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砂塵
2016-12-18 00:05:07
1707文字
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織田とカレー
第二回文アルワンライに参加させていただきました。お題は【食事】を使わせていただきました。オダサクと秋声がカレーを食べるだけの話。よろしくお願いします。 #文アル版深夜の真剣文字書き60分一本勝負
潜書から戻ってきた会派一の面子は、ばらばらな足音を立てながら食堂へと入っていった。
橙のランプが灯るこの食堂は、真新しい木の匂いが立ち込めている。電球の暖かみが、先ほどまで殺伐としていた空気の中にいた文豪たちを招き入れた。明治から昭和の初期頃にかけ見かけられたこの食堂の内装は、親しみが感じられる。
秋声は同じ会派の文豪たちと同じ卓に腰をかけた。壁際に寄ってしまうのは、いつもの癖だ。真夜中のため窓掛けが引かれているのは、外の景色が見られず少し残念だった。
「おっ! 今日カレーの日やん! ラッキー!」
献立表を見た織田は、つつじの香りが漂う目を輝かせた。上機嫌で卓へ向かうと、当たり前のように秋声の隣へ腰をかける。秋声はどかりと大仰に座った織田に眉を微かにひそめるが、織田は気にせず秋声に絡んでいくのであった。
秋声と向かい合って座っている島崎も、織田と手を組んで秋声をいじり始める。最近ではその光景が当たり前となり、秋声の悩みの種は増えていくばかりであった。
しばらくするとライスカレーが運ばれてくる。香辛料の効いた香りに、思わずぐうと腹の虫が鳴った。それを聞いたのか、隣にいた織田がいたずら小僧のような笑みを浮かべてくる。秋声は嫌そうに顔を顰めたが、言わずにはおれなかった。
「
……
なんだよ」
「いやー、涼しい顔して秋声も腹減ってたんやなあーってな?」
「腹は誰でも減るよ。僕だけじゃない」
「恥ずかしがらんでもええんやでえ?」
「
……
だからっ僕はっ!」
反論しようとしたところで織田が食堂を切り盛りしている女性に「おばちゃーん! 卵ちょーだい!」と声をかける。弁明する機会を逃した秋声は口を噤んで織田を睨みつけるしかなかった。
卵はすぐに運ばれてきた。織田はカレーに対して異様なこだわりがある。気分によってトッピングを変え、その味の変化を楽しんでいるようであった。
今日は卵か。この前はチーズだったな。
最初の頃から共に闘ってきた仲間だ。一緒にいる時間も増え、織田の趣味嗜好もなんとなくだが分かってきた。そうであるはずなのに、秋声は織田の血色の良い指が卵を割る瞬間から目が離せなかった。
とろりとした半透明の白身に包まれた太陽が、カレーの海の中へ沈んでいった。織田はまず卵をいじらず、白いご飯と混ぜず、カレーだけをすくって食べた。それからご飯とカレーを一緒に食べる。なかなか通な食べ方だ。
織田はやっと黄身を潰しカレーと混ぜ合わせる。卵の光沢がカレーと交ざり、まろやかな匂いが鼻腔を擽る。
そして織田はスプーンで一口掬い、こちらへ差し出してきた。
「ん」
「
……
は?」
思いがけない行動に秋声の反応は遅れた。織田は楽しそうな表情で秋声にスプーンを差し出す。
「情熱的な目で見てるなあ思て」
「君のことは見てない」
「そんな寂しいこと言わんといてやあ!」
ぶっきらぼうに答えても、織田はスプーンを引っ込めようとしない。近くにあるカレーに、喉がなりそうだった。
「そっ、そもそも、カレーに生卵なんて
……
」
「ごっつうまいで? 試してみ?」
秋声の反骨精神は、純粋にカレーを楽しんでいる織田の前では無意味だった。おずおずと秋声は口を開ける。織田は無遠慮にスプーンを突っ込んだ。
「そおい!」
「んヴぉっ!?」
勢いよくカレーが入ってきたため、思わずむせかける。織田はすぐさまスプーンを引っ込めた。ふざけるなと言ってやりたがったが、反射的に咀嚼すると、その気持ちは薄れてしまった。
「
……
おいしい」
「やろー?」
卵のとろみとカレーの刺激が溶け合い、頬が喜んでいる。鼻腔いっぱいに漂った香りごと飲み込んでしまいそうだった。
そんな秋声を見てなのか、織田は嬉しそうにしている。それから織田は自分のライスカレーを食べ始めた。秋声もそれに従い自分の前に置いてあるカレーを食べる。
表情を緩めている織田は、真にカレーが好きなのだろう。
「
……
君は本当においしそうに食べるね」
そう言うと、幸せそうに笑うのだった。
「そりゃ、アンタもやろ!」
【織田とカレー】
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