんに時計屋を探して貰って、俺達は買い物に出たのだった。



+++



「メリークリスマース!」

 その夜。茅嶋家にてクリスマスパーティー開催。
 とはいえこじんまりしたものだ。別に誰かを呼ぶ訳でもないし、家族と使用人としてうちで働いてくれている人たちと、そして恭くんと。使用人の人たちが全員揃って腕によりをかけてくれて、クリスマスディナーは結構豪華だった。鳥尽くし。食べきれるのかこれ、ってレベル。
 シャンパンと洒落こみたいところではあったのだけれど、俺は鹿屋先生に「状態がもうちょっと安定するまでは駄目」とアルコールは止められているもので、恭くんたちと一緒にシャンメリーを開けた。雰囲気的にはそれでも充分楽しいから、全然いいんだけど。
 一緒にごはん食べて、ケーキ食べて、そして父が何故か張り切ってビンゴ大会を開催し始めて、何ていうか凄かった。景品に洗濯機とかあって使用人の人たちがすごい目を輝かせてた。よく分からない大盤振る舞いだ。
 椿くんも桜ちゃんもすごく楽しそうにしていて、なんだか気持ちがほっこりする。……ああ、ちゃんと『家族』なんだなあ、なんて、少し思う。俺がうちに連れてきたのに、一緒に居ることは少なかったから、ずっと心配していたんだけど。心配するまでもなく、椿くんも桜ちゃんもうちの家族になっている。それはきっと祖母だったり父だったり、そして使用人の人たちがちゃんと2人を可愛がってくれている証拠なんだろうと思う。良かった。

「あ、椿くん、桜ちゃん」
「はい?何でしょう」
「何ですか?律兄様」
「これ。俺から2人にクリスマスプレゼント」

 きょとんとする2人の前に、それぞれ箱を差し出す。顔を見合わせた2人は、けれどすぐにぱっと表情を輝かせてくれて。受け取ってそわそわしながら箱を眺める2人が面白い。開けていいよ、と声を掛けると、椿くんはちょっと遠慮がちに、桜ちゃんは目を輝かせて、プレゼントの箱を開けた。
 散々悩んだのだけれど、結局服が何でも合いそうで、何処でもつけていけそうなシンプルなデザインのペアウォッチにした。椿くんは黒の、桜ちゃんは白の。何個か候補はあったのだけれど、恭くんに「お願いだから値段も見て下さいっす……」と切実に言われ、まあ、中学生が持つには良さそうな値段のもので落ち着いた。椿くんはこれから父の手伝いで連れて行かれることもあるだろうし、そういうのも考えて、つけていて恥ずかしくないもの、ではあると思う。

「わあ……!ありがとうございます!椿兄様とお揃い……!」
「どういたしまして。2人に気に入ってもらえるといいんだけど」
「気に入らないわけないじゃないですか!有難う御座います。大事にします」
「うん。ま、良かったら使って」

 2人の顔がきらきらしていて、お礼を言われるより何よりそれが嬉しい。本当に喜んでくれてるんだな、っていうのが良く分かる。思い立ってみるものだなあ。一緒に選んでくれた恭くんにも後でちゃんとお礼を言おう。……まああの子にはあの子で別にクリスマスプレゼントを買ってあるんだけど、それはまだナイショだ。
 そんなこんなで夜も更け、クリスマスパーティーはお開きになり。急に恭くんがそわそわし始めた。……何だ?

「りっちゃんさん!」
……何」
「早く寝ないとサンタさん来ないっすよ!」
「いい歳してサンタ来るとか信じてませんけど」
「これだから大人は」
「大人に言うのがそのセリフってどうなのそもそも」

 サンタ来ないって言われても別に、それで早く寝る訳ないだろうとツッコミたい。恭くんはちょっとおろおろしている。……ああ、と思ってちらりと気づかれないように横目で椿くんと桜ちゃんを窺えば、2人もちょっとそわそわしていた。成程。……しかし2人に言っておきたい。共謀する相手に恭くんを選ぶのは間違っている。
 アルコールが入っていれば酔ってきたし寝るよ、って言ってあげられるんだけど、うーん。どうしようかな。気付かない振りを通してあげたいのは山々なんだけれど、何せ恭くんがヘタクソ過ぎる。いや、俺は何も気付いてない。多分。きっと。そういうことにしてあげたい。

