AmexAmexxx
2015-02-14 23:34:01
4230文字
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バレンタイン


 憂凛が好きな人。
 柳川 恭くん。
 私立J高陸上部のエース。
 誕生日は4月3日、血液型はO型。
 身長はこの1年でかなり伸びたらしくて、もうすぐ180cmだってこの間言ってたっけ。
 身長が高いから、憂凛と話す時はいっつもちょっと屈んで視線を合わせてくれる。
 体重は知らないなあ。聞いたらきっと教えてくれるだろうけど。
 成績はだいぶ残念。難しい言葉は苦手みたいだし、覚えるのも苦手みたい。
 運動神経はいい―――筈なんだけど、しょっちゅう転んでる。どんくさいのかな。
 誰とでもすぐ仲良くなっちゃうタイプで、なんだかほっとけなくって、気がついたら目で追っちゃうような。
 顔はかっこいい。普通にイケメン。
 人なつっこい笑顔がかわいい。ちょっと犬っぽい。
 『ウィザード』の茅嶋さんのおうちに一緒に住んでる。
 『ヒーロー』で、戦隊モノの赤レンジャーみたいな姿に変身する。

 それが憂凛の知ってる恭ちゃん。
 憂凛が恭ちゃんに出逢ったのは偶然で、たまたま、ゲームセンターで出逢っただけで。
 なぎちゃんの後輩だったから、なぎちゃんの高校の近くに行った時に偶然再会して、それから時々会うようになった。
 好きになったきっかけは、たまたま憂凛と、なぎちゃんと、そして恭ちゃんといる時に、変な『カミサマ』に襲われたとき。
 不意を突かれて襲われた憂凛を、庇ってくれた。

『ゆりっぺは狐さんだから強いかもしんないけど、女の子なんだから守ってあげなきゃって身体が勝手に動いちゃって』

 大怪我を負ってしまって琴葉ちゃんの治療を受けながら、そう言って恭ちゃんは笑ってくれた。
 好きにならない方が無理だと思った。
 恭ちゃんのことが忘れられなくなって、それから会う度、話す度、どんどん大好きになってしまって。

 でも。
 恭ちゃんはきっと誰にでもそうなんだ。
 困ってる人がいたら放っとけない。
 自分より弱い人がいたら守ってあげよう、って思うし、憂凛だから庇ってくれるわけでもない。
 分かってる。
 いくら恭ちゃんに好きだよ!ってアピールしても、全然気付いてくれないおにぶさんだし。

 でも。
 憂凛にとって恭ちゃんは本当に『ヒーロー』なんだ。
 かっこよくて、でも抜けてて、頼りないけど頼れる、不思議な魅力のある男の子。

 大好きな、恭ちゃん。



+++



「恭ちゃーんっ!」
「うおあっ!?」

 2月14日、バレンタインデー。
 今年のバレンタインは土曜日で、たまたま恭ちゃんは中学生の入試の日程と被って学校に登校禁止の日で。
 じゃあ遊びに行こうよ、って一週間言い続けて約束をもぎ取った。
 すぐ皆でどっか行く、って言っちゃう恭ちゃんと二人で出掛けるのは至難の業だ。
 憂凛は二人で出掛けたいのに!乙女心が分かんないんだから!
 でもそんな恭ちゃんも好き!って思っちゃうから駄目なんだろうなあ、きっと

 まあとにかく。
 あの手この手でやっと、ほんっとにやっと、恭ちゃんと2人で出掛ける約束を取り付けて。
 待ち合わせした駅前で、恭ちゃんは憂凛より先に待っててくれていた。
 それが嬉しかったものだから思わず飛びついたら、恭ちゃんはいつものことながら豪快に転んだ。
 いつになったら受け止めてくれるのかなあ

「おまたせしましたっ」
「大丈夫、俺も今来たとこだしー。あ、ゆりっぺ、誕生日オメデト」
「覚えててくれたの!?恭ちゃんが!?」
「えっ何そんな意外?つかゆりっぺ誕生日なのにマジで俺と二人で出掛けていいの?やっぱ今からでも皆で、」
「いいの!憂凛は恭ちゃんと二人でいいの!ほら行こっ」

 呼ばれたらすっごい困る!
 せっかくなぎちゃんとか、知り合いの友達とか、一生懸命言いくるめて恭ちゃんに何言われても14日は予定があることにしといてって頼んだんだから!

 バレンタイン。
 憂凛の誕生日。
 なんにもいらないから、今日は恭ちゃんと一緒に居たかった。
 恭ちゃんが忘れてて、お祝いしてもらえなくてもいいと思ってた。
 おめでと、って言ってもらえただけでこんなにしあわせ。

 デート、って言っても、いつもと何も変わらない。
 よく行くゲーセンで二人で遊んで、お腹が空いたからファーストフードに入ってお昼ごはん食べて。
 次どこ行こっか、なんて話しながら通りがかった雑貨屋さんで、あまりにも可愛くて飛びついた羊のキーホルダーを、恭ちゃんが「じゃあ誕生日プレゼント!」って買ってくれて。

 どうしよう。
 しあわせ過ぎてしんじゃう。

 元々。
 今日、憂凛が恭ちゃんと二人で出かけたかったのは、誕生日なんてどうでもよくて、恭ちゃんにバレンタインのチョコを渡したかったから。
 そして今日こそちゃんと告白する!
 おにぶさんの恭ちゃんにだって分かるように、ちゃんと、好きです、って。
 付き合って下さい、彼女になりたいです、って。
 ちゃんと!告白!する!

