haru_haru0704
2024-11-13 20:45:54
3812文字
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有罪判決

哥忌もしくは忌哥 全年齢(えっちしてないので左右ありません)

処刑とオーバークロックの夢を見た忌炎の話

被告人は、湾刀の戦いにて将軍としての責を十分に果たさず、重大な局面において二点の誤った判断を下した。
第一に、不審な雨への対処を怠り、鳴式討伐作戦を強行した点。
この雨に対して、被告人は作戦決行前に「注意すべき」との進言を部下から受けていた。
それにも関わらず、被告人は何の対策も打たないままに作戦を進め、その結果として多数の兵士が雨による混乱に飲まれた。
第二に、兵の混乱を認識しつつも撤退命令を下さなかった点。
当時の忌炎軍医は見事な撤退戦を果たしているため、撤退が不可能だったということは考えにくい。
押し寄せる残像を何としてでも食い止めければいけない切迫した状況であったことは認めるが、いつかの時点においてはその切迫もなくなっていたと思われる。
その時点で適切な撤退命令を下していれば、兵士の命が無為に奪われることはなかったと推察する。
前述した二点について、被告人の判断の誤りは非常に重大で深刻な結果をもたらし、ひいては今州をも危険に晒した。
また、被告人には現在に至るまで、反省の色がまったく見られない。
以上のことから、被告人──哥舒臨元将軍を、斬首刑に処する。

*
後ろ手に縛られ、膝をついて項垂れる哥舒臨を見て、「なぜ」という想いが忌炎の胸を満たす。
なぜ、こんなことになってしまったのか。
いや、なぜかなんて分かっている。分かりきっている。
哥舒臨はもともと大罪人だった。それが、裁判で正式に確定してしまっただけだ。
忌炎がその判決に納得しようがしまいが、既に決まってしまったものは覆らない。
・・・それでも。「なぜ」と思わずにはいられない。
彼の、哥舒臨の指揮は、誤ってなどいなかった。ただ、正解ではなかっただけだ。
もし当時の将軍が忌炎だったとしても、正解を掴み取ることは難しかっただろう。
もう一度、判決理由を思い出す。
『第一に、不審な雨への対処を怠り、鳴式討伐作戦を強行した点』
それは確かに、今にして思えば正解ではなかった。
だが、当時の哥舒臨には──そして忌炎には、何が正解かだなんて分かるはずもなかったのだ。
忌炎はあの時、雨に警戒すべきだと声を上げた。
哥舒臨はそれを無視し、予定通りの作戦を決行した。
結果から見れば、正解だったのは忌炎だ。だがそれは結果論に過ぎない。
忌炎の根拠のない進言を信じるか。信じないか。
どちらを選んだとしても、賭けだ。
そもそも、忌炎の進言を信じたとして、いったいあの状況で何ができたというのか。
目の前に迫る、圧倒的な物量の残像。
雨を分析している余裕などない。
後ろに退けば、地の利を失い敗北する。
なら、前に出るしかない。
前に出て、何が起ころうとも残像を押し留めるしか、ない。
そうしなければ、今州は滅ぶ。
つまるところ哥舒臨が答えたのは、選択肢がひとつしかない問いなのだ。
そのひとつしかない選択肢が間違っていたとして、なぜ哥舒臨が責め立てられなければいけないのか。

・・・ゴォン、ゴォン、と鳴鐘広場の鐘が鳴る。
哥舒臨の処刑まで、あと5分。
流れる風を感じながら、目を閉じる。そして、ふたつめの判決理由を思い出す。

『第二に、兵の混乱を認識しつつも撤退命令を下さなかった点』
撤退できたはずだ、などと。
あの戦場をちらりとも見ていない人間が、よく言えたものだ。
忌炎だって、哥舒臨や最前線の兵たちの姿を至近距離で見ていたわけではない。
それでも、前線からは激しい戦いの気配がずっとしていた。
負傷して忌炎の元に運ばれてくる兵たちは皆、重傷を負いつつもなお戦意を失ってはいなかった。
──戦い続けなければ、負ける。
誰も口には出さなかったが、きっと全員がそう思っていたはずだ。
しかし、そんな空気が変わったのは、いったいいつのことだったか。
たぶん、最前線の皆がほとんど死に絶えた頃だったような気がする。
そんな状態でも哥舒臨はまだ戦っていて。
戦場には、一面に黒い炎が広がっていて。
彼が必死に、ひとりで、残像を食い止めていた。
だからこそ、忌炎は撤退することができたのだ。
哥舒臨将軍に何もかもを任せて。
だから俺は、生きて帰ることができた。

「忌炎」
名を呼ばれ、我に返る。
彼が顔を上げ、俺を見ていた。
「うまく斬れよ。まあ、お前なら問題ないと思うが」

ああ。
なぜ。
どうして。
彼の首を斬る役に、俺が選ばれたのだろう。
・・・決まっている。
将軍だからだ。
将軍だから。
元将軍の罪人を。
斬るのは。
それにふさわしいのは。
俺しかいないから。
ああ。
そうだ。
そうであるはずだ。
万が一にも。
悪意があったからでは、ない、はずだ。
当たり前だ。
そんな残酷なこと。
誰も考えてない。
そうだ。
そのはず。
・・・でも。
なぜ。
どうして。