……まあ、久し振りにちょっと外出て疲れたし、早めに寝ようかな」
「寝ましょう!そうしましょう!」

 目を輝かせるんじゃないよ高校生。
 そんなこんなでほぼ強制された状態で部屋に戻ってきた俺は、ベッドの上に寝転がって考える。……本当に寝るべきか。いや、そもそもだ。そもそもの問題として、俺は基本的に眠りが浅いから、寝てる時に部屋に誰かが入ってくると目が覚める。いい加減恭くんの気配には身体が慣れたのか何なのか、そんなに目も覚めなくなったけど。でももし椿くんか桜ちゃんが入ってきたら気付くと思うんだよな……。どうなんだろう……
 まあ、何にしろ。寝たフリをしてあげよう。それが大人の気遣いというものだ。多分。
 
 ――という訳で、早々に布団に潜り込んで、部屋の電気を消す。俺の寝付きがそんなに良くないことは恭くんは勿論椿くんも桜ちゃんも分かっている。多分入ってくるとしても結構時間を置いてからだろう。眠くなるだろうか、とちょっと心配になったものの、最近あまり外を出歩かないし、クリスマスで人も多かったのもあって、自分が思っていたより本当に疲れていたらしい。気がついたら夢の世界に引き摺り込まれていた。
 どれくらい経ったのだろうか。がちゃり、と扉が開く音でふっと意識が覚醒する。一瞬起きないと、と思ってしまって、すぐに思い出してやめる。寝たフリ、寝たフリ。ちょうど扉に背を向ける体勢で眠っていたのもあって、起きたことには気付かれていない、と思う。

……どう?桜。律さん、寝てる?」
「大丈夫……だと思う」
「静かにね、そーっとだよ」
「うんっ……

 ……ごめんね、全部聞こえてます。とは思いつつ、ぐっと我慢。そーっと部屋の中に入ってくる足音。会話の内容からして、多分桜ちゃんだろう。部屋暗いけど、大丈夫かな。なんてちょっと心配してしまう。かと言って電気点けていいよ、とは言えないこのもどかしさ……
 こと、と、何かが置かれる音がした。多分サイドテーブルの上だと思う。ちょっとの間静寂があって、今度は足音が遠ざかっていく。

……大丈夫?」
「大丈夫、たぶん……
「じゃあ部屋に戻ろうか」
「うん。……律兄様、喜んでくれるといいな」
「喜んでくれるよ、きっと」

 こそこそ、2人の話し声。ややあってがちゃりと扉が閉まって、足音が遠ざかっていく。それを確認してから、俺は身体を起こした。……うーん。電気点けないと何も見えない。
 サイドテーブルの上のライトを点けると、テーブルの上に置かれていたのは『Merry Christmas』と書かれたカードが挟まれた、白い箱だった。……2人で俺のサンタさん、って訳だ。今日帰りが遅かったのは、これを買いに行っていたからか。別に俺にプレゼントなんてしなくてもいいのに。2人ともお小遣いなんだし、自分の為に使っていいのになあ。それでも、こうやって俺にプレゼントを買おうと思ってくれた気持ちは、やっぱりすごく嬉しい。
 いそいそと箱を開けてみる。中から出てきたのは。

……手袋」

 右手を怪我して。人前に晒せる状態ではないから、何か手袋でも買わないといけないね――なんて話は、確かにしていたのだけれど、それは2人とではなくて、恭くんとで。多分恭くんが2人にその話をして、2人は俺に手袋を買うことに決めたんだろう。黒のレザーの手袋はしっかりとした作りのもので、……ああ、もう。お小遣い何ヶ月分使ってるんだか、あの2人。祖母はあの2人にそんなに多くのお小遣いはあげていない筈だ。普通の中学生らしい額しか、多分貰ってない筈だから……2人合わせても結構だと思うんだけど。全く、もう。
 そっと手に嵌めてみると、びっくりするくらいしっくり来た。これならスーツを着ても嵌められるし、カジュアルな服装でも別に大丈夫だろう。2人でああだこうだ悩みながら選んでくれたんだろうなあ、と思うと、あったかい気持ちになる。
 ――ああ、本当に。俺はいい『家族』に恵まれたなあ。
 自然に顔が綻んで。そして俺は、渡し損ねたままのもう一人へのクリスマスプレゼントのことを、思い出す。……しまった。仕方ない。俺もサンタさんをするしかないだろう。恭くん、朝早いし。夜の間にしてしまわないといけない。

 ――さーてと。椿くんと桜ちゃんはそろそろ部屋にちゃんと戻っただろうか。うっかり俺が起きてることがバレると2人の計画が台無しで申し訳ない。
 時計屋さんで、恭くんにナイショで買ったもうひとつの箱を手に。
 俺は今頃ぐっすり寝ているであろう恭くんの部屋へと向かったのだった。



       Happy Merry Christmas!