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みすず
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創作
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エクベラ
逢瀬
必ず彼女を幸せにいたします。
彼女が笑っていられるように守り、彼女だけを愛し抜きます。
だから、だからどうか。
エクロールの前でベランジェールが目をきらきらと星のように輝かせている。ベランジェールの前にあるのは大粒の葡萄を使ったタルトで、これは今日訪れると連絡をくれた彼女のためにエクロールが用意したものだ。
「輸入した葡萄を使っているそうで、そのままでも随分と甘いですよ」
「
……
そうなの? 葡萄といえばお酒に加工するものが多いから楽しみだわ!」
毒味として先にひと口食べて頷いたエクロールにベランジェールは眉を下げていたが、聡明な彼女は言及せず宝石のように輝く葡萄のタルトを喜んで見せてくれた。
気温の低いサンティエでは生食に向いた葡萄はあまり栽培されないし、未成年であるベランジェールは然程酒を口にしたことはないだろうと思って選んだ葡萄のタルトであったが、期待に頬を染めながらフォークを手にする彼女を見るとエクロールは選んで正解だったと思う。
はしゃいだ様子ながらも王女らしく品のある仕草でタルトを口にしたベランジェールは、小さな口を僅かに動かしてきゅっと目を瞑ると細い喉をこくりと鳴らした。
「とっても甘くて美味しいわ
……
果汁がまるでジュースみたい」
ほう、と頬を押さえながら言うベランジェールはまるで夢を見ているかのようにうっとりとしていて、エクロールは彼女から果物を沢山使ったタルトが好きだと聞いたときのことを思い出す。あのときもベランジェールは頬を薔薇色にして語っていた。よほど好きなのだろうと思ったし、その様子があまりにも可愛らしかったのでエクロールはベランジェールを迎えるときはタルトを用意することにしたのだ。
「エクルも食べて驚かなかった?」
ベランジェールはエクロールをエクルという愛称で呼んでくれる。お忍びの際に身分を知られないように互いを「エクル」「ベラ」と呼び合うようにしていたのだが、いつの間にか呼び名としてふたりの間で定着したのだ。成人を迎える以前、稀に兄たちから呼ばれるのみだった愛称はベランジェールから呼ばれるととても特別なものに感じられ、エクロールは密かに何度でも呼んでほしいと願っていた。
「驚きましたし
……
きっとベラは気に入るだろうなと思いました。この店はいいですね。またご用意します」
「いいの? エクルは私を甘やかしすぎではないかしら
……
」
むむ、と眉を寄せるところすら愛らしいベランジェールにエクロールは手の甲で口元を隠すように笑い、込み上げる愛おしさに目を細める。
「僕自身のためでもありますから」
「エクルの? 私にタルトを用意してくれることがどうして?」
「ベラは喜んでくれるでしょう? また会いにきてくれて、笑ってくれる。僕はそれが嬉しいんです」
王女であるベランジェールは決して日々を遊んで過ごせる暇などない。そのなかで理由を見つけて、作って訪ってくれるベランジェールに、エクロールは少しでも良い時間を過ごしてほしい。自分と会う時間を楽しく過ごしてほしい。また会いたいと思ってほしいのだ。
「
……
私はタルトが目当てで来ているんじゃないのよ
……
?」
「はい」
「
…………
エクルに会いに来ているんだから。タルトがなくても私は
……
」
ぽそぽそと小さな声で言いながらじいっと意思の強い目で見つめてくるベランジェールにエクロールは頷き、腕を伸ばしてテーブルの上で緩く組まれた彼女の手に触れる。
「分かっています」
「ほんとうに?」
「ええ、多分」
「
……
多分では困るわ」
「ではきちんと分かっているか教えてください」
「それは
……
どうやって?」
「僕のこと、どのくらい好きですか?」
ぱっとベランジェールの顔が赤くなり、おろおろとし始める。
エクロールはベランジェールの手を握り、指を絡めながら促すように首を傾げた。
年下の少女に対して大人気ない質問かもしれない。そも、大人であれば未成年のベランジェールに恋をするべきではなかったし、したとしても彼女が大人になるまで待つべきだっただろう。けれども、エクロールとベランジェールの恋は既に始まっているのだ。そして、恋は花に与える水のように確かな言葉を必要とする──咲かせるための恋であるのならば。
「ええと
……
と、とっても好きよ!」
「はい。それなら間違いなく分かっています」
「ほ、ほんとうに? ちゃんと分かっている
……
? とても、とてもよ」
耳まで真っ赤にしながら伝えてくれるベランジェールに堪らない気持ちになり、エクロールは席を立って彼女の側へ歩み寄る。
林檎のような顔をして見上げてくるベランジェールを覆い被さるように抱きしめる腕は愛おしさのあまり震えていたし、それは吐息も同様だった。ベランジェールから与えられる幸福に、エクロールはいっそ泣いてしまいそうなのだ。
「ちゃんと分かっています
……
僕もベラがとても好きですから。とても、とてもです」
「
……
私だってちゃんと分かっているわ」
背中へ回された細い腕。
想い合っていることを互いが知っている。王女と一介の聖職者の恋の重さを嫌でも理解している。
この恋を叶えるためには互いが分かっているだけではだめなのだ。
(必ず彼女を幸せにいたします。彼女が笑っていられるように守り、彼女だけを愛し抜きます。だから、だからどうか)
ベランジェールを抱きしめながら、エクロールは神に祈る。彼女を愛し子として慈しむ神に祈り続ける。
(どうか私にベラの側へいる資格をお与えください)
騎士のように剣を取って護ることはできないけれど、どんな棘も届かぬようにベランジェールを必ず守り幸せにするから、どうか。
頬を寄せてくれるベランジェールの蟀谷に、エクロールは誓約を込めて口付ける。
葡萄の香る唇へ触れることに焦がれる、未だ奇跡の宿らぬ頃のことだった。
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