めやぬら
2024-11-13 20:48:54
2185文字
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忘却

燐一

 一つ、前の誕生日に貰った銀のピアス。
 一つ、たまたま勝った景品だというお菓子の袋。
 一つ、もう使わないからと紙袋に入れて渡された薄いジャケット。
 一つ、寒そうだと言われて巻かれたマフラー。

「うわっ、何してんすか?!」

 一つの大きな収納箱の中身すべてひっくり返し、床にぶちまけた真ん中に座り込んで吟味していたら、帰ってきたニキが盛大に驚き、たたらを踏んだ。

「おかえりなさい、ごめんね散らかして」
「いや、それはいいんすけど……なに? なんかあったの?」
「ううん、ちょっと整理しようと思って」

 広げているのは全部統一感のないものだ。服もあればアクセサリーもある。他人から見れば全くガラクタに見えるものもあるだろう。だが一応どれも、何が由来でここにあるのかを思い出せるような思い出の物で、一彩にとっては大事なものだ。

「こんなに物持ってたんすね」
「自分でも驚いたよ」
「ん? でも使ってるの見たことないやつばっかっすね? 初めて見たっすこのマフ……いや、まって……
「ふふ、気付いた?」
……うわぁ……これは引くわ、燐音くん……

 流石に気付いたのだろう。これらは全て燐音からもらったものだ。
 
「収納にしまっていたんだけど、久しぶりに開けてみたらとても雑多になっていたから。流石に仕分けようと思ってね」
「あー、そうなんすね。あっ、この辺とか普段使いできるんじゃないすか? 出しちゃえば?」

 そういって、ニキが銀のバングルを指差す。あれは確か、クラフトモンスターで作った試作で、上手くできたから一個やるよと貰ったものだ。細い銀の板が少しだけ捻られて円を象り、シンプルながら洒落た雰囲気になっている。
 だが撒き散らしたものを使う使わないといった仕分けをするつもりではなく、苦笑いして答えた。

「そういう整理ではないんだ。捨てるものを選ぶだけだよ」
「えっ、捨てちゃうんすか? 大事なものなんじゃ……
「うん、大事なものだよ。だから捨てるんだ。全部は置いておけないからね」
 
 そしてまた吟味に戻った一彩に、ニキはふぅんと疑問符混じりの相槌を返したのみだった。
 
 一彩は私物が少ない。必要なものは揃えてあるが、趣味のものなどは殆ど無く、使わないものは基本持たない。最近ではファンレターなどを貰うこともあり、それはそれで別に収納を確保して流石に捨てていない。だがそういったファンからの物や関わりのある人から貰った物以外には、物が無いのだ。服も最小限、文房具もシンプルな事務所からの配給品。感慨も情緒もない『ファンレター』『貰い物』と事務的なタグのつけられたプラスチックの収納箱へ大切に、言い改めればきちんと整理整頓されて仕舞われている。
 そんな一彩に、雑多でごたつくほどに物をやった燐音。だがそのどれも、本当は使われるのを望んでのことだったのだろう。それは一彩自身も分かっていた。だが飾るのも使うのも惜しかったのだ。そして一つ箱を作った。燐音から貰ったものだけを入れておいて、大事にしまっておく大きな収納箱。大きいと言っても一彩の持つものの中ではということになるので大した容積ではないのだが、その中にしまい込まれ、そして二度と日の目を浴びなかった物たちは、かなりの量になってしまっていた。
 
 目の前に広げられた物々を眺める。
 あれは前の誕生日に、あれは秋のさなかに。通りすがり、寮の玄関、共に仕事をした時の控え室。場所もタイミングも決まっておらず、誕生日プレゼントもあれば気まぐれや仕事のロケのお土産などなど。ありがとうときちんと受け取ったときもあれば、戸惑いに口籠もっている間に去られてしまったときもある。
 明らかに燐音の趣味ではない雑貨や装飾品を眺めていれば、嬉しいと頬が緩む反面、つきんと心のどこかが針で刺されたように痛んだ。
 きっと自分のことを考えて渡してくれた物を、自分は使いもせず仕舞い込んだまま捨てようとしている。こんなことを知ったら、兄は傷つくだろう。そして傷ついた素振りは一つも見せずに、もう二度と何もくれなくなるだろう。それは嫌だ。
 だが、仕舞い込んで持ち続けるには多くなってしまった。全部大切なのだ。汚したり壊したりしたくないから使えない。見ていると嬉しいのに寂しくなるから飾れない。どうしたらいいのか分からないから、いっそ捨ててしまおうと思い立った。
 綺麗に折りたたんで置いていた幾つかの紙袋や包み紙や入れ物の箱。プレゼントを入れられていた外装まで取っておいてしまっているから、とりあえずこういう、確実にゴミに分類されるものから捨てていこう。用意していた大きいビニール袋をばさりと開け、無造作に掴んで放り込んでいく。
 
「ただいま〜……うわっ! なにこれ、どしたの?!」

 ひなたが帰ってきた。そしてニキと同じように、部屋の真ん中で色々広げているのを見て、ぎょっと驚く。

「おかえり、ひなたくん」
「おかえりっす〜、なんか片付け途中らしいっすよ」
「うわー、こんなにあったんだ」
「うむ。すぐ済むと思うから、しばらくの間広げさせてもらうよ」
「おっけ〜! 俺もついでに片付けよっかな」

 などといいながら、ひなたはあまり一彩の周りのものには言及しないで、荷物を下ろした。