AmexAmexxx
2015-01-09 23:00:01
2205文字
Public OcculTrigger
 

とあるロンドンでの密談


珍しい客が来た」
「や、久し振り、ユキノ。相変わらずキレイだね」
「お世辞はいらないよ。何か用?リノ」

 ロンドン郊外。
 そこは普段彼女が―――カヤシマ ユキノ、世界で5本の指に入るなんて言われる『ウィザード』が拠点とする教会。
 当たり前のように、彼女はそこにいた。
 隣のシスター・モニカが俺を見て溜め息を吐いて、ちらりとユキノの表情を窺う。
 いいよ、と呟くように告げて、ユキノは手にしていた書類を閉じた。

「ユキノに依頼を持ってきたよ」
アンタが?そりゃ珍しい、また何で。アンタなら私の助けなんていらないだろ」
「これはユキノに渡さないと困る依頼だからさ。―――ていうか、俺への依頼はユキノのところにこの依頼を持っていくことだし」

 日本を出る前。
 俺の胸倉を掴んで、ものすごく悔しそうな顔をした彼女の表情が過って、自然顔が緩む。
 全くもって。
 それでも俺を頼る彼女は、結局のところ、俺のことが大っ嫌いだけれど、俺のことが大好きなのだ。可愛いコだ。
 俺が知り合った頃からは彼女は随分と変わったけれど、変わってしまったけれど、そういうところは変わらないんだよなあ。
 彼女に自覚があるかどうかは、まあ、別として。

聞こうか」
「けれどユキノ」
「いいんだよ、モニカ。リノは喰えないけど、私に馬鹿な真似をするほど馬鹿じゃないさ」
「ふふ。じゃあ依頼だ。『シンドウ ナナミを無力化して欲しい』」

「意味が分かるかい?日本に帰れって言ってるんだよ」

 というより、帰って貰わないと困る。
 手段は問わない、と言われたけれど、ユキノを動かすには依頼しかないのだ。
 この馬鹿みたいに忙しいのが好きな戦神の『ウィザード』は、戦う為に生きているようなこの女は、『仕事』を何よりも優先する。
 何だかんだ付き合いは30年を超えている。ユキノの性格なんてお見通し。

 馬鹿みたいに息子を溺愛していることも。
 馬鹿みたいに自分を殺そうとするナナミを助ける方法を模索していることも。
 俺はちゃあんと、知っている。

で?その対価にリノは何を払うの?私に」
「ああ、やっぱり対価、いる?」
「当然だろ?依頼なんて口で言うだけなら簡単だ。それに見合う対価がないことには、私は動けないよ。腐っても『茅嶋』当主だ。一個人じゃない」
「体で払うさ」
「は?」
「変な意味じゃなく。ユキノが今抱えている『仕事』、日本に戻るのに障害になるもの、全て俺が引き受けよう」

「ああ勿論、ユキノに迷惑は掛けないよう、悪いことはしないよ?」

 途端。
 じ、っと俺を見たユキノは、盛大に溜め息を吐いて。

………きっもちわっるう」
「ひどくない!?」
「アンタの普段の行いが悪すぎ」
まあ否定はしないけどさ」

 だって面白いじゃないか。
 色んな人が色んな思惑で一生懸命生きて動いているのをぶち壊すのは、とても楽しい。
 一生懸命なものはキラキラしていて、とっても素敵で、だから壊したくなるんだ。

 好きな子程虐めたい。
 多分俺は、そういうタイプ。

 面白くなければ動かない。
 見返りがなければ動かない。
 俺は基本的にずっとそうして生きているし、それは今後も変わらないだろう。
 ―――ああでも、唯一。
 彼女のことに関してだけは、俺らしくないか。

その依頼、例の彼女から?」
「ていうか、ユキノの息子関係だよ。色々あってね」
色々?」
「ついこの間『ネクロマンサー』に堕ちて、連れ戻して、コトハが今面倒見てるんだ」
あっの馬鹿息子
「で、まあ、コトハは色々調べた結果、解決策を提示する為に俺を動かしたってワケ」
アンタを動かすって彼女も大概凄いね」
「そうでもないよ。愛する女の為なら俺は何でもするよ?」

 可愛い顔だって、見せて貰ったし。
 充分だ。
 真面目にユキノの『仕事』を片付けて、充分お釣りが出る。
 それに多分、面白いモノが見れる。
 ユキノとナナミの因縁を俺は知っている―――それを解決するのがユキノの息子とあの高校生なんて、充分楽しい見世物だ。
 本当ならナナミに殺されるだけの結末を、どうやって変えるんだろう。

 こんなに楽しみで。
 わくわくすることは、なかなかない。

奈南美さんの無力化、ね」
「いい加減決着つけないとユキノもまずいだろ?大事な息子を堕とされて黙ってるような女でもないだろうに」
「一発ぶん殴りに帰らなきゃいけないはいけないねえ。アンタに借りを作りたくないけど」
「言っただろ?俺がユキノの『仕事』を引き受けるのは、対価だ」
3つあるけど全部受ける?」
「余裕だね」
「任せた。モニカ、手続きお願い。私は日本に帰る準備するから」
いいんですか、ユキノ」
「彼女が絡んでるなら、リノは信用出来る。万が一余計なことをしたら、充分分かってる筈だしね」

 ユキノの言葉に、俺は笑う。
 分かっている―――カヤシマ ユキノという女は、敵に回したくない。
 まともにやりあうのは、全力の俺でも辛い。
 ニンゲンのクセに。まあ、ニンゲンだから、とも言えるか。

「任せるよ、リノ」

 そう言ってもう一度、溜め息を吐いて。
 ユキノの表情が、『ウィザード』から『母』になる瞬間を、見た。