めやぬら
2024-11-13 20:51:30
3023文字
Public
 

空港

藍良、こはく、一彩、HiMERUの旅行ロケ話(途中)

 じりじり照りつける太陽、絵画のような青空。夏の盛りに蝉が鳴き喚き、身を包む湿気に立っているだけでも汗が首筋を伝う。
 空港の出入り口からの景観をスマホで撮っていた藍良は、少し背伸びしながら眩しさに目を細めてシャッターを切る。空調が効いた中に戻って確認したらやっぱりすこしブレてしまっていた。撮り直しだ。またあの日向のなかに行くのを考えるだけで嫌になる。
 
「あついなぁ……
「ん、ラブはん」
「わー、ありがとォ〜!」
 
 飲み物を買いに行っていたこはくがレモネードのテイクアウト用カップを差し出すと、藍良は待ち望んだように受け取ってストローに口をつけた。きりっと氷で締められた冷たさが喉を通り、蒸された暑さが少し振り解ける。爽やかな甘みを飲みながら、藍良は滲んだ汗を手で拭った。
 
「ヒロくんたちは?」
「手続き中」
「そっかぁ、大丈夫かなぁ」
「HiMERUはんおるから大丈夫やろ」
 
 こはくも藍良と同じくストローに口をつける。二つだけ買ったのだろう、この場にいない今回の仕事仲間の分は無さそうだ。一口飲んで、少しだけきゅっと顔を窄めたこはく。
 
「それなに?」
「なんかよぉ分からん……かぼす?かぼすと日向夏やって」
「初めて聞いた〜、美味しいの?」
「おん、結構酸っぱいけど美味しいで」
 
 レシートを眺めて聞き慣れない果物のジュースをこくこくと飲むこはく。一彩とHiMERUを待つため、空港特有の大きな窓から差し込む日差しからは逃げて、二人は壁際によって自分用のスーツケースに体重を預けた。
 行き交う人の波にはスーツ姿の人もいれば、観光目的か華やかな服を着た人もいる。夏休みシーズンとは言え今日は平日だし、この辺りは小さな子供の娯楽は少ない場所と聞いている。こじんまりした空港は、少し浮つくような雰囲気が漂うに留まっていた。
 こはくは馴染みのない爽やかさを飲み、ぼんやりと景色を眺める。
 
「にしても、まさかこんなことになるとはなぁ。全然思ってなかったわ」
「おれも〜。なんでこのメンバーなんだろうねぇ」
「不思議やわ……他の人らは日程合わんかっただけなんやろか。燐音はんとかおった方が撮れ高的には安定すると思うけど」

 考えれば考えるほど人選が分からない。
 今回は、グランピングの体験と銘打った地方観光のロケだ。少し片田舎の、良く言えば自然豊かな場所で、キャンプ場も併設されているところ。湖があり景色もよく、その界隈では有名な施設らしい。キャンプだけでなく、新たな顧客確保のために新設されたグランピングプランのPRも兼ね、仕事として正式にオファーが来たのだ。
 だが、一彩と藍良が旅行のタイアップ企画経験者として起用されたのは分かるが、こはくとHiMERUは理由の見当がつかなかった。なんなら、HiMERUはアウトドアやアクティブなものよりも室内で優雅に本でも読んでいるようなイメージだ。仕事なら完璧にこなすだろうが、一体何を求められての人選なのだろうか。強いて言うなら、自然の美しさに負けない綺麗な顔だろうか。そんなわけないか、と藍良は自己完結して、レモネードを飲む。

「まぁ、お仕事だってことなら全力でやるけどさ。でも仕事だとしてもこはくっちと旅行できて嬉しいな」
「コッコッコ、わしも楽しみやったよ。IFF以来やしなぁ」
「今回は国内だから気が楽だよォ……前にユニットでフランス行った時も大変だったし」
「楽しそうやったけどなぁ、あの映像」
「えっ、こはくっち見てくれたの?!言ってよ!」