「殺せ!罪人を!」
ざわざわと、何かが聞こえる。
たぶん、広場に集まっている人たちの声だ。
でも、俺はもう、そんなことどうでもよくて。
手の力が抜けて、持っていた長刃を落とした。
「忌炎。お前には荷が重かったようだな」
そう笑った彼の体が、黒炎に包まれる。
俺は、俺の風は、その黒炎を消すことができない。
だから、止められない。
彼の自殺を止められない。
また、俺を置いていくんですか。
ようやく会えたのに。
「忌炎。お前なら、正しい道を歩き続けられる。俺と違ってな」
燃え盛る黒炎に手を伸ばす。
その炎は熱くないのに、彼の体はどんどん焼け落ちていく。
哥舒臨将軍。
哥舒臨さん。
待って。いかないで。
こんな終わり、いやだ。
どうしていつもいつも、あなたばかり苦しい思いをするんだ。
俺だって将軍なのに。
俺だってたくさんの兵を死なせたのに。
どうして。
「じゃあな」

哥舒臨さんの体は燃え尽きて、灰のひとかけらも残らなかった。
ゴォン、ゴォン、と鐘の音が鳴り響く。
まるで彼の死を祝うようなその音が、ひどく耳障りで。
ああ、もう、何もかも。どうでもいい。
おれは、駆けた。
邪魔な何かをつきとばして。切りさいて。
かみついて。ふみ潰して。ひきちぎって。
そうして、そらへと飛びあがる。
ああ。
からだが、かるい。
風にのって、どこまでも。
とんでいけそうだ。
どこかへいこう。
だれもいない、どこかへ。
かぜとひとつになって。
おもたいこころは、すてて。

*
「・・・ッ!?」
飛び起きる。
身体中に汗をびっしょりとかいて、心臓は破裂しそうなほど激しく脈打っていた。
「・・・は、っ・・・はぁっ・・・」
息を吐いて。吸って。
落ち着け、夢だ。ただの夢。
窓の外はまだ真っ暗で、隣では哥舒臨が眠っていた。
大丈夫。彼は処刑されてなんかいない。
あんなクソ食らえの判決も受けていない。
それでも不安になって、哥舒臨の口元に手をかざした。
ふぅ、ふぅ、と手のひらに息が当たる。
大丈夫。生きている。
「・・・ん・・・?」
気配を感じたのか、哥舒臨は重たげに瞼を開いた。
夜闇の中で、彼の金色の瞳は鈍く光って見える。
「・・・どうした、忌炎」
少し掠れた、低い声で尋ねられる。
それは至極単純な問いだったのに、忌炎は言葉を詰まらせた。
どうした、って。どうしたんだろう。
あんな、ひどい夢を見るなんて。
「また、兵が全滅する夢か?それとも、俺に説教される夢か」
「・・・今日は、どちらでも、ないです。あなたが・・・有罪判決を受けて、処刑される夢でした」
ふん、と哥舒臨は鼻を鳴らす。
「つくづく心配性な奴め。判決なら、あの小娘がとっくに出しただろう。有罪は有罪でも、これまでの功績と情状酌量を認めるとかで、実質無罪放免。まったく甘い処罰だな」
そうだ。
今汐はそういう判断を下した。それが現実だ。
分かっている。
分かっている、けれど。
まだ胸の中に、絶望と憎悪が熱く渦巻いているのだ。
「・・・忌炎」
低く、甘い声が忌炎を呼ぶ。
ぐい、と腕を引く力に身を任せれば、彼は優しく忌炎を抱き寄せた。
体の密着した部分から、哥舒臨の体温と周波数を感じる。
そのあたたかさと穏やかな音色に、忌炎は深く安堵した。
ああ。
あたたかい。
生きている音がする。
ちゃんとここに、いる。
「どうする?憂さ晴らしのために、もう一度ヤるか?」
それはそれで、魅力的な提案だけれど。
「いえ・・・今は、これがいいです」
激しく求め合うよりも、今はただ。
こうして、穏やかに体温を分け合いたい。
「そうか」
ふ。
と、哥舒臨が耳元で笑った。
そして、やさしく頭を撫でられる。
たったそれだけの事なのに、なぜだかそれがとても、とても嬉しくて。
胸をじくじくと疼かせていた不快な感情が、少しずつ消えていく。
「哥舒臨さん」
「ん」
「俺は、あなたと一緒に夜を越えたいです」
「・・・そう心配するな。しばらく死ぬ予定はない。あのクソッタレ鳴式もいなくなったことだしな」
「返事は」
「分かった分かった。お前と共に朝日を拝めばいいんだろう。請われずとも、元からそのつもりだ」
「・・・うれしい、です」
「そうか」
「・・・・・・」
「もう一度、寝れそうか?」
「はい・・・」
「なら、このまま寝てしまえ」
とんとん、と背中を叩かれる。
忌炎は再び瞼を閉じた。
大丈夫。
きっと今度は、悪夢なんか見ない。