 いっつも何したって気付いてくれないんだもん。
 恭ちゃんの友達に『彼女』って誤解されたこといっぱいあるけど、その度恭ちゃん否定しちゃうし。
 恭ちゃんにとって憂凛って友達の一人でしかないんだなって、思うから。
 思ってしまうから。
 だからやっぱり、意識して欲しい。
 こんなに憂凛は恭ちゃんのこと好きなんだよ、って、うん。知って欲しくて。

「ゆりっぺ?」

「おーい、ゆりっぺー」
わっ!?」
「どした?ぼーっとしてる」
「なっ、なんでもないよっ、なんでもないっ」
「?」

 いけないいけない。
 急に恭ちゃんに顔を覗きこまれて、だいぶびっくりしてしまった。

 しっかりしなくっちゃ!
 カバンの中には買ったバレンタインのチョコ。
 これ渡して告白!
 それが今日の憂凛のミッション!

 そんな思いとは無関係に。
 雑貨屋さんに寄ったのもあって、恭ちゃんと二人で色んなお店を見て回る。
 可愛いものがいっぱいでつらい。全部欲しい。ううでも恭ちゃんといるから我慢
 さすがにいっぱい買って恭ちゃんに持って貰うの、気が引けるし。なぎちゃんならいいけど。

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまって。
 あっという間に真っ暗。
 今日はパパがケーキ作ってくれてるから、恭ちゃんと出掛けてもいいけど晩御飯には帰ってきなさい、ってママに言われたし、それは恭ちゃんも知っている。 
 うう晩御飯、恭ちゃんも誘っていいかな

「お、こんな時間かー。ゆりっぺそろそろ帰らないとだよな、送ってく」
「ほんと?」
「うん、当たり前じゃん」
恭ちゃん、良かったらうちで晩御飯一緒に食べてかない?」
「あー、ううん。今日晩飯食わずに帰るっつってるからりっちゃんさん多分晩飯用意してくれてると思うしごめん」
そっか、そうだね」

 さすがにそこまでは無理かあ。
 最初から約束してたならともかく、恭ちゃんは茅嶋さんにお世話になってる身だし。
 せっかく茅嶋さんが晩御飯用意してくれてるなら食べなきゃだよねうう。
 もっと早くそのつもりで誘っとくんだった

 二人で歩く帰り道。
 いつもと変わらない他愛のない話。
 恭ちゃんの部活の話だったり、憂凛が喫茶店のお手伝いしてる時に来た変なお客さんの話だったり、共通の友達の話だったり。
 いつもと変わらないけど。
 でも、憂凛の誕生日の、大事な、一日。

 ―――
 言わなくっちゃ。
 チョコ渡して。
 ちゃんと、告白しなきゃ。

「恭ちゃんっ」
「ん?」
「あのね、これ
「?」

 カバンからごそごそ取り出したチョコレート。
 綺麗にラッピングされたそれは手作りじゃない、市販のもの。
 憂凛たちみたいな存在は、想いを込めて手作りのものを作るのは危ないから、って、知り合いのおにーさんに言われて。
 すっごくすっごく悩んで、恭ちゃんにあげたい、って思ったもの。

「バレンタインのチョコレート!」
「えっくれんの!?」
「あげるよう!当たり前でしょ!」
「マジで!さんきゅーゆりっぺ!超嬉しい!」

 チョコレートを受け取って、本当に嬉しそうに恭ちゃんは笑ってくれる。
 どきどきする、なあ。
 大好き。
 そうやって嘘も何もなく笑って喜んでくれる恭ちゃんが大好き。

 だから。
 だから。

「っ

 ―――言葉は何も、出てこなかった。

 告白するって決めてたのに。
 言うんだ、って決めてたのに。
 昨日シュミレーションもしたのに。
 なにひとつ言葉が出てこない。

 何でだろう。
 急に怖くなっちゃった。
 きっと、多分、恭ちゃんのことが好きだから。
 好きだって言っちゃったら、恭ちゃんに憂凛の気持ちが伝わっちゃったら。
 恭ちゃんはどんな顔をするだろう?
 恭ちゃんは何を思うんだろう?

 ごめんなさいって言われるのは怖い。
 友達だとしか思えないって言われるのは怖い。
 そして何よりそれ以上に。
 今、憂凛が告白して、恭ちゃんにごめんなさいされて、そうして恭ちゃんが離れていってしまうかもしれない、って。
 それが、怖い。

 そんなこと考えてもなかったのに。
 なんでいま。
 いざ告白しよう!って時に、そんなこと、考えちゃうんだろう。

えと、それ、すっごく美味しいチョコレートなんだよー!しっかり味わって食べてねっ」
「へー、超楽しみ!家でゆっくり食べるな。ありがとゆりっぺ、来月ちゃんとお返しする!」
「いいよーお返しなんて。憂凛も今日キーホルダー買ってもらっちゃったし」
「それは誕生日プレゼント!」

 もうちょっと。
 もうちょっと、心の準備が出来てからでも、いいかな。
 今はまだこうして恭ちゃんと笑ってたい。
 こうして一緒に過ごしていたい。

 恭ちゃんに好きになって貰えるように頑張るから。
 もし告白して玉砕して、離れちゃうかもしれないって思っても、それでもいいって思えるくらい精一杯頑張れる日が来たら。
 その時、ちゃんと告白しよう。
 今の憂凛じゃ、駄目だ。

 笑おう。
 笑って、隠してしまおう。

 2月14日、16歳の誕生日。
 憂凛が、自分の弱さを自覚した日。