 以前にALKALOIDが携わった旅行企画の映像では、Vlod形式で観光の様子が撮影されていて、和やかな彼らの観光は大変好評だった。何度か見直して、こはくは自分も行ってみたいと思ったり、思わなかったり。
 そんな話をして時間を潰していれば、搭乗出口の方から人影が二人の元へ歩いてくる。

「あっ、来た」
「ごめん、待たせてしまったね」
「ええよ全然。美味いもんも飲めたし」
「それは……先ほどのスタンドのものですね」
「ヒロくんたちも買ってくる?時間、あるか分かんないけど」
「時間は問題ないよ、送迎車が渋滞に嵌って少し遅れているようだからね」
「えっ、そうなの?そんなに混んでるのかな」
「三十分程度の遅れと聞いていますが、交通状況の問題であれば致し方ありません。大人しく待ちましょう」
「せやね。幸いあそこのジューススタンドの品揃えは良かったし、暇は潰せそうや」
「HiMERUさん、もし何か希望があるなら僕が買ってくるけれどどうする?」
「いえ、一緒に行きます。種類もたくさんありましたからよく見たいですしね」
「じゃあ行ってくるよ!」
「はーい、いってらっしゃーい」

 二人を見送って、こはくは時間を確認する。もうすぐ昼時の時間。どれくらい遅れるか分からないが、集合場所に着くのは一時近くになるだろうか。
 
「二時までに着いたらええから、まだ余裕やね。お昼どうしよか」
「もうここで軽く食べちゃってもいいかもしれないけど……実は集合場所に美味しいって評判のサンドイッチのお店あるんだよね」

 藍良は行く前からいくつか当たりをつけていたお店のうち、軽めで好き嫌い別れづらくて、という要件にヒットする店のサイトを見せた。ストローを咥えたまま覗き込んだこはくはさらりと読んで、うん、と頷く。

「ええんちゃう?美味しそう」
「でしょでしょ、良さげだなって思ったんだ〜」
「なんです?」
「あ、HiMERUはんおかえり。これお昼にどうかって見とってん」
……へぇ、サンドイッチですか。野菜が多くて美味しそうですね」
「お店が集合場所に近くて。ちょっと遅めのお昼になっちゃいますけど」
「いいと思いますよ、これくらいなら夜にも響かないでしょうし」

 薄赤い透明の飲み物を手に戻ってきたHiMERU。件の画面をぱっと見ただけで判断をつけ、徐に自分の端末を操作し出す。興味を失ったのかと思いきや、どうも違うらしい。すいすいと目的を持って画面をすべる指が止まった。

……この渋滞状況でしたら、一時過ぎには集合場所の公園につきますね。丁度いい時間じゃないでしょうか」
「そしたら一彩はんにも聞いてみて、そこ行こか。それでええ?」
「うん?なんだい?」
「うわっ、戻ってきてたなら言ってよぉ」
「今帰ってきたんだけれど……なんの話?」
「お昼、ここにしない?って。スタッフさんとの待ち合わせ場所の近くにあるんだ」
「ふむ……僕は構わないよ。しばらくここから動けないけど、あまりしっかり食べてしまうと晩ご飯に残るだろうから」
「じゃ昼ごはんはここね!」


「一彩はんそれなに?」
「かぼ、かぼす?かぼすとやらが入った飲み物らしいよ」
「わしと同じやつか」
「レモンじゃないんだ、珍し……HiMERUさんのは?」
「これはピンクグレープフルーツらしいです。甘くなくて美味しいですよ」
「大人やなぁ」
「大人だねぇ」
「僕もそれと迷ったよ。耳慣れないものを試したかったけど、いくつもは買えないから」
「一彩はレモンが好きでしたね。ならこれも好きかもしれません」

 わいわいと賑やかな一行。思いの外、トラブルとか起こらないかも?ただの旅行みたいで楽しいが、これは仕事なのだから!と藍良は密かに気を正した。