砂塵
2016-12-11 00:31:45
2279文字
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受容と拒否は一重

文アルワンライ開催おめでとうございます!!ありがとうございます!!
第一回目「はじめまして」「久しぶり」
初期文豪の秋声とオダサクの話になります。友情的なお話です。
#文アル版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

「オダサクこと、織田作之助や! これからよろしゅうおたの申します」
 そう言って彼は明るく笑った。
……よろしく」
 躊躇なく差し出された右手を、僕は渋々握り返すのだった。




 僕から見る織田作之助はなんだか無性に明るい奴で、いつも飄々としていた。最初こそそんな彼が得意ではなかったが、今は一緒にいると安心できる間柄となっていた。司書が図書館で活動し始めた頃からの仲だということもあるだろう。戦闘での連携は、正直僕と織田が一番とれていると思う。織田はいい加減に見えて周囲をよく観察しているし、仲間の動向にも敏感に反応した。
「しゅーせー、ほれ」
 穢れ、立ち上がることすらできなくなった僕に手を差し伸べるのは決まって彼だった。
……ありがとう」
 僕ははじめて出会ったときの躊躇いなど忘れて、彼の手を掴むのだった。
 出会ったときなどは捻くれ感情が邪魔をして「自分で立てる」と見栄を張ることもあったが、今では素直に感謝を述べることができた。
 甘えているんだろうか、彼に。
 それは単に彼を信頼しているからなのだろうが、だからこそ僕の心は翳るのだった。



 彼は、きっと僕を頼ってくれない。



 織田の笑顔が胸に引っかかるようになったのは、いつ頃だろうか。
 彼は僕と違っていつも楽しそうにしている。だがその表情に無理を感じるときがしばしば見受けられた。その笑顔は決して空虚なものではないのだが、見ていて痛々しかった。彼の痛みが直に伝わってくるようだった。脳が痛みで麻痺するような、肌を貫く痛み。彼の傷口はどこまで広がっているのだろうか。なぜか彼の苦痛が自分にも伝染した。それは僕の想像でしかないのだが。
 彼が戦闘で穢れ、地面に伏しているとき、僕は必ず彼に手を差し伸べる。しかし織田は、辛そうに笑うのだ。
「これくらい大丈夫やて。すまんなー」
 また彼は僕の手をとらず、痛む自分の体を打って無理やり立ち上がるのだ。
 ……僕はそんなに信用ならないだろうか。



 
 そして今日も今日とて、有碍書へ潜る。
 まず後衛の弓で相手の体力を奪う。そこに近接の織田が切り込んでいくという戦い方をとっていた。この方法は敵を仕留める確率も上がり、なおかつ仲間の浸蝕も最小限度に留めておくことができる。
 だが、僕は織田の戦い方を危惧していた。
「く……っ」
「織田! 君って奴は……!」
「仕方ないやろ! あんたら、穢れやすいんやから!」
 敵の攻撃に反応が遅れた僕を庇うのは、いつも織田だった。否、僕だけではない。彼は自分に余裕があれば後衛の仲間達を守ろうとするのだった。彼は自分の役割をまっとうしようとしているのは分かるが、僕はそのやり方が気に食わなかった。自分の身を犠牲にするのは間違っている。僕は思わず歯を食いしばった。
「そういうの、いらないから……!」
 僕の放った弓が相手の急所を貫き、消滅していった。



 喪失状態になった織田は戦闘が終わると気が抜けたのか、膝から崩れ落ちた。
「織田! 大丈夫かい!?」
 駆け寄ると、織田は俯かせていた顔をあげ、笑ってみせた。その笑顔を見て、僕は沸々と怒りが煮えるのを感じた。
「はは……あきまへんなあ……
 ……僕はそのちぐはぐな笑顔が大嫌いなんだ。
 苛立ちを抑えられなくなった僕は、一人で無理に立とうとする織田の腕を掴んで引き上げた。その反動で立ち上がった織田は、今まで見たことのない間抜け面を晒していた。
……あのさあ!」
 目を見開いて呆然としている彼の腕を掴んだまま、僕は怒鳴った。
「君は僕の手を拒むけど、僕は何度だって君の手を無理にでも掴んで引き上げる覚悟くらいはあるんだからな!」
 暫く彼は呆けた面を晒していたが、やがてくっくと俯いて堪えるように笑い始める。その笑い方も気に食わず、胸倉に掴みかかってやろうかと少し考えた。
 だが、再び上げた顔には、安堵の色が浮かんでいたので、気がそれてしまった。
「なんや……バレてたんやなあ……
 あまりにも弱々しく笑うから、見ていられず腕を離して顔を背けた。美丈夫な彼が今にも消えてしまいそうな笑い方をするとは思っていなかったのだ。そしてやはり僕のことを信用していなかったのだと、密かに落ち込む。
……帰るよ」
 背中を向けた僕はそう言ったが、伝わらなかったのか織田は静かに話しはじめた。
「なあ、しゅーせー」
「なんだよ」
「わし、転生する前、しゅーせーに会ったことあるんよ……。と言ってもまあ、作品に、やけどな」
……僕の本を読んだことがあるのか」
「そうやでえ」
 歩きながら話をしはじめた織田の声音は随分と優しく、穏やかだった。いつものはつらつとした彼とはまた違う音だった。
「しゅーせーの作品は……厳かで、綺麗で……すごい好きやった。絶対負けへんもん書いたるって思っとった。せやから、はじめて会うたとき、はじめましてって感じやなかった……。懐かしいなって……感じてん」
 あんまり覚えてへんけどな、と付け足して、今度は陽気な笑い声が聞こえてきた。そして彼の足音が速くなり、僕の隣に並んだ。
「しゅーせー先生は優しいな?」
 目を細めていたずらっぽく笑う織田を小突こうとしたが、手も言葉もせず、火照ってしまいそうな顔を手で隠すことしかできなかった。

 本当に腹が立つから、何度だって手を掴んでやろう。

 そう思う僕と彼の間を、一筋の風が流れていくのだった。



【受容と拒否は一重/秋声とオダサク】